「費用対効果が低いなら、なおさら公費でうてるようにして」 HPVワクチン男子接種、お医者さんがラップバトルの啓発動画を作成
子宮頸がんや肛門がんを防ぐHPVワクチン。
現在は小学校6年生から高校1年生相当の女性のみ、公費でうてる定期接種となっているが、これを男性にも広げようという動きは足踏み状態のままだ。
G7主要7カ国で男性が公費で接種できないのは日本だけ。
そんな状況下で、医師でラッパーでもある2-Way(ツーウェイ)先生こと、池田龍生さん(26)がラップバトルでHPVワクチンの男性定期接種化について伝えるミュージックビデオを製作した。
性教育のミュージックビデオを作るのは2回目となるが、なぜHPVワクチンの男性接種をテーマにしたのか。そして、先送りを続ける国の姿勢についてどう思うのか。2-Way先生に取材した。

2-Way先生
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正論を押し付けるのではなく、考えてほしくてラップバトルに
——ラップでの啓発動画はコンドームに続いて第二弾ですね。なぜHPVワクチンの男性接種をテーマに?
男の子向けの曲と動画をまた作りたいと考えて、性教育の専門家の高橋幸子先生に相談したんです。HPVワクチンの男性定期接種化が国で議論になっていたので、ちょうどいいタイミングだなと思って作りました。
——今回、HPVワクチンの男性接種を推奨する2WAY先生と、副反応などのデメリットを強調する反対派でラップバトルを繰り広げる形にしていますね。なぜこういう表現にしたのですか?
HPVワクチンは女性が定期接種になった2013年に、副反応を訴える人が多く現れて、賛否両論あったワクチンです。僕ら医療者としては、医学的に安全性は確認したうえでの発信になるのですが、反対する人は今も根強くいます。
新型コロナでもインフルエンザでも、どんなワクチンであっても、やはりわずかであれデメリットが起きる可能性はあります。ワクチンに限らず、ロキソニンやカロナールのような一般的な薬も腎障害を起こしかねなかったりして、どんな薬も副作用は起き得ます。
でもそのわずかなリスクがあったとしても、本人の苦痛を取ったり、HPVワクチンのように将来の重大な病気であるがんを防いだり、その利益がデメリットを上回るからその医療を勧める、というのが医療の基本的な考え方です。
ただ、そのわずかなリスクを被ってしまった方がいるのもわかるし、色々な意見があっていいと思うので、こういう形にしました。
コンドームの動画の時もそうなのですが、決して「コンドームを必ず使え」と押し付けているわけではないんですよ。
コンドームという選択もあるし、コンドームじゃない選択肢もある。海外ではピルが主な避妊方法になっている場合もあるし、性感染症の予防であればパートナーを固定するとか、女性用コンドームなどさまざまな選択肢があります。だからコンドームの曲も「コンドーム使え」という歌詞ではなくて、「コンドーム使わん?」という呼びかけにしました。
今度のHPVワクチンも、反対派の意見もしっかり尊重した上で、正論を押し付けるのではなく、賛成派、反対派の意見を聞いたうえで、考えてもらう仕掛けにしたのです。
親子で話し合い、「接種したいな」と思ってもらうきっかけに
——賛成派、反対派が1対1でお互いの主張を投げかけあって、結論は出さないで終わりますよね。聞いた人が迷う可能性についてはどう考えますか?
