大阪IRの運営に乗り出す企業に待った! 「違法なオンラインカジノで得た犯罪収益を取り込んでいる疑いがある」として認定取り消しを申し立て
IR整備計画の認定を取り消す審査請求と、認定の執行停止を求める申し立てをしたギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さん(真ん中)、同会の政策アドバイザリー、宇佐美典也さん(右)、代理人弁護士の中島俊明さん(左)。(撮影:岩永直子)
国土交通相が認定した大阪・夢洲地区のIR(※統合型リゾート)整備計画をめぐり、運営主体となる企業が犯罪収益を取り込んでいる疑いがあるとして、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」と、大阪府のもう一人の申立人は7月13日、同相に認定取り消しと計画の執行停止を申し立てた。
この企業は昨年9月、違法なオンラインカジノを運営していた別の企業を買収しており、犯罪収益を内部に取り込む形になっている、と主張している。
同会代表の田中紀子さんは「オンラインカジノの被害者の相談は急増しており、被害の弁償や救済は行われていない。違法なオンラインカジノの経営会社を買収した企業を含めた計画を認定することは、オンラインカジノを国が容認してしまうのと同等のこと。被害者置き去りのまま、さらにIRでカジノが作られるのはとても看過できない」と話している。
※カジノを中心に、ホテルや劇場、ショッピングモールなどを備えた複合型リゾート。
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大阪IR運営企業→違法なオンラインカジノを運営していた別の企業を買収
同会が問題としているのは、IRの運営主体「大阪IR株式会社」の大株主(約40%)となる合同会社「日本MGMリゾーツ」と、その親会社の米国「MGMリゾーツ・インターナショナル(以下インターナショナル社)」。
インターナショナル社は2022年9月頃、スウェーデンを拠点とするオンラインカジノ運営会社「レオベガス社」を買収した。
そのレオベガス社は、2018年10月頃から、刑法で常習賭博を禁じる日本では違法とされるオンラインカジノ「ロイヤルパンダ」「レオベガス」を日本向けに運営し、3年間で約5601万ドルの営業利益を得ていた。ちなみに違法なオンラインカジノで得たこうした利益は、組織犯罪処罰法で「犯罪収益」に位置付けられている。
レオベガス社はその後、2022年8月に日本の市場から撤退し、オンラインカジノ事業を別の企業「ダウグ社」に譲渡することを表明。その直後に、インターナショナル社に買収された。
申立人は、レオベガス社が違法なオンラインカジノ運営で得た犯罪収益を、MGMリゾーツが買収によって内部に取り込んだ疑いがあり、それがさらに大阪のIR運営に使われるなら「マネーロンダリング(資金洗浄)※に相当する」と主張。
※犯罪などによって得た不正な利益を、出所をわからなくするために転々と動かし、綺麗な資金であるかのように装うこと。
これが事実なら、犯罪収益を受け取ることを禁じる組織犯罪処罰法に違反するためIR運営社としては不適格だとして、MGM社がレオベガス社の犯罪収益を内部に取り込んでいないことが確認されるまで、この計画の認定は取り消すべきだと訴えている。
刑事告発も検討「政府がマネーロンダリングを認めることになる」
この日、ギャンブル依存症問題を考える会代表の田中さんらは管轄する国土交通省観光庁に認定取り消しの審査請求書と執行停止申立書を提出して受理された。
田中さんとMGMリゾーツとレオベガス社の関係を見つけた同会政策アドバイザリーの宇佐美典也さん、代理人弁護士の中島俊明さんは記者会見を開いた。
宇佐美さんは、「仮に政府が真摯に問題に向き合っていただけない場合は、一度国内から違法なオンラインカジノによって得られた犯罪収益が、ぐるぐる回って日本に再び放出されるという意味で、政府がマネーロンダリングを認めることだと考えている。そうなった場合は刑事告発等も含めて検討する予定だ」とした。
中島弁護士は、「日本から収奪された犯罪収益、違法収益がIRに使われていくことが果たして正しいことなのか。また大阪IR社の大株主としてMGM社が関わっていくことが適切なのか。ギャンブル依存症防止の観点からもこれは説明がつかないのではないか」と訴えた。
同会は今年6月、政府に対してオンラインカジノの規制を求める要望書を提出している。これを受けて警察庁と消費者庁は「日本国内ではオンラインカジノに接続して賭博を行うことは犯罪です」と書いた啓発ポスターを全国に5万枚配布したが、それ以外に具体的な防止策は取られていない。
オンラインカジノは犯罪であることを啓発する警察庁と消費者庁のポスター
田中さんは、違法であることがあまり理解されずに広がってしまったオンラインカジノの被害として、「借金を抱えたり、多重債務に陥ったり、それが家庭にも及んで離婚したり、家を売る羽目になったりした悲劇の連鎖が絶えない」と説明した。
オンラインカジノは365日24時間、スマホで手軽にできるため、短期間で依存症になる人が多く、これによって生活が破綻する若者が増えていることも問題になっている。
岸田文雄首相も昨年6月の衆議院予算委員会で「オンラインカジノ、これは違法なものであり、関係省庁が連携をし、厳正な取り締まりを行わなければならないと思います。また資金の流れの把握、実態把握をしっかり行うことは重要であると思います。合わせて依存症対策についても考えていかなければならない。こうした重要な課題であると認識いたします」と答弁している。
MGMリゾーツ、観光庁、大阪府、大阪市の反応は?
