世界標準とはズレた手法で費用対効果を悪く計算 「日本の状況は恥ずかしい」「行政の不作為が問われる」自民党HPVワクチン議連が男性定期接種化の先延ばしを厳しく批判

自民党のHPVワクチン推進議連が10月26日に開かれ、日本は男性接種の費用対効果分析を世界標準とはかけ離れた形で行なっていることが専門家から報告されました、議員からは厚労省の審議について、厳しい批判や追及する発言が相次ぎました。
岩永直子 2026.10.26
誰でも

自民党の「HPVワクチン推進議員連盟」(会長=田村憲久元厚労相)が10月26日に開かれ、厚生労働省の専門家委員会で先送りが続いている男性の定期接種化について議論された。

参考人として招かれた慶應大学経営管理研究科特任教授の五十嵐中さんが、定期接種化承認の壁となっている費用対効果分析について、どんな分析モデルを使うかや、仮定の置き方によって、いくらでも結果の良し悪しは左右されることを説明。

議員からは「世界を見て日本がこの状況というのは恥ずかしい」「政治が決断しないと動かないのではないか」と、厚労省の審議状況に疑問を投げかける厳しい意見が相次いだ。

G7主要7カ国の中で現在、男性への定期接種制度がないのは日本だけ。女子の定期接種についてはメディアの偏った報道や厚労省の積極的勧奨の約9年にも及ぶ停止で接種率の大幅な低下が続いているが、男子に関しても消極的な予防接種政策が続いている。

※ヒトパピローマウイルスは膣性交、肛門性交、オーラルセックス、ペッティングなど粘膜が触れ合う性的な接触で感染し、男女ともにうつし合うため、男性の感染防止は、女性への感染防止、子宮頸がん防止にも役立つことがわかっている。よって男性のHPVワクチンの費用対効果を検討する際には、女性への間接的な予防効果も検討することが世界では常識となっている。

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これまでの分析ではダイナミックモデルを使わず、効果持続期間も20年と短く仮定

五十嵐さんは医薬品の費用対効果分析の専門家だ。

五十嵐中さん

五十嵐中さん

これまで費用対効果分析で使われているのは、「マルコフモデル(静的モデル)」という単純な分析モデルで、「費用対効果は悪い」という結果が出ていた。最新の分析では女性への間接効果も検討されていない。

しかし、海外の多くの国では、感染の相互作用まで勘案する複雑な「ダイナミックモデル(動的モデル)」が使われ、女性への間接効果も検討されるのが常識で、日本でも今年度内にこのダイナミックモデルを使った分析が出されることになっている。

今回、五十嵐さんはこのダイナミックモデルによる分析について説明するために招かれた。

最初に五十嵐さんは「今日はいろんな方向から無形のプレッシャーを感じている」とし、この日の発表はあくまでも個人的な見解であることを強調した。

そして、これまで厚労省のワクチン評価に関する小委員会で出された二つの費用対効果評価では、いずれも世界標準ではないマルコフモデルを使い、9価ワクチンについて出された最近の評価では女性への間接効果も計算していないことを指摘。

五十嵐中さん提供

五十嵐中さん提供

ワクチンの効果持続時間を「20年」と設定していることについても、100年や生涯続く前提で計算する海外と比べて非常に短く、費用対効果では不利な仮定を置いていることを示した。

またワクチンで防ぎ得る病気として、どの病気までを含めるかによっても、費用対効果の数字が大きく変わってくると説明。費用対効果の指標は「1年健康で長生きするにはどれぐらいのお金がかかるか」を示しているとし、費用対効果が良いとされるのは「500万円〜600万円以下」だと伝えた。

費用対効果を良くも悪くもする三つの要素

その上で、マルコフモデルと、ダイナミックモデルとの違いを解説した。

五十嵐中さん提供

五十嵐中さん提供

単純なマルコフモデルについては、「基本的にそのワクチンをうった人がその病気にかかるかどうか、重症化するかどうかを見る」と説明。ダイナミックモデルについては「誰かが感染したら、周りの人にも影響するというところも含めて見る」と違いを語った。

そして、費用対効果を示す数値を出す時に、そのワクチンがどれほど効き目があるのかが重要になると語り、その効き目を左右する要素として、以下の三つがあるとした。

  • ワクチンの有効性の持続期間:有効性の持続期間が長いほど費用対効果は良くなる

  • 効果があるとする病気をどこまで含めるか:効果がある病気を多く含めるほど費用対効果は良くなる

  • 女性接種率:女性の接種率が高いほど費用対効果は悪化する(男性が接種するか否かに関係なく、女性自身の接種で守られるから)

