最後の手段は手術?当事者である記者が専門医に真剣に聞いた変形性膝関節症の治療法

変形性膝関節症で仕事や生活に支障をきたしている筆者。ヒアルロン酸注射、湿布、運動で頑張っていますが、最終手段はやはり手術なのでしょうか?
岩永直子 2025.07.02
誰でも

51歳の筆者が現在進行形で悩まされている変形性膝関節症。

痛み止めやヒアルロン酸の注射、運動療法など、手術はしない保存療法がうまくいかなかった場合、次はどんな治療があるのか。

前編に引き続き、香川大学医学部整形外科学講座の主任教授、石川正和さんに聞いた。

取材に答えてくださった香川大学整形外科学教授の石川正和酸

取材に答えてくださった香川大学整形外科学教授の石川正和酸

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年齢が若く、症状が比較的軽ければ関節を温存する手術から

——今、私はヒアルロン酸の注射と痛み止めの湿布、そしてリハビリと理学療法士さんが教えてくれた筋トレで乗り切ろうと努力中です。ただ、これで痛みが治まらなかった場合は、やはり手術が必要になるのでしょうか?

51歳であれば、人工関節に置き換える手術はまずやらないので、O脚を矯正する「高位脛骨骨切り術(※)」という手術を行うことがあります。すねの骨に切り込みを入れ、人工骨を入れてO脚をまっすぐになるように矯正し、プレートとネジで固定する手術法です。年齢と膝がまだ綺麗な状態から考えると、まずはそれをやるのが一般的だと思います。

石川正和さん提供

石川正和さん提供

※「変形性膝関節症診療ガイドライン2023」での検討では、「身体活動性が高い、あるいは比較的年齢の若い変形性膝関節症例に特に有効」と評価されている。

——それは人工関節に置き換えるのを延期させてくれる手術と考えていいのでしょうか?

そうですね。膝関節の手術の中には、「関節温存術」というジャンルがあるのですが、ヨーロッパや日本でよくやられていて、アメリカも結構行うようになっています。

——私の親戚がやったことがあるのですが、レントゲン写真を見るとちょっと怖いですよね。

正直、地方で患者さんに説明するとドン引きされます。「今はそれはいいので、先々もっと酷くなったら人工関節を入れます」と言われることもあります。

自分の関節を温存できることが最大のメリットですが、入院期間がある程度長いですし(1ヶ月〜2ヶ月)、人工骨が定着するまで社会復帰が遅れるデメリットもあります。

——その次の選択肢としては、部分的に人工関節に置き換える方法(人工膝関節単顆置換術 ※)でしょうか?

※「変形性膝関節症診療ガイドライン2023」での検討では、「病変が内側あるいは外側大腿脛骨関節に限局し、かつ前十字靭帯機能に問題ない変形性膝関節症症例には、痛みの軽減、ADL(日常生活動作)の改善に有効で、QOL(生活の質)の向上にも有用」と評価されている。

石川正和さん提供

石川正和さん提供

そうですね。香川では結構、その症例が多いです。2024年に自分が執刀した人工関節の手術のうち、4割は部分的な人工関節置換術でした。

——いきなり膝関節全体を人工関節に置き換える「人工膝関節全置換術※」は行わないものなんですか?

変形性膝関節症診療ガイドライン2023」での検討では、高齢者の内側および外側の進行した変形性膝関節症症例には、痛みの軽減、ADL(日常生活動作)の改善に有効で、QOL(生活の質)の向上にも有用と評価されている。

石川正和さん提供

石川正和さん提供

それは膝関節の壊れ方にもよります。膝の伸びや曲がりが極端に悪いとか、靭帯が切れてしまってなくなっている場合は、いきなり関節全体を置き換える手術もします。

そもそも部分的な人工関節への置き換えは、条件がたくさんあります。どなたにもできる手術ではないし、比較的状態が良く、条件が整っていないときちんと部分的な置き換え手術は成績を出すのが難しいです。

新しい治療法「再生医療」

——手術はできる限り避けて、保存療法でギリギリまで粘りたいのですが。

そういう人のもう一つの選択は、再生医療です。色々な再生医療があります。

全国で身近にやっているのは、患者さんの血液を採取して、その中から血小板を取り出して濃縮して膝関節に入れる「多血小板血漿(PRP)療法(※)」という方法です。

※「変形性膝関節症診療ガイドライン2023」での検討では、「PRPの鎮痛効果および身体機能・ADL/QOL改善効果に対する信頼に足る効果判定はできなかった」としており、高額なコストが効果に見合うものかについては「今後とも詳細な検討が必要」とされている。

もう一つは、血液から血小板だけでなく、白血球も混ぜて同じように膝関節内に入れる方法です。この二つが自分の血液でできる簡単な再生医療です。

いずれも自費診療で5〜20万円前後かかります。

——それを入れると、何が再生されるのですか?

再生と言いますが、要は膝の組織が治るのを少し助けるような効果が期待されています。

——それによって半月板や軟骨が蘇ったりはしないのですね?

