「惜しみなく与えることが大事」フリーランスはなぜ人間関係でケチになってはいけないのか?
フリーランスで生きていくためのノウハウを詰め込んだ新刊『25年、フリーランスで食べてます 隙間産業で生きていく』(河出新書)を出版した雨宮処凛さん(50)。
気持ちよく仕事を続けていくために大切にしていること、気をつけなければならないことは何なのでしょうか?
「フリーランスこそ惜しみなく与えることが大事」と話す雨宮処凛さん(撮影・岩永直子)
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敵をこちらから極力作らない SNSでの振る舞い方
——SNSでの振る舞いで気をつけることとして、ゴールデンボンバーのボーカル、キリショーこと、鬼龍院翔さんの言葉を引用していて笑いました。ファンのスマホの中で元気に生活しているペットのような存在になれ、という”たまごっち論”ですね。
すごくないですか?考え抜いていますよね。確かに誰しもSNSで尖ったことを言うのはあまりいいことじゃないなとある程度わかっていますよね。でも多くの人が、「それを見ている人がどう思うか」を忘れて振る舞っている。たとえそれが不条理な意見に反論しているとしても、文脈を知らない人から見れば、ただ怒って、誰かに絡んでいるようにしか見えない。
——確かに雨宮さんがSNSでケンカするのを見たことはないです。例えば、高市早苗さんが首相になっても、政治的な発言や批判はSNS上ではしていない。
そんなことを今やったら地雷を踏むだけです。
——でも結構、左派の人たちはやりますよね。
やりますね。それはそれでいいと思います。それで仕事が増えることもあるだろうし、敵味方がはっきりするような効果はあるのだろうと思います。
でも私は逆に、敵味方を分けて、自分にレッテルを貼られるのは嫌なんです。敵に認定されたら、こういう本も読んでくれない人が出てきます。それどころか、普段携わっている貧困問題に対する活動も胡散臭く見られたりするかもしれません。
そういうことを考えると、結果的に自分が損なので、自分から敵視されにいくようなことは極力しないようにしています。そうした方がおそらく貧困問題などの解決には近くなるのかなと思います。
意見が違う政治家の人だって、話せばわかってくれるかもしれない。
高市さんについても下手に発言すれば、100 倍ぐらい返ってくるに決まっています。意見を言う場合は、丁寧に書いて原稿に落とす。SNSのような中途半端にしか伝わらないところでやるよりも、しっかり長文で原稿に書きます。
「惜しみなく与える」ことがなぜ自分を豊かにするのか
——フリーランスとして生きている他の人にも話を聞いていますね。デザイナーの山下陽光さんの姿勢が衝撃的でした。センスを見せるのは値段の安さで、一緒に働いてくれる人に利益を還元して自分はあまり儲けないとか、逆転の発想で豊かな人生を歩んでいます。
そうなんです。今の世の中の動きと逆行することをしていますけれど、結果的にそれが注目されて、成功していますよね。
——雨宮さんが、「『惜しみなく与える』ってのも、フリーランスとして生きる上で重要だと、私は思っている」とまとめていた言葉も印象的でした。与えると返ってくる感じ、自分が豊かになるということは色々な方がいうことだし、私も実感としてよくわかるのですが、あれはなぜなんでしょうね?
私も実際に、それを実感しまくっています。自分自身も右翼団体の代表だった鈴木邦男さんや、作家の見沢知廉さんに人脈なり経験なり知識なりをものすごく与えてもらった。見返りもなく、そんなことをしてくれる大人がいるんだというのはびっくりしたんですね。
作家の見沢知廉さんの葬儀で(雨宮処凛さん提供)
だから、自分も「この人すごい」と思ったら、鈴木さんたちの真似をして、自分の人脈を紹介したり、機会を作ったりします。そういうことは、思えばデビューする前からやっていました。
右翼団体の代表だった故・鈴木邦男さんと(雨宮処凛さん提供)
——なぜ惜しみなく与えると、自分が豊かになるのだと思いますか?
