「年間上限の創設は評価するが、多数回該当を据え置きにしたから解決というわけではない」 高額療養費制度の再見直し、医療経済学者が批判するポイント
医療費が高額になった患者の自己負担額を抑える高額療養費制度。
政府の再見直し案が具体的な金額と共に出てきたが、この見直しを当初からウォッチングしてきた医療経済学者はどう評価するのだろうか?
東京⼤学⼤学院薬学系研究科 医療政策・公衆衛⽣学 特任准教授の五十嵐中さんは、「年間上限(※1)は効果を発揮しそうで評価するが、多数回該当(※2)を据え置きにしたからといって全面解決にはならない」と更なる修正を求めている。
※1 自己負担の上限額はこれまで所得別に月毎に定められていたが、上限ギリギリを払い続けて重い負担が続く患者に配慮して、新たに年間上限を創設。例えば、「年収約370万~770万円」の所得区分では53万円で、積み重なってそれ以上になると医療費がかからなくなる。
※2 直近12ヶ月で3回以上高額療養費の対象になった場合、4回目以降はさらに自己負担限度額が引き下げられ、多数該当の限度額が適用される特例制度。
どういうことなのだろうか?緊急分析の結果を解説してもらった。
高額療養費制度見直しのデータを緊急に解析した医療経済学者の五十嵐中さん
「年間上限」の創設は評価するが、多数回該当と低所得者は十分救われていない
——政府が再び高額療養費制度の見直し案を具体的な数字と共に出してきました。先生の評価を教えてください。
「年間上限」を新たに設けたことは有効でありがたいです。一方で、破滅的医療支出(※3)という観点で見た時、低所得者層への影響が必ずしも緩和されていません。
※3 WHO(世界保健機関)は、収入のうち、税金・保険料や生活費を抜いた分の40%を医療費が超えてくると、生活が破綻する「破滅的な医療費支出」になると定義している。
そこにはまだ改善の余地があるし、これで万々歳とは僕は考えていません。
——もう少し修正したほうがいいということですね。当初案より自己負担上限の引き上げ幅を半分程度に抑えたのは大きいなという印象だったのですが。
引き上げは患者から見れば当然負担増になります。そのなかで、何か前回案からの「改善点」を目立たせるためには、引き上げ幅を圧縮する…という考えかと思います。
——多数回該当の自己負担引き上げを見送ったのは大きいのではないのですか?
その通りです。ただ、昨年末に原案を出したときも、患者会の反対で、政府が何回か修正を重ねた時に、多数回該当の上限は据え置くというアイディアは出ていました。しかし、前回も指摘したところですが、「多数回該当の上限を据え置く」ならば「多数回該当の対象者はみな安泰」か......というと、残念ながらそうではないのです。
多数回該当は、その適用に至るまでにある程度、高い自己負担を重ねた蓄積があって初めて移行する状態です。すぐあとでお話しますが、多数回該当の上限を据え置くだけでは、多くの「多数回該当あり」の人にとってやはり負担増となってしまうのです。
だから僕自身は今回の見直し案については、年間上限の設定は非常に助かる。しかし多数回該当の対応や、破滅的医療費支出への対応はまだまだ課題が残る。引き続き議論が必要…と見ています。
多数回該当が12ヶ月ずっと適用されている人は1割もいない
——それではここから先生の分析を詳しく伺います。なぜ多数回該当がの上限が据え置きになっても、十分救われていないと言えるのでしょう?
多数回該当に当たる患者の例というと、「1年間のうち、12ヶ月全部多数回該当の上限を払う人」というイメージがありませんか?でも実際はそうではないことを示したのが次のグラフです。
提携媒体
コラボ実績
提携媒体・コラボ実績