「新型コロナはまだ終わったわけではない」新型コロナ専門家分科会のメンバーが退任会見で強調したこと

新型コロナウイルス感染症対策を提言してきた政府の専門家分科会の尾身茂会長らが退任の記者会見で、流行中の第9波について「まだコロナは終わったわけではない」と改めて注意喚起しました。
岩永直子 2023.09.14
誰でも

新型コロナ対策を提言してきた政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家分科会」が廃止されたことを受け、尾身茂会長ら主要構成員3人が9月14日、退任の記者会見を開き、「まだコロナは完全に終わったわけではない」と感染対策の続行を呼びかけた。

”最後の記者会見”をする左から武藤香織さん、尾身茂さん、岡部信彦さんら「新型コロナウイルス感染症対策専門家分科会」の元構成員ら

”最後の記者会見”をする左から武藤香織さん、尾身茂さん、岡部信彦さんら「新型コロナウイルス感染症対策専門家分科会」の元構成員ら

※それぞれの総括内容については、別の記事で詳報します。

専門家分科会は廃止「最後の会見」

政府は9月1日に「内閣感染症危機管理統括庁」を発足し、「新型インフルエンザ等対策推進会議」もメンバーも議長だった尾身氏を含めて刷新したばかり。これに伴い、推進会議の下部組織に当たる同分科会も廃止された。

今回、「新型コロナに関して会見するのは最後の機会になる」として会見したのは、分科会の会長だった尾身氏のほか、構成員だった川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦氏、東京大学医科学研究所公共政策研究分野教授の武藤香織氏の3人。

それぞれ、分科会で出してきた提言や議論について振り返りつつ、第9波の最中、新しく変異したウイルスが登場し、重症者も増えているにもかかわらず、報道が減り、人々の対策意識も低くなっていることについて、口々に注意喚起した。

「まだコロナは完全に終わったわけではない」

尾身さんは、「我々はこの病気が終息したから総括しようということでは決してない」とし、現状について以下の認識を述べた。

「まだコロナは終わったわけではない」と引き続きの感染対策を呼びかける尾身茂さん

「まだコロナは終わったわけではない」と引き続きの感染対策を呼びかける尾身茂さん

「まだ全国的に今の第9波はピークには達していない。まだ多くの地域で感染が少しずつ増えている。実際に医療の現場では特に救急医療を中心にかなり負荷がかかっているのも事実。この冬にかけては少し気がかりだと思っている」

「この病気は確かに多くの若い人、比較的体力の強い人が感染してもほとんど重症化しないという意味では安心できる病気だが、実は後遺症の問題が結構ある。高齢者や基礎疾患(持病)のある人は第1波から8波まで、5波は例外的だが、致死率が低いにもかかわらず、死亡者の絶対数は増えている」としたうえで、こう注意した。

「まだまだコロナは完全に終わったわけではない。これからの生活や教育や社会活動を維持しながら、まだ感染は終わっていないんだ、しばらく続く、ということをみんなで共通(認識に)して、それぞれの判断でこれからも社会を回しながら、高齢者に感染がいかないように感染対策を気をつける。そういうバランスをとることが必要なんだと思います」

「5類になったから『もう大丈夫』ではない」

岡部氏は、「会見のタイミングとして『これで(コロナは)おしまいだ。ちょうどいい区切りだ』と逆に受け止められてしまって、我々が総括したとなるとまずいなという思いがある。パシッと切れているわけではなく、連続する問題だ。我々の役割の卒業という意味での総括であって、この病気の総括ではない」と釘を刺した。

「5類になったからといって、もう大丈夫という状態ではない」と釘を刺す岡部信彦氏

「5類になったからといって、もう大丈夫という状態ではない」と釘を刺す岡部信彦氏

今年5月に5類感染症に移行したことについては、「人々が安心して、ある程度この病気を許容して暮らせるようになることが大きい意味だと思う」と述べ、その上でこう呼びかけた。

「感染症はコロナに限らず一定数のリスクがあり、気をつけなければならないことがある。5類になったといって、全部それを忘れてしまって『もう大丈夫』という状態ではない。それはぜひ色々な方に理解をしてもらいたい」

「高齢者など重症化リスクの高い人へのケアはこれからも必要」

武藤氏は今年の春にすでにマスクを外そうと呼びかける人たちと、必要な場面ではつけるべきだと主張する専門家らの間で議論があったことに触れ、こう指摘した。

高齢者など重症化しやすい人への注意を呼びかける武藤氏

高齢者など重症化しやすい人への注意を呼びかける武藤氏

「5類になったとはいえ、重症化しやすい高齢者へのケアは引き続き必要だし、高齢者と同居する方々、施設で働く方々の緊張感は今も続いている。今日の会見は一つの区切りではあるが、この感染症と共存せざるを得ないという事実は変わることはない」

「後遺症に苦しむ人がおられ、一部の地域では医療の制限も始まっている。病床を確保しにくい属性の方々がいて、今までは行政が入院調整という形でその方達に医療を確保することをやってきたが、それもやがてなくなる状況になる」

その上で、こう注文をつけた。

「これから私たちの社会の中でケアをどう考えるべきかを抜本的に考えることが必要だ。誰もが周囲や家族をケアする『1億総ケアラー社会』という表現があるが、女性に偏りがちなケアの負担を女性任せにせず、病気休暇制度やケアの休暇制度を普及させることなどが必要だと思う。ここで議論を止めることなく政策決定に議論を進めていただきたい」

そして、政府の対策や支援策が徐々に縮小していくことについて触れ、「来年の春には一般の医療として扱うことになり、特別なものがなくなっていく。そのことを人々に理解していただき、予防の大切さを改めて知っていただく機会になれば」と話した。

「まだウイルスは安定していない」

また、新型コロナウイルスが登場した時は「未知のウイルス」と言われていたが、ウイルスが変異して性質を変えていくことについてはどう捉えているか問われ、尾身さんはこう警戒心を明らかにした。

「この病気が完全には普通の病気にはなっていない一つの理由は、このウイルスがまだまだ変化をし続けていることだ。今回も新しい亜種が出てきている。オミクロン株の中の変異だが、まだこのウイルスが安定しているということにはなっていないので、これからも終わっていないという風に考えながら社会を動かしていくことの理由の一つだと思います」

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