何について迷うかによるのですが、接種するかどうかを迷うのであれば、僕らが曲やエンタメを通して正しい知識を示したうえで、曲の下のリンクにワクチンのリーフレットや僕が以前作ったスライドも置いてあります。そこでも正しい情報を取り入れてほしいと思うんですよね。
正しい情報を提示した上で迷うことは、どんな医療でもあり得る話です。HPVワクチンについてはさらにその迷いが多いと思うので、正しい情報を伝えることで、迷いを減らすことができるんじゃないかと思います。
その上で、費用の問題もあるので、実際にうつかどうか迷うのは、逆に言えば正しいあり方なのかなと思います。
——男性については、定期接種になっていないので自費になります。9価ワクチンだと2回で6万円程度、3回接種で10万円近くかかり、お金のハードルがすごく高いですよね。HPVワクチンの対象となる若い男性は、お金をそれほど持っていない人が多いですし、学生さんだったら親に生活費を頼っている状況で、ますます難しいです。
お金に関してはものすごく大きいハードルになっていると思います。だからこそ、うちたい人が公費でうてる定期接種になってほしいと願っています。
——自己負担が大きいので、医療者もメディアも一般の男性に勧めにくい状態に置かれていますが、それについてはどう思いますか?
女性の場合も定期接種でなかったらうつ人はどれだけいるのかなと思いますし、男性も学生の場合は現実的に難しいのかなと思います。
そんな状況がある中で、親子で話せる環境があるならば、この楽曲が親子で話し合うきっかけになるかもしれないし、親が納得してくれれば親が費用を払ってくれる可能性も出てくる。親の扶養に入っている学生もうちやすくなるのかなと思います。
僕が思うに、公衆衛生は、一つのアクションだけで解決するものではありません。自分の発信が、親子で話すきっかけの一つになったり、聞いてくれた高校生が大学生になってお金を稼げるようになった時にうちたいなと思ったり、そんなことにつながればと思います。
そうしたことが将来、定期接種になった時の追い風になるかもしれないと思います。それに備えて、今後も僕らは発信を続けていこうと思います。
HPVワクチン、男性がうつメリットは?
——ここでHPVワクチンに興味を持っている男の子に、HPVワクチンにはどんなメリットがあるのか基本的な情報をお答えいただけますか?
まず、男性にもHPV(ヒトパピローマウイルス)によって起きる病気があります。肛門がん、のどのがんである中咽頭がん、陰茎がん、良性のイボである尖圭コンジローマなどですね。HPVワクチンをうつことによって、その原因になるウイルスへの感染を防ぎ、病気にならないようにすることができます。
もう一つは、男性がたくさんうつことによって、集団免疫といって多くの人が免疫を持つことで感染しにくい状況が生まれます。そうなれば、女性も含めたみんなの病気を防ぐことができます。
HPVは決して珍しいウイルスではありません。性的な接触のある人の多くが、生涯のどこかで感染すると考えられている非常に身近なウイルスです。ほとんどの感染は自然に消失しますが、一部では感染が長期間持続し、将来的にがんや尖圭コンジローマなどにつながることがあります。
アメリカではHPVによる中咽頭がんが増えていて、海外では男性もHPVワクチンで感染を予防すべきだと言われています。日本では、HPVワクチンはまだ若い男性には知られていないかもしれませんが、ウイルスは全然マイナーじゃなくてすぐ身近にいるよ、尖圭コンジローマを発症している人もたくさんいるよと伝えています。
昔は天然痘という病気があったのですが、ワクチンを数多くの人がうつことで、撲滅した歴史があります。HPVワクチンもそれと同じで、男子も女子も早い時期からうっているオーストラリアでは、集団免疫ができて撲滅に近づいています。
だから男性がうつことによって自分も守れるし、女の子側が病気になるリスクも防げるし、最終的には病気を撲滅する可能性も出てくると説明しています。
——男性がうつことによって女性も守れるのは、ヒトパピローマウイルスが性的な接触で感染するウイルスだからですね。
そうです。性交渉はもちろん、コンドームをつけない性的な接触や、オーラルセックスによってもうつります。
——コンドームだけでは防げないとも言われていますし、男性同士のアナルセックス(肛門性交)でもうつりますね。
おっしゃる通りです。コンドームは精液が漏れるのを防ぐもので、精液の中にあるHPVだけでなく、HIVやクラミジアなど性感染症予防には有効なものです。ですが、HPVは、コンドームをつける前の皮膚との接触でも入り込んでくる可能性があります。
——10代が定期接種になっているのは、性的な接触を始める前の年齢でうつのが効果的だからですね。
一度感染したら自分で排除することは難しいですし、初体験が早い人ほどかかりやすいとは言われています。性的な接触を始める前にうつのがいいと言われています。
——先生がラップという形で伝えるのは、そういうラップを聞くような若い子たちに正確な情報を届けるのが狙いなわけですね。
もちろんそうです。僕は今26歳ですが、だんだん大人になってくると性についてオープンに話せるようになってきます。でも10代の頃は恥ずかしさがあったり、照れてしまったりしてなかなか話せません。知ることはダサくない、ぐらいの勢いで、若者に身近な作品を届けられたらなと思うんです。
接種後に訴えられた症状は?
