高額療養費制度見直し、患者や有識者がさらなる検討を求めたのに議論しないのはなぜ? 参議院厚労委員会で全がん連理事長、患者のみならず現役世代にも広がる不安や不満の声を訴え

高額療養費制度の見直し案に関し、参議院厚労委員会に全がん連の天野慎介理事長が招かれ、患者団体や有識者がさらなる検討を求めたにもかかわらず、議論なしで政府案が進められていることを指摘。患者のみならず、現役世代からも不安や不満の声が届いていることを明らかにしました。
岩永直子 2026.04.02
誰でも

医療費が高額になった患者の自己負担額を抑える高額療養費制度。

新年度予算案にも盛り込まれている政府の改定案に患者団体から反対の声が上がる中、参議院厚生労働委員会が4月2日、開かれ、全国がん患者団体連合会理事長の天野慎介さんが参考人として招かれた。

医師でもある公明党の川村雄大議員の質問に、天野さんは、患者団体や有識者が審議会でさらなる検討を求めたにもかかわらず、議論なしで政府案が進められていることを指摘。

「現時点でもすでに経済的負担のために治療を控える、治療を諦めている患者さんがいるのでは、高額療養費の見直しにより、そういった患者さんがさらに増える可能性はある」と、政府の見直しが、患者の命や健康に悪影響を与える可能性を訴えた。

天野慎介・全国がん患者団体連合会理事長

天野慎介・全国がん患者団体連合会理事長

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「さらなる検討の余地はあるものと期待した」

川村議員は、患者団体も参画した厚労省の「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」で、肝心の自己負担引き上げの具体的な金額について示されたのは、現時点では最後となった第9回の委員会であることを指摘。

「患者の声を反映するために持たれた専門委員会だが、9回目に提示されたのであれば、引き続いて専門委員会を開催して議論を続けなければならなかったと思います」としたうえで、天野さんにこう尋ねた。

「この専門委員会が第9回以降も開催されることを期待しておられましたでしょうか?また、会議が今後も重ねられるというふうに受け止めておられましたでしょうか?」

川村雄大議員

川村雄大議員

天野さんは、川村議員が指摘した通り、「第9回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」で初めて、厚労省から具体的な金額が提示されたと回答。

「私からは、治療断念や生活破綻につながることがないように、月ごとの限度額については、さらなる抑制を引き続き検討していただきたいと意見を述べました」と、継続した検討を求めたことを説明した。

また、この9回の専門委員会では、他にも具体的な金額について意見を述べた委員が複数おり、上智大学の中村さやか教授は「ほんのわずかな標準報酬月額の違いで、非常に大きな負担の差が生じている、というところがそのままになってしまっているということは、少し問題ではないか」と指摘していたことにも言及。

さらに早稲田大学の菊池馨実教授も「高額所得者の方の負担減を、もう少し低所得の方の更なる負担軽減に充てられる余地はないのだろうか」と指摘していたことを述べた。

これらの意見を受けて、委員長である東京大学の田辺国昭教授が「本日委員の皆様方からいただいた御意見も踏まえまして、配慮が必要なものなど、引き続き検討事項となっている内容につきましてさらなる検討を進めていただきたい」と、事務局である厚労省に求めていたことを聞いて、こう考えたことを強調した。

「私もさらなる検討があるものと、期待した次第です」

上野厚労相、「金額等につきましては政府として決定」委員らが求めたさらなる検討には回答せず

川村議員はこの回答を受けて、上野厚労相に対して、「その後、専門委員会を持つおつもりでしたでしょうか」と質し、3月27日の予算委員会では専門委員会をその後開かなかった理由として「選挙もありましたし」と答弁していたことを指摘。

「選挙があっても大事な会議ですので、持つべきだったのではないでしょうか?」と問うた。

上野厚労相は、患者団体をはじめとした様々な関係者のヒアリングを重ね、様々な角度からの議論を行ったと回答。

第9回の専門委員会の議論については、「委員からのご指摘、ご意見も受け止めまして、今回の見直しの意義あるいは内容を十分にご理解をいただけるように、見直しの趣旨を国民の皆様に丁寧に説明をしていくと、事務局からご説明をしている」とし、

「本年8月からの施行に向けまして、分かりやすい広報資料の作成などを、見直しの趣旨やあるいは丁寧な説明を続けていきたいと考えておりますし、年間上限の円滑な導入に向けました関係者との実務的な調整、また専門委員会で様々指摘をされた実務的な課題がございますので、その検討を現在進めているところであります」と説明。

答弁する上野賢一郎厚労相

答弁する上野賢一郎厚労相

その上で、「今後、例えば運用上の課題に一定の整理がつきましたら専門委員会にご報告するなどの対応をすることも考えられますが、いずれにしろ、専門委員会の持ち方につきましては委員長ともよくご相談をさせていただきたいと考えています」として、複数の委員が求めていた具体的な金額についての検討については答えなかった。

川村議員が「患者団体の皆様が金額を最後に聞いて、それに対しての意見を申し述べて協議をする場を持つおつもりはなかったということでよろしいでしょうか」と確認すると、上野厚労相はこう答えた。

「患者団体の皆様には、基本的な考え方のところで意見の取りまとめをしていただいております。金額等につきましては政府として決定をさせていたいただき、その後も第9回の場でご説明させていただいているところでございますが、そうしたものを踏まえて、今後適切な執行ができるように、引き続き丁寧な説明を続けていきたいと考えています」

つまり、具体的な金額は政府が決定するものであり、患者団体や有識者の意見を踏まえた議論を続けるのではなく、政府が決定した内容を説明し続ける方針であることを明らかにした。

石破前首相の「検討プロセスに丁寧さを欠いた」「患者の皆様にご不安を与えたまま見直しを実施することは望ましくない」発言、尊重するか?

