「刑罰に依存しない薬物対策を」 海外の薬物政策に詳しい刑事法学者が日大アメフト部の逮捕騒動に感じる違和感
日本大学アメリカンフットボール部の違法薬物問題で加熱する逮捕報道。
世界が刑罰より、寛容策や依存症者の回復支援に舵を切る中、日本のこの騒ぎが、誰の、何のためになされているのか、違和感を表明する専門家も数多くいます。
その一人、海外の薬物政策に詳しい立正大学法学部教授、丸山泰弘さんに話を聞きました。
丸山泰弘さん(撮影:岩永直子)
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国連勧告に基づき薬物の寛容政策が進むタイ
——先生は最近、タイで開かれた「国際薬物フォーラム(International Drug Forum)」で日本の薬物政策が遅れている問題について発表されたそうですね。
日本が世界の流れに逆行して今から大麻の使用罪を作ろうとしていることや、アジアで最先端を行くのはタイの薬物政策であること、そしてタイの政策もアメリカの政策も課題があることなどを話しました。
タイで開かれた国際薬物フォーラムで日本の遅れた薬物政策について発表する丸山泰弘さん(丸山さん提供)
——タイはどういう点で進んでいるのですか?
基本的にエビデンスに基づいた政策を次々に打ち出しています。「薬物使用者に対する偏見を生まないように、薬物政策は刑罰を支援に置き換えましょう」というのが国連の勧告です。
タイでは王族が敬愛されており、王女の一人がアメリカで犯罪学の学位を取っている人望の高い方です。王女がリハビリ施設などを「こういう観点で作るべきだ」と助言しながら建設するなどし、薬物政策もその土台の上で進んでいます。
国連など海外に研究者を数多く派遣し、国連やWHOの勧告を真摯に国内の政策に反映させています。違法薬物の医療活用を実現させ、大麻の違法成分「THC」も医療目的なら良いとしています。嗜好的な大麻使用は違法となる場合もありますが、必ずしも逮捕するわけではありません。
いわゆる違法と言われる薬物に対してどれだけ寛容であるかが、日本と大きくかけ離れています。
交番の目の前に出店している大麻の販売店(丸山さん提供)
今回の出張で、大麻の販売店を見学に行ったら、すぐ目の前に交番がありました。
交番の警察官に突撃インタビューをして、「大麻販売店が目の前にありますね。これは警察としては許されるものなのですか?」と聞きました。すると「公共の場で吸っていなければOKですよ。ハハハ」と笑って返されました。
「法律上の犯罪」と「社会学上の犯罪」の違い
僕がTwitterで薬物の寛容政策についてつぶやくと、日本人からは「法治国家なのだからダメだろう」と反論がつくことが多いです。
でも、「法律上の犯罪」と「社会学上の犯罪」は少しずれることがあります。「社会学上の犯罪」は、「その社会の人々がダメだと思うこと」になります。
例えば日本でも速度制限40キロの道を、45キロで走れば厳密には道路交通法違反です。でも誰一人として取り締まりません。スピード超過する人も「これぐらいはいいじゃん」と思っているはずです。警察もそれぐらいなら放置しています。
「法治国家なのだから法律を守れ」というのはその通りなのですが、かといって、法律違反を許していることはたくさんあります。タイにおける大麻の自己使用もその枠内なのでしょう。「それぐらいいいじゃん。別に」という感覚です。
また、医療現場で大麻の処方箋を出している医師の話も聞いてきました。
タイの医学部では西洋医学を学ぶのと同時に、漢方や鍼灸、大麻なども専門的な知識を学べるようになっています。西洋医学で効果が見られないような症状の場合、漢方や大麻などを使って治療に当たっているのです。
大麻で一番効果があるとされているのが不眠症で、がんの痛みの軽減、パーキンソン病などにも使われいます。今後、研究が進み、使用範囲は拡大していくだろうと言われています。
そうした処方をしている医師に話を聞いたのですが、「日本では大麻をゲートウェイドラッグ(もっと強い薬物を使うきっかけ作りとなる入り口の薬物)と呼んだり、大麻使用によって統合失調症などの精神疾患が発症しやすくなると主張したりする人がいる」と伝えると驚いていました。
「さすがに医師でそういう人はいないでしょ?」とも言われました。「日本では医者でも言いますよ」と言うとさらに驚いていました。「もともとそういう気質を持っている人がたまたま使用後に発症しただけでしょう。むしろ治療に活用できるし、他の依存性の強い薬物の使用を減らすためにも使える」と説明されました。
タイでは大麻は漢方のような感覚で使われているのですね。日本とは違い、差別感覚がまったくない印象を受けました。
大学や病院に通報義務はある?