—ワクチンをうった後に訴えられている症状について、ご説明いただけますか?
ワクチンを接種して、けいれんや熱、痛みなどの症状が起きた人がいることも事実だと思います。HPVワクチンが女子に対して定期接種になった後、接種後にそうした症状を訴えた人が数多くいて、幅広い症状の報告を集めて検証したと聞いています。
しかし、接種後に報告される望ましくない反応は「有害事象」と言って、そのワクチンの成分による副反応なのか、たまたま別の要因が引き起こしたものなのかはすぐにはわかりません。検証した結果、副反応の起きる確率は他のワクチンと変わらないという評価も出ています。
もちろんどんなワクチンにも副反応は起き、HPVワクチンも注射をうった部分の赤みや腫れ、痛みが起きることはわかっています。ごく稀に重いアレルギー反応が起きることもあります。
ただ、副反応かどうか不明な症状については、ワクチンをうった時の痛みや、不安が引き起こした反応とも言われています。
ワクチンが原因かどうかはわからない症状も含めて、HPVワクチン接種後に起きる症状の頻度は、皆さんが接種しているインフルエンザのワクチンとあまり変わりません。そう伝えたら、イメージしやすいかなと思います。
——元々、HPVワクチンを接種する思春期は不定愁訴が多い時期です。朝礼の時にバタンと倒れてしまう子がよくいましたが、あの起立性調節障害などの症状をワクチンのせいではないかと疑った人も多く含まれていますね。
そうですね。やはり体の変化が大きい時期ですし、たまたまワクチンをうった後に、そういう症状が起きてしまうと、時系列からワクチンのせいじゃないかと思ってしまいますよね。しかし他のワクチンと比べても、副反応が起きる率はそれほど変わりません。普段インフルエンザなどのワクチンをうっている人は、同等のリスクだと考えてもらえたらいいと思います。
費用対効果が低いなら、なおさら公費でやるべきだ
——厚生労働省は、男性の定期接種化について審議を続けていますが、費用対効果が低く出るような推計を出して、定期接種化の承認を先送りにしています。それについてはどう思いますか?
もっと早く定期接種にしてほしいですね。何よりもうちたい人がうてる社会であってほしいと思いますし、若い男性には費用の問題が相当大きいハードルです。
費用対効果が問題になっていますが、何のために公費でやるのかといえば、費用対効果が低いとしても国民の命を守るためにやるべきだと判断するからだと思います。むしろ費用対効果の低いものこそ公費でカバーしてほしい。
——確かにその通りですね。
これが民間企業であれば、費用がどれぐらいかかるかをシビアに判断しなければいけないかもしれません。でもみんなのお金である公費は違います。費用がかかっても国民の命を守るために必要なことならば、なおさら公費でやっていただきたいと思います。
(続く)
医療記者の岩永直子が吟味・取材した情報を深掘りしてお届けします。サポートメンバーのご支援のおかげで多くの記事を無料で公開できています。品質や頻度を保つため、サポートいただける方はぜひ下記ボタンから月額のサポートメンバーをご検討ください。
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