患者の声が国を動かしてドラッグ・ラグを解消 卵巣がん体験者の会「スマイリー」活動20年記念イベント開催

海外では使える薬が日本では承認が遅れて使えない「ドラッグ・ラグ」を解消するために画期的な活動をしてきた卵巣がん体験者の会スマイリーが、活動20年を迎えました。記念イベントを詳報します。
岩永直子 2026.09.15
誰でも

卵巣がん体験者の会「スマイリー」が活動20年を記念して9月13日、体験者と専門家によるイベント「MUSIC TOGETHER 音楽とともに語ろう がんについて」を都内で開催した。

海外では使える抗がん剤の承認が遅れている日本で使えない「ドラッグ・ラグ」問題をどうにかしたいと立ち上がったスマイリー。

冒頭には抗がん剤を使いたいのに使えずに悔しい思いを訴えながら亡くなった仲間たちの映像も流れ、医師と患者が会場一体となって歌う場面も。涙あり、笑顔ありの温かい時間が流れた。

代表の片木美穂さんは「仲間のお一人お一人が家族。これからも一緒にずっと頑張っていこう」と会場の仲間に語りかけた。

設立当初から協力してきた腫瘍内科医、勝俣範之さん(右)の歌に合わせてコーラスを歌うスマイリー代表の片木美穂さん(左)とさくらさん(真ん中)

設立当初から協力してきた腫瘍内科医、勝俣範之さん(右)の歌に合わせてコーラスを歌うスマイリー代表の片木美穂さん(左)とさくらさん(真ん中)

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冒頭に抗がん剤が欲しくても使えなかった仲間たちの映像を

冒頭、欧米では使えていた抗がん剤、ドキシルやゲムシタビンが使えずに、メディアを通じて悔しい思いを訴える仲間の映像が次々に流された。中には36歳で結婚したばかりの夫を遺して亡くなった仲間や、大学生の時に卵巣がんになり、再発した仲間もいた。その映像を涙ぐみながら見つめる来場者もいた。

「一体何が先進国の医療なのか?」

「使える薬がなくなったら、あとは死を待つだけになってしまう」

「なんで?っていう気持ちが大きいですよね。可能性って多い方がいいと思うので。欲しいです。使いたいです」

スマイリーは2006年9月の発足直後から早期承認を求める署名活動を始めたが、患者や遺族自身が街に出て、道ゆく人に署名をお願いする場面も映された。

集まった署名は15万4552筆、段ボール9箱分になり、2009年1月、厚生労働省に提出された。その年の4月にドキシルがまず承認され、2011年〜12年にはゲムシタビン、ノギテカン、エトポシドも相次いで承認された。

このスマイリーの歩みをまとめた映像の上映が終わると、代表の片木美穂さんがステージに上がり、会場にこう語りかけた。

会場に語りかける代表の片木美穂さん

会場に語りかける代表の片木美穂さん

「患者会はやっぱり、『皆さんと繋がりたい』『分かち合いたい』『お話したい』というところから始まるのかもしれませんが、私たちは『抗がん剤が欲しい』『治療薬が欲しいんだ』というところからスタートしました。そして、やっぱり薬が欲しいという気持ちは、当事者である患者さんが伝えてくれないと、世の中に伝わらないんですよね。多くの患者さんたちが今見ていただいたように、勇気を出してテレビに出てくださった。それがつながって、つながって、20年走ってきたのかなと思えています」

「国を動かす力が一番強いのは患者さん」

それに続く第一部で、スマイリー発足時から専門家として支えてきた埼玉医科大学国際医療センター客員教授の婦人科医、藤原恵一さんと片木さんが対談した。

藤原恵一さん(左)と片木美穂さん(右)

藤原恵一さん(左)と片木美穂さん(右)

片木さん自身も2004年、卵巣がんとなり手術や抗がん剤治療を受けた経験がある。しかし、ドラッグ・ラグと戦うと言っても、発足当時、抗がん剤がどうやって承認されるかなどの基礎知識さえなかった。

