「ワクチンデマを潰したい」「当事者の活動が排除につながった」風疹排除認定、啓発に関わってきた医師が明かした思い
日本の風疹排除がWHOに認定されたのを受けて、先天性風疹症候群(※CRS)の当事者や家族の会「風疹をなくそうの会『hand in hand』」「VPDを知って、子どもを守ろうの会」が2月1日に開いた「風疹排除認定を祝う感謝の会〜二度とCRSを出さない決意の日〜」。
会場には、風疹の診療や啓発に関わった医師たちが全国から祝いに集まった。
一部の医師に、風疹排除の認定をどう受け止めたのか、聞いた。
※風疹の免疫のない妊娠20週頃までの妊婦が風疹に感染すると、ウイルスがお腹の中の赤ちゃんにも感染して、難聴、白内障、先天性心疾患などの障害を持って生まれる病気。2012~2013年の全国的な流行では、14年までに45人のCRSの赤ちゃんが誕生したことが報告されている。
最後に撮った集合写真。全国から風疹排除に努力した関係者が集まった
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岩田健太郎さん「ワクチンで防げる病気に苦しむのは理不尽」
神戸大学感染症内科教授の岩田健太郎さんは、この会のためだけに東京に駆けつけた。
岩田健太郎さん。足元はスニーカーでした。
「風疹に限らず、予防接種行政や予防接種のシステムにはずっと取り組んできました。診療でも、2013年頃、10代の女性が熱と皮疹で来られて風疹だったのですが、結局後で妊娠がわかってがっかりした記憶があります」
「欧米では風疹や麻疹が排除された病気という認識だったので、日本に帰ってきて、この状態はどうなんだろうと疑問に思っていました。本を書いたり、漫画家の先生と啓発活動をしたりしていたのですが、この10年で予防接種の制度がかなり追いついてきて、対策がだんだんうまくいってきているなと思います。それで風疹排除できたのは素晴らしいことだと思いますので、素直に嬉しいです。
hand in handの活動についても讃えた。
「僕も彼女たちの大阪での活動などをちょっとだけお手伝いしたことがあるのですが、親御さんとしてワクチンで防げる病気に苦しむのは、僕はすごい理不尽だと思っています。それは風疹に限らず子宮頸がんでもなんでも全部そうだと思いますが、やるせない。それを理不尽に思われた方がこうやって地道に努力して、日本の予防接種行政はかなり後ろ向きだった時代もあったのですが、そういうのも全部乗り越えて今日に至った。本当に素晴らしいことだと思います」
太田寛さん「ワクチンに対するデマを潰したい」
産婦人科医の太田寛さんも、啓発活動に力を尽くしてきた一人だ。
筆者がバズフィードにいた頃、風疹予防について寄稿してくれた太田寛さん
「僕が最初に先天性風疹症候群を気にし出したのは2004年の「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言」を目にしてからですが、あまり周りの産婦人科医が動いていないことにびっくりしたんです。もう一つは可児佳代さんの単独のホームページを見てからですね」
「都度都度、風疹予防については声をあげてきたのですが、周りの熱量が低くて、2度と風疹なんて起こらないのかなと思っていたところ、2013年の大規模な流行が来た。自分は何をしてたんだろうという思いで関わっていきました。2013年からは可児さんたちと連絡を取り、啓発に力を入れるようになったのですが、ここまで本当に長いと言えば長いし、短いといえば短かったですね。西村葉七ちゃん(hand in hand共同代表の西村麻依子さんの先天性風疹症候群がある娘さん)も大きくなった。こんな日が来ると願っていたけれど、その時はそうは思えなかったのが現実。ここに集まった人たちを見ると、みんなほんとに未来の子供たちのことを考えてやっていたんだなっていうのが、すごく嬉しいです」
排除を維持するにあたって、ワクチンに反対する人が流すデマの影響力を心配している。
「昨今の様子を見ても、世界の情勢を見ても、ワクチンに対しての逆風やデマがまた広がってきているから、本当に排除を続けられるのかすごく心配です。風疹だけじゃないですが、医療のデマに対しての立ち向かい方がすごく大事になっています。デマを潰さなかったことがこんなに世界を揺るがすのかと驚きます。僕がtwitter(現X)をやり始めたのも、医療デマを潰すためです。こんなに大きい問題になるとは本当に思わなかったので、これからも医療デマを潰しつつ、当然風疹も潰すべく、頑張っていこうと思っています」
森内浩幸さん「当事者の活動が排除につながった」
小児の感染症やワクチンを専門とする長崎大学小児科学教室教授の森内浩幸さんも、この会のために長崎から駆けつけた。
森内浩幸さん。いつもつけているスヌーピーのネクタイ、今回はパーティー仕様だ。
「世界中で今、麻疹をはじめとする、ワクチンで予防できる病気がどんどん復活している中で、日本で風疹の排除が達成できたのは非常に嬉しい。ただ、他の方も言われてるように、これは決意の日であって、この状態を維持するんだと、次の感染症をまた同じような状態まで持っていくんだという思いを新たにするために、みんな集まってくれたのだと思います。今後も一緒に頑張っていきたいです」
