「2026年4月の男性定期接種化の実現を目指して迅速な議論を」HPVワクチン推進議連が厚労相に要望書を提出することで合意
自民党の「HPVワクチン推進議員連盟」(会長=田村憲久・元厚労相)が6月17日に開かれ、男性の定期接種化について2026年4月の実現を目指して審議するよう、福岡資麿厚労相に要望書を提出することを決めた。
田村会長は「日本だけ取り残されて、男性がうてないことによって日本だけHPVによる中咽頭がんが増えている。『なぜあの時定期接種化してくれていなかったんだ』と言われる可能性が高い。皆さんの健康を守るためにしっかりとご検討をお願いしたい」として、定期接種化を急ぐよう求めた。

※HPVワクチン 子宮頸がんや男性もかかる肛門がん、中咽頭がんなどの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐワクチン。現在は小学校6年生から高校1年生相当の女子が定期接種となっているが、接種後に訴えられた体調不良をメディアが薬害であるかのようにセンセーショナルに報じたことで接種率が激減。国は積極的に勧めるのを8年半差し控え、いまだに接種率は十分回復していない。男子の定期接種化も審議されているが、G7で公的な接種制度がないのは日本のみ。
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2026年4月からの男性定期接種化を目指して審議を
田村会長は、「男子の接種に関しては各学会から要望もいただいているが、費用対効果のところで止まっている。中咽頭がんへの適用がまだ認められていないこともあり、男子がうてば女性も当然子宮頸がんを防げるわけですけれども、そこの効果もなかなか認められていないということで、結論として定期接種化が進んでいない。これに関してさらなるアプローチを考えなくてはならない」とした。
要望書では、積極的勧奨が差し控えられた結果、接種率が低迷し、積極的勧奨の再開後も、定期接種最終学年の接種率は約50%にとどまっていると指摘。

議連で示された男性の定期接種化に関する要望書案
HPVは性的な行為で男女関係なくうつし合うため、女子の接種率が低いことで、HPVに関連する病気のリスクを男女ともに高めており、男性が多い中咽頭がんは毎年約2000人がかかることが示された。中咽頭がんは子宮頸がんと違い早期発見のための検診手段がなく、治療後も生活の質の低下で長く苦しむ問題もあることも指摘している。
その上で、HPVワクチンは76カ国以上で男女ともに定期接種となっており、G7の中で男性の定期接種となっていないのは日本だけと、世界の標準と比べて日本だけ遅れた状況になっていることが指摘されている。
その上で、
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9価HPVワクチンについて、男性の定期接種化を早期に実現するため、薬事承認前からファクトシートの作成を開始すること
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2026年4月の定期接種化の実現を目指して審議を行うこと
と、具体的な期限を示して、男性の定期接種化を急ぐよう要望することを議連で合意した。
厚労相に提出する時期については、田村会長に一任された。
厚労省「費用対効果に課題がある」と説明するが......
厚労省の前田彰久・感染症対策部予防接種課長は、男性の接種については、4価ワクチン(4種類のHPVへの感染を防ぐワクチン)で肛門がんと良性のできものである尖圭コンジローマが適応となっており、それを受けて2022年から厚労省の予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会のワクチン評価に関する小委員会で定期接種化が検討され始めたことを報告。

HPVワクチンの男性定期接種化のこれまでの議論について報告する厚労省の前田彰久・予防接種課長
その後、小委員会で、男性の定期接種化は費用対効果に課題があるという意見が出て、定期接種化が見送られたことを説明。基本方針部会では男性定期接種の費用対効果については、女性への波及効果も含めて総合的に評価していくことが了承されたとした。
ただし、この費用対効果の評価については、専門家たちから「不適切な評価の方法なのではないか」と批判も相次いでいる。
またHPVの専門家からは、費用対効果というより、海外では男女の平等性や公平性を重んじて男性の公的接種が導入されており、「日本は世界に10年遅れた議論をしている」と強い批判もされている。
2024年11月にはMSDがさらに効果の高い9価ワクチンについても、男性の肛門がんと尖圭コンジローマなどに適応を拡大する承認申請がなされているが、まだ承認されていないことも報告された。
今後については、費用対効果の評価は薬事承認された範囲内で行うのが原則だとして9価ワクチンの適応拡大の承認状況を踏まえたうえで、適応外の中咽頭がん、陰茎がんなどへの効果や、女性への間接的な予防効果も含めて検討しつつ、男性定期接種化の是非について議論を進めるとした。
「男性は取り残されている」「このままでは20年後には中咽頭がんが子宮頸がんを上回る」
意見交換の時間に、産婦人科医で自治医大名誉教授の今野良氏は、「費用対効果が男性接種についてはないというデータですが、このデータ自体が古い。昨年3月の時点で男性に対する接種の費用対効果は間違いなくどこの国でも取れる。さらに10年前からアメリカでは女性の接種率が50%より低い時には男性に接種しないと集団免疫効果(※)が進まないということがわかっています」と説明。
※集団の中で接種による免疫を持つ人が増えることで、接種していないも含めて集団全体が守られる予防効果。
「今は女性がうつことで男性の病気を減らすことにも貢献しているが、男女にうつことによって、男性の病気を防ぎ、ひいては女性の病気を防ぐ。子宮頸がんワクチンと呼ばれるように、子宮頸がんを男性がうつことで助けるという理解かもしれないが、決してそうではなく今男性は取り残されている。男性の権利が奪われている状況です」と訴えた。
田村会長は「世界中で男性にもワクチンをうって子宮頸がんを撲滅しようとしているのに、日本だけがエビデンスがありませんと言って止めている。結果的に子宮頸がんが撲滅できないことになる。世界基準と違うことを日本だけやっていることに対して行政の法的責任が問われかねないのではないかと思って積極的勧奨を再開した。今、男の子に関しても同じことが問われている気がするので、そういう観点をワクチン分科会で話していただいて、日本だけどうなのと専門家の方々にお話いただければ」と、日本は世界の標準から外れたワクチン行政になっている問題を指摘した。
神戸大学の耳鼻咽喉科頭頸部外科学分野教授の丹生健一氏は、「最近のがんの統計によると、年5〜6%男性の中咽頭がんが増えている。このままのペースで増えていくと、20年後にはアメリカと同じく子宮頸がんを中咽頭がんが上回る計算になる。なので抑えるなら今かなと思う」と訴えた。

神戸大学の耳鼻咽喉科頭頸部外科学分野教授の丹生健一氏
また、子宮頸がんは検診で早期発見する手があるが、中咽頭がんはそんな手段がないことを説明。
「予防するか、立派ながんになったものをしっかり治すしかない」とし、治療によって「食べられない。味がわからない」といった後遺症を負い生産性も落ちてしまう問題が起きかねないことを指摘した。
その上で「将来、あの時(男性への定期接種を)始めていなかったから、日本もアメリカのように子宮頸がんを上回ったとならないようにご検討をお願いします」と要望した。
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