夏だけど......今、気をつけなければいけない感染症は何?峰先生に解説してもらいました
猛暑が続く中、実はさまざまな感染症が流行しています。
今、どんな感染症に気をつけた方がいいのか。
感染症に詳しい医師で薬剤師の峰宗太郎さんに解説してもらいましょう。

峰宗太郎さん。胸ポケットにはマスクを忍ばせていました。12キロダイエットに成功したそうで羨ましい......
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新型コロナウイルス感染症が流行中
——夏なのに感染症があれこれ流行っていますね。
1番流行ってるのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ですね。実は今、第13波とも呼ばれる流行の波が来ていて、ウイルスの変異も続いています。中国や韓国でもすごく流行っています。日本でも人流は当然増えていますし、暑いから屋内のイベントも増えています。
皆さん、ワクチンをうってから時間がたっていたり、マスクをしなくなってきて全体的に防御が緩んでいたりすることもおそらくあって、大きな流行が起きています。
基本的にはワクチンを複数回接種していたり、何回も感染してる方がたくさんいたりするので、重症化率は決して高いものではありません。医療逼迫も新型コロナウイルスだけでは起きていません。ただ、クラスター(集団感染)が発生し、クリニックレベルでも定点観測レベルでも病院レベルでも、感染者がとても増えています。
だから、引き続き、新型コロナには警戒が必要だよと伝えたいですね。
——コロナが流行っているよ、というと、「全然知らなかった」という人が多いですね。メディアでも報道されなくなっています。先生は流行レベルを何でチェックされていますか?
厚生労働省の定点報告が一番大事ですが、モデルナのダッシュボードなども見ています。

モデルナ「新型コロナ・季節性インフルエンザ・RSウイルス リアルタイム流行・疫学情報」より
新型コロナに新しい動きは?
——新型コロナに新しい動きはありますか?
基本的に、新型コロナについての話題は、ワクチンをどのぐらいの間隔で今後も打ち続けるか、long COVID(いわゆるコロナ感染後の後遺症と呼ばれる状態)を治す方法があるのか、どのぐらい防御レベルを保てばいいのかという話に収束していると思います。大きな新しい話題はあまりありません。
——「ニンバス」と呼ばれる新しい変異ウイルスが話題になっていますね。
あの程度の変異は大したことはなくて、オミクロンの亜系統の範囲内と言って良いですね。
——喉の痛みの強さが特徴のようですね。「カミソリで喉を切ったかのような痛み」と表現しているメディアも目立ちます。
それは大袈裟なんですけれど、喉の症状が多い・強いのは事実のようです。
ワクチンもアップデートされていて、モデルナやファイザーの新しい変異に対応したものが承認され、秋冬のシーズンに向けて販売を始めますね。
今までのワクチンはどれも良く効果を出しているので、半年か1年に1回接種していただくような間隔がいいだろうとは思っています。
ただ、接種率、接種数はガタ落ちになっています。ワクチンへの全人口に対する公的な補助が5類化後になくなったのが一番大きな理由でしょう。
——1万5000円ぐらいかかりますよね。
お金もかかるし、接種をうけている人は減っています。
——医療機関のお医者さんや看護師さんでさえ、接種していない人が多いと聞きます。病院でも補助を出さないのだとか。
そうですね。全体で見ると全然うっていません。僕はワクチンが好きなのでうっています。新型コロナワクチンは11回ぐらいうっていると思います。
後遺症にしても、コロナの流行にしても、相変わらず深刻なのは事実なので、ちゃんと構えた方がいいです。社会経済活動を止めるとかつよく制限することはしなくても、人混みではマスクをするとか、症状があれば出かけずに必要なら受診した方がいい。検査もありますし、ワクチンも接種した方がいい。
高齢であるとか、持病があるとか、それぞれのリスクや生活の状況などに応じて、考慮してほしいと思います。
後遺症を防ぐには?
——Long COVID(いわゆる新型コロナ後遺症)は、強いだるさやブレインフォグ(脳に霧がかかったようにぼんやりしてしまうこと)や味覚、嗅覚の異常などがよく言われますが、防ぐ方法はありますか?
