患者の納得を得ていない政府の高額療養費制度見直し案に、がん治療中の轟浩美さん「人生最大のピンチで安心できない負担を強いられている」 参院予算委で修正訴え
医療費が高額になった患者の自己負担額を抑える高額療養費制度。
政府の再見直し案が盛り込まれた2026年度予算案が衆議院を通過し、議論の舞台は参議院に移っている。
3月25日に開かれた参議院予算委員会では、全国がん患者団体連合会事務局長で自身もステージ4の胆嚢がんを治療中の轟浩美さんが参考人として招かれた。
公明党の原田大二郎議員の質問に答えた轟さんは、政府の具体的な金額案は患者団体の意見も聞かず、議論もなされないままに予算案に盛り込まれ、衆議院を通過したことを指摘し、「驚きと悲しさを感じているのが正直なところ」と政府の姿勢に疑問を投げかけた。

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「患者が納得している」と誤認させる政府答弁をもって、衆院では予算案が通過「驚きと悲しさを感じている」
原田議員はまず、患者団体の人たちからの訴えで、当初の高額療養費制度自己負担上限額の見直しが凍結となり、再検討がなされた経緯について触れ、「こうした経緯を鑑みた時、今回の見直しは患者さんの声を十分に反映させなければならないことは明白」と主張した。
その上で、昨年12月、患者の自己負担上限の引き上げ幅を当初案の半分にした政府案に対して、「更なる抑制を」と求める共同声明を全国がん患者団体連合会(全がん連)と日本難病・疾病団体協議会(JPA)が出したことや、今回の上限引き上げについての見解を轟さんに尋ねた。
轟さんは、「高額療養費制度だけではなく、他の改革項目も含め、医療保険制度改革全体の中で全体感を持って議論していくことが必要」と言われてきたにもかかわらず、厚労・財務大臣の大臣折衝によって、高額療養費引き上げに関する具体的な数字が出された経緯を説明。
「丁寧な議論がないまま、依然として、特に令和9年度の引き上げ額はまさに現役世代を直撃すると懸念した」と受け止めた両団体が共同声明を出したことを述べ、この声明では以下の3点について意見を伝えたと語った。
多数回該当(※)の据え置きと年間上限の新設により、長期にわたり継続して治療を受ける患者の年間での負担軽減を着実に実行する一方で、月毎の限度額については十分に抑制されていないため、仮に月毎の限度額を引き上げる場合でも、治療断念や生活破綻につながることがないように、更なる抑制を検討すること。(※直近12ヶ月で3回以上高額療養費の対象になった場合、4回目以降はさらに自己負担限度額が引き下げられる特例制度。)
特に70歳未満の月毎の限度額について、いわゆる現役世代が既に高い社会保険料を負担しているにもかかわらず、応能負担に基づいて引き上げ金額が大きくなっているため、特段の配慮を行うこと。
高額療養費制度は、我が国の公的保険医療制度の根幹をなし、大きなリスクに備える重要なセーフティーネットであることから、医療費節減に資する他の代替手段について、優先かつ十分な検討を引き続き行うこと。
轟さんは、患者団体も参画した第9回の「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」で具体的な金額は示されたものの、金額については協議されていないことを指摘し、事務局の厚労省も「今回の審議の中では引き続き検討となった事項もございます。宿題もいただいていると思っております。厚生労働省といたしましては、必要に応じてまたこの部会で御審議いただくべく、準備を進めてまいりたいと考えております」と発言したことが議事録で確認できると示した上で、こう述べた。
「しかしながら、年明け、急遽解散総選挙となり、引き続きの検討が行われていないまま、専門委員会に患者団体が参画し、引き上げ案についても納得をしていると誤認される可能性がある政府のご答弁をもって、衆議院でスピード感をもって予算案が通過しました。このことに驚きと悲しさを感じているのが正直なところでございます」
「患者団体との協議を免罪符として利用」「極めて強引で不誠実な態度」
原田議員は轟さんのこの発言を受け、強い口調で政府を批判した。
「驚くべきことであります。(専門委員会の)協議の最終日に最も重要な月額上限引き上げ額を提示し、その数値に関する患者団体の意見や共同声明を反映させずに見直しを強行する。これでは、せっかく積み上げてきた9回の協議も画竜点睛を欠き、患者団体の皆様が専門委員会で協議したことが、むしろ免罪符に利用されているようにも見えます。政府として極めて強引で不誠実な態度と言わざるを得ません。とんでもないことです」

