近所の飲み友達と「孤独死防止条例」を締結 雨宮処凛さんが自身の「終活」で一番大事にしていること
作家の雨宮処凛さんが出版した、独り身が生き延びるための制度や方策を詳しく紹介する『死なないノウハウ』(光文社新書)。
コロナ禍で数多くの困った人への生活相談にのり、アラフィフ・独り身の自分のために書いたというだけあって、かゆいところに手が届く内容だ。
自身の終活も30代から始めているという雨宮さんに、今からどんなことを考えておけばいいのか聞いてみた。
近所の飲み友達と「孤独死防止条例」を締結している雨宮処凛さん
医療記者の岩永直子が吟味・取材した情報を深掘りしてお届けします。サポートメンバーのご支援のおかげで多くの記事を無料で公開できています。品質や頻度を保つため、サポートいただける方はぜひ下記ボタンから月額のサポートメンバーをご検討ください。
DV夫や毒親持ちにも制度を使いやすくするための情報
——本の反響はいかがですか?
とてもよくて、おかげさまで2月に出してから6刷まで重ねています。
みんな感想が違うのも面白いです。「何かあっても困らないように、本棚の見えるところに置いています」という人もいます。
会社の人事担当の人からは、「健康」の章で取材したCSRプロジェクト代表理事の桜井なおみさんが言った「『こんな制度があってこういうふうに休めるよ』ではなく、『うちはこういう働き方ができるよ』と言ってほしい」という言葉が刺さりました、と言われました。
あとは親との関係に悩む人からは、毒親持ち向けの支援措置とか、家族代行を使う方法とかを読んで「こういう風に制度を使えば、親と関わらなくてもなんとかやれるんだ」と喜ばれたりもしました。
また後ろ暗いところがある人は、終活部分に書いた、死んだ後のスマホやパソコンの処理の仕方を知って、「これで安心した。家族を幻滅させなくて済む」と喜んでいます(笑)。
最終章の終活部分には「自分の死後のスマホやパソコン」「孤独死での腐乱死体化を防ぐには」「自分の亡きあとのペットはどうなる?」など、かゆいところに手が届く項目が並ぶ。
——今、おっしゃったような毒親持ちで関わりたくない人とか、DVを受けて逃げてきて夫に住所を知られたくない人とか、制度を使いたいのにためらっている人向けにも、安全に使う方法まで書かれていますね。
DV相談は前からあるのですが、コロナ禍で相談会をやると、びっくりするほど毒親の相談が多かったんです。特に女性。コロナで入院したら、もし自分が死んだらと、心配になったようです。
コロナ禍は誰にとっても究極の状態でした。その中で、何かあったら親に連絡がいってしまうと恐怖を覚えている人が多かった。経済的に安定している人でもです。やはりこんなに親問題で困っている人がいるんだなと、戸籍や住民票の閲覧交付を制限する「支援措置」も紹介しています。
ちなみに私の周りで女性を支援する支援者が一番口にする制度が「支援措置」なんです。親だけでなくDV夫から逃げている人にも必要な制度です。そこが男性支援とは全く違います。
酒が飲める?たばこが吸える?施設に入る前に考えておきたい「自分にとって大事なこと」
——もう一つ、人間らしくてすごく面白かったのですが、介護施設に入る時、「施設で好かれる方法」や「施設で飲酒・喫煙できるか」も取材して書いていますね。
たばこを吸えるかや酒が飲めるかは一番重要な条件なんじゃないかと思うんですよ。禁酒のところが終のすみかだなんてあり得ないですよね。
雨宮さんも私も毎晩欠かさず飲む呑兵衛。高齢者施設であっても、酒が飲めるかどうかは重要な判断基準になる。
——酒呑みがそれを確認しないで大金を振り込んで、後で気づいても出られないなんて悲惨ですね。
そうなったら、もう刑務所ですよ。こういう部分も聞いて書いたのは、自分が入ることを考えるからです。親が入るにしても自分が入るにしても、まだどこか遠い未来のものと考えていて、その時の自分はもうあまり欲望もないし、色々わからなくなっているんじゃないかとイメージがあると思います。
でも老後はそんなことはなく、この日常の果てにあるものです。
——入居金6000万円の高級老人ホームに入った、ライブハウス「ロフト」創業者の平野悠さんにも取材していますね。元気なうちから移住して、でも結局退屈になって出てきてしまった。
そんなふうに元気なうちから入る可能性もあるわけですし、逆に判断能力がなくなってから入れられるのは怖い。となると、今から自分にとって何が大切か優先順位をつけるのが「終活」になるのでしょう。
その時に自分にとって譲れないのは......やっぱり酒。
——(笑)。
あとご飯が美味しいかどうかも重要です。私は景色とかはどうでもいいので。あとはプライバシーです。介護度にもよるでしょうけれども、そういう優先順位をつけておくと、少しでも嫌な思いは避けられるかもしれません。
尊厳は人によって違うので、それは考えておくべきだと思います。
家族とも話し合う?
