「これ以上負担が増えたら払えない」「現行制度でも治療を断念している人はいる」衆院予算委員会の質疑応答で明かされた患者の厳しい経済状況
衆議院予算委員会の中央公聴会で、2026年度予算について全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長が高額療養費制度の見直しについて意見を述べた。
後編では、各党議員との質疑応答を詳報する。

議員の質問に答える天野慎介全がん連理事長
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自民:政策論議への患者参画は?
自民党の塩崎彰久議員は、「天野理事長ご自身、増大する高額療養費を負担能力に応じてどのように分かち合うか検討を丁寧に進める必要があると述べられて、国民の理解のもとで制度を維持するための見直しについては前向きに検討してきていただいたと思っております」という認識を示した上で、「今回の議論の過程で、政府と患者団体との間で意見交換が行われてきたことについてどのような受け止めか」と質問した。

天野さんは、「第1回から第8回、昨年の5月からおよそ半年間にわたって専門委員会を設けていただいて、その中で私たちからの要望、特に長期にわたって継続して治療を受ける患者さんへの配慮、あるいは所得が低い方への配慮について、要望を丁寧に聞いていただいたことについては患者団体としても厚生労働省の対応に感謝している」と回答。
「現在、様々な審議会で患者さんの参画が進んでいますので、こういった当事者の参画というものを是非これからも進めていただきたいと願っております」と要望した。
中道:どのように再検討すべき?
続いて、中道改革連合の早稲田ゆき議員は、今回の制度見直しで、月額ではほとんどの所得区分の人が「破滅的支出」になってしまうことに触れ、「やはり1番リスクの高い方、今がんや難病の治療をされていて、精神的にも、治療的にも、生活的にも厳しい方にさらにリスクを負わせるようなことは、もっと抑制的であるべきだと思っています」と発言。

早稲田ゆき議員
その上で、「このことについてどのようなお声があるのか、そしてまた、これを抑制、もう一度再検討、評価をすることはもちろんやるべきだと思いますけれども、8割以上の方が自己負担増になるという部分をもう一度再検討をするべきではないか」と質問した。
天野さんは、がん以外にも難病や様々な病気の人から、特に月額部分について負担がまだ大きいという声が届いていることに触れた上で、
「例えば不妊治療を行っている方から、今回のような引き上げになってしまうと負担が大きくなって不妊治療を続けることが困難なので、これを機に不妊治療をやめることを考えてるといったコメントもいただいてます。特に、子育て世代の方は扶養家族が多いので、その分経済的な負担も大きくなりがちで、なんとか負担の軽減をしていただきたいという声をいただいてる」と子育て世代が打撃を受けていることを説明した。
また医療費以外でも、「例えば病院の通院などで様々な費用がかかって、あるいは転職、退職に伴って収入が減る部分はもちろんカバーされないので、まだまだしんどいといった声は多数いただいている」と回答した。
また、見直しの再検討については、「政府あるいは国会議員の皆様の考えていただくこと」としつつ、これまでの議論の過程を踏まえ、こう述べた。
「今年は2段階の引き上げになっていますが、昨年は3段階の引き上げとなっていました。その中で、政府の方で検討いただいて、複数回にわたって修正していただいた経緯があって、1回目は多数回該当の据え置きで、2回目は1段階目は実行するけども、2段階目以降は凍結するといった方法が昨年は取られ、3回目に全ていったん凍結と判断していただいた。その部分は、ぜひこの国会の場で十分に審議していただきたいと願っています」
国民民主:医療保険制度全体の中での議論はなされたか?
国民民主党の福田徹議員は、「高額療養費制度の見直しの基本的な考え方として記載されている文書の中で最も重要な点は、制度改革の必要性は理解するが、その際には、高額療養費制度だけでなく、ほかの改革項目も含め医療保険制度全体の中で全体感を持って議論していくことが必要である」と指摘した上で、専門委員会の中で、医療保険制度全体を見る議論がなされたか質問。
「『他の改革でこの程度医療費適正化ができれば、高額療養制度の持続性のために自己負担を上げるのはこれぐらいでいいんじゃないか』みたいな、広く見た議論というものはありましたでしょうか」と尋ねた。