なんでだろう。普段あまりそういうことをする人がいないから、物理的に返してもらえることもあるし、たぶんいい連鎖が生まれる。もちろん、何の打算もなくやった時です。計算高い人ってすぐわかる。
逆に、感動して動いてくれたんだなって人もわかるし、どっちと付き合いたいかといえば、打算的じゃない人がいい。そうすると、自分の周りにそういうネットワークが自然とできてきます。
——見返りを求めて与えたら、逆にそんな繋がりはできないですよね。
「この人すごいからみんな知って!」「この活動はすごいから応援しよう!」みたいな感じです。「すごい宝物を見つけたよ!」とみんなに見せびらかしたい感じで、すごく子供っぽい動機なんですよ。
——なぜ子供っぽい動機を大切にした方がいいんでしょうね。頭で考えるのではなく、心の底から湧き上がるような思いですよね。
「これをやって誰に何の得があるのか」とか考えない方が、多分みんなが面白がれる、楽しくなれる。そこで「費用対効果」とか言った瞬間に、いきなり魅力がなくなります。たぶん子供目線の方がワクワクする。今、あまりワクワクすることが少ないのは、それが理由なんじゃないかなと思います。
お金を基準にせず、時にはタダ働きも
——時にはタダ働きもする、と通常のフリーランスのノウハウ本では書かれないようなことを書いていますね。逆にそういう仕事は受けちゃダメだと書く人もいると思います。
お金だけで仕事を選ぶのも一つのやり方だと思うし、「これ以下のギャラの仕事は受けない」というのも自分の守り方の一つだとは思います。
でも私の場合、目的はお金ではない。例えば同じ日にギャラのいい講演と、交通費しか出ないけれど面白いイベントをするから出て、という誘いがあったとします。だったら私は、自分が面白そうと思ったり、この人たちに会いたいと思ったりする方に行く方が後悔しない。
お金で選んであまり面白くなかったら、あっちに行けばよかったと後悔すると思います。自分の好きな方、ワクワクする方に行く方が、自分を消耗させないと思うんです。
お金を基準にすると、「自分に嘘をつく」ことをやりそうな気がします。自分に嘘をつきたくないからフリーランスになったわけで、面白そうというセンサーが反応した方に行くのが、仕事を受ける一番大きな動機かなと思います。
——フリーランスになった時に、先輩から「お前が安い仕事を受けたら、後に続く人も安い報酬で我慢しなくてはならなくなる。適正な価格で受けろ」と言われました。でもそうじゃない場合もありますよね。
それは一般的に守った方がいいと思うんですけれども、お金がないけどどうしても呼びたいと言ってくれた人が面白そうな人たちだったら、私は行きますよね。他の人に勧めるわけではないですけれどもね。
自衛方法も紹介 「フリーランス・トラブル・110番」「フリーランスユニオン」
——一方、意に沿わぬタダ働きを強要されたり、セクハラ・パワハラを受けたりなど、弱い立場のフリーランスがトラブルに遭った時、身を守るための方法もきちんと書かれています。弁護士会による相談窓口「フリーランス・トラブル・110番」というものがあるのだと初めて知りました。
編集者の人が探してくれたんですよね。
——フリーランスユニオンについても取材されています。ご自身では入ってらっしゃいます?
入っていないです。こちらは名前は前から知っていて気になっていたので、今回、話を聞かせて頂きました。いろいろ相談先を紹介してくれる感じですね。
自分に困ったことが起きたら、まずは110番に相談しようと思います。
「天職」は自分が走っているうちに与えられるもの
——この本、ご自身の反省も重ねながらノウハウを書かれていますが、結局は雨宮さんのようには誰もなれないと思います。
まあみんなオリジナルですからね。
——でも結局は一つひとつ、目の前の仕事に誠実に取り組むことを積み重ねた結果、今があるんだなとよくわかります。
確かにそうですね。
——「誰もが雨宮さんのように成功するわけじゃないよ」と、やっかみ半分でいう人もいると思います。そういう声にはどう応じます?