原田大二郎議員
上野厚労相「合意をいただいたものと認識」「金額を含めた具体的な見直し案を示し、ご議論いただいた」
その上で、原田議員は、上野賢一郎・厚生労働相に質した。
「この見直しは患者団体の納得が得られていると言えますか? 大臣の御所見を伺いたいと思います」
上野厚労相は、専門委員会で患者団体や保険者、医療関係者などからヒアリングをし、その議論を踏まえた上で、「近年の1人当たりの医療費の伸びを念頭に負担限度額の見直しを行うこと、所得区分について、応能負担の考え方を踏まえつつ細分化すること、長期療養者や低所得者の経済的負担に配慮する必要があることといった基本的な考え方について整理をしたうえで、合意をいただいたものと認識をしております」との見解を述べた。

上野賢一郎厚労相
そして、「こうした考え方を踏まえ、専門委員会におきましては、金額を含めた具体的な見直し案をお示しをし、ご議論をいただいたものと承知をしております」と発言。具体的な金額案については、第9回「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」 で初めて示され、金額については協議されていなかったにもかかわらす、厚労相としては十分な議論をしたと認識していることを明らかにした。
国立がん研究センターの調査「69%の患者が経済負担に苦しんでいる」
また、原田議員は、政府が医療費の負担によって治療を断念した症例は少なく、治療の経済負担が生活に影響した人は24%と示していることに触れ、「この調査には重要な問題があります」と指摘。
「この調査の対象者は、診断から2〜3年経過した時点で診療を継続されている患者さんのみが対象であり、調査までに亡くなられたり治療を断念したりした人が最初から調査から除外されていると考えられます。調査対象の66パーセントがステージ1、2期の比較的早期の患者さんであり、継続した抗がん剤治療の必要性が最も高いステージ4の患者さんはわずか14パーセントしか含まれていません」
そして、自身が四国がんセンターで呼吸器内科医、がん薬物療法専門医として進行期の肺がん患者の診療を担当した経験を踏まえ、「私の担当したステージ4のほぼ全ての患者さんが、まさにこの現行の高額療養費制度を利用して最善の治療を受けてこられました。まさにこの制度に守られて治療ができたわけであります」と述べた。
その上で、国立がん研究センター中央病院が3月に発表した、がん患者の社会的背景と経済負担との関係を評価した論文を紹介した。
日本の二つのがんセンターで二ヶ月以上抗がん剤治療を受けている患者203人を対象としたこの研究では、「69%の患者が経済的に苦しんでいる」との結果が出ていることを示し、6割の患者が何らかの経済的な対応を行っていることを指摘。
48%が貯蓄を取り崩し、26%が食費、被服費を切り詰めているという結果を提示した。そして、月4万円以上で35%の患者が、月6万円以上で半分以上の患者が、負担が困難であると感じていることも紹介した。
原田議員は「今回の月額上限の引き上げが、どれほど多くの患者さんの経済状態を悪化させるかわかる」とした上で、特に子育て世代、診断後に収入が減少した世帯、また借金や奨学金の借り入れがある世帯で、特にその影響が強いことも指摘し、上野厚労相にこう質した。
「この引き上げは、現役世代の患者さんの生活を直撃し、破壊することになります。がん患者などの経済的負担についての政府の評価は恣意的です。今示した研究の内容は検討されましたか?制度の見直しによる治療や生活への影響について、もう一度丁寧に調査分析した上で制度設計をやり直すべきであると思いますが、ご見解を伺います」
上野厚労相は批判された資料のみを材料に議論しているわけではないとし、「延べ20を超える様々な疾病、あるいは所得の患者の方々の医療費とか、家計調査を基にした家計の収支状況を示している」と反論。
「様々な角度から丁寧なご議論をいただいてきたと考えている」とした上で、「今回の見直しでは、制度全体の持続可能性の確保の観点から、低所得の方の負担に配慮しつつ、主に療養期間が短期の方に追加のご負担をお願いする」との基本方針を改めて示した。
その上で、「ステージ4の皆さんが抗がん剤治療で多額の費用を継続して支出されている、そうしたことを十分踏まえて、多数回該当の金額を維持し、年間上限も導入させていただいた。また、年収200万円未満の方の多数回該当の金額を約1万円引き下げるなど、長期療養者や低所得者へのセーフティネット機能の強化もさせていただいている」と強調した。
