生命維持治療を止める4学会ガイドライン案に待った! 集中治療経験者や難病患者らが「これでは救える命も救えない」と会見

集中治療や救急医療に関わる4学会が生命維持治療を止める・差し控える判断をするためのガイドライン案を策定したのに対し、集中治療の経験者や難病患者らが強い懸念を示しています。記者会見を詳細にレポートします。
岩永直子 2026.03.08
誰でも

集中治療や救急医療を担う4学会が、「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」案を策定し、パブリックコメントを募集している。

その名の通り、集中治療の現場で人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)などの補助循環装置、昇圧剤など生命を維持するための治療を中止するか、そもそも最初から行わないかを決めるためのルール作りをしようとしているガイドライン。

しかし、集中治療の経験者や難病患者らが「このガイドラインができれば、救える命も救えなくなる」と強い懸念を示している。

3月6日、ガイドライン案を批判する当事者たちが厚生労働記者クラブで会見した。

詳細にレポートする。まずは前編から。

生命維持装置を4学会

生命維持装置を4学会

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ガイドライン案の内容は?「終末期の定義をしない」「TLT(期限付き治療の試行)」

まず、このガイドライン案はどんな内容なのだろうか?

策定しているのは、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会、日本緩和医療学会の4学会。

ガイドライン案はパブリックコメントを募集するため公開されている

ガイドライン案はパブリックコメントを募集するため公開されている

2014年に「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン(旧ガイドライン)」が作られたが、これをアップデートするために作られている。

旧ガイドラインとの大きな違いは、まず「終末期」の定義をしないと明言していることだ。

旧ガイドラインでは、「『救急・集中治療における終末期』とは、集中治療室等で治療されている急性重症患者に対し適切な治療を尽くしても救命の見込みがないと判断される時期である」と書かれ、現状の治療を継続しても「おおよそ2~3日程度以内」に死亡することが予測される場合と提示している。

だが、現在は生命維持治療の進歩で重症患者でも治療を続ければ生きられるようになっている。一方で、4学会は「その生命維持治療が、必ずしも本人の望む生き方と一致しないという、新たな倫理的課題を生じさせている」として、あえて終末期を定義せず、患者の価値観や利益を検討しながら、「倫理的・法的・社会的に許容される方針を慎重に見出していくプロセスが必要」と表明している。

具体的には、生命維持治療の終了や差し控えの検討は、「その患者の診療に携わるすべての診療科、多職種の医療・ケア従事者が関わることが望ましい」としており、かかりつけ医や在宅医療の医師にも話し合いに参加してもらうとしている。

そして、医療・ケアチームが医学的な検討をすると同時に、患者や家族に適切な情報提供と説明がなされたうえで、「十分な話し合いを行い、患者の意思決定を基本として進める」としている。

しかし、救急・集中治療の現場では、患者の意思表示が難しい場合が多い。

その場合は、家族らとの話し合いによって患者の意思を推定するか、患者の意思も推定できない場合は、家族や医療・ケアチームが患者にとって最善の対応となるように判断するとしている。

さらに今回、新たに盛り込まれたのは「Time Limited Trial(TLT)(期限を決めた治療の試行)」だ。期限を決めた上で、特定の治療を試み、それまでに効果が見られなかったら治療の終了を検討する。

他に、生命維持治療の中止や不開始を決めた時に、患者の苦痛を軽減するための緩和ケアを提供すること、臓器提供について家族らへ情報提供することも盛り込まれている。

当事者らが示した主な7つの懸念点

このガイドラインに懸念を示す会見に出席したのは、心筋梗塞で心肺停止となって集中治療を受けた経験のある佐藤安夫さん・ひろ子さん夫妻、ALSの当事者、酒井ひとみさん、筋ジストロフィー・「先天性プレクチン欠損型表皮水疱症」当事者、山口和俊さん、集中治療の経験もある参議院議員、天畠大輔さん、難病患者らの在宅療養支援をするALS/MNDサポートセンターさくら会の川口有美子さん。