ただ、手持ちのカードのなさという点では、高卒で、地方出身で、仕事歴はフリーターのみ。しかも、その半分以上が水商売と考えると、けっこうスタートラインの条件は悪いですよね?あとはそこから何を、どこを目指すかということだと思います。
それに、私自身は今をまったく成功だと思っていなくて、自分はもっとかっこいい職業になりたかったわけですよ。それなのに、貧困問題をメインテーマにした物書きという、誰も目指していない上に、自分も望んでいないものになった。いろんな偶然が重なって、半ば世間がその役割を与えてくれた感じだったので、30代なかばぐらいまではちょっと嫌だったんです。「貧困問題と言えば、雨宮処凛」と言われても、「別にそれを目指していたわけではないのに」と思っていました。
結局、目指していたものになったわけではなくて、世の中が与えてくれた役割を誠実にこなしていっただけの話です。だから何かになろうとして夢を叶えた人の話ではなくて、何かになりたくていろんなことに手をつけていたら、予想外の展開になりました、という話です。
歌手を目指していた人が歌手になれたなら成功物語かもしれません。でも私はこれを目指していたわけではなかったけれど、結局、始めてみたら自分にも役立ち、周りの人も助けることができた。ある意味、「天職」だったんだなと思います。
そういう意味で天職は、頭で考えて何かできるわけではなくて、走っているうちに与えられるものなんだなと思いました。まさに降臨ですね。
——天職って、結局目の前のことを真面目にやることで見えてくるものなんですね。
本当にそうですね。意外と地味な話です。社会的信用が一番大切だし、相手の信頼を踏み躙らないとか、そういうことの積み重ねだと思います。
——でもそんなふうに真面目に働いていても、騙されたり、タダ働きさせられそうになったり、セクハラ、パワハラもあって、足元を見られるようなこともあるわけですよね。
あります、あります。
——そういうのを跳ね除ける力になったのは何ですか?
デビューが25歳だったので、セクハラはよくあったのですが、結局守ってくれたのが、バックに右翼や左翼の大物がいるということだったんですよね(笑)。右翼の鈴木邦男さんとか、元赤軍派議長の塩見孝也さんとかと仲が良かったので。でもそんな極端な身の守り方、誰にも勧められないし、しようと思ってできるものじゃない。でも私は何かあったら「右翼に言いつけるぞ」「連合赤軍にも知り合いがいるぞ」と言ってました(笑)。最強のパワーワードです。だからみんな嘘でもいいから、こいつに手を出したら大変なことになるという匂わせをしておくといいかもしれません。
足を引っ張る人は切る 自分を晒し過ぎない
——自分が好きなことを追いかけていく時、止めようとする人を切る、というのもすごいノウハウだなと思いました。面白い方向に進もうとする人の足を引っ張る人がいますよね。私の人生に何の責任も取ってくれないのに。
「そんなのうまくいかないからやめといたら?」という人を切って、好きなこと、やりたいことで食べている人たちの周りにいるということを意図的にしていました。そうすると、自分もいい影響を受けるというか、「好きなことで食べていく」ことが当たり前になる。環境は大きいです。
フリーターからフリーランスになる過程で、雑音になりそうな人は全部切ったので、一時、すごく孤独になりました。
でもまた一から人間関係を作っていって、自分と同じように何かを目指している人の付き合いが増えていきました。そんな渦中にいた90年代後半はヴィジュアル系ブームで、小さいライヴハウスでやっていたバンドがどんどんデビューして有名になっていきました。私はバンギャだったので、まさに自分がライヴハウスで見ていたバンドがテレビに出てどんどん売れていくのを目の当たりにしていた。「夢は叶う」と、とてもいい刺激をもらいました。
——ヴィジュアル系バンド「MALICE MIZER」のバックダンサーも務めていたって書かれていて、びっくりしましたよ。
マリスミゼルのバックダンサー時代、SMショーでステージで拘束されているところ(ファンクラブ会報的なものに掲載された写真) 96年頃(雨宮処凛さん提供)
そんなこともありましたよね。こうして振り返ると、本当に私の人生は意味不明です!