そして、「今回の見直しによる患者の皆様への影響につきましてはよく注視をしていきたいと思いますし、制度の趣旨については、これからもしっかり丁寧に説明をしてまいりたい」と答弁し、これ以上の見直しは現時点では考えていない姿勢を露わにした。
ステージ4のがん患者として、自身の医療費支払いも「まさに破滅的医療支出」
原田議員は、患者の現状に十分配慮していると説明した上野厚労相の答弁について、轟さんに「今回の制度設計に関しまして、患者団体の声は十分留意されていると考えられるでしょうか」と質問した。
轟さんは「私は、昨年の秋に胆嚢がんステージ4であることがわかりました。胆嚢がんステージ4のがん患者です」と改めて、自身が進行がんで治療中の患者であることを紹介した上で、自身の医療費支出の苦しさについて語った。
「命の限りに向き合う状況にございます。家計に大きな負担を及ぼす治療費を払っても、私の病は治りません。告知を受けた後、命の限りに向き合う大きな衝撃を受ける中、支払請求書の額にさらなる衝撃を受けました。検討に用いられている年収は、手取り額とは違います。実際には、月の手取りの中で医療費支出は、WHOが定義している、まさに破滅的医療支出です」
「毎月この支払いをして治療を受けるより、家族に少しでも残すべきなのではないか。心身に衝撃を受ける中、経済的な痛みも伴い、私はしばらく抑うつ状態となりました」
そして、現在がん闘病を続けている現役世代は、同じように苦しい状況に陥っていることを訴えた。
「今回の引き上げ案で、特に令和9年度、共働きでお子さんの教育費がかかる世代が当てはまるであろう年収区分で大幅な引き上げ案が示されています。私のように命の限りを意識する厳しい状態となった場合、現役世代こそ、家計への負担、家族のことを考えるでしょう。事実、離婚して世帯を分けることを真剣に考えているという声も届いています」
「税や社会保障料を支払っている世代が人生最大のピンチに見舞われたとき、安心できない負担を強いられている」
さらに、轟さんは、70歳以上が複数の医療機関での自己負担額を高額療養費の申請時に合算できるのに対し、70歳未満は各医療機関で月2万1000円を超えなければ合算できない規定の問題にも触れた。
「私自身、現在、抗がん剤治療の影響による難聴、皮膚障害で複数の医療機関を受診しています。しかし各医療機関の医療費が2万1000円を超えないため合算できず、限度額のほかに支払いをしています。つまり、高齢者、低所得者層の負担を軽減すべく、懸命に働いて、税や社会保障料を支払っている世代が、いざ人生最大のピンチに見舞われたとき、安心できない負担を強いられているのです」

自身も高額な医療費の負担による苦しみを現在進行形で感じていることを訴えた轟浩美さん
そして、自身も高額な薬による治療の恩恵を現在進行形で受けていることにも触れた。
「私は、日本がノーベル賞を受賞した免疫チェックポイント阻害剤の効果があり、昨年の秋には桜は見られないかもしれないという状況であったところから、本日、参考人としてここに立つことができています。私の姿が医療の進歩を示しています。治らなくても、これも治療によって得た私の生きる時間です」
そして、こうした治療で命を繋ぐ人が、医療費の問題で治療をあきらめることのない社会の実現を訴えた。
「お子さんから親と過ごす時間を奪うことがないように、若い方が人生を諦めることがないように、高度な医療が必要となった想定外の人生の究極の場面で、経済的な理由で治療を諦めることがない社会を願い、当事者の現状を伝えることが私がここに立っている理由であると思っております」
運用面でも残された課題
さらに、轟さんは高額療養費制度の運用面での課題についても訴えた。
1点目は、今回の見直しで新設される「年間上限」の取り扱いだ。
「年間上限は、当面の間は償還払い、かつ患者申告制となる見込みと伺っております。
システム改修が間に合わないためと聞いておりますが、償還払いかつ患者申告制では患者の負担が大きくなりますので、これも早期に運用を見直していただきたいと考えます」
「年度額上限が償還払い、かつ患者申告制であることは、いったん医療費を負担することを示しており、治療を受ける中での患者申告制には、かつ申告の有無での対応の差に差が生じるのではないかと懸念を抱きます」
2点目は、退職や転職、転居などで加入する保険者が変わることで、多数回該当のカウントがリセットされる問題だ。
