25年、フリーランスで食べてきた雨宮処凛さんに教わる、不安定だけど、自由に面白く生きていく方法
売れっ子ライターの雨宮処凛さん(50)。
フリーランス25周年の今年、フリーランスで生きていくためのノウハウを詰め込んだ新刊『25年、フリーランスで食べてます 隙間産業で生きていく』(河出新書)を出版しました。
会社員記者歴が長く、フリーランスとなって3年目のヒヨッコ(52歳ですが......)の岩永は興味津々。
フリーランスライターとして生きるための心得を教えてもらいにいきました。
『25年、フリーランスで食べてます 隙間産業で生きていく』(河出新書)を出版した雨宮処凛さん(撮影・岩永直子)
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なぜ手の内を晒しちゃった?
——フリーになって間もない私からしたらとても役立つありがたい本なのですが、なぜここまで手の内を明かしてくれようと思ったのですか?
今、本当に本が売れなくて、ライフハックやノウハウ本しか売れません。政治的な分析なんて本当に読まれない時代です。前作の『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』 (光文社新書)は結構売れましたし、読者は今すぐこの瞬間から役立つものを求めているのだろうなと思いました。
1月の誕生日でちょうど50歳になったし、フリーランス歴も25年の節目の時です。何かやりたいなと考えていたところで、どうやって25年続けてきたかというノウハウは意外と需要があるかもしれないなと思いました。
今の時代、会社の先も見えないし、年金も少ない。副業も流行っていて、おじいちゃんおばあちゃんのYouTuberも生まれています。いろいろな隙間産業を合わせて食べていくのが普通になっていくのだろうなと思い、困ったときに誰でも使える技を伝授しようと書きました。
——ご自身の半生も紹介しながら、どう生きてきたのかノウハウも伝える書き方です。一時右翼団体に入り、貧困問題に関わるなど、ライターだけでなく活動家としても唯一無二の生き方をされています。でも当時はそんなことを意識して動いていたわけではなかったのですよね?
まったく意識していません。迷ったら危険な方に行く、ということはちょっとは考えていましたけれど。
右翼バンド時代(雨宮処凛さん提供)
——なぜ危険な方に行く方がいいと思ったのでしょうね?フリーだからこそ、危険なことは避けようと考える人も多いと思いますが。
当時から、何らかの表現をする側として食べていけないかと虫のいいことを考えていました。そうすると、特殊な経験をするのが一番手っ取り早いかなと(笑)。就職活動もそうだと思いますが、エントリーシートには、人とは被らない経験を書いて自己アピールするのが当たり前ですよね。
「自由と生存のメーデー」デモに参加する雨宮さん(雨宮処凛さん提供)
私は就活も経験したことがないのでわからないのですが、そういうことを無意識にやっていたんだなと思います。
もう一つ、自分が何者かになりたいと思っていた時に入り浸っていたのが、1990年代のロフトプラスワン(文化人やサブカルチャーの担い手が多く登壇しているトークライブハウス)だったのも影響しました。90年代のあそこにはおかしい人しかいなかった(笑)。その道の求道者たちの姿を見ていたら、誰もしていないことをしたり、誰も行ったことのないところにいったり、とにかく経験を積まなければと思いました。
子供の頃のいじめられ経験が就活を避ける背景に
——フリーランスになった背景に、子供の頃にいじめられて、人の顔色を伺って生きるのが嫌になったと書かれています。逆に無難な生き方以外に踏み出すのが怖いという感覚になる人も多いと思いますが、なぜ雨宮さんはフリーに向かったのでしょうね?
