再び熊本を襲った地震、不安になっている子どもたちに何ができるか 子どものこころ専門医が伝えたいこと

震度7を観測した熊本地震から2週間経ちました。不安になっているかもしれない子どもたちに、私たち大人ができることは何なのでしょうか。子どものこころ専門医の山口有紗さんに聞きました。
岩永直子 2026.08.10
誰でも

震度7を観測した熊本地震から2週間経ちました。

2016年4月の地震から10年が経ち、回復に向けて歩みを進める中でまた熊本を襲った地震。子どもたちの心身への影響に対して、私たちは何ができるのでしょうか?

小児科専門医で子どものこころ専門医の山口有紗さんにお話を聞きました。

山口有紗さん

山口有紗さん

※インタビューは8月6日に行い、その時点での情報に基づいています。

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子どもたちに現れやすい反応は年齢や発達によりさまざま

——7月28日に地震が起きて、今、お子さんたちはどのような状況にあり、どんな影響があると考えられますか?

まずは、今回の災害により亡くなられた方々に心からお悔やみ申し上げます。また、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。

ここからの内容には、災害などの非常事態に起こりやすいことや、周囲にできることなどが書かれています。こうしたときには、情報を得ることが負担になる場合もあります。ご自身にとってちょうどいいところから読んでいただき、もし役立つ部分があれば、無理のない範囲で参考にしていただけたら嬉しいです。

すぐに相談が必要な方はこちらを参考になさってください。

子どもたちへの影響については、地域によっても状況によっても違うと思います。今も避難生活を続けている方や、ご家族や親しい方が怪我をしたり亡くなったりした方もいらっしゃるかもしれません。

一方で、物理的な被害は少なく、ご自宅で過ごしている方もいらっしゃるでしょう。一概に被害や今の状況を比べるのは難しいと思います。

ただ、一般的に、一定の期間を過ぎると、何が起きたのかも十分につかめず混乱するような超急性期を過ぎ、少し状況を眺めたり、身体の疲れが出てきたりする段階にある方が多くなってくるかもしれません。

——この段階ではどんなケアが必要なのでしょうね?

子どもたちのケアはそれぞれの状況や、年齢や発達の段階によって違います。ただ、こうした災害のときにどういうことが一般的に起きやすいかを知っておくことは大事です。

知ることによって、子ども自身が自分の状態に気がついたり、周りの大人たちが子どもたちの様子や言動を受け取ったりする際のアンテナが変わってきます。ここで重要なのは、同じ年齢でも子どもにより反応はさまざまであると知っていることと、また、乳幼児や、神経発達に特徴のある方、外国ルーツの方、慢性疾患のある方などを含め、不安や困りごとを言葉や行動で表しにくい子どもや、サポートを受け取りにくい方もいることに十分に留意することです。

こちらは、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが出している資料「緊急下の子どものこころのケア『子どものための心理的応急処置』」の中にある「危機的状況下で子どもが示す一般的な反応の例」です。災害など緊急時に子どもがどんな反応をするのか、それに対して何ができるかを、発達の段階に応じて示したものです。

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「危機的状況下で子どもが示す一般的な反応の例」

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「危機的状況下で子どもが示す一般的な反応の例」

これは専門家によるケアではなく、すべての大人に知っておいていただきたい内容です。

0〜3歳の小さい子だと、普段より泣いたり、寝なかったり、くっついて離れなかったり。以前できていたことができなくなることなどが起きるかもしれません。

もう少し大きいと、赤ちゃん返りや遊びの変化に加えて、色々なことが理解できる分、予想して不安になったり、自分のせいでこういう事態が起きたのではないかと思ったりします。

小学生ぐらいの年齢になると、言葉の理解も進み、いろいろな情報から混乱が生じたり、自分を責めたりすることも多いとされています。身体の症状が出ることも多いです。

思春期になると、より複雑な状況を理解し、さまざまな感情を持ちます。友人関係や親との関係が悪くなることもあるかもしれません。世界に対して悲観的な考えを持つことや、自分がすごく頑張らなきゃと思うこともあります。