——翻って、日本での日大の対応や逮捕後のメディアの大騒ぎについてはどのように見ていましたか?
報道が激しかった時は日本にいなかったので、ネット情報でしか見ていませんが、相当、逮捕した学生や大学を叩いていたようですね。叩く意味は全くないと思います。
大学ですし、ましてや私大ですから、通報義務は必ずしもないですし、逆に守秘義務がかかってきます。薬物は被害者のいない犯罪ですから、学生の立ち直りのために守秘義務が優先されてもいいです。
日大の対応はそんなに間違っていないと思いますし、メディアがこれほど叩く必要はないでしょう。
——メディアは大学当局に対し、「隠蔽していたのではないか」として、なぜ早く通報し、早く公表しなかったのだ、と追及しています。
大学側は教育的観点から学生を守ろうとすることは全く当たり前のことだと思います。通報する意味も、公表する意味もない。
仮に国立大学だとして、国家公務員は通報義務があるのですが、同時に守秘義務も課されています。今回のようなケースの場合、どちらが優先されるかと言えば、守秘義務が優先されてもいいと考えられます。
国立や公立の病院などに「どうしても通報義務のことが気に掛かる」と相談された場合、僕は「いつ通報しろとは書かれていないので、1ヶ月後ぐらいに通報したらいいのではないか」というアドバイスも可能ではないかと考えています。
過去にあった事例では、通報義務について揉めて裁判となったのは、通報した場合に守秘義務が問われるかという観点での争いでした。本人が尿検査を拒否したり、採取しないでほしいと言っているのに、強制的に採尿して覚醒剤反応が出たから通報した場合、それが守秘義務に違反したのではないかという観点で争われているケースです。
その裁判では結局、「医師には通報義務もあるし、通報したのは守秘義務違反ではない」という判決が出ています。
一方、通報義務を怠ったのではないかとして争われたケースは過去にありません。通報しなかった場合の過失は問われたことがないのです。
特に医師に関しては「通報しないのは治療の範囲内だ」と主張できると思います。通報して罰することよりも、医師からすれば患者が通院してくれることが大事です。継続して治療を受けることが必要なのに、医師がすぐ通報する人であれば、患者は安心して相談できません。
医師としては定期的に通院して、もし再使用しても「今、また悪くなってしまって」と患者に正直に打ち明けてもらう方が治療上は大事なことです。通報しないことは、医療行為に必要な範囲と言えます。こうしたケースは事件化されておらず判決が出たことがないので、私見ではありますが。
大学も通報義務はないと思います。今回は結果的に通報はしたと思いますが、それが学生への教育的配慮を重視して遅れたとしてもなんの問題もないのではないでしょうか。いつ通報しろなんてどこにも書いていないのですから。
プロスポーツ界も大麻に寛容に
——大学は教育的な指導を優先して、「今回は不問にするから、止める努力をしなさい」とチャンスを与えることもできたわけですよね。
それはあり得ますよね。未成年の飲酒にしても大学はいちいち通報していないのではないでしょうか?
アメリカのプロスポーツ界では、バスケットボールリーグのNBAも野球のメジャーリーグも、ドーピング項目から大麻を外しました。アメフトリーグのNFLは協会と選手側でまだ議論しています。選手側は「他のプロスポーツでは認められているのだから認めろ」と主張しています。
東京五輪の時、米国の陸上選手が大麻が検出されて、出場資格の停止処分を受けました。その頃、「国際オリンピック委員会」の委員は大麻をドーピングの項目から外すべきなのではないかと発言しています。
プロスポーツ選手は大麻を使用している人が多いのです。最前線で競技をしているアスリートは、興奮した心身を落ち着かせて体を休ませることが必要です。そのために使っているのです。
バイデン大統領が、違法薬物使用での前科をなくし釈放したこともあり、厳罰で薬物を取り締まるのはおかしいとされています。日大がそこまで把握していたのか知りませんが、厳罰化の方に舵を切る日本の方が特殊です。
ハンセン病が隔離する必要がないと分かってからも隔離政策を取り続けて、国家賠償訴訟が起こされた流れと似た印象を受けます。世界中では薬理効果上も、政策上も厳しく取り締まる政策は失敗だと気付かれているのに、今から使用罪を新たに作り、所持で若い人の未来を奪う日本のやり方は禍根を残す可能性があります。
その観点からすれば、日大の対応は何の問題もないし、学生を守ろうとした意味で当然のことでした。
——そもそも海外で、大学の寮で大麻が見つかったとした場合、警察に通報して、記者会見を開き、メディアに顔や名前を出されて糾弾されるということはあり得ますか?