新型コロナの治療薬では、Long COVIDは大きくは抑えられていないことがわかってきています。特に大きなスタディでみてみると、抗ウイルス薬などの効果は限定的ですね。また、様々な対症療法も行われていますが、基本的な解決にはつながらない状況もかなり多いようです。
一方、ワクチンでは Long COVID の発症も、症状の強さもかなり抑えられることがわかってきていて、しかもワクチンと感染を交互に経験した場合などにはかなり抑えられることもわかっています。
また、複数回、感染すると、どこかで突然long COVIDになる人もいます。その理由はよくわかっていないのですが、免疫学的な仕組みや組織への障害の残存などがいろいろ関わっている可能性があります。
結局今のところLong COVIDを防ぐとしたら、まずは感染しないことが最も重要です。感染しなければ、絶対起きませんから。それでも感染することまで考えて、やはりワクチンを受けておくことが良いという結論になります。
早期治療などではなく、やはり予防に力を入れてほしいというのが新型コロナの現状です。これはもう流行当初から変わってない戦略です。
——でも新型コロナウイルスワクチンは、感染を防ぐというよりも、重症化予防が目的にされていませんか?
感染もちゃんと防ぐんですよ。今でも最大で30%程度の感染予防効果がありそうとの報告もあります。ウイルスの変異や接種回数によっても程度は変わりますが。
——さすがに感染していない人はもう少数派でしょうね。
でも……新型コロナウイルスには何回も感染します。僕も4回感染しています。甥っ子からもらったり、アメリカでは大家さんからももらったり。でも僕は鼻詰まりだけで、熱も出ませんでした。ワクチンをうっていたからなのかもしれませんね。
——ワクチンを接種してからかなり間が空いている人は、もう免疫がなくなっていると考えた方がいいですか?
ある程度は保たれていると思います。特に細胞性免疫は。重症化予防効果はちゃんと保っているのですが、抗体も保つためにブースター(追加接種による免疫の強化)をかけた方がいいですね。
ただそれも個人差があるので絶対的なことは言えません。接種して損はないと思います。
ワクチンに関しては最近、色々な新しいレビュー報告(評価研究)が出てきていて、心筋炎や血栓、認知障害に関しても、ワクチンをうった方がうたないで感染した時よりもはるかに予防できることがわかってきています。ワクチン接種は引き続き強くお勧めします。
——沖縄では最近、少し感染者数が下がってきましたね。
ようやくですね。でも本州でもしばらく注意が必要です。
夏なのに?インフルエンザが流行 百日咳も
——インフルエンザも流行っていますね。
新型コロナと同時にインフルエンザA型が流行っています。
——インフルエンザといえば冬から春先というイメージでしたが、真夏に流行るものなんですね。
日本も少しベトナムなど東南アジアっぽくなってきたと思います。ベトナムではインフルエンザは通年で流行っているんですよ。日本もやはり季節性がなくなりつつあるのかなと感じますね。
——そうなると、インフルエンザワクチン、いつうてばいいのかわからなくなりますね。
その年に流行りそうな株を選定するところからワクチン作りは始まるので、どうしても秋以降になってしまいますね。夏の流行にはワクチンでは対応できないので、気をつけて感染しないようにするしかないです。ただ、インフルの場合、相対的にコロナほど重症化は酷くないです。
また、百日咳も流行っています。ボルデテラ・パーツシス(Bordetella pertussis)という細菌による感染症ですね。
生まれたばかりの赤ちゃんは、百日咳も入っている混合ワクチンがあるので、しっかりうつことを考えてほしい。他に妊婦さんや、接種してから長い時間が経っている人も接種を考慮してほしいです。
百日咳はよく、子供の病気だと言ってる人がいますが、全然そんなことはないです。全世代かかって、咳がめちゃくちゃ長引きます。
変な咳が出だしたら、受診してほしい。抗菌薬による治療ができます。早めに治療を開始した方が、咳が出る期間も短くなる場合があります。肺炎が起こりにくくなるメリットもあります。
抗菌薬に対する耐性菌が広がっているため、アジスロマイシンなど、これまで好んで使われてきた薬剤が効かなくなっています(マクロライド系抗生物質に耐性を持つ百日咳菌(MRBP)など)。抗菌薬を切り替えて適切な治療をうけるためにも、早めに受診してちゃんと治療してほしいです。
百日咳ワクチンは実は非常に難しいワクチンで、新生児の発症、重症化や死亡を防ぐ効果は抜群なのですが、もちが悪い。5歳になるころにはワクチンで得た免疫がほとんどなくなってしまいます。
だからワクチンを受けていても油断しないで、基本的に飛沫感染なのでマスクで防いでください。症状のある人は出歩かず、症状のある人には近づかない。細菌性の感染症はウイルスよりも接触感染も多い場合があるので、手洗いもこまめにしてください。
どの感染症にも共通しますが、うがいには感染予防のエビデンスはあまりありません。症状を抑えているエビデンスは結構ある。風邪症状が早く治ったという比較研究はあるのですが、うがいで特定の病原体を防いだという感染予防研究はほぼないので、うがいに頼り過ぎないことは大事です。
夏に感染症が流行る原因は?
