変形性膝関節症ってどんな病気?どんな治療がいいの?当事者の記者が、専門医に根掘り葉掘り聞いてみた。

変形性膝関節症と診断されて、大変な思いをしている私。なんと!整形外科の専門医を紹介してもらいました。この病気について、根掘り葉掘り聞いてみます。
岩永直子 2025.07.01
誰でも

記者は51歳。5月初めから膝の痛みを覚え、整形外科を受診したところ、「変形性膝関節症」と診断された。

膝一つ痛むだけで生活や仕事でできないことが増え、とても困っている。そんなことを発信していたら、「この先生に相談してみたらどうですか?」と、整形外科の専門医を紹介してもらった。

膝関節や再生医療を専門とする香川大学医学部整形外科学講座主任教授、石川正和先生だ。

変形性膝関節症は、40歳以上の55%がかかるありふれた病気だ。

相談するだけではもったいない。取材して記事にしよう。公私混同インタビュー、始まります。

今回、丁寧に答えてくださった石川正和先生

今回、丁寧に答えてくださった石川正和先生

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何が原因で変形性膝関節症になるの?

——先月初めから、右膝の内側に痛みを覚えるようになりました。最初は朝、起きる時に痛いかな、ぐらいだったのですが、どんどん痛みが増して今では足を引きずるぐらいに。整形外科のクリニックを受診して「変形性膝関節症」と診断されました。そもそもこの病気、何が原因でなるのでしょう?ちなみに私は昔からO脚です。

まず今ご自身でおっしゃったO脚というのは重要な因子です。

O脚になると、体重が、どうしても膝の内側にかかるようになります。足の骨は外側に向いているのですが、体重がかかる線、便宜上の荷重の通り道は股関節の中心から足首の中心までの線上にあると言われています。そのため、O脚になるとどうしても内側中心の荷重になります。

——私、昔から靴底の減り方が偏っていたんです。右側の足は外側が減りがちで。

小指側に足が傾くので、外側に体重がかかりやすくなるんですね。

——よく、加齢と肥満も原因と書かれていますが、私はまさに51歳で肥満なんですよね。

一応、女性(※)と、体重が多い人は変形性膝関節症になりやすいと統計学的なデータが出ています。加齢も要因の一つです。

※変形性膝関節症の男女比は1:4で女性に多い。

——長く膝を使っているからなるのですかね?

膝の中の構造がとても大事になってきます。関節の中には、「半月板」というクッションの役割を果たすものがあります。これはコラーゲンの塊なんですね。いつも患者さんには、「若い時の半月板はイカの刺身だよ。でも年を取ると一夜干しになってくるし、壊れるとスルメになっちゃうんだよ」と説明しています。

日本整形外科学会ウェブサイトより

日本整形外科学会ウェブサイトより

——スルメ!私の半月板はスルメになっちゃっているんですね!

スルメって裂けるじゃないですか。半月板も裂けてしまうんですね。お肌と一緒で、年齢とともにくすんで弱っていくわけです。

——先生、結構グサグサきますね......。

(笑)これが一番患者さんにわかりやすい説明なんです。そして、半月板は一生に一個で、一般的に自然には再生しないことが研究で明らかになっています。生まれてから死ぬまで同じものを使わなければいけない。ビンテージマンションのようなものです。鉄筋コンクリートはそのままなんです。

——変形性膝関節症って、関節と関節の間の軟骨がすり減って、骨同士が当たるから痛いと思っていたのですが、半月板が裂けるのも原因になっているのですね。

教科書にも「軟骨がすり減る」と書いているので仕方ないのですが、この10年ぐらいで病気の概念が変わってきています。力学的な負荷で最初に壊れてくるのは半月板ではないかと今はみんな考え始めています。

——その半月板が壊れると、どういう風に悪さをするわけですか?

いつも患者さんに言うのは、車のタイヤがパンクしたと思ってくださいということです。空気が減ってパンクすると、ガタガタするし、直接その衝撃を吸収する材料もなくなります。

——健康な足だと、半月板が膝にかかる衝撃を吸収しているわけですか?

