私の「名医」どう選ぶ?がんの病院・医師検索サイト編集長がノウハウを詰め込んだ本を出版
もしあなたがある日、がんの疑いがあると言われたら、どの病院にかかるのがいいのだろう?自分のがんで最善の治療をしてくれるお医者さんはどうやって探せばいいのだろう?
がんになると、多くの人がぶち当たるそんな壁に答える本『後悔しないがんの病院と名医の探し方 『有名病院』『ランキング』に頼らず、最善の選択を』(大和書房)が出版された。
著者で、がんの病院・医師検索サイト「イシュラン」の経営者で編集長、鈴木英介さん(56)に聞いた。
鈴木英介さん
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病院や医師の選び方や、背景にある情報の意味を誰もが理解できるように
——この本、がんになった時にどうやって病院や医師を選んだらいいか、のみならず、医療情報をどう読み解けばいいのかも噛み砕いて伝えていて、とても役に立ちます。まずこういう本を出版しようと思ったのはなぜですか?
これは「イシュラン」を始めた理由とも重なるのですが、医療コンサルタントの仕事をしていると、友達や知り合いから相談を受けることが多いんです。「どの病院に行ったらいいの?」とか「どこのお医者さんにかかるべき?」などですね。
治療内容についても相談を受けることもあります。僕が直接アドバイスできる人以外にも、自分の持っているノウハウをもう少し広められないかなと思ったのがきっかけです。
イシュランは、お住まいの地域のがん診療連携拠点病院(質の高いがん治療が受けられる病院として国が指定した病院)や、そこにがんの専門医がいるのか、などの情報を誰でも簡単に見つけられるようにと作ったサイトです。
本を書いたのは、さらに二つ理由があります。そもそもこのサイトにたどり着けない人のためにも選び方がちゃんと届けられるといいと思ったし、サイトにたどり着いたとしても、なぜそういう選び方が大事なのか、その背景にある考え方を丁寧に伝えたいなと思ったのです。
——がん診療連携拠点病院や専門医制度は医療の周辺にいる人だと当たり前に知っていることですが、一般にはあまり知られていないですよね。
知られていないです。自分が関係してこない限りは、「そんなのがあるんですか?」というのが普通の反応です。
——本の冒頭でも書かれていますが、二人に一人ががんになる時代ですし、周りががんになって悩む可能性も高いです。そうなる前に知っておいた方がいい情報ですね。
知っておくに越したことはないと思います。
——すごいのは、さまざまな情報のわきにQRコードをつけて、スマホでアクセスしたら詳しい情報が手に入るように道筋をつけているところです。親切だなと思うのですが。
それは編集者のグッド・アイディアですね。情報源となっているウェブサイト上の内容を本に全て載せるのは無理ですが、そこに大事な関連情報も集まっているので、手軽にアクセスできるようにしたいと思いました。
QRコードをつけて、スマホで簡単に詳しい情報に辿り着けるようにしている。
——一般の人が惑わされやすい情報についてもきちんと解説なさっていますね。大病院であればいいのか、手術件数が多ければいいのかなどなど。これは実際、そういう情報に翻弄される人が多いからですか?
週刊誌の特集などで、手術件数ランキングなどが結構ありますよね。よくわかっている人から見ると、「とはいえ、こういうところは気をつけて見なければ」というポイントがあるので、丁寧に説明したかった。
手術件数が多いのは別に悪いことではないのですが、それをどう捉えるべきかです。例えば、簡単な手術ばかりたくさんやっている方がいいというわけではないですよね。手術件数から手術の質まで見えるわけではありません。
「名医」をコミュニケーションのタイプで見る
——イシュランにも通じることですけれども、「名医」は、技術や知識だけではなく、コミュニケーションも重要だとしています。見極めるための3つのチェックポイントも書かれていて、これは初診でチェックできますよね。
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がんの告知時や治療の節目で十分な時間をかけてくれるか?