今回の意見表明には、人工呼吸器を使う難病団体など15団体が賛同している。

会見の冒頭、主な懸念点として以下の7つの論点が示された。

  • 命優先原則を揺るがし、救急医療の構えが変わる。救われたかもしれない命を見捨てることになる。

  • 「無益」は差別 「数日では亡くならない者」の生命維持治療を「無益」と呼ぶのは差別であり、これを聞く者に生存維持治療を「無益」と刷り込む。

  • 病院や家族の都合で治療終了の恐れ 「終末期ではないが無益な治療を受けている者」の判定も医学的判断のほか患者の意思を推定して行われるとされるが、十分な時間的状況的猶予がない中で家族等の事情(介護や経済的負担等)が優先されがちである。よってすべての家族等が本人の意思を推定できるとは言い難く、集中治療中は生命維持治療を継続すべきである。

  • TLT(Time Limited Trial 期限を決めて治療を試す)に反対 本人、家族の障害受容を待てずに生命維持治療を中止してしまう恐れがある。家族の意思決定を支えるために退院後の介護福祉サービスについて情報提供してほしい。在宅療養・リハビリ・コミュニケーション支援・重度訪問介護の利用につなげる緩和医療と救急医療と集中治療の在り方を強く望む。

  • 慢性期・難病に解釈が拡大する(ALS等の呼吸器の取り外し) このガイドラインはALS等呼吸器を常時利用している長期療養中の者や、知的・精神障害を含む重度コミュニケーション障害者の医療にも拡大解釈される恐れがあり、その生存に及ぼす影響は計り知れない。ヘルパー不足や家族関係、家計の破綻等の様々な医療以外の要因で療養の継続が難しくなることがあるが、これらの問題を解決できず療養生活が破綻した時に、家族や患者が、家族のために呼吸器中止・治療の差し控えを希望してしまうことになる。

  • 心停止臓器提供へのステップではないか 生命維持治療の中止に続いて臓器提供を勧められるのではないか。臓器提供を目的とした生命維持治療の中止(心停止ドナー)に向かうのではないか。呼吸器の取り外し等による心停止からの臓器提供については審議会でも議論をしていない。

  • 植物状態からの脱却事例があること 「植物状態からの脱却(コミュニケーションの回復を指す)で検索すると、たくさんの脱却事例が出てくる。これらの事例はTLTでは救えなかった。

死の選択肢を差し出すのではなく、命を支え切る責任を

続いて、会見に出席した筋ジストロフィー、「先天性プレクチン欠損型表皮水疱症」の当事者で人工呼吸器を使用している山口和俊さんがヘルパーの代読により意見を表明した。

山口和俊さん

山口和俊さん

山口さんは24時間の介助を受けながら生活している。12年前に呼吸状態の悪化で気管切開をし、人工呼吸器をつけた。今は口の動きや瞬き、表情を駆使して言葉を紡ぎ、コミュニケーションを取っている。

山口さんは「傍目にはコミュニケーションが困難に見えるかもしれません。しかし、私の言葉を丁寧に汲み取ろうとする家族や介助者の存在があれば、私たちは笑い合い、旅をし、仕事をし、社会とつながることができます。医師の読み取りが難しいから治療を止めてよいという議論は、私たちの存在そのものの否定です」と発言。

先日参加した医療系の学会では、本人希望による人工呼吸器の取り外しが議論されたにもかかわらず、呼吸器をつけて生きる当事者の姿はなかった。

「健康な体を持つ人々が、私たちの命をどう終わらせるかを事務的に話し合っている。その光景はまるで私たちは生きているだけで迷惑なのかと刃を突きつけられているようで、殺意に近い恐怖を覚えます。世の中でいかに生きるかの議論を十分にされぬまま、いかに死なせるかという議論ばかりがなされる。この歪んだ言動に対し、私は1人の人間として猛烈な憤りを表明します」