川村議員は「患者の声を聞くと言って持たれたあり方委員会(専門委員会)でありますけれども、これでは患者の声を十分に聞いたとは私は思えない」と批判。

昨年3月7日に当時の石破茂首相が「患者団体の皆様にご理解をいただけない理由の一つとして、本件の検討プロセスに丁寧さを欠いたとのご指摘をいただいておることを重く受け止めている。それから、患者の皆様にご不安を与えたまま見直しを実施することは、望ましいことではございません」と述べて、見直し案の凍結を決断したことに触れ、

「この石破総理のご発言は尊重されますか?」と上野厚労相に質した。

上野厚労相は、「昨年度、石破前総理が述べられた通り、検討プロセスに丁寧さを欠いたとのご指摘をいただいたことを重く受け止めており、制度の見直しにあたってはできる限り丁寧なプロセスを重ねていくことが重要である、そのように考えております」と回答。

その上で、「そのため、今回の見直しにあたりましても、まさに患者団体の方にもご参加をいただいた専門委員会におきまして、ヒアリングなどを、検討を進めさせていただいたところでございます。また、患者団体の皆さんからも、例えば長期療養者、低所得者の皆さんへのセーフティーネットの機能の強化、そうした御指摘もいただいておりますので、年間上限の設定などの取り組みをさせていただいてるところであります。そうしたことを、これからも十分に説明できるように取り組んでいきたいと考えています」と述べ、これまでの審議過程を「丁寧なプロセス」と認識していることを明らかにした。

患者からは不安の声、現役世代からも不満の声

これを受けて、川村議員は、天野さんに「あり方委員会等を通じた議論は十分に丁寧なものであったとお考えになりますでしょうか。また、患者の皆様の間にご不安が残っているとお感じになりますでしょうか」と質問した。

天野さんは「いわゆる多数回該当の据え置きであるとか、年間上限の新設などについては、私たち患者団体や与野党の超党派議員連盟からの要望を反映していただいていると考えますが、一方で、具体的な見直し金額については、12月24日の厚労・財務大臣の大臣折衝において初めて決定され、翌日25日の第9回専門委員会において初めて具体的な金額を提示いただいてますので、この具体的な金額の部分についてはさらなる議論の余地があると考えております」と答え、十分な議論が尽くされていないとの考えを表明。

また、患者から寄せられている声については、「多数回該当の据え置きであるとか、年間上限の新設については見直しに期待する意見もいただいておりますが、一方で、月ごとの限度額の引き上げについては不安の声を多数いただいているのが現状です」と、患者の不安が残っている現状を訴えた。

その上で、「いわゆる患者さん以外の現役世代の方々からも私たちに対して、例えば、『高額な社会保険料を支払っているにもかかわらず、これ以上限度額を引き上げられてしまっては、何のために高額な社会保険料を払っているのか意味がわからなくなってしまう』などのご意見もいただいている状態です」として、患者のみならず、政府が負担を減らすとアピールしている現役世代からも不満の声が届いていることを強調した。

現行制度でさえ、自己負担の重さで治療を諦めている患者はいる

最後に川村議員は、今回の高額療養費制度の見直しが、受診抑制や治療中断、治療抑制などにつながる懸念はあるか天野さんに尋ねた。

天野さんは、「実は現状の高額療養費の負担額でも経済的に支払うことは困難で、より治療効果が低い一世代前の古い治療や古い治療薬を選択してる患者さんが一定数いらっしゃいます」と、現行制度でもすでに治療抑制が起きている実情を説明。

また、「特に現役世代で子育てをされている世帯の場合、そうなりますと、子供の将来のためにお金を少しでも残すことを選びたいとおっしゃって、治療自体を諦める決断をされたという患者さんもすでにいらっしゃいます」と、現役世代や困窮世帯が自己負担の重さに治療を諦めることが起きていると報告した。

「いわゆる非正規雇用のがん患者さんの中には、医療費を支払うと毎月赤字なので、クレジットカードのリボ払いでなんとかしのいでいる患者さんもいらっしゃいます」とも語り、こう締め括った。

「こういった状況を踏まえますと、現時点でもすでに経済的負担のために治療を控える、あるいは治療を諦めている患者さんがいらっしゃいますので、高額療養費の見直しにより、そういった患者さんがさらに増える可能性はあるかと考えます」

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