どこの国を指すかではありますが、日本のような対応をする国はほぼないでしょうね。端っこのアジアの国ぐらいじゃないでしょうか?40キロ制限を50キロで走った人に対する感覚だと思います。それについて記者会見して頭を下げたりしないし、隠蔽だと言ってマスコミも糾弾したりはしないでしょう。
「ゲートウェイドラッグ仮説」は言われなくなっている
——「ゲートウェイドラッグ説」については今はどう整理されているのでしょう?
アメリカでは「NIDA(National Institute on Drug Abuse 国立薬物乱用研究所)が、大麻がゲートウェイドラッグという証拠はないから、そうは言えないと表明しています。
元々、精神疾患になる気質のある人が使っていたかどうかの因果関係がはっきりしないし、大麻が違法であるが故に、違法薬物の売人と繋がってしまう問題があるからです。
日大のケースでも、大麻を買った時におまけで覚醒剤がついてきたと言われていますね。裏でこそこそ売買しているから、「よかったらこんなのもあるよ」と渡されてしまう。
アルコールと同じく、合法的な場所で使いたいと思った時に使える、コンビニで買えるなら、おまけで覚醒剤はついてこない。路地裏でわけのわからない売人とつながらないと買えないから、そういうもっと依存性の強い薬物とつながってしまうわけです。
違法にしているが故に、もっと問題のある薬物とつながってしまうのだから、大麻はそこから外すべきなのではないかというのがNIDAの論調です。
もう一つ言えば、日本で大麻が本当にゲートウェイドラッグならば、覚醒剤も増えていかなければいけません。でも日本では今、覚醒剤はどんどん減っています。
——論理的に破綻しているのに、警視庁は電車の中で人気芸人を使って、一度でも手を出せば依存症になるという誤った情報を発信し、「大麻で人生終わらせていいんか?」とキャンペーンを繰り広げていますね。
警視庁公式チャンネルより
むしろスティグマ(偏見)を植え付けていますよね。スティグマを生み出さないように刑罰や威嚇をするのはやめろと国連は言っています。代替するもの、支援などで対応していけ、というのが世界の潮流です。日本は全く反対の方向に向かっています。
米国の「ドラッグ・コート」を厚労省に伝えたが......
——逮捕の仕方、報じ方、これから使用罪を作ろうとする政策の作り方など、日本だけ科学的根拠を無視した方向に向かっている。これはなぜだと思いますか?