そこはブラックボックスなんです。軟骨は一度すり減ると治らないと言われているし、それを注入した後に、写真を撮ったり組織を採取したりして、「軟骨が再生されました」と確かめたような論文はありません。やってはいるけれど、本当に再生したかどうかは誰もわからないのです。

——保険が効いていないことからも分かるように、まだエビデンスが確立された治療法ではないわけですね。

そうですね。まだ自由診療です。ただ、ポテンヒットのような効果の報告はあちこちで出ていて、国も無視できないうねりになっています。だからAMED(日本医療研究開発機構)で血小板による再生医療のエビデンスを出すための研究資金も用意されています。

ここ数年は大学や研究期間がエビデンスを集めて、本当にいいものなのか確かめようという動きになっています。エビデンスが今はあるとは言えないのですが、このような流れもあり、この多血小板血漿による再生医療は既に一般市民に受け入れられつつあります。

他に、再生医療として、東京大学整形外科学講座の齋藤琢先生が行っている、お腹の脂肪を採取して、そこから「間葉系幹細胞」という、骨や軟骨や脂肪になる元の細胞を分離・培養して関節内に注入する方法も試みられています。こちらも自費診療で、非常に高額なのでお金に余裕のある人が効果や費用について十分説明を受けた上で、受けるような治療になっています。

僕は島根、広島で働いてきたのですが、島根、広島の整形外科学教室を主宰された越智光夫先生が、軟骨の再生医療を開発、発展された先生です。その「自家培養軟骨細胞移植術」というものが、17年かけて保険に収載されました。自分の軟骨を採取して、培養して、再び関節内に注入する治療です。

整形外科初の再生医療製品に長年関わってきて、まだまだ道半ばですが、軟骨がなくなった人に移植できる唯一の技術なので、確実なものにしたいと思っています。

——保険適用されている再生医療ということは、それはエビデンスが確立しているのですね。

国が認めた再生医療です。ただ、これも走れなかった人が走れるようになるといった劇的な効果があるわけではない。僕も効果にはまだ全然満足していません。傷も大きくなるので、患者さんの体の負担が大きいところも改善する必要があります。

他に大阪医科薬科大学の大槻周平先生が人工的に作った半月板を移植する治療も研究されています。広島大学では蚕のタンパク質であるシルクとヒトのタンパク、エラスチンを遺伝子組み換え技術で大腸菌で製造したシルクエラスチンを用いて半月板治癒促進をることを目指す治験も実施済みで、治療現場で使用できるように次の治験を準備中です。

痛みを感じる神経のラジオ波焼却は?

——新しい治療といえば、膝の痛みを伝える神経を焼いて痛みを取る「末梢神経ラジオ波焼却療法」はどうでしょう?

あれは今流行っているのですよね。膝の痛みを感じる神経は何本かあるのですが、針をそこに刺して、生焼きにする方法です。僕はやらないのですが、神経の知覚そのものを奪ってしまう治療です。

つい先日、日本整形外科学会でもこの治療について発表がありましたが、確かに痛みはなくなるようです。そして、痛くなくなるから歩くスピードも上がる。

でも、変形は進むのだそうです。壊れた状態で、たくさん歩いてしまうからです。病気は放置したままなので、それはどうなのかなと僕は疑問に思います。

もちろん絶対手術はしたくないという患者さんの痛みを取ってあげる意味では、いい手段なのかもしれない。完全否定するものではありません。でも変形がますます進んでしまったら、根本原因がますます悪化してしまう。痛みの回路を切っただけで、治したわけではないことに注意が必要です。

グルコサミン、コンドロイチン......サプリメントの効果は?

——膝の痛みというと、よくサメの軟骨とか、グルコサミンとか、コンドロイチンとか、サプリメント(※)が大々的に宣伝されていますね。あれはどうですか?

※ガイドラインでは関連論文を検討した上で、変形性膝関節症に対するサプリメント(グルコサミン、コンドロイチン、グルコサミンとコンドロイチンの併用およびビタミンD)の鎮痛・機能改善効果、ADL(日常生活動作) \QOL(生活の質)の改善効果は認められず、軟骨保護作用も明らかではなく、これらの有効性はすべて否定的であると結論づけている。

これも講演をするたびに質問が出るので答えているのですが、その時にもいろいろな論文を調べました。僕は医者になってから20数年経ちますが、エビデンスがないのですよね。

口から取って膝に効くサプリメントは、今のところないです。飲んでもそれほど害はないと思いますが、医学的根拠はないです。テレビCMがバンバン流れているのを見ると、相当儲かるのでしょうね。

階段の下りは痛い足から

——普段の生活で気をつけたほうがいいことを教えてもらえますか?階段を下るつらさをこの病気になって初めて実感しました。

階段は上るのはいいのですが、下りは本当に気をつけなくてはいけません。膝にものすごく負担のかかる動作です。

——エレベーターやエスカレーターを必死になって探していますが、やむをえず階段を使わなければならない場面もあります。降りる時のコツのようなものはありますか?