——それにしても、なぜ夏にこんなに感染症が流行っているのでしょうね。
流行の原因として、疫学的な見方や、免疫を含むメカニズムによる推測はできるのですが、明確にこれというものはありません。
2019年末から長い間、新型コロナウイルスの影響で世界各国がロックダウン等を含む接触制限されていたから、他の色々な感染症の免疫がなくなってるという言い方をする人もいれば、新型コロナが流行っている最中は、「ウイルス干渉」という現象で他の感染症が流行しなかったと言うような人もいます。しかし、いずれも直接的な証拠は全然ないのです。
また、「季節性流行」がだんだん崩れています。どこの国でも、クーラーが発達したりすることもああるのか、季節による流行の状態が曖昧になっていて、冬だから感染症が流行るという感じではなくなっています。
だから夏なのに流行っているのだと言えるかというと、それだけでもなさそうです。
やはり1番は人と人との接触が増えたということでしょう。人の移動が増え、そこに流行が乗っかってしまったのですね。
予防策が緩んでいること、人流が増えていること、たまたまその集団に感染症の病原体が入り込んだことを見ると、流行のメカニズムや原因を突き詰めるのではなく、素直に「流行している」という状態を受け止めるのが1番いいと思います。
——外国人旅行者も増えていますから、持ち込まれはありそうですね。
インバウンドなどでは常に入ってきますし、検疫も以前のように厳しくはやらなくなっているから、入ってくるでしょうね。
コロナとインフルのダブル感染も頻発
——先生は先日までクリニックの院長として、患者さんを診ていたそうですが、感染症の患者さんはどんな感じでしたか?
実はインフルとコロナのダブル感染の人が結構います。やはり熱は、新型コロナでもインフルでもありがちな症状だから、感染している可能性を考えてほしいですね。
もう一つ、熱中症の疑いできて、実は新型コロナだったという人も多いです。だるいとかクーラーで喉を痛めたと言って受診した人の半分ぐらいが新型コロナだった週もありました。
先日は、フジロックという音楽イベントがありましたが、あそこから帰ってきた感染者が複数出てきていましたね。認知されないようなクラスター(集団感染)が起こったのでしょうね。大規模イベントで感染してくる人は結構多いです。フジロック以外でも、大阪万博帰りの人もいたし、ディズニーランド帰りの人もいました。
人が集まるイベントでは、まだ感染リスクは高い状態です。
(続く)
【峰宗太郎(みね・そうたろう)】医師、薬剤師
京都大学薬学部、名古屋大学医学部を卒業し、薬剤師免許、医師免許取得。国立国際医療研究センター、国立感染症研究所、東京大学大学院医学系研究科(博士(医学))、NIH(アメリカ国立衛生研究所)博士研究員、帰国後は、国立感染症研究所や厚生労働省での勤務を経て、現在はフリーランス。病理専門医(血液腫瘍・感染症)、専門はウイルス/ワクチン研究。
医療記者の岩永直子が吟味・取材した情報を深掘りしてお届けします。サポートメンバーのご支援のおかげで多くの記事を無料で公開できています。品質や頻度を保つため、サポートいただける方はぜひ下記ボタンから月額のサポートメンバーをご検討ください。
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