消去法ですね。動機は就職したくない、あまり人と関わりたくない、自分に嘘をつきたくないという3本柱です。私にとっては就職して「OLの人間関係」的な中で生きる方がよっぽど怖い。そっちの方がハードルが高い。基本、今も普通に会社で働いたら、絶対にいじめられると思っています。
——誰とでも仲良くなっているような印象を受けますけれど。
でも深入りは避けています。
——イベントでも他の人の言葉を拾って、相手も自分も活かす振る舞いがとても上手だなと感じていますが。
それは仕事だからですね。仕事となればできるけど、普通の人間関係の構築は滅多にできない。お酒が入れば少しは話せますが、シラフで意味なく雑談をしたりは今もまったくできません。女子同士でお茶を飲んでおしゃべりなんて、一番恐怖ですからね。
——実は私も仕事スイッチが入らないと人見知りなんで、おっしゃっていることよくわかります。
「締め切りを守る」「連絡を取れない人にならない」当たり前だけどできない人が多いこと
——そしてフリーランスとして生きていくためのノウハウなんですが、「締め切りを守る」「連絡を取れない人にならない」など、当たり前と言えば当たり前のことなんですが、これをやらない人が本当に多いですよね。私は編集者の仕事もしているのですが、これを守らない書き手は当てにならないなと思います。
多いですよね。最低限のことですけれど、書き手だったら一番大事な約束ですよ。
——雨宮さん、「初めての海外旅行が北朝鮮」だとか、昔はゴスロリがトレードマークだったりとか破天荒な印象がありますが、仕事ぶりはすごく真面目ですよね。
初めての海外旅行は北朝鮮だった(雨宮処凛さん提供)
私、めちゃくちゃ常識人ですよ。
——常識や社会との約束を結構大事にされているなというのが普段のお仕事ぶりでもわかります。
それは小心者だからでしょうね。自信がないというか、締め切りを破るとか、連絡が取れないとかは、大物にしか許されないと思います。逆にそれをやっている人は大物感がありますよね。でも私がそれをやったら仕事がなくなるという怖さがある。
——逆に言うと、これを守れない人がたくさんいる中で、きちんとやっている人はいい意味で目立ちますよね。
そうなんですよ!特別感が出てくるというか、「あの人はいい人だ」という評価になりますよね。これは本当に大事だなと思います。フリーランスって「フリー」とついていて自由業ではありますが、だからこそ、というところがある。仕事の相手は会社員ですから、こちらが好き勝手していたらその人の時間を拘束することになり、帰れなくしてしまう。それは迷惑どころか、犯罪クラスの振る舞いだと思います。
——少しずれますが、政治家が国会質疑の通告の締め切りを破って官僚を深夜や明け方まで拘束して時間を奪うのって何様なのだろうと思います。
平気でやるのは、思いやりがないというか、それが当たり前になってるんでしょうね。
一番大事なのは、メンタル管理
——この本、痒いところに手が届く感じで、最初にメンタルを守るための方法が書かれています。なぜわざわざ最初に書かれたのか気になりました。
絶対にそこに需要があると思ったからです。自分自身もそういうことを書いている人がいると、むさぼるように読みます。フリーランスは浮き沈みがつきものです。周りを見ていても、同業者で25年生き残っている人がほとんどいないんですよ。
同時期にデビューした人がやめる時は、メンタル系の理由が多い印象です。特に書き手って、書いたものに色々言われたりして、それで傷つくことも多い。SNSの時代になってから、そのストレスは何百倍にもなりました。一人で発信するのは怖いことです。出版社もあまり守ってくれないですしね。
今、どの業種もパワハラやセクハラでメンタルを病む人が多いですよね。でもフリーランスで病んで辞めても、傷病手当もないし、失業給付もない。いきなり収入ゼロになる。だから予防が重要だと常に意識しています。
もともと10代の頃リストカットをしていたり、自殺未遂の経験があることも大きいですね。自分はメンタルが強くないと知っていたことで、自分を守れた。自分の「強さ」を過信している人は危険だなと思いますね。
——そのメンタルの守り方としては、「世間にそっぽを向かれてすべてを失おうとも問題なく生きていけるスキルを手に入れること」「世間と真逆の価値観のコミュニティに所属すること」の2点を挙げられています。前者は前作『死なないノウハウ』で書かれた内容ですね。
この二本立てがあれば、だいたいクリアできると思います。前者は絶対みんなが持っておかなければいけないノウハウなので本を書いたのですが、もう一本の柱も大事です。お金とか成果で評価されない場所。利益や生産性が言われる世の中だからこそ、それを度外視した場所を持っていることが重要です。
——病む人は、そういう非生産的なつながりを蔑ろにしてきた人も多そうな気がします。自身が「生産性」とか、「コスパ」「タイパ」と言われる価値観にどっぷり浸かってきたのかもしれません。
だから、逆を行く価値観を見直すことが必要なんだと思います。私が付き合っている「だめ連(※)」とか、東京・高円寺の貧乏人コミュニティ「素人の乱」界隈の人は、働いていない方が偉いし、より貧乏な方が偉いという価値観です。
※モテない、職がないなどだめな人たちが、だめを拗らせない場として機能してきたコミュニティ。
そんな場にいると、頑張って働いて日本経済に貢献しなくては、なんて一瞬でも思った自分を深く恥じると同時に、人生で重要なのは遊びではないかと正気に戻ります。
生きているだけでいいという価値観に半分軸足を置く理由
——世間とは真逆のそういう価値観が大事だと、どうやって気づいていったんですか?
