能登半島地震の支援に入る保健・医療従事者へ すぐに役立つ情報を無料公開
1日に発生した能登半島地震の支援に入る保健・医療従事者向けに、中外医学社は『保健・医療従事者が被災者と自分を守るためのポイント集』を無料公開している。
編集を担当し、出版社に無料公開を働きかけた国立国際医療研究センターの特任国際臨床研究推進部長、和田耕治さんは「すぐに現場で役立つ情報がコンパクトにまとまっているので、ぜひ役立ててほしい」と呼びかけている。
![「現場で確認すべきチェックリストなど、すぐに役立つポイントが盛り込まれているので活用してほしい」と語る和田耕治さん](https://d2fuek8fvjoyvv.cloudfront.net/naokoiwanaga.theletter.jp/uploadfile/c2dfddeb-2ee2-4cf3-aa49-3088100ccf0f-1704518329.jpg)
「現場で確認すべきチェックリストなど、すぐに役立つポイントが盛り込まれているので活用してほしい」と語る和田耕治さん
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東日本大震災に医療支援に入った専門家が執筆
この書籍は東日本大震災が起きた際、現場に支援に入った保健・医療従事者らによって執筆され、2011年7月に出版された。
震災からの期間ごとの医療ニーズや必要な支援を説明し、被災現場や避難所で被災者や支援者の心身の健康や安全を守るためのポイント、支援に入る前の心構えや準備しておくことなどが書かれている。
既に絶版になっていたが、大きな地震、津波、相次ぐ余震、寒い時期の避難生活など、東日本大震災と共通することも多いことから、「今回、現場に支援に入る人に役立ててほしい」と、和田さんが出版社の担当者に掛け合い、全文無料公開が実現した。
「英断してくれた出版社にはとても感謝しています。感染症対策や、歯磨きができない時のお口のケアなど、被災地で実際に手を動かした人が書いているので、非常に実践的。各項目が短く、現場で確認すべきチェックリストなど『すぐに使える』本になっているのが特徴です」と和田さんは語る。
以下の項目ごとに公開されている。
フェーズごとに起こり得ること、必要なことを整理
被災から48時間の「超急性期」、48時間から1週間の「急性期」、1週間から4週間の「亜急性期」、4週間以降の「慢性期」と、フェーズ(段階)によって起こり得ること、必要な支援を整理しているのも特徴だ。
今、何をすべきかだけでなく、次に何が必要かも見据えながら、支援ができる。
「保健・医療従事者もそうですが、メディアの人も東日本大震災で何が起きたか結構忘れています。次に何が起きるかを書いているので、効率的に支援をするために役立つはずです」
「今は急性期に入った段階なので、公衆衛生の出番はこれからです。感染症やトイレや入浴、食事など避難所生活を改善するために必要なことなど、なるべく見落としを減らすためにチェックリストも含まれています。使用の許可など不要ですのでぜひご活用いただきたいです。被災者を訪ねる保健師さんなどに使ってもらうと手間が省けると思います」
あらかじめ何が起きるかを頭に描いた上で準備するのと、行き当たりばったりで対応するのとでは、支援の質も違ってくるという。
「過去の震災対応で、次はこの問題が起きるからこの準備をしておくべきだという情報の蓄積はあるのです。ただ喉元過ぎれば熱さを忘れてしまい、次の震災に活かされないところがある。この本の情報を土台にしながら、アレンジするところは変えて、今回の被災者に本当に役立つ支援をしてほしいです」
大きな余震が続き、被災地が広範囲
今回の震災の特徴について、和田さんはこう語る。
「今回のポイントは大きな地震であり、津波がまた来たことです。そして、大きな地震が繰り返し起きることで、道路や水などインフラに影響が出ています。道路が寸断されていて、情報が入ってこない問題も長引いています」
「この特徴から、被災生活は長くなりそうだとも予想できます。また今回、被災地が広範囲で、被害の実態もまだ見えていませんし、被災者を安全な場所に移動すれば解決というわけでもない。最も弱い人にまだ支援の手が届いていないのも問題でしょう」
一方でこれまでの震災と共通するところもたくさんある。
「たとえば寒さ対策が重要なのは、これまでの震災とも共通する特徴です。また、水やトイレに困っている避難所が今回も多い。倒壊した建物が多いことや、インフラ復旧が遅くなりそうなのも共通します」
「その特徴を踏まえると、今は本の2章の『被災者の安全と健康を守る』が一番のポイントです。たとえば、最初に書いてある『被災した建物に入る際に知っておきたい10 のポイント』は、まさに大きな余震が何度も起きている現地で直面している問題です」
この章の2番目に書かれている「がれきの焼却をする際に知っておきたい5 つのポイント」も、これから間も無く必要になりそうだという。
「ゴミの処理問題はまもなく出てきます。寒いので次に書いている『一酸化炭素中毒を予防するために知っておきたい 7 つのポイント』も重要になります。東日本大震災でも暖を取ろうと、ガソリンのなくなった車の中で練炭を焚いて亡くなった方もいらっしゃいました。発電機の使用の際にも、一酸化炭素中毒に注意が必要です」
インフルエンザや新型コロナウイルスなど感染症の流行時期に当たったのも、気をつけるべきポイントの一つだ。
「感染対策は、インフル、コロナ、下痢の3つがメインです。しかし今は、感染対策のために必要なものも不足しています。手を洗う水はないし、アルコールもない。マスクもない」
「今すぐというより、支援者も増えてくる来週、再来週以降、問題になってくる可能性があります。当面は、支援に入る人は感染対策としてマスクを着けて現地に入ることが必要です。マスクは、ホコリを吸い込まないようにする対策にもなります」
暴力の問題、妊産婦、子供、高齢者ら災害弱者への支援のポイントも
この2章には「被災地の治安を守るために予防すべき4つの暴力」という項目もあり、「子どもへの暴力」「家庭内での暴力」「性的暴力」「若者の暴力」を防ぐ方法も書いている。
「暴力だけでなく、この章には『妊娠・出産された方に伝えたい10 のポイント』や、子供、高齢者ら災害弱者への支援のポイントも書いています。見落としやすいことなのですが、災害弱者を守るのは大事なことです。これらを読んでいただければ質の高い支援ができると思います」
支援者も自身の健康や安全を守る必要
この本の主な対象者は保健・医療従事者だが、支援に入るボランティアにもできたら読んでほしいと言う。
「こういう知識があったらより活躍できると思います。被災者は余裕がないので、支援に入る人がこうした基本を理解して被災者に必要な支援を届けてほしい」
3章では支援に入る人の安全と健康を守る手段も書かれている。
「今は寒さ対策が重要でしょうね。日本は寒さ対策に対して個人任せにされることが多いのです。熱中症は職場でもいろいろ対策を取るようになりましたが、寒さ対策は自己責任とされてしまう。今の時期、被災者、支援者ともに寒さ対策を頭に入れて健康を守ってほしいです」
災害大国で、「明日は我が身」
「災害大国の日本で、こうした被災や支援は他人事ではなく、明日は我が身です」と和田さんは言う。
「私も復習のつもりで読んでいますが、東日本大震災での出来事さえ、意外といろいろと忘れてしまっていることに気づきました。今回支援に入る人はもちろんですが、いつ自分に起きてもおかしくない。すべての人に読んでもらいたいです」と呼びかけている。
医療記者の岩永直子が吟味・取材した情報を深掘りしてお届けします。サポートメンバーのご支援のおかげで多くの記事を無料で公開できています。品質や頻度を保つため、サポートいただける方はぜひ下記ボタンから月額のサポートメンバーをご検討ください。
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