「自分が使った医療費を自覚することが少ない」「医療制度に甘えている」 高額療養費専門委員会で患者に批判的な発言続出
医療費が高額になった場合、収入に応じて自己負担額の上限を定め、患者に過度な支出を負わせないようにする「高額療養費制度」。
この高額療養費が年々膨らみ医療保険財政が逼迫しているとして、秋までの制度見直しが検討されている。
その具体的な内容を議論する「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」2回目の会議が6月30日に開かれ、患者団体4団体からのヒアリングが行われた。
参考人の一人は、患者が使った医療費に無自覚になっており、制度の維持のためにも引き上げが必要と発言したことから、患者代表の委員が疑問を投げかける場面も見られた。
また、委員の一人は「日本の素晴らしい医療制度に甘えている」「もらえるものはもらわなくちゃ損だみたいな」と、制度を使う患者を批判するような発言を繰り返した。

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慢性骨髄性白血病「高額療養費が生きることに直結」
参考人として意見を述べたのは、慢性骨髄性白血病の患者・家族の会いずみ会の副代表、河田純一さん、一般社団法人アレルギー及び呼吸器疾患患者の声を届ける会、認定NPO法人 日本アレルギー友の会理事長の武川篤之さん、NPO法人血液情報広場・つばさ理事長、橋本明子さん、認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML代表、山口育子さんの4人。
いずみの会、副代表の河田さんも22歳で慢性骨髄性白血病になり、10年にわたり、高額療養費を使った治療を続けてきた。
患者や家族も含めて936人の会員を抱える河田さんは、「慢性骨髄性白血病(CML)は言うならば、高額療養費制度と共に生きている病です」と患者の置かれた現状を語り始めた。

慢性骨髄性白血病の患者・家族の会いずみ会提出資料より
慢性骨髄性白血病はかつて「不治の病」とされていたが、2001年に画期的な分子標的薬が承認されてから、治療を継続すれば長く生きられる病になったことを説明。
「CMLは現在では適切な治療を受け、治療を長期かつ継続的に行うことで、多くの患者が健康な人と同程度の余命を送れるようになっています。しかし、薬剤費は非常に高額であり、治療を続けないと命に関わることから、高額療養費が生きることに直結しています」
とし、高額療養費制度の見直しについて、こう懸念を表明した。
「自己負担上限額の負担増により、標準治療の範囲で受けることのできる最適な治療を諦めざるを得ない患者が増えていくことを強く懸念しております。当初の多数回該当(※)の引き上げ案に老いては、年齢や所得にかかわらず、医療費を払えるか払えないかで治療を受けられる人とそうでない人に分かれてしまいかねない」
※直近12ヶ月で3回以上高額療養費の対象になった場合、4回目以降はさらに自己負担限度額が引き下げられ、多数該当の限度額が適用される特例制度。
「静かな自殺」が増えることを懸念
直近の患者調査では、いずれの年代でも8年以上、長い人では25年近く治療を続けている人もおり、「10代、20代で病気になった人が、これからも残りの人生支払い続けることを前提に生活している」と患者の置かれている状況を説明した。
日本では6種類の薬が標準治療で初発から使えるようになっており、最新の薬は40mgで1万618円。標準治療として1日80mgを使うと、毎日薬価だけで2万円以上かかる。そして薬の効果や副作用は個人差が大きく、半数の人が薬を変更した経験があると説明。

慢性骨髄性白血病の患者・家族の会いずみ会提出資料より
また、転職などで保険者が変わった場合、多数回該当がリセットされる問題や、政府の当初の引き上げ案では、多数回該当にギリギリ届かない患者が増加するリスクがあると指摘。

患者調査では、治療を続ける上で一番困っていることは、「医療費などの金銭的な負担」が最も多く56%に上り、経済的な理由で服薬中止を考えたことがある人も15%いたと報告。中には医師に相談することなく薬を止める人もいて、症状が悪化して亡くなった人もいることも明らかにした。
「もし自己負担額引き上げられたら、治療中断、『静かな自殺』と呼ばれていますが、これが増えることを非常に強く懸念しています」として、最後に3点を訴えた。

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高額療養費制度の見直しは長期療養者の命や生活や人生に直結する課題であること
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現行制度でもセーフティネットとしての役割は果たされていないこと
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所得と年齢のみを考慮した「自己負担能力に応じたきめ細かい制度設計」は、長期間の負担が十分考慮されていないこと
「経済的負担の増加は患者を追い詰める」
続いて、日本アレルギー友の会理事長の武川さんも、アトピー性皮膚炎は、近年登場した生物学的製剤など新薬の登場で、画期的に良くなる人が増えていると説明。