2006年に貧困問題と出会った時、運動のスローガンが「無条件の生存の肯定」でした。とにかく、役に立てとか、利益を生み出せと国や社会は求めてくるけれど、生きているだけでいいし、堂々とのさばっていいんだという開き直り系運動でした。
その運動の流れで、「だめ連」とか「素人の乱」の人たちと出会ったら、本当にその界隈の人たちは全然働いていない(笑)。月収5万円でなんでこんなに楽しそうなんだろうとびっくりさせられました。その一方で、過労死したり過労で心身ともに壊されるような目に遭った人を取材していると、こっちの価値観は限界なんだなとつくづく思いました。
だからといって、みんながだめ連や素人の乱のような生き方ができるわけじゃないですが、そっちに軸足を片方置いていると、追い詰められることはないだろうと思いました。企業的な価値観で追い詰められた人を、彼らの路上飲み会に連れていくとすごく元気になったということもありました。
——「無条件の生の肯定」という思想を私は障害者運動から知ったわけですが、路上で一緒に飲んで楽しいとか、そんな遊びのようなつながりから広がっていくのは素敵ですね。
そうなんです。しかもそんな貧乏系のコミュニティの人たちは、ストレスがほぼないのでいつも機嫌がいい。絶対に意地悪なことを言わないんですよ。
逆に普通に働いている人って、結構意地悪なことを言いませんか? 生産性が大事だし、今売れているものが偉いし、イケてる基準が社会的世間的な物差しだったり。そう思うと、企業で「働く」ということが人から多くものを奪っていると感じます。
——そちらに片方の軸足を置く雨宮さんが、TikTok依存症になったりする矛盾も面白いですね。
どっちも好きなんですよ。無茶苦茶キラキラしている世界も大好きです。人間は矛盾した生き物ですから、便所サンダルでどてら姿の人との路上飲みも楽しいけれど、たまにはキラキラ系もいいです。
現場は大事 自腹でも赤字にしない工夫
——ネタに困らない方法として、自分を動かす、現場を踏んでいくというポイントも大事ですね。やはりネットでは手に入らないものがありますか?
ネット情報で書いた人ってすぐわかりますよね。現場に行かないで書いた人は、なんでわかるか不思議なんですが、すぐわかる。
——やはりテキストだけでは伝わらないものとか、現場の空気とかを感じて、入れ込んだ方が面白い?