「その時に藤原先生が、治験ってどういうものなのか、薬ってどうやってできるのかを私に全部教えてくれたんです。そのおかげで厚生労働省と戦い抜くことができました」

藤原さんはこう語った。

「この活動を通じて僕が一番勉強したのは、実は医者って国を動かすことはできないということ。患者さんを治すことはできるのですが、国のシステムを動かすことはまず役人の力が強過ぎて無理だと学んだ。国を動かす力が一番強いのは患者さんたちなんです。それを一番学ばせてもらいました」

藤原さんは、当時スマイリーがドラッグ・ラグの解消を訴えていた分子標的薬アバスチン(一般名・ベバシズマブ)の医師主導治験や、カルボプラチンの腹腔内投与の臨床試験を行った思い出を語った後、「今後、もっと患者さんが生きられる時間は長くなるのでしょうか?」という片木さんの質問に、こう答えた。

「おそらくそうなると思います。階段を少しずつ上がっていくと、とんでもないブレイクスルーが起こったりすることもあるし、1年1ミリずつしか上がらないプロセスもあるかもしれない。そういったことの繰り返しなので、進んでくるとわかることが増えてきて、物事が良くなるということは信じていいと思います」

藤原さんはオンラインでセカンドオピニオンも受け付けており、スマイリーのウェブサイトにその案内のリンクも貼ってあることが紹介された。

ファゴットを吹く藤原さん(左)とギターを伴奏する勝俣範之さん

ファゴットを吹く藤原さん(左)とギターを伴奏する勝俣範之さん

藤原さんはその後、ファゴットを腫瘍内科医、勝俣範之さんのギターの伴奏で演奏。アントニオ・カルロス・ジョビンの「ファゴットのノスタルジー」に続き、この曲に主旋律が似ているアニメ「うる星やつら」の主題歌「ラムのラブソング」、ビートルズの「ヘイジュード」を披露し、来場者も一緒に歌った。

抗がん剤や支持療法の進歩ががん患者に与える希望

第二部では、卵巣がんと肺がん経験者のYouTuber、さくらさんが司会を務め、悪性リンパ腫経験者のフリーアナウンサー、笠井信輔さん、腫瘍内科医の勝俣範之さんと対談した。

左からさくらさん、笠井アナ、勝俣さん

左からさくらさん、笠井アナ、勝俣さん

笠井さんは排尿障害をきっかけに検査を受け、ステージ4の悪性リンパ腫と診断されるまで4カ月かかった経験を語った。ステージ4と聞いた時は末期という印象を抱き「もうだめかなと思った」と告白。しかし、抗がん剤治療を受けて寛解に至り、その印象は大きく変わったという。

「薬の進化と医学の進歩を強烈に感じました。我々、血液がんの患者は基本的に抗がん剤治療で治すしかない。やはり薬がどれだけ進歩していくかはとても重要で、スマイリーの活動のVTRを見て本当に驚きましたね。スマイリーの活動が非常に重要であるのは、血液がん患者で抗がん剤に頼っている身としてはほんとによくわかる」と称えた。

がんで夫を二人亡くした遺族でもあるさくらさんは、最初の夫が抗がん剤の副作用でとても苦しんだ姿を見て、自身のがんが判明した当初は、抗がん剤を拒否した経験もあるという。

「最初、『あんな治療するんだったら、私、抗がん剤したくないです、吐きたくないんで』と、恥ずかしいことを言ってました。制吐剤が進歩していることを知らないまま先生に言ってしまっていた」

それに対し、勝俣さんは「恥ずかしくはないと思います」と言い、こう伝えた。

「やはり皆さん(抗がん剤治療がどう変化したかを)知らないです。抗がん剤のイメージは、寝込んじゃうんじゃないか、寝たきりになっちゃうんじゃないか、酷いことになると思って、未だに抗がん剤は嫌ですという方はたくさんいます。でも、今は吐く人を見つける方が難しいです」

