妊婦が感染すると赤ちゃんが病気になる風しん 排除を達成するもワクチン接種率の維持が課題

昨年、日本は風しん排除を達成しましたが、感染を防ぐワクチンの接種率はコロナ禍以降、じわじわと下がっています。妊婦が感染すれば赤ちゃんが病気になることもあるこの病気を防ぐために、何が必要なのでしょうか?
岩永直子 2026.07.11
誰でも

感染症の専門家や当事者が登壇して7月9日に開かれた国会内学習会「麻しん(はしか)流行を止めるには 最新情報とその対策」(ワクチンパレード実行委員会主催)。

川崎市健康安全研究所参与の岡部信彦さんの講演「現在の感染状況・MR(麻しん・風しん混合)ワクチン接種の重要性について」の後半は、風しんについて話した。

質疑応答まで詳報する。

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風しんで問題なのは、胎児に感染して発症する「先天性風しん症候群」

風しんは、基本的には軽い病気で放っておいても治ります。中には急性脳炎の軽いものにかかったり、血小板が足りなくなるため出血しやすくなったりすることもありますが、はしかほどのインパクトもないし、軽い病気だからいいじゃないかというのがほとんどの人の考え方でしょう。

ただ、この風しんの最大の問題点は、妊婦さんで免疫のない人がかかった場合、ウイルスがお腹の中の赤ちゃん、胎児に行ってしまうことです。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

そのウイルスは脳や心臓、目、耳にいくので、「先天性風しん症候群(CRS)※」という病気が発生しやすいことが風しんの最大の問題です。

※風疹の免疫のない妊娠20週頃までの女性が風疹に感染すると、ウイルスがお腹の中の赤ちゃんにも感染して、難聴、白内障、先天性心疾患などの障害を持つ病気。2012~2013年の全国的な流行では、14年までに45人のCRSの赤ちゃんが誕生したことが報告されている。

岡部信彦さん提供

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はしかでは死亡者をなくし、SSPE(亜急性硬化性全脳炎)をなくす。風しんの場合は、CRSで生まれるお子さんを防ぐことが世界的に目標とされています。

風しんの流行でCRS・人工妊娠中絶の増加も

日本では1960年代の沖縄での流行が、風しんという病気の認識が強くなった時でした。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

風しんは「三日はしか」と呼ばれ、軽いはしかのような表現をされていましたが、この病気のためにCRSのお子さんが60人出生した記録があります。

妊娠中には色々なウイルス感染が問題を起こしますが、風しんの場合は抜きん出てその割合が高い。特に妊娠初期に妊婦さんが感染すると、下手するとほぼ100%お腹の中の赤ちゃんに影響が出ることがあります。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

風しんは時々流行することは知られていたのですが、1980年から記録されるようになったので、それ以前の記録が残っていません。もちろん、それ以前にも流行はあったわけです。

風しんが流行すると、CRSのお子さんも増加してきます。流行から少しずれて増えますが、それだけではない。これは感染症研究所にいた加藤茂孝先生が作ったスライドですが、障害を持って生まれたお子さんは大変であるというようなことから、人工流産(人工妊娠中絶)が増えることもありました。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

それは医者が勧めることもあるし、家族が希望することもあります。

もう一つの問題は、人工流産になった胎児を調べると、必ずしも全てが風しんにかかっていなかったことです。胎児診断を進めるのも科学的な方法ですが、元である風しんがなくなればいいのであって、風しん対策の一番大きい目的は風しんを少なくすることです。

沖縄でのCRSの子供の増加は社会問題に

CRSは沖縄で当時大きな社会問題となり、難聴のお子さんが増えて、特殊学級(特別支援学級)を増設することもありました。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

またそのような子供たちが甲子園を目指したこともありました。先天性風しん症候群による難聴は風しん対策によって無くなってきたので、学校が必要なくなり廃校にもなりました。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

これはめでたい廃校です。ドラマ化もされて話題になったことがあります。

ワクチン接種をしなかった人で起こる流行

このようにかなり風しん対策は取られてきたのですが、2012年、13年にも流行がありました。

岡部信彦さん

岡部信彦さん

以前ほど大きい流行ではないですが、全国で1万5000人もの患者さんが出ると、先天性風しん症候群のお子さんが出生しました。この時の流行で45人の患者さんが生まれたという記録があります。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

患者さんを年齢層別に見ると、子供たちはワクチンを接種していればなんとか抑えられています。

上は男性、下は女性ですが、特に大人になった男たちが風しんになっています。この年代層は風しんのワクチンを受けていません。当時は妊娠前の女性にだけまず接種して免疫をつけて、妊娠年齢の風しん感染を防ごうとスタートした予防接種制度でした。

