日本で増えている麻しん(はしか) 今の流行の特徴は?ワクチンに意味はあるの?感染症のスペシャリストが講演

現在日本でも流行中の麻しん(はしか)。今回の流行の特徴は?ワクチンに意味はあるの?感染症のスペシャリスト、岡部信彦さんの最新講演を詳報します。
岩永直子 2026.07.10
誰でも

麻しん(はしか)が流行している。

国立健康危機管理研究機構(JIHS)の統計によると、6月28日までの累積報告数は545人となり、昨年1年間の報告数265人を既に上回っている。患者数は昨年同期比で4倍だ。

そんな中、7月9日に感染症の専門家や当事者が登壇した国会内学習会「麻しん(はしか)流行を止めるには 最新情報とその対策」(ワクチンパレード実行委員会主催)が開かれた。

最初に川崎市健康安全研究所参与の岡部信彦さんが、「現在の感染状況・MR(麻しん・風しん混合)ワクチン接種の重要性について」とのテーマで講演した。

内容を詳報する。

岡部信彦さん(撮影・岩永直子)

岡部信彦さん(撮影・岩永直子)

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天然痘、ポリオの根絶ではトップランナーだった日本

今回のテーマの麻しんでも風しんでもありませんが、今、天然痘という病気には罹らなくなっていますね。致死率が40%から50%にもなる天然痘は、今でも治療法がありません。しかしワクチンが出てきて、1979年、天然痘根絶宣言が出されました。

岡部信彦さん提供

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これには我々の先輩たちである日本の先生方が大きく貢献されました。その結果、国内での天然痘は1956年以降、全く報告されていません。WHOの対策に先んじて、日本から天然痘という病気がなくなった経緯があります。

一方、ポリオは麻痺を起こす病気ですが、古代エジプトの頃からこういう病気があると知られていました。天然痘の次に、生涯にわたって麻痺を残すこの病気を根絶しようという動きが出たのは1988年です。

岡部信彦さん提供

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しかしその時すでに日本国内ではポリオはなくなっていました。1981年以降、日本でポリオは報告されなくなっていたのです。緊急ワクチン接種などがあり、国内では根絶されました。世界では1988年当時もポリオがあちこちにあった。既に天然痘やポリオがなくなっていた日本は、まだたくさんある世界に協力する立場だったのです。

麻しんの排除では出遅れた日本

感染症で、次の世界的な目標となったのは、今日の話題の一つである麻しん(はしか)です。はしかは、1990年代から2000年にかけて、この重症な病気による死亡をゼロにしようという目標が掲げられました。風しんという病気に伴って出てくるお子さんの「先天性風しん症候群(※)」の出生をゼロにしようという目標が掲げられたのもこの頃です。

※風疹の免疫のない妊娠20週頃までの女性が風疹に感染すると、ウイルスがお腹の中の赤ちゃんにも感染して、難聴、白内障、先天性心疾患などの障害を持って生まれる病気。2012~2013年の全国的な流行では、14年までに45人のCRSの赤ちゃんが誕生したことが報告されている。

岡部信彦さん提供

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2012年から、世界各地にこの麻しん・風しん排除の動きが出てきました。

世界中にこの麻しん(はしか)を排除しようとする話が出てきた時、世界にはもちろん、日本も同じように数多くあり、ここに挙げた地図で見ると感染者が多い真っ赤な国でした。

岡部信彦さん提供

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つまり、今から20年以上前の2002年頃、日本は天然痘とポリオは世界に先駆けて根絶していましたが、はしかはどちらかというと「びりっけつ」の方だったのです。

当時、私はWHOの会議に出ていました。ブラジルは既に麻しんをほとんど無くしていた国でしたが、はしかの小流行が起きた時でした。その流行の原因をたどってみると、どうもロサンゼルス経由で日本からきた人がはしかを発症して、せっかくはしかがいなくなっていたブラジルに広げたようです。

日本はいったい何をやっているんだ、と批判されたのがこの頃です。

岡部信彦さん提供

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ブラジルのはしかのワクチンは、実は日本の技術支援で作られるようになりました。はしかの検査をする試薬も日本からの技術導入でブラジルで広く使われるようになり、ブラジルははしかを退治できるようになったんです。

「しかしオカベ、本物のはしかを持ち込んでほしくない」と言われたのがこの時で、僕はカチンと頭にきたのですが、日本のはしかの実情は世界では後ろの方にいたという残念なことがありました。