僕は2020年4月までアメリカで薬物政策を研究していたので、厚労省の監視指導・麻薬対策課に話を聞きたいと呼ばれたことがあります。犯罪であることを前提とした回復支援のあり方を模索されていたのではないでしょうか。アメリカで行われている「ドラッグ・コート」のあり方を聞きたいとリクエストされたのです。
ドラッグ・コートとは、薬物使用や所持、薬物欲しさで窃盗をした場合など関連罪で逮捕された時に、通常の裁判ではなく、薬物専門の裁判にかけられることを選択できる制度のことを指します。
通常の裁判や通常の刑務所よりも期間は長くなります。なぜならば、回復支援が付随するからです。ドラッグ・コートを選択すると様々な義務が課せられます。例えば、週1回、尿検査を受けなければなりません。日本でいうダルクやマックのような回復支援施設に通うことになります。
そのようにしながら、週1回の裁判に出てきて、「この1週間どうでしたか?」と聞かれる。そして基本的に、考え方や行動の癖を変えていく「認知行動療法」を行なっていきます。再使用したからといって即逮捕ではありません。次にどういう生活をするか考えるためのきっかけ作りにしてもらうのです。
例えば「金曜日の夜はクラブに行ってしまってどうしても使ってしまう」と言うなら、「じゃあ金曜の夜にクラブに行くのをやめましょう」と言われます。翌週、尿検査で陽性反応が出ると「クラブに行ったんですか?」と聞かれ、「クラブには行っていないけど、家に友達を呼んでお酒を飲んでいたら使いたくなって......」と答える。
「それなら次の金曜日は家族と過ごしましょう」と言われ、生活パターンを変えながら、自分の考え方や行動の癖を変えていく。何が薬物を使う引き金になっているかを理解して、少しずつ変えていくわけです。全米で4000近いドラッグ・コートがあります。こういう仕組みを厚労省に伝えたのです。
当然、「厚生(人の生活を健康で豊かにすること)」を司る厚生労働省なのですから、支援やケアの方向に力を入れて欲しいし、人の人生を奪うのではなく回復につながるようなことをしましょうと呼びかけました。
そこで話を聞いてくれた人はわかってくれたと思います。ただ、厚労省の中ではマトリ(麻薬取締官)の声が大きいようで、そこは尊重しなければならないようです。それなら密輸や製造や売人に対する麻薬取り締まりを強化すればいいのであって、末端使用者を締め上げる必要はないのではないかと伝えました。
しかし、その後、厚労省は使用罪を作る方向に議論を進めたわけですから、結局、マトリに押し切られたのではないでしょうか。
回復支援が合理的と共和党も支持
米国では末端の使用者は犯罪ではないとしたわけです。むしろ回復支援の対象だとしています。
——そもそも罰することに再使用抑止の効果はないとわかっているわけですね。
そうです。それこそ米国でも当初はリベラルな裁判関係者がドラッグ・コートに関わっていたのですが、今は毛色が変わっています。僕は全米から7000人ぐらいが集まるドラッグ・コート専門家会議にも何度か出席しているのですが、リベラルではない保守層の厳しい人も増えているのですね。
犯罪は表に出ている一部の部分で、逸脱行動をしたところにだけ光が当たっているわけです。
ずっと無職で、ポケットには1ドルぐらいしかなくて、何日も食べていないから窃盗をするのと、ギャンブル依存で借金を抱えていて、返済の必要性に駆られて窃盗をする。同じ窃盗でも、理由は全然違います。そうなると、その背景に手をつけなければ、逸脱行動は繰り返されます。
だから窃盗だけに光を当てるのではなくて、ギャンブル依存の人にはギャンブル依存の回復を、家がなくて知的に障害があるならそのケアをする。裁判に来た時に、ソーシャルワーカーらが集まってアセスメントして、ケアにつなぐ道を整えて再犯を防ぐ。これがドラッグコートで行っていることです。
薬物でうまくいったので、他の犯罪でもやることになり、ドメスティックバイオレンスやネイティブアメリカンへのケア、退役軍人のためのケアなどにも広がっています。
——罰してもうまくいかないから、背景に踏み込んで、逸脱行動につながる人生の傷をケアしていくという手法はすごい発想の転換です。薬物大国であるからこそ、到達した手法ですね。
そうなんです。納税者たちが納得する政策でないと批判されるのがアメリカです。こういう政策はリベラルな民主党だけでなく、保守系の共和党も賛同しなければなかなか進みません。ドラッグ・コートは両方が賛同している政策です。
共和党側からすると、お金をかけて再犯が減らないのは馬鹿らしい。より使用が減るための政策を取るべきだと考えているわけで、リベラル層のように人権上必要だからと考えて支持しているわけではありません。
貧困者が何度も犯罪を繰り返し、それに税金をかけるのはもったいないと考えて、ドラッグ・コートを支持している。ドライで合理的な考え方で賛成しているのです。
逮捕、罰を与える人は、薬物使用者を増やしたいの?
——全てそのまま当てはめられるわけではないにせよ、なぜ先行している国から日本は学ばないのでしょう?