吸収というのはちょっと言い過ぎで、安定化させる車の輪留めのようなものです。圧力を分散させるために半月板があって、軟骨は骨の表面にあるコーティングなのですが、そのコーティングの軟骨と半月板とが相まって、膝を安定させるクッションのように衝撃を吸収しています。とりあえずそういう構造の中で、膝は伸びて曲げる運動をしています。

——その両方が変形しているのが膝関節症なのですか?

今は、半月板がまず破綻すると言われています。そうすると、タイヤの空気がいきなり抜けたり、破裂したりします。軟骨は最初は持ち堪えるのですが、毎日の繰り返しの動作でだんだんすり減っていく。大事なことは軟骨も一度すり減ると、自然には治らないことです。

痛みはなんで出てくるの?

——それで痛みが出てくるのですか?

軟骨そのものには神経がないので、軟骨が壊れたから痛いわけではないんです。

——一般的な解説書を読むと、軟骨のかけらが「滑膜」という周りの膜の部分を刺激すると炎症が起こると書いていますね。

そうですね。滑膜という組織にはいっぱい血管や神経があるので、そこを刺激すると痛みが起こります。そして半月板にも神経と血管が伸びているので、半月板も切れると痛いのです。

——なるほど。私の痛みは、どちらが原因の痛みかはわからないですね。

そうですね。入れ物である袋の方に神経などがあって、中にあるものが壊れてもそこと痛みは直接関係ない。軟骨が剥がれて痛い時は、もう骨まで壊れている時です。

どんな写真を撮るべきか?

——ところで先生、これは私の右関節のX線写真なのですが、これを見ても素人には何が悪いのかわからないんです。

これはあまりいいX線写真ではないですね。右側が内側なのですが、右側の隙間が少し狭くなっています。半月板の機能がちょっと落ちているよというサインではありますね。

岩永の右膝関節のX線写真

岩永の右膝関節のX線写真

ただこのX線があまりいい格好で撮れていない。MRIの画像があるともっとよくわかりますね。

——半月板が損傷しているのか、軟骨がすり減っているのかは、MRIを撮らないとわからないのですね。

わからないですね。X線でわかるのは間接的なことで、X線で映らない軟骨と半月板がなくなれば骨と骨がくっついてしまうので。関節裂隙(関節と関節の間の隙間)がなくなる、狭くなるのは変形性膝関節症のサインです。

このレントゲンでは狭くなっているのはわかるのですが、僕はいろいろな情報が得られるX線写真を撮ります。

——先生はどういう写真を撮るのですか?

まずはO脚の程度が知りたいので、「下肢全長」と言いますが、股関節から足首まで丸々映るX線写真を撮ります。それでどの程度のO脚なのかをまず把握する。

石川正和さん提供

石川正和さん提供

そしてもし可能であればMRIを撮ります。半月板の状態を見るためです。つまりタイヤがパンクした状態で、車のホイールにどれぐらいのダメージがあるかを知りたいからです。

半月板を守れ!

——MRIでは半月板が映るのですね。

全部映ります。骨の中の情報もわかるので、半月板が壊れたことでどこにどのぐらいのダメージがあるかもある程度わかるんですよ。

石川正和さん提供

石川正和さん提供

——軟骨の状態もわかるのですか?

患者さんにとって何が一番大事なのか見極める上で軟骨を評価はしていきますが、それだけでは痛みの原因の説明にならないことが多いので全体を見るようにします。

「軟骨がすり減る」って患者さんにとってわかりやすい言葉なのですが、病気の状態を説明できているわけではありません。患者さんには、こちらが提案する治療に協力してもらわなければならないので、そこはきちんと説明したい。

ですから、MRIを撮って、半月板がどのように壊れて、軟骨と骨にどのような影響を及ぼしているかを評価して説明する必要があるんです。

——先ほどから話を聞いていると、半月板がかなり大事なんですね。

めちゃくちゃ大事です。今、世界的に「Save the Meniscus(半月板を守れ)」というスローガンが叫ばれていて、半月板に注目が集まっています。

——しかし、先ほどおっしゃったようにスルメ状になるともう戻らないのですよね。

自然には治りません。裂け方にもよるのですが。保存療法(手術はしない治療法)で様子を見てもいい裂け方もあるし、3ヶ月以内に手術をした方がいい切れ方もあります。その評価をMRIできっちりやるのが、関節の専門医の腕の見せ所です。

治療法は?痛み止めとインソールを提案

——その見極めた状態にもよるのでしょうけれど、標準的にはどんな治療をするのですか?