五十嵐中さん提供

五十嵐中さん提供

そして「この三つの仮定において、どういう分析をし、どういう設定を置くかによって、コストパフォーマンスはいかようにも変わってしまう」と述べた。

海外標準からかけ離れたやり方で費用対効果を低く見積もっている日本

また、海外の他の国での費用対効果分析で使われている手法を、53の論文を比較した結果を示した。

五十嵐中さん提供

五十嵐中さん提供

その結果、ほとんどの国では感染の相互作用まで見る複雑なダイナミックモデルを使い、間接効果も検討。また、ワクチンの効果持続期間は、100年以上か生涯続くとしている国がほとんどで、日本のように20年と短く仮定している論文は4つのみだった。

つまり日本は世界標準とはかけ離れた形で、男性接種の費用対効果が悪く出るような仮定や分析モデルを使って検討していることを明らかにした。

また、男性がHPVワクチンで防ぐことができる病気としては、日本では、「肛門がん」と良性のイボである「尖圭コンジローマ」が薬事承認されているが、実際には中咽頭がんや陰茎がんなども予防できるとされている。男性接種の費用対効果分析では、薬事承認された病気のみに分析を限定しているが、過去にB型肝炎ワクチンや肺炎球菌ワクチンなどでは適応外の病気も分析対象としていると指摘。

「これまでの分析は個人しか考えず、有効性持続期間が20年で、場合によっては間接効果も入らない。かなり不利な状況下での分析が標準であったというところは否めないかなと思います」と、日本での分析は男性接種の費用対効果を悪く見積もるやり方だったことを認めた。

そして、「主要国は、基本的に女性への間接効果を、複雑モデルで組み込むのがセオリーということになります。効果持続期間も20年、30年ではなく、ある程度長めの値を入れるとかなりコスパは改善する」と述べた。

二つのダイナミックモデル分析が進行中 年度末までに公表

さらに、日本のデータを用いて製薬会社(MSD)関係者と、韓国の研究者がそれぞれダイナミックモデルで費用対効果分析をしたところ、製薬会社の研究は480万円/QALY、韓国の研究者は359万円/QALYと、男性接種の費用対効果は十分良い結果が出ていることも示した。

五十嵐中さん提供

五十嵐中さん提供

その上で、現在、国際がん研究機関と共同で国内データに基づくオリジナルダイナミックモデルを構築する研究と、AIによって製薬会社のダイナミックモデルを再現して、仮定の値を変えて分析する研究の二つを進めていることを報告した。

これらの分析は今年度中に公表されるという。

厚労省は男性接種について消極的なデータを強調

続いて、厚労省の前田彰久予防接種課長が、現在までの検討状況を報告した。

前田彰久予防接種課長

前田彰久予防接種課長

前田課長は、

・男性本人の便益については、肛門がんにかかる男性の死亡数は子宮頸がんにかかる女性の死亡数の10分の1程度であり、相対的に小さい。

・男性接種による女性の子宮頸がんの予防効果について直接的なエビデンスが不足

・本人の便益のみを考慮した分析では費用対効果が低いという分析結果が出ている

と現状分析した資料を提示した上で、「HPVワクチンの薬事承認の範囲は尖圭コンジローマと肛門がんに限られていて、中咽頭がんと陰茎がんは薬事の外側にある」と説明。

10月8日に開かれた厚労省の「予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会」では、前向き、後ろ向き、両方の意見が出たことを紹介した。

また男性接種を導入している国の女性の子宮頸がん発症率一覧を提示し、男女ともに接種率が9割以上のポルトガルが他の国よりも発症率が高くなっていることについて、調査して、今後公表する方針も伝えた。

「振り出しに戻るような議論は納得いかない」

続く議論で、真っ先に手を挙げたのは、自見はなこ参議院厚生労働委員長。

厳しく厚労省の姿勢を追及した自見はなこ参院議員

厳しく厚労省の姿勢を追及した自見はなこ参院議員

厚労省の提出資料を示しながら、

「性感染症でうつるということを考えると、なぜ厚労省が初めから間接効果を入れたダイナミックモデルでやらなかったのかは大いに疑問。この話は、この議連でもう何年もしてるはずなんです。なぜまた振り出しに戻るような議論をされたのかは、本当に納得がいかない」と強い口調で切り出した。