——ご両親は北海道のご実家にいるそうですが、雨宮さん自身は介護をどう考えていますか?ごきょうだいは?
弟が二人北海道にいます。
——弟に任せる?
両親は元気なのでそんな話もまだしていないのですが、弟二人はどちらも家庭がある。本で書いたように介護はとにかく公的支援をフル活用するつもりですが、それでも両親の近くに住む弟に負担がかかると思います。
そうなれば不公平感が生まれるに決まっているので、遺産ではなく、親がその都度世話になる子供にお金を渡すなどの方法も本の中で紹介しています。やっぱり解決策はお金ぐらいしか思いつかない。それできょうだい仲を悪くしたくはないですし。
——女、男、男で、しかも長女の雨宮さんが独り身だったら、昭和世代だと女性である雨宮さんに介護が押し付けられそうな気もします。そうはなっていないのですね。
父親などは以前から「施設に入って子供には一切迷惑をかけないようにするから」と言うのですが、リアリティをもって話しているとはあまり思えない。老いもグラデーションがあるので、決断は難しいと思います。
——正月とかに帰省するときに少しずつ話し合っておく必要があるのでしょうかね。自分に知識があっても、介護の方針などは家族を巻き込んで決めなければなりませんよね。
親や子供のキャラにもよるでしょうね。私の両親は、自分たちの両親を施設に入れた経験があるので、施設や手続きの知識はある。それは心強いし、話はしやすいだろうと思います。こればっかりは魔法の言葉はないので、それぞれの家庭で試行錯誤するしかないでしょうね。
近所の飲み友達と「孤独死防止条例」を締結
——施設を手厚く紹介して、自宅でずっと暮らす方法についてはあまり書かれていませんが、ご自身はどうしようと考えていますか?
最期が病気なのか、高齢なのかによっても変わってきますよね。よく女性だと仲良しの女性たちでシェアハウスで暮らそうなどと話しますが、本当にそれをやったらせっかく仲が良かったのに喧嘩しちゃうんじゃないかとか考えます。
やはりそれぞれ独立して近所にいて、「孤独死防止条例」を結んでいる友人同士で助け合うのが一番理想的かなと思います。
撮影・岩永直子
私は30代ぐらいから近所に住んでいる飲み友達とそういう条約は結んでいます。猫を飼っているから、自分が急死してしまった場合、猫が餓死するのは避けたい。コロナに感染した時も外に出られないのに猫が具合が悪くなった時に、その友達に動物病院に連れていってもらいました。近所の友達ネットワークはあるので、それで生きていくしかないですよね。
——でも人間関係うまく作れない人も多いですよね。
特に男性は難しいですよね。
——だから「頼れる人間関係を作っておけ」と人によっては難しいことを伝えるのではなく、誰でも使える制度に絞って書いているのがいいと思いました。
人間関係が一番ハードルが高いと思います。 今孤独死しているボリュームゾーンは中高年男性で、頼りあったり、風邪の時に面倒見合おうねと言いあったりできる人は少ないと思います。若い世代だとあり得るかもしれないですが。
依存症の人にも役立つ情報
——この本をどう役立ててほしいですか?