「治療を受ける中、病状や治療の影響で、以前と同じように働くことができず、転職、退職を余儀なくされることも少なくありません。カウントが引き継がれる仕組みの検討を早急に進めていただきたいと考えます」
そして、「私どもは、さらなる抑制の可能性を見据えた丁寧な審議が行われることを切に望んでおります」と訴えた。
受診控え含みの見直しは、患者や家族の生命、生活、生存を軽んじている
原田議員は、今回の見直しによる医療費抑制効果の2450億円のうち1070億円が、負担増に伴って患者が受診を控える「受診抑制」によるものと機械的に算出をされていると指摘。
「受診抑制を促すとはどういうことでしょうか?」と問いかけ、「現下の物価が高騰の折、ただでさえ生活が厳しくなることが十分に予測される中で、この8月から患者の窓口負担を増やすという暴挙は、政府が患者さんの、またそのご家族の生命、生活、生存を軽んじているといるとしか思えません。軽症患者の受診控えとがんや難病の重症患者の治療中断を同列に語るべきではありません」と糾弾した。
そして、「高額療養費の対象となるのは、治療をやめれば直ちに命に関わる患者たちです。命を削って目先の1070億円を浮かせるような非人道的試算に基づく改定は許されません。治療を諦めさせる制度改正などとんでもありません。これが高市政権が目指す強く豊かな国の姿でありましょうか」として、厚労相の見解を質した。
上野厚労相は、今回の見直しは長期療養者や低所得の人に配慮したものとし、新たに年間上限や年収200万円未満の人の負担を軽減しており、多数回該当の据え置きもしていると強調。
「必要な受診が抑制されるということは想定はしておりません」とした上で、「負担割合が大きく変わる場合においては、そうした効果(受診抑制効果)が実際見られる場合もありますが、高額療養費制度の見直しにおいては、受診への影響はほぼなかったというのがこれまでの実態」との見解を示した。
また、轟さんが指摘した運用上の課題については、「様々な実務上の課題もあろうかと認識しております。そうした問題につきましては、早期に解決ができるように取り組んでいきたいと考えています」と答えた。
実際に治療をあきらめ、受診を迷っている声は届いている
原田議員は、轟さんに「今、政府は、この高額療費の引き上げによって受診抑制は起きないだろうと言われているが、実際はいかがでしょうか?」と質問。
轟さんは「私はステージ4のがん患者です。命の限りに向き合ってるからこそ、私は長期療養者にはなれないという風にも思っております」とした上で、
「同じように厳しい状況にあるからこそ、その治療を受けたら長く生きられるという方たちももちろんいらっしゃいますが、そうではない方々がその子供たちのために治療を諦めて教育費などを残した方がいいのではないかと思っているというのが現状です。私どもに届いている声です」と、治療費の負担の重さに治療を諦める声も届いていることを明かした。
また、「私も、厳しい状況にあるからこそ、この治療を受けて、毎月高額な医療費を払って、そのことが私の受ける治療の意味なのかということを悩んで抑うつ状態になりました」とし、
「ですから、受診を迷っているという方は皆無ではありません。実際に声が届いております。そのことを重く受け止めていただきたいと思っております」と、治療費の負担の重さに受診を迷っている人がいることを強調した。
「立て替え不要のシステム構築のため延期を」 大臣は無視
原田議員は最後に、新たに設けられる年間上限については償還払いとされていることを改めて指摘し、いったん窓口で全額を立て替えることになると、手元に現金がない人や借金ができない人は治療を諦めるしかないと訴え、「立て替え不要の現金給付のシステム構築が絶対条件」と主張した。
「システム構築をしてから出し直してはいかがでしょうか?」と問いかけ、「国民が物価高騰に苦しむ現状も踏まえ、システム改修と制度設計の基本的見直しが完了するまでの少なくとも1〜2年間、今回の月額上限額の引き上げをしっかり延期し、修正を行うとの判断をぜひお願いしたい」と上野厚労相に答弁を求めた。
しかし、上野厚労相は、年間上限の創設について、「今回の見直しの中でも、長期療養者の方に対して非常に重要なセーフティネットとして機能する仕組みだと思いますので、システム上の課題はありますが、一刻も早くこの制度を導入させていただくことが必要」と答弁。
「システムの改修等については全力で取り組ませていただきたい」としたが、延期や修正の可能性については触れなかった。
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