その上で、今回のガイドラインに対して、こう反対意見を述べた。

「ガイドラインが肯定しようとしている、呼吸器をつけないとか呼吸器を外すとかいうことは、私にとっては等しく命を奪う悪です。つけないことは、医師が直接手を下さずに済むため、罪を問われない免罪符になっています。その結果、死の淵でさまよっている患者が救いの手を差し伸べられず、静かに見捨てられてしまいます。そして外すことは、1度つないだ命を医師が自ら消す実質的な殺人と変わりません」

「私が最も危惧しているのは、1度救急車で病院に送り込まれれば、このガイドラインという網に絡め取られ、本人の日常を知らない医師によって一方的に無益と判定されることです」

そして、救急や集中治療の現場で働く医師にこう語りかけた。

「患者が絶望に沈んでいる時、共に絶望して死の選択肢を差し出すのではなく、患者が生きるための1番の味方、伴走者であってほしいです。重度訪問介護という制度と、医療者の共に生きるという心、その両輪があれば、私たちは何度でも立ち上がれます。生きることを諦めない思いを支えてくれる人がそばにいるだけで、私たちはもう一度明日を信じることができます。命を終わらせる枠組みを整える前に、まずは命を支え切る社会の責任を果たしてください」

重度障害者の生活を支える制度について、情報提供がなされていない

ALS当事者の酒井ひとみさんは、ヘルパーの彦田友香さんが代読して意見を述べた。

酒井さんは46歳で、ALSを発症して約20年になる。夫と成人した二人の子供がおり、昨年は孫も生まれた。重度訪問介護制度(※)を利用しながら、同居する家族の手は借りず、24時間、他人の介護で生活をしている。

※重度障害のある人に対し、長時間の見守り介護を可能とする制度。

酒井ひとみさん(左)とヘルパーの彦田友香さん(右)

酒井ひとみさん(左)とヘルパーの彦田友香さん(右)

酒井さんは、こうした重度障害者の生活を支える制度があることが知られないまま、医療者と家族によって、患者を死なせる判断がなされることを懸念する。

「社会保障制度と24時間介護してくれるヘルパーがいれば、家族に負担をかけずに生きていけるのです。ただ、この素晴らしい支援制度の知名度がとても低く、病院の専門職にも知られていないのが現状です。救急医療の現場にいる方々や、このガイドラインを作った方々も、おそらく家族の決断を強く後押しする、この重度障害者を支える支援制度について、きっとご存じないか、救急医療と関係ないのかなと思っているのではないでしょうか」

そして、生きるための情報が知らされないまま、生命維持治療の停止に伴い臓器提供検討のレールに乗せられてしまうことにも疑問を投げかける。

「臓器提供自体を否定するつもりはありません。その選択によって救われる命があることも理解しています。しかし、自宅や地域での生存を支える制度を知らせず、臓器を提供させてしまっていいのでしょうか。ALSばかりか、遷延性意識障害や脳死判定を受けた人でも在宅療養できるということを、早期提供を勧める前に伝えなければ、正しい情報提供をしているとは言えません」

「今回のガイドラインの改訂は、生きるという選択よりも死ぬ選択を推進するものであり、私たちは強い危機感をいだいています。死なせる権利を整える前に、生きさせる権利が守られる社会、医療であってほしいと思っています」

TLTについても、「一定期間という期限が、患者、家族の病気や怪我に対する受容、心の揺れにどこまで柔軟に対応ができるのでしょうか」と疑問を投げかけ、「時に難病ALSの意思決定にも波及するのではないかと心配しています」と表明。

「意思疎通ができない患者についても記載されており、その意思は過去の発言や周囲の憶測に基づいて判断されるとあるのですが、これが重度コミュニケーション障害を抱えるALSのような人の命を危うくします」