ただ、それらの薬剤は高価で、 根治させる治療法がないアレルギー患者は対症療法を長く続けなければいけないことから、次の3点を要望した。
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高額療養費制度の自己負担限度額の引き上げは、家計に占める医療費の割合を考慮し治療を継続できるよう抜本的に見直すこと
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OTC 類似薬の保険適用除外は、アレルギー疾患の標準治療で使われる薬剤・保湿剤には適用しないこと
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患者の声を適切に議論に反映すること
そしてこう訴えた。
「アトピー性皮膚炎や喘息は、疾患を持つことだけでも日常生活、社会生活に患者の負担が大きい疾患です。さらに経済的負担が増えることは、患者をさらに追い詰めてしまいます」
血液情報広場つばさ理事長の橋本さんは、血液がんの患者が分子標的薬の登場で生きられるようになったものの、薬代が支払えずに治療を断念する患者も2000年代後半に出てきたことを報告。困っている人のために支援基金を始めて、患者負担の軽減策を打ち出してきたことを説明し、そうした情報を提供することによって「より良い改定につながることを期待しています」と締めた。
「どれぐらい医療費を使っているのか自覚することが少ない」「自己負担上限引き上げが必要ではないか?」
自身も複数のがんの経験者であるCOMLの山口さんは、「高額療養費制度のありがたさは身にしみて感じています」と自身の経験も交えながら話し始めた。
そして現金給付だけだったのが、現物給付も導入されたことで(※)「自分が使っている医療費が全額どれぐらいかということの実感が持てなくて、自覚することが少なくなってきたのではないか」と疑問を投げかけた。
※いったん自己負担分を支払った後で、高額療養費制度でカバーされた分が還付されるのが現金給付で、最初から高額療養費制度の自己負担上限額までしか支払わなくていいとするのが現物給付。

山口育子参考人提出資料より
そして、自分がどれぐらい医療費を使っているか無自覚であることによって、薬を捨てる患者が出てきたり、自己負担上限が引き下げられる多数回該当を維持するために必要ない検査を要望する患者がいたり、「いとも簡単に高額な薬剤を使用する医師がい」たり、「高額療養費制度の使用目的で留学している外国人の存在があ」ったりする、と、指摘。

山口育子参考人提出資料より
「患者になれば、なくてはならない制度」だとしつつ、「諸外国に目を向けてみると、こんな恵まれた制度を擁しているところはほとんどないんじゃないか」と疑問を投げかけ、こう主張した。
「高額療養費の上限を引き上げることで困る方がいるのは重々承知しているが、例えば少子化もそうだが、この国が何十年も前から分かっていても目の前に来ないと対策を立てないことからすると、財源がもたなくて、突然はしごを外された時にもっともっと多くの方が路頭に迷う。そういった事態は避けなくちゃいけないのではないか」

山口育子参考人提出資料より
「全体からみると多数回該当は一部。だとすれば、そうでない方は引き上げをして、上限負担額を増やすことは避けられないのではないか。高額療養費制度は日本人にとってなくてはならないセーフティネット。これを維持、継続するためには、がん医療、個人の視点だけではなくて、社会を視野に入れて考えていくことが不可欠ではないか」
「日本の素晴らしい医療制度に甘えているのでは?」「もらえるものはもらわなくちゃ損だみたいな」
これに対し、全国がん患者団体連合会理事長の天野慎介委員が座長から最初に意見を求められた。
天野委員は、現物給付は、再発を繰り返し終わりのない抗がん剤治療を受け続けなければならなかった患者の要望や、治療費を捻出するために世帯を分離して生活保護を受ける患者が増えた末にできた制度であることを説明。
現状の制度でも、治療費が過剰な負担になり、WHOが定義する「破滅的支出」になっている患者がいる可能性が指摘されている中、引き上げについてどう考えるのか改めて山口参考人に質した。
山口さんは、「長期にわたって高額な医療費が継続する方については何らかの手立てをしていくことが必要だと思うが、多くの方は1回、2回。1回、2回、3回かわかりませんが、その方はやはり費用負担、少し上限額を上げていく。でも長期にわたって多数回該当が続く方については何らかの対策を講じることが必要ではないか」と答えた。
NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事の袖井孝子委員は、「山口参考人の話が非常に印象的で、受益者意識がすごく高くなっちゃっている」と発言。
「日本の医療制度って世界的に見ても素晴らしい制度ですが、私たちはこれに甘えちゃっているのではないか。積極的にその意味を理解しようとしていないんじゃないかと危惧を抱く。高額療養費制度の問題にしても、世界に冠たる素晴らしい制度なんですが、そのありがたさがわからなくなっている。もらえるものはもらわなくちゃ損だみたいなね」とし、
「まず第一歩として、利用者に私たちがどれだけ医療を使っているのか、どれだけ恩恵を受けているのかということをまず自覚しなくちゃいけないということをつくづく考えさせられました」と述べた。
保険者の立場から、全国健康保険協会理事長の北川博康委員も、「(負担上限引き上げを訴えた)山口参考人のご意見が大変示唆に富んでいる」と発言。
厚労省の事務局に、制度の国際的な比較を整理するよう求めた。
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