厚労省の医療保険部会の傘下に患者代表も参画する「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」を設置
厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会(座長=田辺国昭・東京大学大学院法学政治学研究科教授 )が5月1日、開かれ、同部会の傘下に患者の立場の人も参画する「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」を設置することを決めた。
高額療養費制度の見直し案が患者団体の猛反対を受けて凍結され、秋までにあらためて検討し直すことが打ち出されている。この専門委員会が具体的な議論の場となる。

第194回社会保障審議会医療保険部会(YouTubeライブ配信より)
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患者等の当事者の意見を反映する委員が参画、患者団体のヒアリングも
高額療養費制度をめぐっては、政府が昨年末、患者の自己負担上限額を大幅に引き上げる見直し案を打ち出していたが、患者団体が「この案が通れば患者は治療を継続できなくなる」と猛反発。政府は異例の修正を重ねるも、国会で合意に至らず、石破首相はいったん凍結することを決めた。
ただし、秋までに再検討し、改めて見直し方針を決定することも同時に打ち出しており、全国がん患者団体連合会などの患者団体は患者も参画できる議論の場を求めていた。
これを受けて、衆議院厚生労働委員会は4月16日、制度を検討する審議会の委員として患者の参加を求めるなど、政府への要望を全会一致で決議していた。
今回設置される専門委員会では、委員長、学識経験者を置き、保険者、 患者等の当事者、医療・診察機関、経済界・労働者、各界の意見を反映する委員を入れる。
また、「患者団体・保険者団体等からのヒアリング等を丁寧に実施し、それらを踏まえて、具体的な高額療養費制度の在り方に関して集中的に議論を行う」としている。

第194回社会保障審議会医療保険部会資料より
専門委員会設置案については委員らから反対の声はなく、設置が了承された。
「給付と負担のバランスを踏まえた検討を」「専門家の意見も」
佐野雅宏・健康保険組合連合会会長代理は、「患者の声を聞くと共に、セーフティネット機能の役割を保つように丁寧に議論を進めていただきたい」と設置に賛意を示しつつ、「一方で、保険料負担者の納得感も極めて重要だと思いますので、給付と負担のバランスを踏まえた検討をお願いしたい」と注文。保険者としての議論への参画を求めた。
城守国斗・日本医師会常任理事も「これまでの議論は当事者の方々の意見を十分に反映できていなかったということですので、今回様々な立場から委員を構成して集中して議論を行うということで専門委員会を設置することには異論はない」と賛意を示した。
その上で、「制度設計によって医療にアクセスできない人が出ないことは大前提ですが、それとともに医療保険制度の持続可能性にも十分配慮しながら議論していただければ」と注文をつけた。
中村さやか・上智大学経済学部教授は、これまで十分聞けなかった患者団体の声を聞くことには意義があるとしながら、「高額療養費が医療利用にどういう影響を与えているか、金額の多い少ないが医療利用にどういう影響を与えているか。患者の健康にどういう影響を与えているか。さらに患者の経済状況にどういう影響を与えているかが十分に解明されていない」と指摘。
「レセプトデータに細かい所得の状況を突合できれば、かなりの部分が解明されるのではないか。ぜひ事実解明の努力、当事者からの意見聴取に加えて、実態解明のためのデータ整備ををしていただければ」と要望した。
袖井孝子・NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事は、「昨年十分な検討を経ることなく結論に至ってしまったこと、忸怩たる思い」とまず述べた。
そして、「これまで高齢者が医療費をたくさん使っていて、現役世代が非常に損しているみたいな世代間対立の構造が広がっていたような気がする。一番大変なのは病を抱えながら生計維持のために働いている人、子育てをしている人、まさに現役世代で病を抱える人たちが一番大変じゃないかとよくわかった」と語った。
その上で「高額療養費で苦しんでいる人はどんな人たちかということを、しっかり把握する必要がある」とした。
渡邊大記・日本薬剤師会副会長は、「継続してずっと飲み続けなければいけない薬剤が高額療養費に当たるかどうかの境目の方々のケースがたくさんおられる。継続服用する場合は負担が大きくのしかかるので、その方々が制度の変更の中でもう服用したくないとか、やめたいとかならないように丁寧な議論が必要」と述べた。
村上陽子・日本労働組合総連合会副事務局長は、「家計への影響などのデータを提示いただきたい。また、高額療養費制度に関してはこの数ヶ月間、様々な論考が様々な場で出ていた。そういったことに詳しい専門家の意見を伺うことも議論の参考になるので、検討いただければ。制度の見直しの理由や必要性についても共有できるような議論も」と求めた。
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