感染力が強く合併症が多いはしか 死亡に至ることも

はしかは大変感染力が強くて、しかも合併症が多い。熱が出るだけでなく、肺炎や脳炎、中耳炎を起こしやすいです。視力障害も起こしやすい。

あのヘレン・ケラーは、おそらくはしかであれだけの障害を持ったのではないかという話もあります。

岡部信彦さん提供

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致死率は0.1〜0.2%ぐらいですが、発展途上国では、栄養状態の悪さから致死率が10倍ぐらいになってしまいます。残念ながら、今でも治療法はありません。

ウイルスの病気の治療は難しいのです。しかし、はしかはワクチンで予防が可能な病気の代表的なものでもあります。

この写真は私が若い時に診たはしかの患者さんです。

岡部信彦さん提供

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熱が出てつらそうな顔をして、この子は肺炎になっています。ぐったりしている様子です。もちろんその後無事に回復されたお子さんです。

身体中に発疹が出る少し前には、口の中にぶつぶつが出ます。典型的なはしかの症状です。我々の世代はこの発疹とぶつぶつを見れば、これははしかだなとすぐに診断ができていました。

しかし幸いなことに世界中ではしかが少なくなって、10年から15年ぐらい小児科医をやっている若い医師たちも、「はしかの診断ってどうするんですか?」とわからなくなってきているぐらいです。しかしそこは検査技術が進んできているので、診断も進んできています。

岡部信彦さん提供

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大人も子供もよく知っている「機関車トーマス」も、はしかに大いに縁があります。ウィルバート・オードリーさんという方が作者で、お子さんがはしかにかかっておそらく熱が出ていたのだろうと思いますが、その時に寝物語のようにして聞かせていた機関車の話がトーマスに発展したそうです。

よく探してみると、水疱瘡になったトーマスの友達の話などもあるので、ご覧になってみると面白いと思います。

一方、はしかにかかってから10年ぐらい経って、治ったはしかのウイルスが頭の中でまた活性化して重い脳炎を起こしてしまうSSPE(亜急性硬化性全脳炎)という悲惨な病気があります。これも今は治療法がありません。

岡部信彦さん提供

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けれども、これにかからないようにする道具は今はできています。そういう道具であるワクチンを、広く使っていただきたいというのが私たちの願いです。

ワクチンの2回接種を導入

はしかの状況がびりっけつだった日本も、これはまずいということで動き出しました。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

それまでは、1歳を過ぎたら1回接種すれば良かったのを、それだけではなく小学校に入る前にもう1回接種する形になりました。今もこの予防接種制度がずっと続いています。

そして、免疫が少なかった当時の中学生、高校生に5年間続けて接種すれば、1歳のお子さんから大学生ぐらいまで全部免疫を持ってくれる、そうすれば本人も悩むことはないし、苦しむこともない。そこから数年から10年ぐらいを経て起きるようなSSPEも発症しないだろうという動きが日本で出てきました。

その結果、見事にずっと患者さんの数が減少してきました。それが、2012年〜13年の大きな流行の10年前ぐらいの出来事となります。

麻しん排除を達成

このような成果が世界的にも認められて、日本はびりっけつだったのが、麻しん排除を達成した国となりました。トップグループに入ってきた。それが2015年3月のことです。

このグラフは2010年から2016年のはしかの発生状況ですが、2015年にはほぼ平らになって、感染者がほとんどなくなったのがわかると思います。

感染症発生動向調査(2010〜2016年)より

感染症発生動向調査(2010〜2016年)より

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

その背景にあるのは、当時、数年分のはしかの一期の接種率です。真っ赤は95%以上、薄い赤でも90%以上で、ほとんど全国で90〜95%以上の人が接種を受けていただいていました。

その結果として、はしかで亡くなったお子さんはもちろん、はしかで苦しむ子供達もいないし、大人もいないし、SSPEという悲惨な病気も発生がなくなってきた。それがこの頃の出来事です。

はしかの世界的な再流行の中で踏ん張っている日本

ところが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは色々な影響を世界中に及ぼしました。パンデミックの最中にワクチンをなかなか接種する機会がなくなったり、国としてのお金がなくなったりした。あるいはこの予防接種に関わる人が、ほぼ全員コロナ対策に向かったことなどから、世界中ではしかや風しんのワクチンの接種率が低くなりました。

低いと言っても極端に減るわけではないのですが、例えば90%以上だったところが70%とか80%ぐらいになってきました。

世界地図でこの濃い青のところが、はしかが流行し始めているところです。かつてほどではありませんが、パラパラ出てくる。中にはやはり亡くなる方も出てきます。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

それを2002年の図と比較してみると、逆転している様子が見てとれると思います。日本はかつてびりっけつでしたが、そのままトップグループを維持しています。

つまり、周辺の国や世界でははしかがだんだん増えてきていますが、日本では今のところなんとか抑えています。前年同期に比べると数倍という数字は出ていますが、それでもまだ抑えている状況ではあります。

