3年経っても症状が残る人も 新型コロナ後遺症、どんな症状がどれぐらい続くの?
現在も全国で流行中の新型コロナウイルス感染症。
順調に回復すればいいのですが、症状が半年、1年、それ以上と長引く「新型コロナ後遺症(Long Covid)に悩まされている人も少なくありません。
コロナ後遺症、どこまで何がわかっているのでしょうか?
専門が免疫学で、京都第一赤十字病院総合内科部長としてコロナ後遺症の患者も診ている尾本篤志さんに聞きました。
尾本篤志さん(撮影・岩永直子)
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発症後3ヶ月以降も症状が残るのがコロナ後遺症
——まず新型コロナウイルス後遺症とはどのようなものを指すのでしょうか?
新型コロナウイルス感染症にかかって3ヶ月以上経っても症状が続き、他の病気を除外した場合、とWHO(世界保健機関)で定義されています。
尾本篤志さん提供
当初、新型コロナウイルス感染症は、「コロナ肺炎」と呼ばれ、それが命に直結するとも言われていました。でも時間が経つにつれ、肺などの呼吸器だけでなく、消化管、脳神経系など全身の様々な臓器に影響を及ぼす感染症だということがわかってきました。
原因としては、ウイルスによる直接的な影響と、血管や凝固系の異常による影響の二つがあります。そして後遺症は、ウイルスによってダメージを受けた臓器の影響が長く続く側面と、精神的な要素でいろいろな症状が出てくる側面とがあります。
具体的には疲労感、頭痛、認知機能障害、脱毛、呼吸困難、味覚障害、嗅覚障害、咳、関節痛などが多いようです。味覚障害、嗅覚障害はだいたい3ヶ月以内には落ち着く事が多いのですが、嗅覚障害は長引く人がいますね。
そうした症状が3ヶ月、半年、1年、2年、長ければ3年以上経っても残ることがあります。コロナは風邪だという人もいますが、残念ながらそんな軽いものではありません。
尾本篤志さん提供
こちらは新型コロナで入院した患者や季節性インフルエンザで入院した患者のその後の症状を見た論文のグラフです。
尾本篤志さん提供
メンタルヘルスや認知機能障害など脳神経学的な症状は、インフルエンザよりも新型コロナウイルス感染症の患者の方が頻度が多く、なおかつ長く残ってしまうことが報告されています。普通のウイルス感染症とは違う。インフルエンザよりも重症化しやすく、後遺症も残りやすいのです。
当初は、ウイルスによって障害を負った臓器に症状が残ると考えられていましたが、様々な精神・神経症状や心理学的な症状も多いことがわかっています。いわゆる「ブレインフォグ(脳の中にモヤがかかったような状態)」という言葉が一般にも知られるようになりましたね。
3年経っても症状が残る患者も
——どれぐらいの期間、症状が残る患者が多いのでしょう?
こちらは昨年のnatune medicineに出た論文です。コロナにかかってからの後遺症が、2年間経つとどうなったかを調べています。
尾本篤志さん提供
紫と緑の棒グラフがあり、緑の方が入院を要した患者さんです。心臓や神経医学的なもの、メンタルヘルスなどいずれの症状も入院を要した患者の方が後遺症の頻度が多いことがわかります。
衝撃的なのは、感染後半年ぐらい経っても症状が2割ぐらい残っていることです。2年経っても17.2%に症状が残っています。累積では非常にたくさんの患者さんが後遺症に苦しんでいることがわかります。
一番頻度が高いのは、メンタルヘルスの問題であることが示されています。胃腸や神経の症状、心臓のダメージも多いです。
尾本篤志さん提供
また入院した患者の方が、入院しなかった患者よりも5倍の頻度で後遺症が多かったことが示されています。
つい最近同じnature medicineに出た論文では、3年経ったら症状がどうなるかを見ていますが、2年、3年と時が経つにつれ、徐々に後遺症は減っています。それでもいわゆる心臓の合併症やメンタルヘルスの問題は残っています。
3年経っても数%の人は社会生活に支障をきたすような症状が残っているのです。
尾本篤志さん提供
——先生が診ている患者さんでも長引く人はいるのですか?
やはり長くて3年ぐらい苦しんでいる人がいます。いまだに熱が出たり、外出したら立ちくらみがしたりする人がいます。
肺には残らないが、心臓には影響
——具体的には、どのような症状が、どの程度残るのでしょうか?
まずコロナ肺炎の後遺症が肺にどれぐらい残るのかですが、呼吸困難を訴える人はいるものの、実際は1年経てばかなりの人が画像上も綺麗になり回復します。
それにもかかわらず呼吸器症状を訴える場合をコロナ後遺症と考えたらいいと思います。
尾本篤志さん提供
心臓に関しては、かなりダメージが残ると言われています。
尾本篤志さん提供
心臓をやられた人は、感染から1年経った後も、心血管障害がある程度残ると言われています。通常の人よりも2倍ぐらいリスクが上がると報告もされています。これも重症であればあるほど、心血管障害は残りやすくなります。
——心血管障害とは、例えばどのような症状なのでしょうか?
血栓症の影響で心臓がやられたり、心筋炎を起こしてそのダメージが残ったりすることがあります。
後遺症の経済的損失は180兆円
——こうした後遺症が社会に与える影響は大きいのでしょうね。
確認されているだけでも世界中で7億人以上の患者が新型コロナウイルスに感染し、700万人以上が亡くなっています。
日本でも10万人程度が新型コロナで亡くなっていて、2024年5月の時点で人口の64.5%の感染が確認されています。実際はこれより多いでしょうから、日本人の3人に2人は感染した経験があるでしょう。
日本で7000万人の人が新型コロナウイルスに感染したと考えた場合、15%ぐらいに後遺症が残ることを考えると、1000万人ぐらいが後遺症に苦しんでいることになります。
尾本篤志さん提供
こちらは2022年の段階でイギリスから出た報告です。
新型コロナウイルス感染症の後遺症による経済的損失は、全世界で約180兆円以上と推計されています。
しかもこれはまだ2022年の段階の研究です。今は2024年ですので、これを遥かに上回る経済的損失が世界的に出ていることが考えられます。
(続く)
【尾本篤志(おもと・あつし)】京都第一赤十字病院総合内科部長
1996年、京都府立医科大学卒業。社会保険神戸中央病院勤務を経て、2006年京都府立大博士号取得、2006年4月より、京都第一赤十字病院で働き始め、2016年4月より現職。専門はリウマチ、膠原病領域。総合内科専門医。京都府立医科大学臨床教授。
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