こういうことを知っていると、「これは災害時に自然に起こりうる反応かもしれない」と気付くヒントになると思います。

これらは通常起きうる反応ですが、下記のような心配なサインが続く場合は、できるだけ医療チームや心理チーム、そうしたチームがない場合でも、保健所や医療関係の相談先などに相談できることが望ましいと思います。

セーブ・ザ・チルドレン「緊急下の子どものこころのケア「子どものための心理的応急処置」より

セーブ・ザ・チルドレン「緊急下の子どものこころのケア「子どものための心理的応急処置」より

日課、小さな選べる状況を作る

もう一つ大事なのは、どのような状況であっても、子どもたちが持っている力を発揮できるような手伝いをしていくことです。

そのためには、子どもたちに自分で回復していく力があることや、何がその支えになるかも理解しておく必要があります。

災害などの予期せぬ大きな出来事の際には、「自分には何もできない」「また何が起こるかわからない」と感じやすくなります。だから自分で決められる小さなことを、日々の生活の中につくる。できる範囲で構いません。

例えば、起きる時間をできる限り決めて、その時間に起きたら外の空気を吸いにいく。夜寝る前に、子どもと気に入っている本を一緒に読んでもいいし、本がなかったら好きなお話をして眠る、お話の好きな登場人物を選ぶ、など、自分に選択の余地が残されている日課が役立つこともあります。

被災状況においては選択肢が多くないこともあると思います。それでも、小さなことでも、子どもたちが「それでも、今自分で選ぶことができる、自分にはその力がある、周りがそれを応援してくれるんだ」と感じられることは大きな力になるはずです。

子どもの身近な大人をケアする

当たり前のことではあるのですが、災害による影響は、子どもだけが受けるわけではありません。子どもたちはその発達の段階に応じてさまざまな大人のケアを受けながら暮らし、成長していますが、その大人もまた、苦しい状況に置かれていることも少なくありません。

大人が自分をケアし、無理をしないことはとても大切です。

こちらは非常時に特化して作られたものではありませんが、子どもの心の状態にとって周囲の関わりが重要であるからこそ、ケアする人のケアが大切であることが書かれていたり、具体的なサポートへのリンクが載せてあったりします。

身体を動かすこと、遊ぶこと

——身体面でも特に避難所にいる子どもは身体を動かしにくかったりしますよね。そういう面はどうでしょう。

運動は身体的な健康だけではなく、心の健康にも関係します。思い切り遊んだり発散したりすることができない状況は子どもたちの身体的・心理的・社会的な健康に影響を与える可能性があります。

避難所での生活をしていない場合でも、校庭や公園が避難場所になっていたり、こういう時期に遊ぶことが不謹慎なことのように思われたりして、十分に遊べないこともあると思います。だからこそ、子どもたちは思い切り体を動かすことがこういう状況でも大事なんだと十分に理解する必要があります。

例えば、体育館などの避難環境でも、安心して動き回れるスペースや遊べるスペースを作ることができるといいと思います。

『子どもにやさしい空間』ガイドブック」はユニセフが出している資料です。「子どもにやさしい空間」とは、災害や事故などの緊急事態においても、子どもの権利が守られ、安心して、安全に過ごせる場所のことです。ここでは、子どもたちに遊びや学びの場を作るほか、心や身体の健康を支えるための多様な活動や情報を提供しています。

遊びや学びの支援も今後さらに拡大していくと思いますが、そうした情報を必要な人に必要なタイミングで届けることが大切だと感じます。

ユニセフ「『子どもにやさしい空間』ガイドブック」より

ユニセフ「『子どもにやさしい空間』ガイドブック」より

慢性疾患のケア

こうしたときには、慢性疾患のケアも重要になります。

いつも飲んでいる薬が飲みにくくなる方や、皮膚のケアがしにくくなる方もいるかもしれません。例えば、アトピー性皮膚炎で皮膚のケアが必要な人は、入浴が制限されたり塗布薬が塗りづらい状況によって皮膚の状態が悪くなり、痒くて夜眠れなかったりすることもあるかもしれません。