それはそれなりによかったのですが、この時にエアポケットのようになって残った人たちが風疹になると、やはり女性に感染します。

1期から4期と高校生までの接種に加えて、この中年の男性にワクチンを接種することがスタートしました。

しかし、大人の男へのワクチンはなかなか行き渡らないのです。それでも3割ぐらいの人が応じてくれて、免疫を持つ率はずっと高まりました。今世界的に風しんは少ないですが、日本からも風しんは消えてきています。

2020年以降は激減

これは年別に見た風しんの患者数です。2019年に2298人でしたが、ここを境にグッと減り始めていることがわかると思います。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

この時は国内の流行ではなく、海外から持ち込まれた流行ですが、そこから日本の中に広がりませんでした。先天性風しん症候群の赤ちゃんの出生も、2021年の1人を最後にゼロが続いています。

この患者さんのウイルスの遺伝子を見てみると、国内で流行したウイルスではないと科学的な証明もできたので、2025年9月に日本は風しん排除を達成した国であるとWHOに認定されました。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

これでびりっけつからスタートした日本もトップグループに入りました。多くの方に努力していただいたおかげです。

徐々に下がっているMRワクチンの接種率

しかしこれでただ「バンザイ」とするのではいけません。

こちらは日本のMRワクチンの接種率です。

新型コロナウイルスの流行前は真っ赤(接種率95%以上)だったのが、だんだん下がってきて、他の国の方に80〜70%まで落ちてはいませんが、現在は90%を割り始めています。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

今すぐこれで大騒ぎになることはないと思います。でも、やはりはしかや風しんの発生は抑えなければいけない。これはそんな派手なことではなくて、今やるべきことをきちんとやっていただくことが大きいと思います。

幸い日本にいたはしかや風しんのウイルスは消え去りました。重症のはしかになる人も、SSPEも、CRSの発生もない。これは大変にありがたいことだと思うし、色々な方、患者さんやご家族の応援のおかげだと思います。

岡部信彦さん提供

岡部信彦さん提供

ただこれは一つの通過点をクリアしたということです。これに到達して、おめでとうバンザイというわけにはいきません。

接種率がだんだん減りつつある状態を少し上向きにする。そういう努力をこれからも私たちは続けていく必要があると思いますし、少なくなった病気であっても多くの方にきちんと説明していかなければならない。

そのために色々な方のご支援とご協力をいただきたいと思います。

(講演終わり)

【質疑応答】

「2回接種でSSPE防げる?」

——MRワクチンを2回接種しても結局、はしかにかかっている人は多いです。1回接種なら分かりませんが、2回接種すればSSPEにはならないのでしょうか?

残念ながら科学的な答えはないのです。今までワクチン接種をした方でSSPEになったケースは、1回接種でもう既に亡くなっている方であります。

うんと軽い症状でも感染が見つかるようになったのは、PCR検査など厳密なことができるようになったからです。2回接種した場合は、他の人にはうつさないぐらいのウイルスになって、おそらく体の中でそれがいつまでも残るようなことはないだろうと思うのですが、その証明に5年から10年ぐらいはかかります。

ですから明快に答えることはできませんが、2回接種すればたぶんSSPEになることはないだろうとは思います。

——なぜ2回接種したのにはしかにかかるのか、ずっと疑問でした。

そうですね。それは「本物」のはしかにかかるかどうかの問題です。「本物」というのは、高熱が出て、大変で苦しいはしかを指しますが、2回接種したらそんなはしかにはならずに軽症で済みます。

「2回接種しても感染するから、ワクチンをやってもあまり意味がないな」と思ってしまうと、そんな疑問が広がってしまいます。

しかし、私たちが今持てる道具でできるだけのことをするならば、今の2回接種は相当、強力な方法です。

例外的なことがなぜ起きるのかはまだ科学的にも解明できないので、そこはすみませんが、ワクチンは適切にやっていかなければいけないと思います。

接種率を上げるにはどうしたらいい?

——MRワクチンの接種率の日本地図が出ていました。集団免疫(※)を維持するには、接種率が95%以上ないといけないと言われる世の中で、今全国平均で1期の接種率が92.7%、2期になると91.0%になります。これが2024年のデータでは、接種率が90%以下の自治体が0県から6県まで増え、2期では90%を下回った自治体が5県から9県まで増え、どんどん接種率が下がっている状況です。これをどうにかしなければと私たち小児科の先生たちは、1歳のお誕生日にワクチンを、小学校就学前にワクチンをと言ってはいますが、90%以下の自治体がこれほど増えてきています。接種率を上げる方法についてアドバイス頂けたらと思います。

※集団の中でワクチン接種や感染で免疫を得た人が一定以上増えると、免疫を持たない人も間接的に感染から守られる効果。

やはり行政の力は強いと思います。もちろん強制するわけではないですが、ただ、「あなたは接種していませんよね」という通知や連絡を、日本では非常にきめ細かくやっていただいている。対象者に届かなければいけないので、行政の力は強いのではないかと思います。

小児科の先生に対しては、私も小児科の端くれではありますけれども、諦めることなく、がっかりすることなく、続けていく必要はあるだろうと思います。

メディアが報じていただくと接種率が増えることは色々な調査で示されています。報道もだんだん減ってきているので、時々こういったことを思い出していただいて、刺激をしていただくとありがたいなと思います。

MRワクチン不足の現状は?