——サダム・フセインの息子と会ったり、破天荒なことばかりやってきた印象ですが、フリーランスの注意点として「自分のことを晒しすぎない」と書いていたり、浮き足立っていない。堅実ですよね。
99年、イラクのバビロンフェスティバルでライブ(雨宮処凛さん提供)
99年、2度目の海外でイラクに行き、ライブ。大統領宮殿でサダム・フセイン大統領の長男、ウダイ・フセイン氏と会見(雨宮処凛さん提供)
今、本当に危ないと思うのは、一部の若い人はインフルエンサー商売ぐらいしか食べられないと思っていて、そうなると、もう自分を晒すしかない。あれは怖いです。犯罪に巻き込まれる怖さもあるし、いろんな個人情報を、場合によっては家族ぐるみで出しているから、すぐ特定されますし。
ゆくゆくその生き方をやめたいとなった時に、どう回収するんだろうと思います。それは人類の未知の領域です。晒していれば、傷つけられることも多い。外見のみならず家族のことや内面まで言われて、しかも炎上とかしたら、数万人単位に罵倒されたりする。個人でやるには危険すぎると思います。
嫌なことがあったら「ネタにできてありがたい」
——天職と思える仕事をしていて、喜びを感じるのはどういう時ですか?
いい原稿が書けた時は嬉しいし、困窮者支援の現場で相談を受けて、相手が制度につながれたりした時は心から良かったと思います。原稿や講演の反響も嬉しいですし、私の原稿や話によって「考え方が変わった」とか「救われた」と言われると、一番嬉しいですね。私もそういう本や色々な人の言葉に救われてきたので。
——今ではもうリストカットしたいとか、死にたいと思うことはないのですね?
ないですね。今は嫌なことがあったら、全部金に変えようと思います。今は原稿に書けるので、嫌なことがあってもネタにしていろんな人にシェアして貰えば、それで成仏します。自分の人生、初期はいじめられたことやリストカットとか、嫌なことばかりだったので、全部それをネタにしてやろうというのが書くことの大きな動機でした。今もそうです。
だから、今嫌なことがあったら、「ありがたいな」と思います。これは1000文字ぐらいになるな、とか文字数の計算をしてしまう。嫌なことは文章を書くことで消化できる。それはありがたいことです。
——最後に、この本をどんな人に読んでもらいたいですか?
フリーランスを目指す人や今フリーランスの人はもちろんなのですが、働いている働いていないは関係なく、あらゆる人が応用して使えるテクニックを盛り込んだつもりです。インフルエンサーを目指すにしても、普通の人間関係でも、最低限の「約束を守る」とか「自己開示し過ぎない」ことは重要だと思うんですよね。
「ライバルのいない過疎地を狙え」とも強調していますが、それは会社でもできることだと思います。みんな競争で疲れ果てていると思うので、戦わずに不戦勝できたら最高です。そういう隙間産業的なことはどんな立場の人もできることですから、そういうヒントをいっぱい詰め込んだつもりです。
(終わり)
【雨宮処凛(あまみや・かりん)】作家、反貧困ネットワーク世話人
1975年、北海道生まれ。フリーターなどを経て、2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組む。著書に『生きさせろ!難民化する若者たち』(ちくま文庫)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房)、『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)など多数。
医療記者の岩永直子が吟味・取材した情報を深掘りしてお届けします。サポートメンバーのご支援のおかげで多くの記事を無料で公開できています。品質や頻度を保つため、サポートいただける方はぜひ下記ボタンから月額のサポートメンバーをご検討ください。
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