わからないです。僕に批判してくる人にもよく尋ねます。「非犯罪化した方が薬物使用は減ると言われているのに、頑なに犯罪化しようとするのは、薬物使用者を増やしたいからなのですか?」と。
厚労省にドラッグ・コートのヒアリングを受けた2020年の時も、「今ならアジアで先頭を切れますよ」と伝えました。タイの大麻非犯罪化の法律は2021年に改正し、22年から施行でしたから。
——日本の対応は、「どんなエビデンスがあろうと、ならぬものはならぬ」という感情的な反応のような印象を受けますね。「ダメ。ゼッタイ。」ですし。
教育の影響力はすごいと思います。タイやポルトガルなど寛容的な政策に切り替えた国を見ると、刑罰とケアの両方を走らせた後に、刑罰を諦めているのです。
完全禁止ではなく、使用しながらでもその人の健康被害を減らしていく「ハーム・リダクション」の方向を目指すとしても、日本が一気に180度変わるとは思えません。
まず医療目的の大麻使用を進め、刑罰の中で回復支援をするなどの段階を踏んでから、一歩ずつ進むしかないのかなと諦めのような気持ちが出てきています。
メディアによる「私刑」、考えろ
——少なくとも政府や行政を監視する役目があるメディアが、唯々諾々と国や司法当局の思惑に疑問を抱かず、それに乗っかりまくる報道をしてどうするんだ、と思います。
本当にそう思います。京都成章高校のラグビー部や東京農業大学のボクシング部が大麻で逮捕された報道が出ましたね。それに対して大手新聞の記者が「若い人がこんなに簡単に手を出せる状況に驚いています。インタビューしたい」と取材を申し込んできました。
しかし取材申込書に書かれている質問に疑問を感じたので、「事前に僕の書いたものを見てもらって、それでも聞きたいならお受けします」と返信しました。それも読んだ上で話を聞きたいということだったので、40〜50分インタビューに答えました。
しかし、結局、その記事に僕のコメントは載らず、「ダメ。ゼッタイ。」一辺倒のような内容になっていました。「大麻はゲートウェイドラッグだ」という捜査当局の言葉をそのまま疑いもしない。メディアは責任を果たしているのかなと疑問に感じます。
罰することが良いことだと考えている人は、刑罰にすると本当に減るのか検証すればいい。そもそも何人使っているのかさえ、正確に研究はされていないのが日本です。
——逮捕や刑罰は更生につなげる目的もあるはずですが、ただ、懲らしめ目的一辺倒になっている気がします。
どうも良かれと思って罰を考えている人もいるようです。逮捕を治療や支援につなげるきっかけにすればいいのだと考えている。
でも今の日本では逮捕されただけで、これだけとんでもない犯罪をしでかした犯人扱いされて、家に家宅捜索が入って、実名も顔も晒される。不起訴だとしても、きっと就職もままならないでしょう。こんな国で、「回復支援のためのケアをする」と言っても、できるはずないじゃないかと思います。
——メディアによる「私刑」が行われていますよね。
そうです。日大の子たちもあんなにエリートでスポーツもできる若者たちが、このままだと就職できずに闇の世界に入りかねません。日本で薬物でつまづいた若者は、日本を出て、タイやアメリカなど、海外で活躍していただくことしかできないのかもしれません。
日本は、刑罰に依存しない薬物対策をとってほしいと思います。刑罰でなんとかできると思いすぎです。
【丸山泰弘(まるやま・やすひろ)】立正大学法学部教授
研究者(刑事政策/犯罪学)。立正大学法学部教授。「市民の、市民による、市民のための刑事政策」をモットーとしている。刑事政策・犯罪学を専門とする日本で唯一の民間の研究所である龍谷大学矯正・保護総合センターで博士研究員などを経て2011年より現職。2017年にUniversity of London、2018 – 2020年にはUC Berkeleyで客員研究員を歴任。日本犯罪社会学会理事、日本司法福祉学会理事。単著「刑事司法手続における薬物依存治療プログラムの意義」(2015年)〈守屋研究奨励賞受賞(2016年)〉など
朝の連続ドラマ小説は毎回録画し何度も見直すほどのGeek。主な業績はタモリ倶楽部「空耳アワー」のTシャツ。
いかがでしたでしょうか?海外が、依存性が強くない大麻に寛容政策を取り、薬物政策全般についても回復支援に舵を切る中、使用減少につながらない厳罰化に向けて進んでいる日本の特殊な状況を話していただきました。日本のメディアも捜査当局の言うことを鵜呑みにするのではなく、最新のエビデンスや勧告に基づいた報道を考えてほしいと思います。
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