——MRワクチンが足りなくて、患者会の皆さんと共に要請も重ねているところです。地域で格差があるとか、偏在とも言われていますが、実際に安定供給の現状はどうなのでしょうか?

安定供給を実現するためには二つの課題があって、1つは、流通の問題でどこかに偏ってしまう、あるいはどこかだけで消費をしてしまうことです。

その改善のためには、公平に行き渡るように中央でコントロールしながら、足りないところには回してくださいと伝える。これは医療法にも関わってくるところで、役所的には難しいところです。

できるだけ公平な形にするには、流通の改善は国も、メーカーも、自治体も対策をやらなければいけない。それは改善されつつあります。


もう1つの問題はやはり生産量の問題です。ワクチンは機械的に作るものではなく、生物を取り扱っているところなので非常に生産が難しい。しかもすごく厳密なことをやらないと、安全性に関わります。

日本の場合、本当にビリビリしているぐらい厳密に作っているので、ワクチンそのものに問題があるわけではなくても、作る約束事から外れていれば、生産を停止してやり直したりしています。そうすると生産量は少なくなってしまう。

そうなった時のカバーをどうするかは、1社だけでは危ういです。2社、3社で協力していただく必要がある。ただ、潤沢に生産しようとすれば、無駄なワクチンも作らなければならなくなります。作ったワクチンが100パーセント売れることはあり得ないので、無駄に捨てたりすることもある。そういうようなことがあると、経営的に見たらそういう面倒なところから撤退しようかという声が出てきたりする。

私たちとしては、必要なので、日本で作っているワクチンもないと困るという声をあげなければならないと思います。

生産は実はどこの国でも問題になっているところです。できるだけきちんと作れて、不公平が生じないようにすることは重要だと思います。


なぜ今年ははしかが増えた?

——はしかが去年(の同時期)より今年は4倍に増えているということですが、どんな理由があるのでしょうか?来年以降もこういう傾向は続く可能性はあるのでしょうか?

病気が流行する理由は、たった1つではないので、複数の要因が複合的に関わると思います。

日本である程度抑えても、完璧に抑えているわけではありません。そういうところに外からウイルスがポンと持ち込まれると、患者さんが発生します。

海外で病気そのものが増えているので、日本の役目というよりは、WHOも対策は立てるわけですが、それが徹底されなければ日本に入ってくる可能性があります。

外国から人が来るのを止めてしまえば対策としては簡単ですね。でも、それは社会的にも経済的にも、それから我々の楽しみとしてもあり得ない。

それならば、我々はウイルスに対して鍵をかけておかなければいけない。

その鍵が、ワクチンだと私は思います。

しかし最近は接種率がじわじわと減ってきています。今すぐ問題が起きるわけではないですが、そのままずっと放置していると問題が起きかねないので、せめて前の状態を維持する、あるいはきちんと接種率を上向きにしていくことが大切だろうと思います。

もしそれをやらなかった場合は、他の国と同じように爆発的な流行が出てきて、風しんの場合はCRSが、はしかの場合には亡くなられる方が必ず出てきます。

それを防ぐのが、日常の動きじゃないかと思います。

季節性は崩れてくる?

——昔は夏になると流行が減る傾向もあったと話されましたが、今はインバウンド(海外からの旅行客)が増えて、通年性になっているとか、季節性ではなくなってきているとか言われ、異常気象も関係すると言われています。そういう影響をどう捉えたらよろしいでしょうか。

科学的な証明は難しいのですが、例えば夏になると流行が収まるようなことに関しては、気象の影響はあると思いますね。

ただ、うつりやすい病気なので、人の動きは影響します。以前はそんなに動いていなかったのが、今は広範にあちこちに動く。我々が動くだけではなくて、あっちからもこっちからも来るわけです。その人たちの動きも見ながら防いでいき、なおかつ危険のない方向を取らなくてはいけません。

免疫を持っている人が増えてきているので大きな事態にはならないけれども、その中で免疫を持ってない人がいれば、そこはエアポケットになります。

そういう状況で流行すると、免疫は持っていても弱い人が影響を受けてしまうことがあります。集団免疫という言葉が出ましたが、みんなの免疫をレベルアップしていくことは、引き続き重要なことだと思います。

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