例えばバングラデシュでは今年に入って流行し、3月から7万人に及ぶ患者さんが発生しました。600人以上のお子さんが亡くなっています。

これはワクチンを接種していない人が増えてきているからです。

つまり日本も今、手を抜いてしまうと、医療状況は違いますが、似たような状況に至る可能性があります。これが私たちが心配しているところです。

流行のカーブは少し緩んだが……

日本の今の状況ですが、今年のはしかの患者さんの累積を見ると、ずっと増え続けています。この10年間を振り返ると、2019年に流行が見られたのですが、それを上回る勢いで増えていたのは4〜5月あたりの頃です。

はしかは昔から夏になると流行が少なくなってくることがあるのですが、今のような異常気象や環境の違い、人の動きから考えると昔のようにはいきません。どうなるかなと心配していたのですが、幸い増加のカーブは少し緩み、以前ほどの勢いはなくなっています。

2019年に流行した時も、日本のはしかのウイルスはずいぶんいなくなったわけですが、外国からパラパラと入ってきた。それに感染する人がこの数まで増えたのが前の流行の理由です。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

右は今年のはしかの様子をまとめたグラフですが、緑が国内にいて海外には行ったことがない人、あるいは外国から来た人に接触のない人です。こういう感染者が増えてきたということは、必ずしも外国から持ち込まれたものではなく、国内でどうもはしかのウイルスが居座り続け始めたのではないかと心配するところです。

海外での感染については、特定の国というより、欧米、アジアなど色々な国で感染して、国内で発症した様子が数字に現れています。

ワクチン接種した人も感染するが、軽症に

今年に入ってからはしかの感染が明らかになった例は、症状はそれほどでもないけれども、検査をやると感染は間違いないということがあります。一番重症になりやすい子供たちはワクチンを受けている人が多いので、感染を免れていることが多い。どうも20歳前後の若者たちで感染が多いことがあります。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

このグラフは年齢別、ワクチンの接種回数別の発生状況です。紫はワクチン接種回数が不明の人ですが、不明の場合はだいたい接種していない人が多い。

ベージュの人はワクチンを2回接種している人です。「2回接種してもかかってしまうのか」と大きく話題になることがあります。青は1回だけ、黄色は1回も接種していない人です。どちらかといえば接種した人の方が感染者の数としては多い状況にあります。

右は、ワクチンを2回接種した人と、2回接種を完了していない人が経験した症状を並べた表です。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

ワクチンを接種していなかった人が、はしかの典型的な3症状(発熱、発疹、カタル症状(※))が出る人は大体70〜80%ぐらいです。

※初期に現れる咳、鼻水などの風邪のような症状。

ところが、ワクチンを2回接種した場合は、それよりずっと症状は軽く、3症状が出た人は約半分の47%になります。

つまり2回接種している場合は、少なくとも肺炎や中耳炎、視覚障害などの重症の合併症が出ることはない。軽症で済む。いわゆる「修飾麻しん」という言い方をしていますが、軽い症状で抑えることができます。接種が1回だけだとまだ中途半端なので典型的な症状も出ます。

2回接種すれば本人が守られるだけではなく、ちょっと症状が出たとしてもその人から他の人にうつすことはほとんどない。

はしかは非常に人にうつりやすい病気ですが、それを抑えることができるということは、2回接種には意味があることを示しています。

やはり多くの方がワクチン接種を受けていただいているから、今のところ流行がこの程度で済んでいるとも言えます。

ワクチンの接種率が低い海外では、ほとんどが激しい症状のはしか発症です。アメリカでもヨーロッパでも亡くなる方が出ています。

日本でそこまでいかないのは、やはり多くの方がワクチンを受けて、なんとか踏みとどまっている感じであると思います。

自治体でもかかると危ない人に対してワクチン助成

ただ、そのままではいけないので、色々な自治体で対策を立てています。

私はたまたま川崎にいるので、川崎の例を出します。麻しん対策としてワクチンを全員に接種すると、ワクチンが足りなくなるので、かかると危なそうな人、小さいお子さんのいる家庭とかワクチン接種歴が不明な人とか、1回しか接種していない人は、抗体を検査でチェックして接種の対象者を絞っています。

そのような形の助成をする自治体が増えています。使用するワクチンは麻しんと風疹の混合ワクチン(MRワクチン)です。

はしかが問題なのに、なぜ風しんも一緒にやるのかと言われるのですが、免疫を持っている人に重ねてワクチンをやっても医学的には全く問題はありません。たまたま免疫が低い人もいますし、混合ワクチンを使うことによって、はしか対策が風しん対策にも結びつく、風しん対策もはしか対策に結びつく。だからMRワクチンを使用しています。

(続く)

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