食物アレルギーのある方は、被災状況で食べられるものの選択肢がさらに限られてしまうかもしれません。例えば小麦アレルギーだったら、パンが配られても食べられないし、周囲に遠慮して断りづらく感じることもあるでしょう。

飲んでいる薬をなかなか取りに行けないとか、埃があって喘息が出てしまうとか、色々な困りごとがあると思います。普段のケアがすごく難しくなるので、「普段はこういうケアをしている」と伝えやすい環境を作ることが大事だと思います。

少し古いものにはなりますが、日本小児科学会では、災害時の心身のケアについて資料を公開しています。

前の地震の影響は?

——10年前にも大きな地震を経験し復興に向けて歩みを進める中で、今回、また大きな地震に見舞われました。この影響についてはどうでしょうか?

2016年の4月にも大きな震災があって、しかもあの時は短い間に何度も地震が起きましたね。こうした緊急事態の影響を考える時に、過去に傷つきの体験があると受ける影響が大きくなる場合があることは知っておく必要があります。

余震が多かった前回に引き続き、今回も揺れが続く中、「また揺れるのではないか」という感覚を身体が覚えていて、それが呼び覚まされることもあるかもしれません。

子どもたちの場合、10年前なので生まれていなかった人もいるかと思いますが、その地域全体の記憶はあります。また、子どもの周囲の大人への影響が大きくなれば、お子さんへも直接・間接的な影響があることもあります。

同時に、熊本ではこの10年間、地域の方々がさまざまな経験や知恵を重ねてこられたことも忘れずにいたいと思います。ただし、その受け止め方や現在のつらさは一人ひとり異なります。

メディアにどう触れるか

——イオンモールの爆発などショッキングな映像がテレビなどで繰り返し流れています。報道を見せるのを控えることも必要なのでしょうか?

こうしたときには、メディアでは繰り返し同じような映像や情報が流されることが多いです。これは必要な場合もありますが、その影響については留意する必要があります。

ユニセフが「災害時の子どもの心のケア 一番身近なおとなにしか出来ないこと」という資料を出しているのですが、その中にも被災地の映像を繰り返し見せないという項目があります。

ただそれは、子どもたちが知りたがっているのに隠すとか、無理に避けることとは違います。子どもの心配な気持ちを理解しながら、情報をわかりやすく端的に伝えるとともに、「それに対しては状況を少しでもよくするために、大人たちがこうして対応しているよ」と希望も一緒に伝えることが大切です。

取材の際に心を配ること

——取材についてはどうですか?

被災地への取材も増えていると思います。子どもが取材を受ける際に気をつけておきたいことがあります。

日本小児精神医学研究会の災害対策資料集に、「マスメディア取材への対応マニュアル」があります。災害で傷ついた出来事を語るのは、強い苦痛を引き起こす可能性があります。

子どもたちに対しては嫌なことは話さなくてもいいことや、いつでも中断できること、自分のペースや方法を尊重されることを伝えます。子ども本人にわかる形で説明し、取材を受けるかどうかの意思を確認するとともに、養育者の了承を得ることも必要です。取材中は緊張や高揚からさまざまなことを話せても、後から具合が悪くなることもあると思います。その時に相談できる体制を確認しておいた方がいいと思います。

また取材に答えた人がヒーローのように扱われる場合には、子どもたちが話さなくてはいけないというプレッシャーを感じ、「被災者らしい語り」を求められているように感じたり、自分の体験を期待される形で話さなければならないと思ったりするかもしれません。トラウマインフォームド(※)な取材やメディアのあり方が求められます。取材する側に生じる心理的な影響にも配慮することも大切なことです。

※トラウマとその影響について十分理解し、二次的な傷つきが起きないように配慮した取材。

支援者による子どもの権利侵害にも気をつけて

もう一つ、これから被災した子どもたちの学習支援や遊び支援なども増えると思います。全国からいろいろなボランティアが集まって、流動的なサポートが生まれるでしょう。そういう場所があること自体はとても大切なことです。一方で、そこで予期せぬ権利侵害が起こらないような準備と対応を行うこと、つまりセーフガーディングを行うことが大切です。