男性接種では、女性に対する予防効果が薬事承認されていないことについても、「性感染症であることを踏まえれば、本当にそれでいいのか予防接種課から医薬局に言うべきだと思う。そこがそもそもずれているから、私たちがずれているみたいな議論をされると本当に困る。性感染症だという前提を踏まえたうえで入口を組み立てられていないことが、厚労省として恥ずかしい」と批判した。

また、予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会の主な意見として前田課長の資料で提示された「男性接種の導入よりも女性の接種率の向上を優先的に進めるべきではないか」という意見について、「受け止め難い発言」と批判。

「公衆衛生学的な分析手法に基づいてのご発言であれば十分理解できるが、(費用対効果の分析の)置いている前提そのものが違うというのが私の主張なので、この発言自体受け止めることはできません」

その上で、「子宮頸がんで亡くなるし、妊孕性(妊娠する能力)も失われるので、これを重篤じゃないとするとなんなんだということになる」として、男性接種は、接種の努力義務がかかり、市町村による接種の勧奨もある「A類疾病」として定期接種化すべきだとした。

そして、前田課長に対して「予防接種行政で一番大事な軸はなんなのか。人の命を救うということ」と訴え、男性接種の定期接種化を強く求めた。

自治体助成が不可能な地域でも接種できるように

議連の副会長に就任した釜萢敏参議院は、国による男性定期接種化の議論が進まない一方、「自治体において若い男性の人に接種をするという動きは徐々に広がってきている」と指摘。

釜萢敏参議院

釜萢敏参議院

「一方で、国民全体にしっかりこのワクチンの恩恵を届けるという意味では、自治体が始めているから大丈夫だということではなくて、むしろ財政的な余力がなくてこれに取り組めない自治体に居住しておられる方々になんとか早く進めなければいけない」

「男性に対する接種を、全国で一斉にできるような方向をなんとか早く進めるということで取り組まなければいけないなと思っております」

とし、定期接種化で、地域間格差を無くしていくべきだという考えを述べた。

「行政の不作為が問われる」「ゴールポストをずらすな」

会長の田村憲久衆院議員は「五十嵐先生の話をお聞きすればするほど、どうにでもなるということだったのだと本質的な理解をした」と、費用対効果分析の数値が、仮定次第でいくらでも動かせるという理解を強調した。

厚労省の前田課長に詰め寄る田村会長

厚労省の前田課長に詰め寄る田村会長

その上で、「これだけもう世界中で打っていて、なんで日本の分科会でこういうことになっちゃうのかがよく私はもう理解ができない。どうとでもなる数字ならば、接種しようと思えば、その数字を出してくるだけの話。どこに本質的問題があるのか。実際、審議会の先生方の中で、(男性接種に)懐疑的な方々がおられるのか」と疑問を投げかけた。

そして、「最後はもう政治が決断しないと動かないんじゃないのか。不思議で不思議で仕方ない」と語り、「行政の不作為が問われる」と厚労省を突き放した。

幹事長の三原じゅん子参議院議員も、「なぜ未だにこのダイナミックモデルを使ったもので検討してもらえていないのか。毎年、3000人近い方が亡くなっているというこの現実を厚労省はどう見ているのか」と語りかけ、こう確認した。

「私たちはずっとこの費用対効果のせいで男性への定期接種がかなわないと言われ続けてきました。今日、五十嵐先生からお話ししていただいて、ダイナミックモデルというのが当たり前のデータの出し方であるということ、年度末に、細かくしっかりとしたものが出てくるということでよろしいんですかね?」

「私たちはゴールはここだと、費用対効果なんだと言われてずっといろんなことをやってきて、五十嵐先生にお願いをして今日この機会を作らせていただいたわけです。ゴールポストを動かすようなことは絶対にしていただいては困ります。議連として」

自見議員は最後に再度発言し、前田課長にこう注文をつけた。

「政治のレベルはもう課長が思うよりはるかに実は深刻だと思ってますよと、今の厚労行政について相当な疑義が与党の議連から生じていますよと局長にきちんと伝えていただかないと。この緊張感が、課長の解釈で省内にちゃんと伝わらなければ、公衆衛生学上の危機だと思います」

この日、議連はHPVの男性接種について、A類の定期接種に位置付ける議論を進め、2027年4月から定期接種化することを求める決議を承認した。

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