国民民主党の福田徹議員
天野さんは、専門委員会は社会保障審議会の中にあり、高額療養費制度の見直しのみについて議論する建て付けであったため、専門委員会で直接議論されたことはないと回答。
「ただ、私も専門委員会で、社会保障制度全体で議論していただきたいということは繰り返しきました」とし、
「その結果、社会保障審議会の方、いわゆる親会の方でそういった議論は行われていたとは思っていますが、ただそれが十分であったかというとまだ道半ばだと思っている。さらに議論を深めていただかないと、現状だと高額療養費だけに負担が集中してしまう可能性があると危惧している」と社会保障全体での検討が不十分な現状を指摘した。
福田議員は「もちろん社会保障全体の中でしっかり議論していくことが必要だと思いますので、これから私もしっかり訴えていきたい」と述べた。
参政党:予防医療の意義は?

参政党の石川勝議員
参政党の石川勝議員はまず「国民負担率が極めて高い中で、さらに高額医療費の制度の見直し等を通じて患者の負担を引き上げる方法は、病気になった方やご家族に二重三重の負担を強いることになる」との認識を明らかにした。
「社会保障費の適正化は必要だと主張しているが、その手法は患者負担の引き上げではなくて、予防医療、重症化予防の推進によって行うべきだという主張をしている。消費税や社会保険料、物価高に加えて、医療費の自己負担まで重くなれば治療継続を断念する方が現れたり、生活が破綻する方が出てくるとおっしゃっているが、それは結果として社会全体の損失を拡大するという風に考えます」としたうえで、参政党が医療政策として掲げる予防医療や重症化予防の推進についての意見を求めた。
天野さんは、「がん対策基本法の中でもがんの予防は非常に大きな柱として位置づけられてきたが、検診率が諸外国と比較して高いかというと、必ずしも高くないという現状がある。政府も積極的な予防医療をおっしゃっているが、そういった予防医療はまだまだ進める余地は残っていると思いますので、社会保障の適正化という観点からも予防は極めて重要だというのは、先生のご意見に賛同するところです」と述べた。
みらい:患者の受療行動への影響は?
チームみらいの高山聡史議員は、今回の負担増が実施された場合、患者の行動にどんな影響が出るかを質問。
「自己負担額の限度額が引き上げられることで、例えば治療の開始を躊躇するとか、結果として治療の開始そのものが遅れるというケースがどの程度生じうると考えられるか。アンケートや日頃患者さんと接している中での実感も含めて、所感を」と尋ねた。

チームみらいの高山聡史議員
天野さんは、今回の見直しでは、長期にわたり治療を受ける患者に対しては、負担が増えないように配慮がなされ救われる面があると指摘した上で、多数回該当から外れることがある場合は厳しいことがあるとして、このような例を挙げた。
「例えば2ヶ月に1遍、治療を受けてる方がいるとします。結構そういうことはあり得ます。年6回、高額療養費の上限に該当することがあり得るわけですけども、今回の高額療養費の見直し案だと、おそらく負担増になってしまうことが想定される。もちろん、個別で金額は違うので全てそうだとは言えませんが、おそらく上限が年のうち1回から、おそらく8回9回ぐらいまでは負担増となる可能性があると考えている」
そして、そのような負担増となった場合、どうやって患者を支えたらいいか、がん専門病院のソーシャルワーカーと話した時、こう言われたことを明かした。
「『世帯を分けたり、あるいは離婚という形にもなったりするかもしれませんが、そういう形にして生活保護を受けていただくしかおそらく手段はないだろう』と相談支援センターのソーシャルワーカーの方々はおっしゃっていた。これが現実だとは思っております」
また、負担が増えることで治療の開始が遅れるケースについては、「現時点でも実はそういった患者さんはいて、特に、子育てをされている世帯の方は、お子さんの教育費のため、学費や生活のためにお金を残しておきたいとおっしゃるお母様はかなりいるので、そういった方々は、現時点でも、受診を控えたりすることがあると実際聞いています」と、現時点でも、経済的な理由での受診控えがあることを強調した。
「これ以上負担を上げる余地は残っていない。上げて払えない人が続出する」
また、高山議員は、高額療養費制度の運用上の問題点についても、患者に対する具体的な影響について尋ねた。
天野さんは、転職や退職で保険者が変わり、多数回該当のカウントがリセットされてしまうと「一気に負担は上がる」として、治療や検査を治療上適切なタイミングではなく、まとめて行う患者もいることを明かした。
また、がん患者が経過観察でよく受けるCT検査も、CTだけ単独で受けると治療費が2万1000円に達しないため、他の医療機関での治療や同世帯の医療費との合算ができなくなる問題が起きることを説明。
「複数の病院で治療を受けていると、合算ができなくなって負担がどんどん増えていくことが実際に生じている。現役世代でこういうことが生じているので、ぜひこの部分は速やかに検討していただきたい」と要望した。
さらに、高額療養費制度が定期的に見直されるという報道があり、自己負担額が年々上がっていくことへの懸念についても質問があった。
天野さんは、2月の共同通信の報道に対し、患者たちからは「寝耳に水だ」とか「こんなのは全く認められない」という厳しい声が上がったことを報告。
その上でこう訴えた。
「高額療養費の月額上限に関しては、WHOが定義する破滅的医療支出を超えてしまっている水準にある。正直なところ、これ以上月額上限に関しては負担を上げる余地は残っていないのではないかというのが私の率直な意見だし、年間上限を抑えていただいているが、相当高い金額をこちらも払っている。そう考えると、これ以上、高額療養費制度に関しては、患者さんの負担を上げる余地は残されていない。上げられても、おそらく払えない方が続出するのではないかと懸念しています」
現行制度でも払えないことによる治療断念はある
日本共産党の辰巳孝太郎議員は、自身も予算委員会で高額療養費制度の見直しについて取り上げたことに触れ、「上限見直しをされたとしても、社会保険料の軽減というものが月額ペットボトル1本ほどではないかということで、ペットボトル1本分の負担軽減で、助からない命を増やしてしまうのは絶対ダメじゃないかという趣旨の質問もさせていただきました」と紹介。