笠井さんも「そこは時代が大きく変わった。支持療法という支える医療に軸足が来ていて、昔と比べて副作用止めの発展ががんを乗り越えやすくしている」と続けた。

「がんになって良かったとは思わないけど、悪いことばかりでもない」

笠井さんはまた、闘病中に怖かったことを問われ、食事が食べられずに痩せていくことをあげた。薄味の病院食が食べられない中、好きなカップ焼きそばを食べては「栄養バランスのいい病院食を食べて」と家族に怒られた経験を話すと、勝俣さんはこうアドバイスした。

「がん治療中に、食べてはダメというものはあまりないです。よく『白米はがんの餌になる』とか、『四つ足動物を食べてはいけない』などと言われていますが、エビデンス(科学的根拠)としてはそういうことはない。お好きなものを食べてもらってもいいですし、とにかく抗がん剤中は味覚が変わります。病院食の味が薄いものはほとんど食べなくなって、味が濃いものを欲しがるので、それはそれでいいと思います」

笑顔で語り合う3人

笑顔で語り合う3人

闘病中にブログなどで積極的に発信を続けていた笠井さん。それでも抗がん剤で髪が抜けた映像だけは未だにあまり出せていないといい、そんな姿も出しているさくらさんを称賛。がん治療中の生活の質を上げていくためにアピアランスケア(見た目のケア)も重要だとした上で、それは男性患者にとっても必要だと強調した。

「僕が芸能人やってるから気にしているのではなくて、今は若い男がみんな化粧してるじゃないですか。そんな子たちが眉毛が抜けたら、もうそれはショックもショックです。そういう風に見た目を整えることはわがままでも恥ずかしくもなんでもなくて、むしろそうやって世の中に出ていって、人とつながっていく方が大事だと思います」

勝俣さんは、怪しいがん情報が溢れている世の中で、患者はどのように情報と向き合えばいいかを問われ、AI(人工知能)をうまく活用することを提案した。ただし、AIは利用者に寄り添い過ぎるため怪しい医療にかかりたい気持ちにも寄り添ってしまうリスクや、間違った情報を提示するリスクもあるとも指摘した。

おすすめの使い方としては、何か心配事があった場合、「主治医にどういう質問をしたらいいですか?」とAIに聞いて、主治医への質問案を提示してもらう方法が提案された。

そして、最後に治療中の患者や家族へのメッセージを問われると、勝俣さんは治療だけでなく、このイベントのように音楽を楽しむことなどが心を癒す効果は大きいとして「自分を大事にする、楽しむということもすごく大事だと思っています」と語りかけた。

笠井さんは自身が取材した東日本大震災で、家族や家など多くのものを失ったように見える被災者が新しい人との出会いに喜びを見出していた姿や、自身ががんになったときに被災者が見舞いに来てくれて励ましの寄せ書きを送ってもらった経験を伝えた。

「ここにこうやって集まった人も、がんにならなかったらこの縁はない。がんになったからこそここに来られて、先生にも私たちにも会うことができた。そこを考えたら、がんになって良かったとは思わないけど、がんになって悪いことばかりじゃないし、がんになって得るものはある。そこにどれだけ自分が気持ちを持っていけるかということが大事なのではないかと私は思っております」

さくらさんも、会場にいる仲間にイベントやおしゃべり会で何度も再会している喜びを語り、こう語りかけた。

「がんになって出会えた人たちは、普通に出会う方々とまた違って、いいご縁だったりすることが本当に多いので、私にとってすごくプラスと捉えています。これからも仲良くしていただけたら嬉しいです」

「仲間の一人ひとりが家族」

その後、勝俣さんは再びギターを持ってステージに立った。子宮体がんと大腸がんを患い、抗がん剤治療を受けて今も元気でいる患者、大井公子さんが作詞し、自身が作曲した歌を片木さんとさくらさんのコーラスで4曲披露した。

すべての窓を 開け放ち

よどんだ空気追い払い

心の窓もあけてみる

こわがらないで 勇気を出して

最初の一歩を 踏み出そう

この一歩から すべてが始まる

この一歩から すべてが始まる

(「最初の一歩」より 作詞・大井公子、作曲・勝俣範之)