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あなたの仕事や生活への配慮があるか?
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あなたが「わかる」言葉で話してくれるか?
(同書より。コミュニケーションで名医を見極める3つのチェックポイント)
がんの主治医とは、その後の長い治療を付き合わなくちゃいけないので、コミュニケーションはかなり重要になります。ここがスムーズにいかない先生だったら、それだけでストレスになりますよね。
イシュランを運営していても、患者さんは医師とコミュニケーション不全が起きた時に、ものすごく不満が溜まるものだということを実感しています。だから最初に自分に合うコミュニケーションスタイルの主治医を見つけることがすごく大事だと思います。
——イシュランでは、医師のコミュニケーションタイプを4タイプに分けていますね。これはどうやって分類したんですか?
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学究型 数字を使ってきっちりした説明をする真面目なタイプ。治療方針を論理的に理解・納得したい患者さんに向く。
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リーダー型 医師自らぐいぐい引っ張る頼もしいタイプ。治療方針をバシッと端的に示してほしい患者さんに向く。
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聴き役型 患者の話を良く聴き、受け容れる優しいタイプ。自分の話をしっかり受け止めてほしい患者さんに向く。
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話し好き型 楽しく前向きに患者の気持ちを盛り上げるタイプ。堅苦しくないざっくばらんなコミュニケーションを望む患者さんに向く。
(「イシュランが分類する医師のコミュニケーション4タイプ」同書より)
僕が捻り出しました。昔会社勤めをしていた時に、人のタイプを4つぐらいに分けるのが流行っていたんですよね。それを医療に当てはめた時にどのように表現するとしっくりくるかなと考えて、二つの軸で考えました。僕の中では学究型とリーダー型、聴き役型と話し好き型が対比的なんです。
イシュランで見ている限り、患者さんの投票では、聴き役型にたくさんの票が入りがちです。特に乳がんの先生はそういう傾向です。
——なるほど。乳がんだと生活にも関わるし、見た目とか女性性の象徴としての乳房ということで、デリケートですね。治療も長くなりますし。
そうですね。やはりライフステージで色々なことがあるタイミングでかかるがんなので、聴き役のような医師が求められているのかなと思います。
他の医療スタッフを大事にする医師は患者にとっても名医
——イシュランでは、この患者さんの投票の結果、患者さんや家族とポジティブな関係を築くことに特に成功している上位30人を毎年「Warm30(温かい30人)」として発表しています。これがいわゆる有名で地位の高い医師でない人も含まれていて、患者さんの実感から選ばれた人なんだなという印象を受けます。本書でそのうちの4人にインタビューしていますが、何か気づいた特徴はありましたか?
やはりみんな本当にいい先生です。すごく相手に気を遣われながら話す先生方だということがよくわかりました。
共通するのは、他の医療スタッフもすごく大事にしていることです。看護師さんや薬剤師さんら、医師じゃない医療スタッフをすごく大事にされているなというのがよくわかります。イシュランに送られてくる、表には出していないネガティブコメントでも、やはり目立つのは「看護師さんに対する態度が酷い」ということです。そこは人柄が透けて見えるポイントなのかなと思います。
——患者さんはそういうコメディカルへの態度もよく見ているんですね。
お医者さん達が感じている以上に、よく見ていると思いますよ。
——今はやはりチーム医療だから、他のスタッフとも良好なコミュニケーションが取れていないと、治療にも影響しますよね。医師はチームの指揮者みたいなものですから。