日本共産党の辰巳孝太郎議
また、「政府は2450億円中、1070億円の医療費の削減、これを受診抑制として見込んでるのではないかという質問をしたところ、受診抑制としては見込んでないというようなお話をされた。おそらく政府としてはそういう言葉であまり語りたくないということだと思うのだが、実際問題としては、受診抑制として1000億円以上、つまり、治療を諦めたり、あるいは治療を軽いものにしたり、薬を安いものにしたりということが今回の高額療養費の負担増で見込まれてると思う」と厳しく政府を批判した。
その上で、「今回、高額療養費の負担増となってしまえば、患者さんに与える影響、特に治療を諦める、あるいはベストな医療ではなくてより低価格な医療を選ぶことにつながるのではないかと改めて危惧する。当事者としてどのような声が出ているのか」と質問した。
天野さんは、「実は現行の高額療養費制度においても、がん治療を行っている医療者の方々にもお話を伺いましたが、やはり『もうお金が足りないからこの治療は受けない』と、より治療効果が低い、昔の治療を選択されているような患者さんは現在でもいると聞いている。今回引き上げとなると、負担が増える患者さんが当然いるので、(治療断念や低価格治療の選択が)増える可能性はあり得る」と、患者の治療断念や治療選択にも影響する可能性を示した。
また辰巳議員は、今後も定期的に自己負担上限を見直す可能性が報じられたことについて、改めて患者はどう受け止めているか尋ねた。
天野さんは、「現行の引き上げでも厳しい、今回の引き上げ案でも厳しいという意見が出ている中で、2年ごとに上げていくのは全くもう無理だと、払えないという声を多数いただいている」と回答。
またよく、「貯蓄はあるだろう」と指摘されることについて、3000人を超えるがん患者アンケートの中の声を紹介し、「この方は、現在、まさに乳がんの治療中で、がん保険には加入しておらず、非正規雇用で、都内で賃貸の1人暮らしをしている。カードのリボ払いで医療費を払って凌いでいて、貯蓄は全くない。そういった中で支払い、月額上限が上がっても蓄えがない方がいるので、そういった場合は特に厳しい状況になる」と、厳しい経済状況の患者に、今回の見直しはより厳しい負担を与えることになることを強調した。
医療記者の岩永直子が吟味・取材した情報を深掘りしてお届けします。サポートメンバーのご支援のおかげで多くの記事を無料で公開できています。品質や頻度を保つため、サポートいただける方はぜひ下記ボタンから月額のサポートメンバーをご検討ください。
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