勝俣さんらの演奏に合わせて会場も歌った

勝俣さんらの演奏に合わせて会場も歌った

サビの部分は来場者も一緒に歌い、会場は温かい一体感に包まれた。

片木さんは「生きている限り(活動を)やります」と宣言。

勝俣さんは「まだドラッグラグは終わっていないですし、まだこれからも新しい薬がどんどん増えますし、これからも終わらない仕事かなと思います。これからも応援していきたいと思いますし、スマイリーも応援しますし、患者さん、皆さんも応援したい」と応じた。

それを聞いた片木さんは「こんなに大変な活動があるのかとやり始めた時は毎日思ってたんですが、気が付くと一人ひとりが愛おしくなってくる。本当に皆さんお一人お一人が、もう私にとっては他人じゃない。皆さんが逆に私の健康を気遣ってくれたりして、ほんとに家族だなと思っています。これからも命が続く限り、まだ生きてるのかと言われる限りやり続けますので、皆さんも一緒に。置いていったら嫌だよ、みんな。とにかく、私と一緒にずっと頑張っていこう」と仲間たちに呼びかけた。

「いつでも皆さんのそばにいる。ためらわずに相談して」

最後の歌が終わると、片木さんは挨拶をした。

最後の挨拶をする片木美穂さん

最後の挨拶をする片木美穂さん

2006年9月1日にスマイリーを立ち上げた日、ウェブサイトを作った後、片木さんは大好きなアイドルグループTOKIOのライブに行ったのをよく覚えている。それぐらい、患者会は何をするところなのか、まだよく分かってはいなかった。

「でもやはり薬を求める患者さんの声を聞いていくうちに、だんだん、だんだん気持ちが引き締まっていって。そして私は、薬を手に入れたら患者さんが幸せになると思ってました。でも、抗がん剤が承認されると、次の問題が起きる。『その治療を私はいつ、どういうふうに使うのが1番いいんでしょうか』と悩みが生まれてきて、どんどんどんどん患者さんの相談が増えていく。じゃあ国と戦ってるだけではダメなんだなと相談支援に力を入れるようになって、今に至ります。気がついたら20年歩いてきてしまいました」

そして20年間、一緒に歩んでくれた仲間や専門家たち、この日のイベント運営を支えてくれた仲間たちに感謝の言葉を贈り、最後にこう述べた。

「私1人では20年やれませんでした。皆さんも病気が落ち着いて、何かスマイリーにしたいなと思った時、私に力を貸してくれたら嬉しいなと思うし、私はいつでも皆さんのそばにいるつもりです。これからも何かあった時、ためらわずにスマイリーに相談してもらえたら嬉しいです」

【勝俣範之・日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授のコメント】

スマイリーは他の患者会にはない、特殊なことをやってきた素晴らしい団体だと思います。患者さん自身が未承認の薬を早く承認するように訴えることはすごく大事なことで、海外の患者会では結構やられていることです。こういった活動がもっと日本でも広がっていいのではないかと思っていますが、スマイリーは先駆けとしての活動を行ってきました。

僕ら専門家は薬の有効性や安全性について臨床試験を行ってエビデンスを作ることはできますが、それだけではやはり足りない。特に日本の薬の承認システムが遅いことが、ドラッグ・ラグの要因の一つだったので、その承認のプロセスを早めたのはスマイリーの活動もあっての快挙だし、画期的でした。それまでは1年半から2年ぐらいかかっていたのを、1年ぐらいに縮めたのです。それは我々専門家が言ってもなかなか動かなかった。患者さんたちが切実な声を届けてくれたおかげで国が動いたことがすごく重要だったと思います。

僕らももちろんこの20年間、喜んで協力してきたわけですが、まだドラッグ・ラグは卵巣がんの薬に限らず、たくさん続いています。それも我々は協力して、一緒に解決していきたいと思っています。

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