これも地域差があると思うのですが、もちろん痛みがある時は痛み止め(NSAIDs 非ステロイド性抗炎症薬)は使ってもらいます。長期間でなければ、ロキソプロフェンかセレコキシブを出しています。

——飲み薬(※)ですか?

※「変形性膝関節症ガイドライン2023(以下ガイドライン)」では、エビデンスの強さはB(効果に対して中程度の確信)、推奨度は2(弱い、実施を提案)

そうですね。湿布(※)も使います。湿布は日本のいい文化で、濃度の違う湿布がいろいろ出ていますから、積極的に出すようにしています。

※ガイドラインではエビデンスの強さはB(効果に対して中程度の確信)、推奨度は1(実施を推奨)。

もう一つ、僕が最初に患者さんに提示するのは、「足底板」という足の裏につける装具です。

——靴の底に入れるインソールみたいなものですかね?

そうです。まさにインソール(※)です。みなさん「膝が痛いのになぜインソール?」と言われるのですが。

※ガイドラインではエビデンスの強さはB(効果に中程度の確信)、推奨度は2(弱い、実施を提案)

——何か独自の形になっているのですか?

小指側が分厚くなっています。O脚の人は膝に体重をかけた瞬間に、外側に足がたわむんです。本人はなかなか気づいていないのですが、三次元動作解析装置などで見ると、足をついた瞬間に、O脚が強くなるんですね。インソールで小指側を高くすると、その横ぶれが少なくなる。

石川正和さん提供

石川正和さん提供

——私がリハビリに通っている理学療法士さんにも、「外側に横ぶれしている」と言われました!

はい、そうなんですよ。それをインソールで少なくすると、半月板へのストレスが減ります。僕が広島大学にいる時から、理学療法士の先生と一緒に研究していて、インソールで半月板の動きがコントロールされると科学的に証明しています。だからお金が許すのであれば、使ってもらいます。

——インソール、そんなに高いのですか?

保険がきくので3割負担や2割負担で買えるのですが、それでも自己負担が4000円ぐらいするんです。患者さんの経済事情はいろいろあるので、「私はそれはいらないです」と言う人もいます。

——それは個人個人の足に合ったものをオーダーメイドするんですか?

そういうものもあります。いろいろな種類があります。こういう整形外科の装具療法は、家内工業の小さい会社が手作業で作っているものも多いのです。

それを大きく変えたのが島根県の石見銀山の近くにある中村ブレイスという素晴らしい会社です。株式会社でシリコン製のインソールを作って、全国におろしています。僕も共同研究しているのですが、とても質の高い製品を作っています。

こうしたインソールをとりあえず1ヶ月試してくれと言います。それで痛みが取れたら、それでいいと思います。

ヒアルロン酸注射、効果はあるの?

——私は週1回、5回ヒアルロン酸を関節内に注射(※)しています。

※ガイドラインではエビデンスの強さはB(効果に対して中程度の確信)、推奨の強さは2(弱い、実施を提案)

それもやっています。半月板の損傷があまり酷くなく、軟骨も保たれているようならば、ヒアルロン酸の効果はある程度期待できます。要するに、壊れてしまったベアリングにいくら油をさしても治らないけれど、それほど壊れていない状態の時にメンテナンス的に油をさすと調子が良くなりますね。初期であればあるほど効果があります。

——ところで、ヒアルロン酸ってなんで膝関節に効くのですか?