降りるときは、悪い方から下ろすのがコツです。

——え?逆だと思っていました!

試してみたらいいですよ。悪い方を上にして、いい方を下ろす時、必ず悪い方は膝が曲がった状態になるでしょう?その時にめちゃくちゃ膝に負荷がかかります。耐えられないと思います。

膝の痛みが強い人は、そこで膝崩れして、転げ落ちてしまうこともあります。だから必ず悪い方を先に下ろして、いい方で体の上下運動をするように指導しています。

上がるときは逆です。健康な方から足をあげてください。

——悪い方を庇って歩いていると、良い方も痛くなったりすると聞いたことがあるのですが、両膝が悪くなってしまう人もいるのですか?

そうですね。そうなるともうかなり階段は難しいです。なるべく階段は避けるか、後ろ向きに降りるようにするというのも一つの手になります。

——避けた方がいい動きはありますか?

やはりしゃがまない。また不用意にスクワットをやらない方がいいです。正しい姿勢でスクワットをするのは難しいので、鍛えようと思ってかえって膝を痛めてくる人がいます。

——太ももの筋肉を鍛えようと思って、かえって膝を痛めるなんて悲しいですね......。

スクワットは膝にもかなり負担をかける運動なんですよ。

——膝につけるサポーターはどうなのでしょう?

僕はあまりおすすめしていません。固定化すると皿が動かしにくくなるので。無碍に否定はしませんが、あれを長くつけると腿の筋肉が痩せます。だからサポーターに依存しすぎると、足がガリガリになります。

——私、レストランのホール担当のアルバイトもしているのですが、いわゆる立ち仕事ってあまりやらない方がいいのでしょうか?5時間以上働いた後は、ものすごく痛むのですが。

やはり立ち仕事というか、同じ姿勢をずっと取ることは、膝が痛くなる要因の一つだと思います。膝を動かすことは大事なのですけれどもね。

——店の中を歩き回るので、膝は動かしているんですよ。

歩くといっても、膝の中はほとんど動かしていないと思いますから。

——なるほど。それでは痛いときはあまり立ち仕事は無理しない方がいいのですね。

そうですね。

予防法はあるの?

——私はすでに病気になってしまったのですが、効果的な予防法があったら教えてください。

インソールはその一つですし、女性はハイヒールは避けたほうがいいです。ヒールを上げると膝にかなりの負担がかかります。かかとを上げると膝は曲がります。膝が曲がると半月板にすごく負担がかかる姿勢で歩くことになりますので、正しい歩き方ができなくなります。

職場環境を変えてもらいたいと思うのは保育士さんです。子供の面倒を見るのはしゃがみますよね。膝がかなり酷使されています。半月板が壊れた30代、40代の保育士さんもよく診ます。

今、AI搭載の足に巻く機器を使って、足のO脚の程度や、膝を痛めるリスクをいち早く察知する研究が行われています。

歩数を測るのも大事ですね。スマホで自動的に計測されていると思いますが、1万歩を超える歩行は膝に負担がかかります。

——ダイエットのために1日1万歩を目指していました。

膝を痛めている人は4000〜5000歩で十分です。歩くより、自転車を漕ぐような運動の方が足には負担がかからないと思います。

今後はどうしたらいいのか?

——そろそろまとめに入りたいと思います。直接診察を受けていないので恐縮なのですが、私の状況だと、このまま運動療法やヒアルロン酸で十分痛みが取れなかったら、MRIで一度膝の中の状況を評価した方がいいわけですかね。

そうですね。MRIと足の全長のアライメント(骨の並び方)をレントゲンでみて、どういう治療の選択肢があるかをきちんと診てもらった方がいいと思います。

——その結果次第では骨切りなどの手術も考えた方がいいわけですか。

その前にインソールも使ってみたらいいと思います。

——私が通っているクリニックでインソールを全く提案されないのですが、こちらから言ってみたほうがいいのですかね?ドラッグストアで買ったものはあるのですが。

ドラッグストアで売っているものがどんなものかわからないので、なんとも言えないです。

足底板はあまり顧みられていない治療なのですが、いい治療なんです。科学的な効果も可視化でき始めていますし。正しいものを使わないと効果が出ないと思うので、足全体をカバーできるようなインソールを扱っている医療機関に行くのがいいのでしょうね。

(終わり)

【石川正和(いしかわ・まさかず)】香川大学医学部整形外科学講座主任教授

1998年3月、徳島大学医学部卒業。島根医科大学で博士号を取得後、広島大学、米国 Cardiovascular Research Institute, Case Western Reserve University (Cleveland, OH) Senior research associateを経て、2019年4月、広島大学大学院医系科学研究科人工関節・生体材料学寄附講座准教授。2022年9月、香川大学医学部整形外科学教授に就任し、現在に至る。

日本整形外科学会専門医、指導医。再生医療認定医。専門分野は、膝関節、再生医療。

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