「生まれつき話すことができない重度の知的障害の人や医療的ケア児、突然の事故や病気で低酸素脳症になり対話ができなくなってしまった者の意思は誰にも推定ができないはずで、他人が推定して死なせてはいけません。それはとても無責任で差別的で残忍な仕打ちです」と訴えた。

生命維持医療の停止を勧められるも、突っぱねて意識を回復した佐藤さん

続いて意見を表明したのは、心筋梗塞で心肺停止になり、集中治療により救命されたものの、家族には医師から繰り返し治療停止が打診された佐藤安夫さんだ。佐藤さんの妻が医師の説得を突っぱねて、治療継続を求めた結果、10日後に意識が回復し、今では元気に生活できるようになっている。

軽度の高次脳機能障害を抱えながらも、生命維持治療を続けたおかげで会見できるほど元気になった佐藤安夫さん

軽度の高次脳機能障害を抱えながらも、生命維持治療を続けたおかげで会見できるほど元気になった佐藤安夫さん

佐藤さんは64歳だった2015年1月21日の早朝、突然胸に激しい痛みを感じて倒れ、心肺停止、意識不明となった。

10分後に救急隊が到着し、すぐに心肺蘇生が始まった。病院に搬送された後も心臓は動かず、妻のひろ子さんは、医師から救命治療についてこう尋ねられた。

「心臓が40分から50分止まっていた可能性があり、今も命が保つかわからない。助かっても重い低酸素脳症が残り、寝たきりになるかもしれない。さらに、これ以上、胸骨圧迫を続ければ、肋骨が折れ、内臓を傷つける恐れがあります。それでも続けますか?」

ひろ子さんは「心臓だけでも動かしてください」とお願いし、医師たちはそのまま蘇生を続けた。その結果、佐藤さんの心臓は再び鼓動を打ち始めた。

すぐに心臓カテーテル手術が行われ、集中治療室に運ばれ、生命維持治療が始まった。診断は心筋梗塞だった。

3日経っても意識は戻らず、家族は医師から「どこまで延命治療を続けるのか決めてほしい」と告げられた。5日目も意識は戻らず、再び医師からいつまで治療を行うのか尋ねられた。その時、医師は「人工呼吸器や胃ろうでの延命治療を続ければ、介護は長期化し、家族の負担も大きくなる」とやんわり治療停止に誘導しようとした。

佐藤さんは言う。

「人工呼吸器をつけた重度心身障害者の支援に携わっていた妻は、医療的ケアを受けながらも懸命に生き、人生を楽しんでいる人たちの日々を見てきました。だからこそ、ここで治療をやめるという決断だけはどうしてもできなかったようです」

1週間経っても意識は戻らず、家族は医師と確認書を交わした。気管切開はするが、医療は保留にするという内容だった。

「TLTが適用されていたら、今の私は存在していない」

それでも、ひろ子さんは望みを捨てず、倒れてから9日目、重度障害者の在宅療養を支援している川口有美子さんに相談した。

「大丈夫。医療的ケアが必要でも、介護はできる。私に任せなさい」

その言葉にひろ子さんは励まされた。

不思議なことに、その日の夕方、佐藤さんは少し意識を取り戻した。病室に来た川口さんが「足を曲げて」と言うと、きちんと足を曲げた。医師は驚いていた。

翌日の10日目には完全に意識が戻り、気管チューブも外れた。倒れたことを全く覚えていなかったが、妻と娘の名前を言うことができた。

その後の3ヶ月のリハビリで、少しずつ体調は回復していった。

佐藤さんは今では自分で歩き、語れるようになるまで回復した姿でこう訴える。

「今こうして皆さんの前でお話できるのは、10日間諦めずに待っていてくれた医師と家族のおかげです。もし当時、数日で回復の見通しがないと判断して、治療を打ち切るTLTが適用されていたら、今の私はここに存在しません」

「救命を最優先すること、救急医療を維持すること。そして命を諦めない支援をし続けること。私のこの体験が命の尊厳を考える一助になれば幸いです」

(続く)

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