ヒアルロン酸は関節の中の成分の一つなんですよ。だからまさにサプリメントです。補充する感じです。注射した後、体の中に1週間残るか残らないかぐらいなのですが、動物実験でも一応、炎症を抑える効果がみられています。ネバネバした液体なので、まさに潤滑油を足すイメージです。

ただ僕もやることはやるのですが、膝に針を刺されるのを嫌がる患者さんもいるので、あまりゴリ押しはしません。医者も関節の中に針を刺すのはあまり気持ちのいいものではありません。患者さんが家に帰ってどんな生活をするのかわからないので、感染が起きることも嫌ですから。

本当に初期で効果が期待できそうな時だけ、5回通ってみますか?と聞いてみる感じです。

——私は4回目をうち終えたところですが、3回目をうったあたりから、少し痛みが和らいできました。初期なんでしょうね。

先ほどのレントゲン写真では、そこまで関節が破壊されている感じには見えないですね。骨の変化がそこまでではない。どんどん壊れてくると、骨に金平糖のような棘(骨棘)ができてくるんですよ。

——なぜそんなものができるのですか?

半月板が横ぶれし出すと、それが刺激になって骨ができてくるんです。そこまで悪化すると、次の手を考えなければいけません。

——ステロイドを関節内に注射(※)するのはどうですか?私の主治医はかえって膝を痛めるからやらないと言っています。

昔はよくうっていたようですね。僕は嫌いなので元々うちませんでしたが、痛みが劇的に良くなる人もいます。しかし、世界的にステロイドを注射すると軟骨が壊れるという合意ができつつあるので、あまり勧められていないと思います。

※ガイドラインではエビデンスの強さはC(効果に対する確信は限定的)、推奨度は2(弱い、実施を提案)。

リハビリ、運動療法は?

——私、理学療法士の先生のリハビリも受け、先生から指導された方法で、膝関節を支える太ももの筋肉(大腿四頭筋)を鍛えるための運動療法(筋トレ)(※)も行っています。それはどうでしょうか?

※ガイドラインでエビデンスの強さは(効果に対する確信は限定的)、推奨度は1(実施することを推奨)

それもとても大事です。僕らが推奨しているのは、大腿四頭筋という太ももの前側の筋力をしっかり鍛えることです。痛みがあるとどうしても足を動かさずに筋肉が痩せていくので、ますます膝関節を支えることができなくなります。膝関節の機能を保つためにも、筋肉を維持することが大事です。

また、膝の曲げ伸ばしをすることで、関節の循環が良くなると言われています。そういうことも推奨しています。

——痛いからといって、安静にしていてはいけないのですね。

もちろんとても痛い時に動かすのは難しいと思うので、タイミングの問題だと思います。痛み止めを使ってある程度落ち着いたら、足を動かすトレーニングをすることが必要です。

——やはり体重は落とした方がいいのでしょうね(※)?

※ガイドラインでエビデンスの強さはC (効果に対する確信は限定的)、推奨の強さは2(弱い、実施を提案)

はい。でも僕はいつも患者さんに痩せろとは言いません。痩せるってとても難しいし、特に膝が痛い人にとって痩せるような行為は拷問なので。

だから、とりあえず体重を毎日測って維持しましょうと言っています。これ以上太らないように。 2キロ痩せると、膝の痛みが結構良くなったという患者さんが多いです。1キロでも2キロでも減ると、膝の負担は意外と少なくなるのかなと伝えています。

(続く)

【石川正和(いしかわ・まさかず)】香川大学医学部整形学講座主任教授

1998年3月、徳島大学医学部卒業。島根医科大学で博士号を取得後、広島大学、米国 Cardiovascular Research Institute, Case Western Reserve University (Cleveland, OH) Senior research associateを経て、2019年4月、広島大学大学院医系科学研究科人工関節・生体材料学寄附講座准教授。2022年9月、香川大学医学部整形外科学教授に就任し、現在に至る。

日本整形外科学会専門医、指導医。再生医療認定医。専門分野は、膝関節、再生医療。

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