感染症を撲滅しようとする当事者の活動についても、讃えた。
「トーチの会(先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会)にしてもそうですが、やはり学会などで専門家がいくら言っても、なんとなく上から目線のようにしか聞いてもらえません。でも当事者がこうやって声を上げて、実際に活動している姿を見るとみんな応援してくれる。厚労省の感染症対策部長が言われた通り、政府が頑張っただけでは絶対無理なことでした。当事者がこれだけ一生懸命やってくれたことが排除につながったと心からありがたく思います」
宋美玄さん「ワクチン確保をしっかりと」
産婦人科医の宋美玄さんもお祝いに駆けつけた。
産婦人科医の宋美玄さん
「2013年の流行の時に風疹が1万人を超えて、ワクチンが全然足りなかったのに、当時の田村憲久厚生労働大臣が『風疹はまだ1万例。他に予算を投入すべき感染症は多い』という発言をしたことを私はしつこく根に持っています。もうあれから12年。排除はすごく嬉しいです。けれど、海外から持ち込まれたりする可能性もあるし、MRワクチンの数はすごく足りない。百日咳もそうですが、皆さんがものすごい熱意で啓発してくださってるのに、じゃあワクチンをうとうとなると、受け皿がないことがずっと続いています」
「だからもうちょっと公衆衛生の対策は計画的に行なってほしいし、ワクチンも、例えば緊急輸入や緊急承認で確保してほしいです。今日は当事者の皆さんの今までの思いを聞いてみんな涙されていたと思うのですが、次に同じ思いをする人がいないように予防接種体制を整備していってほしい。そのために、引き続き私たちも声を上げないといけないなと思います」
当事者の母親たちの活動についても、こう感謝の思いを述べた。
「『何度も辞めたかった』とおっしゃっていたし、学会で配るために作ったチラシが捨てられたという話は本当に胸が痛みました。でもいつも学会に行くと可児さんたちがいらっしゃって、私たちの方がずっと元気をもらっていました。現場で、抗体が足りない人はちゃんとワクチン打つぞと言ってもらって。今日はこれだけの医療従事者がお祝いに駆けつけて、たまたま来れなかった人たちも合わせたら、もうすごいたくさんの人がお母さんたちと繋がった。それが状況を変えてきた力になったと思うので、ありがとうございますと伝えたいです」
森戸やすみさん「ワクチンを打たせない親にも『誰も怒らないから、ぜひ小児科に来てね』と伝えたい」
小児科医の森戸やすみさんも、お祝いに駆けつけた。
虎模様の洋服が勇ましい小児科医の森戸やすみさん
「これまで頑張ってこられた(hand in handの)可児さんや大畑さんや西村さんのお話を聞いて、もらい泣きしてしまいました。そんな思いをさせなくても済んだはずだったのに、啓発活動は本当は医者がやるべきことなのに、ああいう辛い思いをされたお母さんたちが頑張られて、今回風疹の排除に至ったのは本当に良かったなと思います。でも、排除はまたいつ解除されるかわかりません。これからも頑張っていかないといけないなと思います」
小児科医として、子供にワクチンを受けさせるのを拒む保護者にも出会ってきた。
「でも多分、知らないとか、ついうっかりという方がほとんどだと思うんです。『そんなに大事だと思わなかった』と。だから私たち医療者も『拒否してるんでしょ!』という態度じゃなくて、『とっても大事なんですよ、忘れてませんか?誰も怒らないから、ぜひ小児科に来てね』と伝えたい。そんな話をつい一昨日ぐらいに小学校でしたのですが、そういう態度も大事かなと思います」
坂本昌彦さん「ここをスタートラインに」
「教えて!ドクター」での啓発活動も有名な小児科医の坂本昌彦さんも、長野県佐久市から駆けつけた。
妻に切ってもらった髪型がきまっている坂本昌彦さん
「ずっと応援していた会だったので、今回風疹の排除認定があって、真っ先にメンバーの皆さんの顔が浮かびました。社会の課題を訴え続けていくことは本当に大切なんだなと思いましたし、それが世の中を動かすのを目の当たりにして、私もすごく勇気をもらいました。この状態を続けていくのは私たち小児科医に与えられた使命でもありますので、『これでよかったね』ではなくて、ここをスタートライン、出発点として頑張りたい。今日は心強い仲間の皆さんと会うこともできたので、そういった気持ちを新たにしたい1日でした」
教えて!ドクターは小さい子供がいる保護者をターゲットとしているため、風疹啓発には課題を感じていたという。
「風疹で、中心となっている予防啓発の対象は、ワクチンを十分接種できてない中年男性です。私たちのプロジェクトでは、中年男性への啓発はまだまだで、伝え方の課題があります。1歩1歩。進めたいと思ってます」
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