この申し立てに対して、記者は同日、大手町の「MGMリゾーツジャパン」のオフィスを訪問し見解を質した。
MGMリゾーツジャパンの大手町のオフィス入り口(撮影:岩永直子)
同社は、PR会社を通じて、ウェブサイトに掲載したコメントで回答とするとした。
「一部団体によるご主張につきましては、事実無根であり、かつ誤解を招きかねないものでありますので、MGMとして全く容認できません」としているが、具体的に何が事実無根なのかは説明していない。
「レオベガス社は、モバイル・ゲーミング事業会社で、かつてスウェーデンの上場企業でしたが、2022年9月にMGMが同社の過半数株式を取得しました」と買収の事実を認めたうえで、違法なオンラインカジノを運営していたレオベガスの「犯罪収益」がどう取り扱われているかについては、こう説明した。
「MGMは、レオベガス社の買収を完了する前に、同社に対し、日本国内からの同社サイトのアクセスを停止させるよう要求しました。したがいまして、MGMは、レオベガス社の買収にあたっては、日本市場を含まない同社のビジネスおよび運営状況をベースに評価を実施しました」
つまり、レオベガス社が日本で行っていた違法なオンラインカジノを切り離して評価して買収したため、同社が得ていた犯罪収益とは無関係であるかのように主張している。
さらに、MGMはレオベガス社がオンラインカジノ事業を譲渡したダウグ社のオンラインカジノ「カジノレオ」の運営はせず、MGMもレオベガス社もダウグ社と資本関係はないと、オンラインカジノへの関与を否定した。
大阪府「MGM社は関係法令に則って適切に対処している」
IR整備計画の認定を受けた大阪府のIR推進局推進官は「MGM社で関係法令に則って適切に対処していると認識しており、問題ないと考えている。申し立てについては国において適切に対処するはずだ」と申し立ての指摘を否定した。
申し立て書を受理した国土交通省観光庁や、認定を受けた大阪市にも見解を聞いているが、現時点で回答はない。さらに記者はMGM社に不明な点について、追加の質問も送る。回答が届き次第、追記する。
【追記】記者は、MGM社の「一部団体によるご主張につきましては、事実無根であり、かつ誤解を招きかねないものであります」などのウェブサイト上のコメントについて、以下の質問をメールで送っていました。
1.「一部団体によるご主張につきましては、事実無根であり、かつ誤解を招きかねないものであります」とありますが、具体的にどこが「事実無根で」、どこがどんな「誤解を招きかねない」のでしょうか?ご指摘ください。
2.「日本市場を含まない同社のビジネスおよび運営状況をベースに評価を実施いたしました」とありますが、これによって違法なオンラインカジノ事業からの「犯罪収益」とMGMは無関係なのだと主張されたいのでしょうか? レオベガス社が行っていたオンラインカジノについて、違法だという認識はございますでしょうか?MGM社は犯罪行為をしてきた企業と取引をすることは厭わないという解釈でよろしいでしょうか?
3.レオベガス社が2022年8月にDawg社にオンラインカジノの事業譲渡をしていますが、この時に何らかの報酬は得ていないのでしょうか?もし得ているとしたら、それも含めてMGM社は買収したと受け止めることができると思いますが、どのようなご見解でしょうか?
4.申立人は、レオベガス社のオンラインカジノによる「犯罪収益」を買収などによって洗浄するマネーロンダリングの疑いがあると指摘しています。これについてはどのようなご見解をお持ちですか?
5.申立人は国土交通大臣の認定取り消しと同時に執行停止も申し立てています。これについてどうお考えになりますか?
この質問に対し、MGM社は7月18日、PR会社を通じて「日本MGMを通じて本国へ確認しましたが、HPで発表した情報以上のことはお答えできない」と、回答しない旨の返事を送ってきました。
以上、ニュースレター7回目は、国や大阪府が進めるカジノを中心とした複合型リゾートの整備計画に、違法なオンラインカジノで儲けた犯罪収益が入っている疑いがあるとする、申し立てについてでした。スマホで手軽にできるオンラインカジノは簡単にギャンブル依存症を引き起こすとして、規制の必要性が叫ばれています。
次回はゲノム医療についての不定期連載第一弾を配信します。遺伝情報による差別を禁じるゲノム医療法が6月に成立しましたが、具体的にどういう差別や偏見があるのか、当事者は特定の病気になりやすい遺伝子変異をどう受け止めるのか、まずは遺伝性乳がん卵巣がんの当事者の話を4回に分けてお届けします。
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