「ひとたび風しんが流行れば、どれだけの命が無かったことにされるのか」 妊娠中に中絶を迫られた母親がMRワクチンでの予防を伝え続ける理由
国内で麻しん(はしか)が流行する中、感染症の専門家や当事者が登壇して7月9日に開かれた国会内学習会「麻しん(はしか)流行を止めるには 最新情報とその対策」(ワクチンパレード実行委員会主催)。
MRワクチン(麻しん・風しん混合)の2回接種でもう一つ、防ぐことができる感染症は風しんだ。免疫のない妊婦が妊娠初期に感染すると、胎児に感染し、先天性風しん症候群(CRS ※)という病気になる可能性が出てくるのが怖いところだ。
妊娠中に風しんに感染し、三女の花菜子さん(28)が難聴などを抱えることになった風疹をなくそうの会「hand in hand」の大畑茂子さんも自身の経験を語り、ワクチンによる予防を訴えた。
※風疹の免疫のない妊娠20週頃までの女性が風疹に感染すると、ウイルスがお腹の中の赤ちゃんにも感染して、難聴、白内障、先天性心疾患などの障害を持つ病気。2012~2013年の全国的な流行では、14年までに45人のCRSの赤ちゃんが誕生したことが報告されている。

自身の体験を話す大畑茂子さん
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14週で風しんに感染 中絶を勧められたが……
大畑さんは1997年、妊娠14週の時に風しんに感染した。
長女、次女、自身の3人が次々に感染し、娘二人は軽症だったが、自身は身体中に発疹が出て42度の高熱が3日続いた。近所の大学病院に緊急入院した。
間もなく退院という時、主治医から、「このまま中絶してから帰るよね?」と言われた。「あなた風疹だったんですよ。いったん退院したら会計がややこしくなるから、このまま中絶手術をしましょう」。そんな言葉を投げかけられた。
その言葉で、妊娠初期に風しんにかかるとお腹の子の目や耳や心臓に障害が残る可能性があることを初めて知った。でも、お腹に宿る命を簡単に諦めることはできない。いったん退院して夫や母とも何度も話し合った。

三女を妊娠中の大畑さん。妊娠中、不安でいっぱいだった。(大畑さん提供)
そんなある日、台所で家事をしていると、赤ちゃんにお腹を蹴られた。初めての胎動だ。
「この子は精一杯生きようとしているんだ」
ハッとして、産むことを決めた。
元気に生まれたが、右耳に軽度の難聴
切迫早産を乗り越え、1998年1月、2500グラムの三女を出産した。元気な産声を聞いてホッとし、娘の顔を見て産んで良かったと心から思った。
だが、この三女の花菜子さんは、成長するにつれ、右耳に軽度の難聴があり、気管支も未発達だということがわかる。

元気な泣き声をあげた三女(大畑さん提供)
幼い頃は風邪をひくと咳が止まらずしょっちゅう入院した。学校に入ると、先生の声が聞こえるように、前の席に座らせてもらった。親としてずっと不安で、胸に痛みを抱え続けた。
「お腹の中に赤ちゃんがいてる妊婦なのに風しんにかかってしまった。妊娠中に風しんにかかったのに赤ちゃんを産んだという罪悪感、後ろめたさ。そんなことから、私は積極的にそのことを人に話すことはありませんでした。できたら一生、そのことを誰にも言わずに生きていきたいと思っていたほどでした」
2012、13年に再び大流行 45人の先天性風しん症候群の子供が誕生
その花菜子さんが高校生に上がる頃、2012年〜13年に風しんが再び大流行した。
「ニュースや新聞で『妊婦さんは気を付けてください』と耳にするたびに、また私と同じ思いをしてる人がいてるんやなと思って、胸がぎゅっと痛かった」
この流行で、届出があっただけで45人の先天性風しん症候群の子供たちが生まれた。そのうちの一人の親と会う機会があった。
「その子がお腹にいるのに風しんにかかってしまったばっかりに、自分のつけた名前を呼んでもこの子に聞かすことができない、と言って涙を流されていました。私は自分のことばかり考えて、人に風しんのことを伝えてこなかった。これは間違いだったということに気づきました。1人でも多くの方に、風しんがどれだけ恐ろしいものなのかを伝えていかなければいけないと思いました」
妊娠中に風しんにかかって先天性風しん症候群の赤ちゃんを産んだ当事者として、hand. in handに加わり、啓発活動を続けてきた。
知ってほしい「無かったことにされる命」
みんなに知ってほしいのは、妊娠中に風しんにかかると、お腹の中の命を無かったことにするよう迫られる事実があるということだ。
「私はどうしても無かったことにする勇気が出ませんでした。家族からもお医者さんからも『今回は諦めよう』と言われましたが、いくら考えても、自分よりも大事なお腹の中に宿ってる命を、自分が風しんにかかってしまったばっかりに、無かったことにする勇気が持てませんでした。私は産めたのですが、ひとたび風しんが流行ればどれだけの命が無かったことになるのか、少しだけ考えていただきたいんです」
風しんにかからなければ、お母さんがそんな悲しい選択を迫られることはない。そして風しんは、2回のMRワクチン接種で防ぐことができる。
「でも、まだまだこの国には風しんの本当の怖さを知らない人、予防接種の重要性に気づいてない人がたくさんいて、大きな壁があると私は思っています。だから、当事者として声を出すことを諦めず、1人でも多くの人に風しんって怖いんだよと伝えていきたい」
花菜子さんは28歳になった。
「あの時言われるがままに無かったことにしていたら、娘は今、私の目の前にはいません。そう思うと、今でもやっぱり体が震えます。私は、産んだ方がいいとか、産まない方がいいとか、そこを言いたいわけではありません。皆さんそれぞれ事情があるので、産めない人もたくさんいます。そうじゃないんです。風しんにかかってはいけない。そこをお伝えしたいのです」
娘を産んだことを後悔したことは一度もない、でも自分に風しんの抗体がないのに、それを知らずに妊娠して風しんにかかったことは後悔している。
「私は風しんにかかった時、10日も経てば元気になって元に戻りました。でも、お腹にいた娘だけが風しんのウイルスをお腹の中で受けて、一生生きていきます。そこは申し訳なかったなと本当に今も思っています」
花菜子さんは今年2月に開かれた風しん排除を祝う会で、茂子さんに感謝の言葉を伝えた。
「すごく私はお母さんのことが誇らしいと思います。お母さんはいつも『お母さんのせいでごめんな』って言うけど、私は本当にお母さんから生まれて良かったなと思います」
風しんは排除されたが、再びいつ流行するかはわからない
昨年9月、日本はWHOから風しんを排除した国としての認定を受けた。しかし、コロナ禍以降、MRワクチンの接種率が下がる今、いつまた流行するかはわからない。
「抗体保有者が少なくなれば、流行ってしまうかもしれません。私は、風しんによってなかったことにされる命や、風しんによって苦しむ妊婦さん、赤ちゃんを2度と作ってはいけないと思っています。ですので、声を出すことをやめず、1人でも多くの人に風しんって怖い病気なんだよ、風しんにかからないように、MRワクチンを2回うって、風しんにかかったらあかんというこの声を、ずっと出し続けたいと思います」
医療記者の岩永直子が吟味・取材した情報を深掘りしてお届けします。サポートメンバーのご支援のおかげで多くの記事を無料で公開できています。品質や頻度を保つため、サポートいただける方はぜひ下記ボタンから月額のサポートメンバーをご検討ください。
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