例えば、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでは、以下のようなセーフガーディングの指針を出しています。大人による子どもへの権利侵害を防ぐための注意点や、権利侵害が起きたときの相談の流れなどを定めたものです。

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

災害時には、物理的に子どもとの距離が近くなり、不安が強いお子さんからの身体接触が増えることもあるかもしれません。身体接触が絶対にいけないというわけではないのですが、二人きりにならないことなどを含めて、大人は子どもとの境界をきちんと守ることが大事です。権利が守られない状況があった時にきちんと相談できる体制をあらかじめ作り、関わるすべての人(子どもを含め)が理解していることが必要です。

子どもの写真の取り扱いについても、普段以上に意識する必要があります。

子どもの意見を反映できるように

——大人と比べて、子どもは自分で決められる範囲が少ないです。大人はより気をつけてあげなくちゃいけないのでしょうね。

もちろん大人から普段以上に気を配り、子どもの最善の利益に配慮した決定を行うことは重要です。同時に、子どもたちが自分で「自分は今こういう状況で、こういうことに困っているな」と気がつき、自分の気持ちや状態を伝えやすい環境や状況を整えることも大事です。

被災している子どもたちは、言いたいことがあってもうまく言葉にできないこともあるかもしれません。心の中に言葉として思い浮かべても、みんな大変なときに自分がそれを言っていいんだろうかと感じ、大人が忙しそうで、それをのみ込んでしまうこともあると言われています。

こども家庭庁は、「非常時のこども・若者の意見反映等の手引き」を作っています。

こども家庭庁

こども家庭庁

この手引きには、非常時にも子どもたちが意見を表明できるよう、平時から緊急時までに必要な取り組みや支援が、子どもたちの声を踏まえてまとめられています。

一方で、子どもたちにただ多くの話や意見を聴けばよいかというと、そうではないのです。例えば子どもたちがどう被災したか、その体験を良かれと思って踏み込んで聴くことが傷つきの体験になる場合もあります。子どもたちが自分から話す場合には無理に止める必要はないとしても、専門的なトレーニングなどを受けていない人が体験の詳細を繰り返し尋ねることは、避けた方がいいとされています。

つらい体験の話をするだけではなく、そのお子さんにとって「いま」「暮らしの中で」何があるといいのか、どんな願いがあるのか、周りの大人が理解したいし、できるだけのことを一緒に考えたい、という姿勢を見せることがすごく大事なんだと思います。

読んでくださっているみなさんのケアも

これをお読みいただいている方は、被災している方、支援に携わっている方、過去に災害を経験された方、あるいは離れた地域からニュースに触れている方かもしれません。

大きな災害に触れて、傷ついたり心身が揺らいだりすることは、誰にでも起こりうる自然な反応です。

「自分より大変な人がいる」「自分がつらいと言ってはいけない」と、ご自身の苦しさを否定する必要はありません。子どもを支えるためにも、私たち一人ひとりが自分自身と互いをいたわることができたらと思います。

ここまで読んでくださったことに、心より感謝申し上げます。みなさんの今日が少しでも穏やかなものとなりますよう、心から願っています。

【山口有紗(やまぐち・ありさ)】小児科専門医、子どものこころ専門医、公衆衛生学修士

高校を中退し大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部を卒業。山口大学医学部に編入し、医師免許取得。東京大学医学部附属病院小児科、国立成育医療研究センターこころの診療部などを経て、現在は子どもの虐待防止センターに所属し、地域の児童相談所や一時保護所での相談業務などを行っている。国立成育医療研究センター共同研究員。内閣官房こども政策の推進に係る有識者会議委員。川崎市子どもの人権オンブズパーソン。ジョンズホプキンス大学公衆衛生学修士。

***

【参考資料】

・こども家庭庁 地域の相談窓口

・日本小児精神医学研究会 災害対策資料集

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