新型コロナ後遺症、なぜ起きる? 腸に潜むウイルスに集まる注目

新型コロナウイルス感染症にかかったあと、症状が長引くコロナ後遺症。なぜそのような症状が続くのでしょうか?
岩永直子 2024.08.11
誰でも

新型コロナウイルス感染症に感染した後、一部の人に長引く症状が残ると言われるコロナ後遺症(long covid)。

なぜこのような症状が起こるのでしょうか?

前編に引き続き、京都第一赤十字病院総合内科部長の尾本篤志さんに聞きました。

尾本篤志さん(撮影・岩永直子)

尾本篤志さん(撮影・岩永直子)

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持続感染の影響?腸管粘膜への感染の影響?

——なぜコロナ後遺症は起きるのですか?

いろいろな仮説が報告されています。

まず、季節性のインフルエンザウイルスなどではあり得ないような持続感染が起きるために、後遺症が起こるのではないかと言われています。身体の中にウイルスが潜み続けていて、その影響で起きるというわけです。

いったん感染すると、通常、体の中にそのウイルスに抵抗力を持つ抗体ができて症状は収まっていきます。しかし一部の人は、その後も体内にウイルスが残り続けることがわかっています。

ただ、ずっと持続感染する人は少ないと言われています。200〜1000人に一人程度です。

尾本篤志さん提供

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そして身体にウイルスが残り続ける人は、コロナ後遺症のリスクが高いと言われています。

つまり、新型コロナウイルスが身体に残り続けることが悪影響を及ぼす可能性があるのです。

——ウイルスは肺などの呼吸器に残り続けるのですか?

実は腸管粘膜に結構残っているとことがわかっています。肺ではないのです。重症の人だけでなく、軽症の人でも残っていることが証明されており、コロナに感染した人は結構な確率で腸の粘膜内にウイルスが存在すると言われています。

そして最近ではこれがコロナ後遺症の、悪の権化なのではないかと言われているところです。

尾本篤志さん提供

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タバコを吸う人や糖尿病がある人は、より腸管粘膜にウイルスが残りやすいとも言われています。

——なぜ呼吸器感染症なのに、腸管粘膜にウイルスが残りやすいのでしょうね?

それは本当にわからないです。ウイルスの特性としか言いようがないです。こんなウイルスはこれまでありませんでした。今、新型コロナはたくさんの研究者が研究しているのでいろいろなことがわかってきていますが、もしかしたら他のウイルスでも似たようなことが起きているのかもしれません。

脳のバリアが壊れ、腸の影響でセロトニン欠乏も?

——それ以外にも後遺症の原因と思われる仮説はあるのですか?

コロナ後遺症で最も問題になっているのは「Brain Fog(頭の中にモヤがかかったような状態になること)」と言われていますね。その中でも認知機能障害が一番問題にされています。

尾本篤志さん提供

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それがなぜ起きるのか、いくつかわかってきたことがあります。

一つは、実際にウイルスに感染すると、血液脳関門(BBB、血液から有害物質が脳に入り込むのを防ぐバリア)が破綻することが示されています。様々な障害や脳症でBBBは破壊されることがわかっていますが、新型コロナウイルス感染でも同様のことが起きるようです。

またこのウイルス自体がBBBを通るとも言われています。

さらに、ウイルス感染が起きると、脳内の神経伝達物質であるセロトニンが欠乏することが証明されています。セロトニンができる前段階の物質トリプトファンが腸管から吸収されにくくなり、それによって体内のセロトニンが足りなくなるのではないかと言われています。

先ほど、腸管粘膜でコロナウイルスが長期間感染し続けることを示しましたが、これによって腸管からの吸収が妨げられる影響が考えられています。

セロトニンが不足すると、抑うつにも関わりますし、迷走神経の機能が抑制されるため、認知機能の低下に結びつきます。

これがコロナ後遺症の説明の仕方として、最近注目されているトピックです。最近、腸と脳がつながっているという「脳腸相関」が流行っていますが、新型コロナの後遺症についてまさにこのようなことが言われているのですね。

多様な要因が関与?

その他にもいくつかの報告があります。

尾本篤志さん提供

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例えば、脳の下垂体機能の低下による、副腎皮質ホルモンが分泌されにくくなり、全身の倦怠感が起きるのではないかとも言われています。

いわゆる脳内炎症が起きることや、脳細胞の一部がつぶれて修復する時に脳細胞が変なつながり方をして、脳の機能に障害を起こすのではないかとも言われています。

このように、コロナ後遺症には多様な要因が関わっていそうだと現在ではわかっていて、世界のトップジャーナルに毎月のように掲載されています。ただし、症状とそれぞれの要因にどれほど関係があるのかはわかっていません。

元々の頭痛や不眠症、喫煙や糖尿病はリスク高

——どんな特徴を持つ人がコロナ後遺症になりやすいのですか?

元々、線維筋痛症や頭痛、元々の不眠症があると、コロナ後遺症が起こりやすくなると言われています。

尾本篤志さん提供

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元々の持病や精神疾患がある程度、後遺症にも影響を及ぼす可能性が示されています。またそういう訴えが強いことが、後遺症のリスク因子となることもわかっています。

——その症状は心因性ではないのですか?