そうですね。それから貧困問題で言うと20年ほど現場にいますが、自分のスタンスが取材者なのか支援者なのか自分でもよくわからない。だからこそ、メディアが入れない最前線にいられることは大きいです。
——現場に足を運んでいるうちに、支援する側にも回っていく。相談も受けてらっしゃいますよね。
はい。現場で相談を受けることで、一番リアルに最新の状況がわかります。学びにもなるし、取材にもなるし、今の制度に問題がある時は行政に申し入れをしたりといろいろと広がっていく。
コロナ禍での相談会で相談員をした時の写真(雨宮処凛さん提供)
あとは私自身が貧困リスクが高い属性なので、100%自分のためですね。現場にある社会保障系の知識とか、借金ができたらこうしたらいいとか、あの団体は支援団体ぽく見えるけど貧困ビジネスとか、全部自分に役立つ貴重な情報です。周りには、鬱になって生活保護が必要な知り合いや労働問題を抱えている友人もいるので、自分だけでなく彼らのためにも積極的に現場にいますね。
そうすれば知識が付くし、それを書くことで必要な情報も広められる。
——今は現場に行くのが軽視されますよね。コタツ記事で食っているライターもいますし。
それはお金がないからだと思います。私がフリーランスで生きてきた25年で出版業界はどんどん落ち目になっていきました。私の世代でも、潤沢に取材費が出たという経験は一度もないんです。
——それでも自分の糧になると考えて、自腹を切って出張にも行くわけですね。
その自腹をいかに赤字にしないか考えて、複数の媒体に書き分けたり、そこに行くついでに別の視点の要素を入れたり。結果的に、原稿料で自腹分は回収できて黒字になることも多いですよ。
それ以外にも、全ての行動が何かの原稿につながると思っています。例えば、嫌なことを言われたとしても、それを全部ネタにすればお金になるから帳尻が合う。ただ嫌なことを経験するだけでは損なので、それぐらいのがめつさがないと、フリーランスはやっていけない。
——扱うテーマも1本に絞らないというのも、長く続けるには重要なんですね。
一つのテーマだけだと、その問題が終わったり下火になったりした時に、あっという間にすべてを失います。意図的に色々な取材テーマを抱えるようにしてきました。
——私は医療記者なんで医療一本と言えば一本なんですが、飲食店のアルバイトをしてそのバイト日記が本になったりもしました。それは意図しない流れだったのですが、意図して複数のテーマを持つのはさすがベテランですね。
1本メインがあって、他にもこれができますよと常に見せておくのは重要ですね。
ストイックな体調管理
——今は連載を何本持っているのですか?
17本です。
——17本、締切を守ってずっと続けるのって相当大変なことだと思います。体調管理もすごくストイックにやられているのに驚きました。
そうですか?お酒は飲みますけどね。
——ジムに通っていらっしゃるんですよね。意外な感じです。
ヨガも行きます。運動すると無になれるじゃないですか。ジムで体を動かすというよりは、ひらめきのために行っている気がします。私の場合、書くために一番重要なのはぼーっとすることです。ぼーっとしていると、考えてもみなかったことがふと浮かぶので、そのためにやっている感じです。体調管理もありますが、仕込みの一環として、ですね。
——食事に関しても当たるような生物は食べないとか、かなり意識的にコントロールされていますね。生牡蠣が好きな私にはできないなと思いました。
食べないですね。怖いです。歳をとるにつれ、一回体調を崩すと復活までに時間がかかる。それで仕事が滞ったり、イベントに出られなくなったりすることを考えると嫌なんですよね。
——新型コロナにかかったことは?
ありますよ。
——その時はどうやって乗り切ったのですか?
運良くというか運悪くというか、ちょうど休みのタイミングで、ここは休みの週にしようと思っていた時に発症しました。他にも病気は、年末年始などまとまった休みの時にやってくる。だから仕事を飛ばしたことはないし、今まで大きな病気をしたこともないです。
——私もそうですが、50代になったら徐々に大きな病気にかかる人も増えてきますね。それさえも原稿のネタにするのでしょうか?
それはそうですね。休まざるを得ない状況になったとしても、それをネタに書く。全部ネタにして医療費に変えていくつもりです。
(続く)
【雨宮処凛(あまみや・かりん)】作家、反貧困ネットワーク世話人
1975年、北海道生まれ。フリーターなどを経て、2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組む。著書に『生きさせろ!難民化する若者たち』(ちくま文庫)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房)、『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)など多数。
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