「議論が不十分」「決定が拙速」 患者団体が呼びかけて高額療養費制度と社会保障を考える超党派議員連盟の設立へ
様々な患者団体から強い反対の声が上がっている高額療養費制度の自己負担額引き上げ。
政府は「今年8月の引き上げは予定通り行う一方、来年8月以降の制度のあり方については患者団体などの意見も聞いたうえで改めて検討し、今年の秋までに決定する」とした修正案を示している。
これについて、患者団体の望み通り全面凍結するとしても、政府の修正案がそのまま通るとしても、患者団体も参画した議論が必要として、全国がん患者団体連合会と日本難病・疾病団体協議会が呼びかけ、3月3日、超党派議員連盟「高額療養費制度と社会保障を考える会(仮称)」の発足に向けた発起会が開かれた。
与党の議員も複数参加を表明しているというが、この日は野党の議員のみが参加した。
全がん連の天野慎介理事長は「今回の高額療養費の引き上げに関しては、残念ながら短期間で政府の審議会で審議され、不十分なまま議論が行われてしまったという反省もある。今後の高額療養費制度と社会保障の在り方についての議論は、患者団体も参画する超党派の議論が必要と考えた」と超党派の議連設立を呼びかけた理由を述べた。
今後、正式な手続きを経て、議連を発足させる。

発起会で最初に挨拶する天野慎介・全がん連理事長と参加した超党派の議員たち(撮影・岩永直子)
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「決定プロセスが杜撰」 政府独断の見直しにならないよう対抗する議論の場を
この発起会は、政府が示した修正案がこのまま通ることを懸念した患者団体が、急遽、与野党の議員らに呼びかけて実現した。全面凍結に漕ぎ着けられないとしても、今後行われると表明されている見直しの議論が、政府の意図しか反映されない不透明なプロセスの下で行われないよう、議論のカウンターパートを設けておく狙いがある。
議員の中で中心になって参加を呼びかけた立憲民主党の中島克仁衆院議員は「決定プロセスも杜撰だし、制度を使われる方々の生活、家計実態調査や、今回の見直しによる受療行動の変化など一番大事な部分が調査、分析もされていない。加えて社会保障審議会の議論の中でも患者団体や当事者の皆さんのヒアリングもしていない」と、政府案を批判。
「高額療養費制度は医療、社会保障全体の中での医療の最後の砦。他にも改革すべきものがある中で、最後のセーフティネットをどう守っていくかが本質的な問題。この問題意識は党を超えて、会派を超えて、医療の最後の砦、セーフティネットをいかに守っていくか、がんや難病で苦しんで政府のコロコロ変わる方針に不安のどん底にある患者さん、国民の皆様に安心を見出していただくための議連であると、呼びかけられて真っ先に賛同した」
とこの議連を作る意義を述べた。
日本維新の会の池下卓衆院議員は、「今回の政府の決定の仕方は非常に拙速。政府が欠落している視点は二つある。一つは患者目線。もう一つは社会保険料を負担する現役世代の目線。これが捉えきれているのかという二つがある」と指摘。
「来年、再来年も含めて段階的に変えていくのが政府の案ですが、そこに楔を打ち込んでいくことが大事なことかと思う。一つの党だけでなく、超党派でやっていくことが非常に重みがあると思いますし、政府に対して大きな圧力をかけていくことになっていく。患者目線を忘れずにやっていきたい」と述べた。
その他、国民民主党、日本共産党などの議員も挨拶した。
医療・社会保障制度全体も視野に 患者団体も議論に参加
中島議員は「今回のきっかけが高額療養費制度患者負担額上限引き上げには問題があるだろうと集まっているわけですが、その先には高額療養費制度を守っていくためには医療全体の今後の在り方も同時に議論していかなければならない」として、医療・社会保障全体を視野に議論していく方針を述べた。
また、中島議員も議連では患者団体も参加しての議論を行うことを考えていると述べた。
プロセスの透明性の確保を
政府は、今年8月の患者負担の上限の引き上げは実施したうえで、来年・再来年に予定していた引き上げはいったん凍結し、患者団体を含む関係者の意見を聞いたうえで、秋までに改めて方針を検討する修正案を出している。
患者団体や学術団体からの強い批判を受けて政府から示された修正案について、天野理事長は「今回の修正によって、多数回該当(※)の適用の基準が新たに設けられました。それによって救われる方が増えることは間違いない。その点は率直に評価して感謝したいと思います」と発言。
※直近12ヶ月で3回以上高額療養費の対象になった場合、4回目以降はさらに自己負担限度額が引き下げられ、多数該当の限度額が適用される特例制度。
その上で「一方で、いまだに問題は残っていると考えていて、まさにこの議連にもかかわることですが、仮に政府案がこのまま通った場合、2回目、3回目の議論が行われるということですが、これがどのような場で、どのような形で行われるか明らかでない。そうなってくると、今回の政府案とあまり変わらないようなものが出てくるかもしれないことについては危惧を持っている」と、政府の思惑のみが反映された再検討がなされる可能性を指摘した。
そして「そういった(見直しの議論の)プロセス等について、まさにこの議連を通じて担保していただく。各議員が関わる形で検討をしていただくことが大きな課題だと感じているところです」と、議論の透明性の確保を求めた。
日本難病・疾病団体協議会の辻邦夫理事は、「いったん立ち止まっていただきたいという主張は変わらずでして、修正案については非常に評価できるとは思うが、8月からの引き上げは立ち止まっていくことになるのかどうか。その部分は問いたいと思っています」とあくまでも全面凍結を求めた。
中島議員は、「今後議連が正式に立ち上がったら、今回すっ飛ばしたさまざまなプロセス、さまざまな調査分析もすっ飛ばしたり、ヒアリングもすっ飛ばしたり、こういう状況を二度と起こさないように我々は超党派議連として、政府の検討の場も何もわかっていないし、何も変わっていない状況ですから、議論としてチェックするなり、時にはそれはだめだと要請したい。それを念頭に置いている」と、議連として今後の見直しが適切に行われるよう監視していく方針を示した。
今回出席した野党の議員は今回の政府案は全面凍結を求める方針で一致した。しかし、参加を表明している与党の議員の意見について、天野理事長は「高額療養費について中長期的な議論が必要だということはどの議員も100%アグリーだとおっしゃってました。ただ、『予算の成立が済むまではなかなか参加は難しい』とおっしゃった議員もいらっしゃることは事実で、与党の先生がどういう考えでいるかは分かりません」 として、政府案については与野党で温度差があることを示した。
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