それが全て心因性と言っていいのかがポイントです。

例えば線維筋痛症の中には心因性のものもあると言われていますが、セロトニンを調整する薬を使うと良くなることがあります。もしかしたら線維筋痛症になる人は、元々セロトニンに異常がある方なのかもしれません。

そういう人がコロナにかかるとさらにセロトニンが減るので、コロナ後遺症になりやすいのではないかという考え方もあります。

日本人では若年、喫煙、糖尿病がリスク高

——日本人でも同様の傾向が示されているのですか?

日本人の後遺症の報告は少ないのですが、日本人のコロナ後遺症は比較的若い人に多いことが示されています。また、腸管粘膜にウイルスが残りやすいのは、喫煙者や糖尿病の人というデータが海外にありますが、まさに日本人で後遺症のリスクが高い人は喫煙者や糖尿病のある人でした。話が合います。

——喫煙や糖尿病は新型コロナの重症化リスクの一つでもありますね。重症化したことが、後遺症のリスクを高めているということではないのですか?

確かに糖尿病の人は重症化しやすいし、重症化する人は後遺症になりやすい。でもそれだけではなくて、腸管との関係もあるのだと思います。

また新型コロナにかかった後に、うつ病や廃用症候群(※)になる人が増えたと国内でも言われています。

※病気で長期間、寝たきりの状態が続くことによって起きる、さまざまな心身の機能の低下。

若い人より60歳以上の人の方が発症率が高かったことも示されています

また海外では、いわゆる初期のアルファ株の時の方が多く、オミクロン株になってからはうつ病の発症は減っていることが示されています。

これはウイルスが弱毒化したから発症が抑えられていると考えるよりも、2021年は社会の閉塞感が強かったので、そのような社会的背景によってうつ病のリスクが上がったのではないかと私は考えています。

コロナ感染は認知機能などに明らかに影響

尾本篤志さん提供

尾本篤志さん提供

こちらはイギリスの調査結果です。コロナ感染と認知機能の低下の関連を見たものですが、ここでも初期のアルファ株の時の方が認知機能が落ちやすいことが示されました。コロナ感染の期間が長く、入院した人の方が認知機能が落ちていることも示されています。

——ウイルス感染の影響というより、入院で身体を動かさなかったことが認知機能に影響していることは考えられませんか?

おっしゃる通りです。ただ、そういったことで起きる認知機能の低下は短期間で起こることが多いです。例えば1年後までそれが影響を及ぼすかを考えると、それは難しいと思います。

これについては、こちらの論文がわかりやすいと思います。

尾本篤志さん提供

尾本篤志さん提供

これはノルウェーの研究で、コロナにかかった人とかかっていない人で3年後の認知機能にどう違いが出るかを比べています。

感染すると、感染したことのない人と比べ、3年間経っても認知機能の障害が残る率が高くなっていることがわかります。しかも年々開いているようにも見えます。

入院の影響は発症直後に出ますが、発症から3年経った後でも認知機能は落ちています。入院による廃用症候群の影響というだけでは説明しづらい。やはりコロナウイルスが直接的にダメージを与えて認知機能が落ちていると考えるのが妥当かなと思います。

ドイツの研究でも、疲労感や認知機能の低下が2年たっても半分の人に残ることが報告されています。

気になるのは元々うつ病があったり、頭痛があったりする人はなかなか回復できないことです。男性、高齢者、学歴の低さも回復を妨げる要因となっています。社会的な要素や精神的な要素が影響するのではないかと思います。

また、2回目、3回目に感染する人がたくさんいるはずです。実は再感染するたびに、後遺症のリスクが上がるという報告もあります。

尾本篤志さん提供

尾本篤志さん提供

今後もコロナは流行り続ける可能性が高いので、後遺症も増えるのではないかと予想されます。

ここまで示してきたリスクの研究は、ほとんどがアンケートによる調査です。ということは、我々医療従事者が把握しづらい。なぜならみなさん、軽い後遺症では病院に来ないからです。

「最近もの忘れが多いな」と思っていても、それだけで病院に来る人はあまりいないでしょう。病院に来たとしても、それは何が本当の原因なのかは医療者は把握できません。ほとんど全国民がコロナにかかっているような社会では、コロナの影響かどうかは見えづらくなります。

ただ漠然と、最近認知症の人が増えたよね、という感じになっていくことが一番恐ろしいことだと思います。

他の病気の見落としも注意

ここで一つ考えておきたいのは、症状が長引く人をすべてコロナ後遺症と言ってもいいのか、ということです。他の病気の紛れ込みや見逃しがないのかが気になります。

高齢化社会なので、高齢になればなるほど、コロナ後遺症と言われながら実は別の病気が隠れていたよという報告もあります。

尾本篤志さん提供

尾本篤志さん提供

(続く)

【尾本篤志(おもと・あつし)】京都第一赤十字病院総合内科部長

1996年、京都府立医科大学卒業。社会保険神戸中央病院勤務を経て、2006年京都府立大博士号取得、2006年4月より、京都第一赤十字病院で働き始め、2016年4月より現職。専門はリウマチ、膠原病領域。総合内科専門医。京都府立医科大学臨床教授。

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