そうですね。それと、患者さんにとって、看護師さんは話しやすい存在です。お医者さんには時間もないし、テーマ的にも話しにくいことがあって、看護師さんだからこそ拾える情報があります。それが、治療選択を考える上ではめちゃくちゃ大事な場合もある。他の医療スタッフが、そんな患者さんの情報を話しやすい先生は、やはりいい先生なのだと思います。
——確かにそうですね。看護師さんに耳を傾けられる医師は、自分ではキャッチできない患者さんの思いを汲むことができそうです。
そうですね。インタビューをしていて、改めて気付かされたところです。
名医は初めから名医だったわけではない
——この先生たち偉いなと思ったのは、患者さんとのコミュニケーション上の失敗も明かされているところです。自分のマイナス面も客観視して、改善されているのがすごいなと思いました。大阪公立大学乳腺外科の柏木伸一郎先生は、「先生の話を聞いて、正しいことを言われているのはわかった。でも不安が消えなかった」と言われた思い出を明かされて、患者の不安に寄り添うようになったと話されています。
能代病院の野口晋佐先生も、患者さんの質問に対して間違ったことを答えてしまって、信用をすっかり失ってしまった思い出を明かしてくださいました。みなさんから、若かりし頃に経験された苦い思い出を赤裸々に話していただいた。今は名医と患者さんから選ばれている先生たちからそういうお話が聞けたことも良かったことの一つです。
これは患者さんにも知っておいてほしいことですが、名医と言えるような医師たちも、最初からすごかったわけではないんですね。
——ある意味患者さんが育てていくところもあるわけですよね。
そういう側面も実態としてあると思います。先生も人間ですし、色々な体験をもとに、より良いコミュニケーションができるように育っていくのだろうと思います。
医療情報の読み解き方も解説
——この本の4章、5章もかなりすごい。医療を受ける上で、患者さんが知っておいた方がいい医療の基礎知識やデータの読み解き方を噛み砕いて説明しています。患者はもちろん治ることを望むわけですが、医療は確率論であり、抗がん剤だって100%効くわけではない。そういう前提知識を患者も持つことが大事だと思われたのはなぜですか?
医師と患者のコミュニケーションのすれ違いを招くのは、こういう認識のずれなんですよね。患者さん側の治療に対する期待値は、高くなりがちです。でも、「100%治りますよね?」「大丈夫ですよね?」と言われても、事実(ファクト)として医療には100%はない。
医療者とのコミュニケーションがスムーズになりそうな知識を身につけることができる
そういうものなのだとわかって治療を受ける方が、納得できることも多いかなと思ったんです。そこは、執筆する上でかなりこだわって書いたところです。単に病院や医師の選び方だけではなく、医療に向き合う上で役立つ情報も盛り込みたいと思いました。
——患者さんとお医者さんでは、患者さんの方が遥かに情報が少ないというギャップがあるわけですが、最低限この情報だけは共有して、共同作業のように治療を進めようということですかね?
そうです。僕はあまり「患者教育」という言葉が好きではないのですが、患者さんがある程度知っておくと、その先のコミュニケーションがスムーズになる情報や考え方があることは確か。それを言語化した感じです。
——「標準治療」もどうしても語感から「並の治療」のように捉えられがちですが、標準治療がどのような研究で作られるかを解説して、現時点でのチャンピオン治療だと表現されているのもわかりやすいですね。
標準治療が「チャンピオン」だというのを最初に言ったのは、がん研究者の大須賀覚先生だと思います。標準治療の本質をすごく捉えているいい言葉だと思ったので使わせてもらったんです。
(続く)
【鈴木英介(すずき・えいすけ)】株式会社メディカル・インサイト/株式会社イシュラン代表取締役
東京大学経済学部、ダートマス大学経営大学院卒(MBA)。住友電気工業、ボストンコンサルティンググループ、ヤンセンファーマを経て、2009年に「”納得の医療”を創る」を掲げ、「株式会社メディカル・インサイト」を設立。ヘルスケア領域でマーケティング戦略の策定・遂行をサポートするコンサルティング、患者/医師調査を手がける。
2016年には、株式会社ソニックガーデンと共に「株式会社イシュラン」を設立し、がんの病院・医師情報サイト「イシュラン」、皮膚疾患の病院・医師情報サイト「皮膚ナビ」、読者数10万人の無料医療メルマガ「イシュラン」を運営する。
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