結構多いのが、「友達にプレゼントした」という声です。自分も読んで、他に何冊か買って、非正規やシングルマザーで働いていて心配な人に「自分が読んで良かったから、何かあったときにこれ読んだらいいよ」とプレゼントしてくれる。それはありがたいです。
自分が困っていなくても、今の時代、この本に書いた制度が適用される人は必ず周りにいます。トラブルの際の解決策も、今直面していなくても知っているに越したことはないです。
‚——支援者も知っていてほしい情報ですね。
支援者は一通り知ってほしいです。例えば、困窮支援の施設の人の多くは介護施設のことなどは知らないんですよね。
——私は依存症の専門メディア「Addiction Report」の編集長もしているのですが、依存症の人や家族にも役立ちそうな情報です。
最初の「お金」の章は全部役立ちそうですし、コロナ前に私が出会ってきた若年ホームレスは、児童養護施設出身か、依存症の問題を抱えている人が圧倒的に多かったんです。
児童養護施設出身者は何かあった時に頼れる親がいないから、保証人を立てることなどが難しい。住み込みの職場が嫌になった時などにも、実家など行く先がなくて路上に行ってしまう。
依存症はパチンコ依存やアルコール依存の人が多いです。やっと生活が再建できてきたなと思った時にスリップする姿もよく見てきました。
——金に行き詰まって自殺してしまう人もいるようなのですが、少なくとも金のことがどうにかなれば、死ななくても済むかもしれないですね。
結局、借金するから人間関係も全て壊れてしまって行き詰まる。そういう人が生活保護で、生活を立て直したという話はよく聞きます。若い人でなくても、中高年でも、ギャンブルで借金を抱えて、借金取りから逃げ回ってという人はよくいます。
そういう人たちが、この本で紹介しているようなセーフティネットを使いつつ、治療もして、自助グループなどにもつながって回復していく道があると言いたいですね。まずは寝るために帰ることのできる場所がないと、安心して治療なんてできませんよね。生活の土台を整えるための制度はいっぱいあります。
貧困問題自体、依存症と近いです。バッシングするときの決まり文句が、「生活保護を受けているのにパチンコして」とか「ホームレスが酒盛りして」。どちらも依存症の話だと思うのですが、貧困と依存症には親和性が見られます。
これまで、根性論が押し付けられ、ただただ世間から説教されてきた。最近、ちゃんと治療や支援の問題として語られるようになってきたのはいいことだなと思います。
支援を受けることのスティグマは?
——昔は、「生活保護を受けるのは恥ずかしい」と避ける人が多かった時期がありましたが、こうした社会保障制度全般に関してはそういう意識は見られますか?
あまりないです。住居確保給付金も給付金ですが「お上の世話にはならない」と言う人はいません。
——そういうスティグマ(負のレッテル)がついていないのなら使いやすいですね。
逆にいうと、この本で紹介した制度をほとんどの人が知らないから、イメージもつけにくいのだと思います。生活保護は生活全般が丸抱えになってしまうので、スティグマとセットになりやすい。
でも住宅確保給付金などは家賃だけだからか、そんな風に捉えている人は少ないです。困ったらためらわずに制度を使うためにこの本を役立ててほしいですね。
(終わり)
【雨宮処凛(あまみや・かりん)】作家、活動家、反貧困ネットワーク世話人
フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版、のちにちくま文庫)でデビュー。06年から貧困問題に取り組み、07年に出版した『生きさせろ!難民化する若者たち』(同)はJCJ賞を受賞。
著書に『非正規・単身・アラフォー女性』(光文社新書)、『コロナ禍、貧困の記録、2020年、この国の底が抜けた』 (かもがわ出版)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)
医療記者の岩永直子が吟味・取材した情報を深掘りしてお届けします。サポートメンバーのご支援のおかげで多くの記事を無料で公開できています。品質や頻度を保つため、サポートいただける方はぜひ下記ボタンから月額のサポートメンバーをご検討ください。
すでに登録済みの方は こちら