新型コロナが5類に移行して初めての年末年始 どう過ごしたら安心ですか?

新型コロナウイルスが5類に移行して初めての年末年始を迎えます。忘年会や帰省、旅行、どう過ごしたら安心でしょうか?岡部信彦さんに聞きました。
岩永直子 2023.12.17
誰でも

新型コロナウイルス感染症が季節性インフルエンザ並みの5類に移行して、初めての年末年始を迎えます。

様々な呼吸器感染症が流行し始めている中、忘年会や帰省など、どう過ごしたら安心でしょうか?

感染症の専門家、川崎市健康安全研究所所長、岡部信彦さんに聞きました。

「日常生活を楽しめるようになって良かった」と話す岡部信彦さん(撮影:岩永直子)

「日常生活を楽しめるようになって良かった」と話す岡部信彦さん(撮影:岩永直子)

※インタビューは12月12日に行い、その時点の情報に基づいている。

***

医療記者の岩永直子が吟味・取材した情報を深掘りしてお届けします。サポートメンバーのご支援のおかげで多くの記事を無料で公開できています。品質や頻度を保つため、サポートいただける方はぜひ下記ボタンから月額のサポートメンバーをご検討ください。

5類移行の良いところ→人々の気持ちが安定

——新型コロナウイルス感染症が2類相当から5類に移行して、社会も大きく変わりました。どのように見ていらっしゃいますか?

5類移行がもたらした良かったことは、人々の気持ちが落ち着いてきたことではないでしょうか。日常生活に戻って遊びにいくこともできるし、部活もできる。呑むこともできるようになった。

5類になってコロナの取り扱いが違ってきて、人々の生活をある程度元に戻す原動力になった。それはいいことだと思います。

ただ節度の問題は、いつでも出てきます。ウイルスは消え去ったわけではないですから、ウイルスに対する注意は当然、今でも必要です。

再び感染者が増える可能性は常にあるわけで、その時にどの程度の対応をすべきか。感染者の数だけで考えるのではなくて、重症度や広がりのスピード、そして治療法やウイルスの性質の分析や海外の情報なども加味して考えることが必要です。

一般医療を含めて、重症患者の受け入れに余裕がなくならない限りは医療対応はできるので、社会全体としては落ち着いて対処できる目安となるのではないでしょうか。

しかし、感染症は人間の弱点を見つけてそこを突いてくるものです。やはり、かかるよりはかからないほうがいいですし、無理がない程度の予防法はきちんと身につけておきたい。

予防策が日常生活を妨げるものであってはいけないのですが、ここは感染リスクが高い場所だなと思ったらマスクをつけるとか、具合が悪ければ休むとか、日常の何気ない注意が全体の「感染予防力」に関わってくると思います。

感染症対策を24時間365日きっちりとやる必要ははありませんが、基本的な対策は常に思い出してくださいと、と一般の方々にはお願いしたいです。

——私たちは感染状況に応じてガードを上げ下げする判断力や対策方法はもう身につけたでしょうか?

大分身につけているのではないかと思いますし、忘れないでほしいですね。

今の新型コロナウイルスはオミクロンの範囲内での変化で、幸い大きな変異が起きているわけではありません。その範囲での変化なら問題は少ないわけですが、今後、大きな変異を起こさないという保証もありません。

そのためにもウイルスの分析は絶えることなく続けなければなりません。もし病原性が強くなるような変異が起きたら、当然警戒感は上げないといけません。それを想定しておき、ウイルスの変化だけではなく、病気の情報、疫学情報とあわせて判断することが重要です。

——まだそうした大きな変異の兆しは見えないですね。

はい。見えていません。

5類移行の問題点は?

——5類移行で良かったことをまず指摘してくださったのですが、悪かったことはありますか?先生は新型コロナは5類に当てはめるのではなく、独自の分類を作った方がいいと主張されていました。

今でもそう思います。サーベイランスのやり方や見つけ方の変化、お金の問題などが出てきていると思います。今までにない感染症として登場したものを、今までの枠に収める必要はないのでは、という考えです。

例えば治療費やワクチン接種を自己負担にする問題、コロナ患者用のベッドを空けておけるかという問題も考えられます。補償も薄くなる。コロナに対する医療体制は、5類になるとどうしても緩みがちです。病気になった人から見ると自己負担は重くなったと思います。

いまだに新型コロナウイルスは特殊な動き方をする病気なので、すでに疾患として固定している他の感染症と同じようには扱えません。

治療費でいえば、HIV/エイズも5類です。社会福祉制度や身体障害者としての申請などによって、治療費の自己負担はほとんどかからなくなっています。

新型コロナの場合は感染者が多いため、HIV/エイズと同様の扱いはできませんが、サポートする制度を並行して示していかないと、医療やワクチンなどを受けることをためらう人が出てくる。となると、悪化を止められなかったり、感染拡大のもとになってしまうことが危惧されます。

一方で、「なんでもただが当たり前」というのも良いことではない。少なくとも自分にかかる医療費はどれぐらいなのか、公費負担はどのくらいなのか、国民が知るようにしておく必要もあると思います。

でも、変なものに税金を使うぐらいなら、もう少しコロナや感染症対策にお金をかけてもいいと思うのですが。

行動制限のない年末年始、基本的な注意も思い出して

——5類移行後、初めての年末年始を迎えようとしています。どう過ごしたらいいと思いますか?

僕は2類相当の時も、年末年始は長く会っていない親に会いにいったり、故郷に帰ったりすることは、節度を持って動けばいいのではないかとずっと言い続けていました。「不要不急」ではなくて、「必要火急」だと。

5類になって制限なく、気兼ねなく故郷などに行けるようになったことはいいことだと思います。だから大いに動いてもらっていい。

ただ感染症は人が動けば広がるので、具合が悪い場合は控えてほしい。余裕を持って予定を変更することができるような仕組みも必要でしょう。

また正月休みやお盆休暇など限られた時期に休暇が集中すると、列車も飛行機も車も大混雑し、長蛇の列となります。休みが分散してとれるようにした方がいいとアドバイザリーボードなどでも提言してきました。一時、そんな動きもありましたが、また元に戻ってしまったようですね。

久しぶりの集まりだからとどんちゃん騒ぎをするのは、今もあまりよろしくないと思います。節度をもった騒ぎに留めて、具合の悪い人は参加を遠慮する。そんな基本的な注意を思い出してください。メリハリをつけて楽しんでほしい。せっかく身につけた注意力を手放さないでほしいですね。

「行けるか・行けないか」ではなく、日常を妨げない程度の注意をしながら楽しんでください。言っていることはずっと同じなのですけれどもね。

新型コロナも増加傾向にあるが......

——新型コロナは今、増加傾向に入り始めたところです。12月半ばにもなると忘年会が始まり、旅行や帰省も始まります。感染が広がりそうではありますね。

忘年会や帰省を止めるほどのインパクトのある病気ではなくなったと考えて良いと思います。しかし病気には必ずリスクがあるので、それを少しでも下げていくという考えは必要です。いずれにしても節度の問題です。

——まあ私もそうですが、お酒が入ったら、節度や理性は緩みますよね。

まあ、それは私もそうでして......。お酒ってそういうものですよね。それを期待して呑むところもあります。ほどほどにというのが必要な考え方だと思います。

夜の街が賑やかであったり、飲食店が閑古鳥が鳴いている状態ではなくなったりしたことはいいことです。ホテルにしても空港にしても、流行初期に人がいなくてシーンと静まり返っていた時のことを考えると、今の状況は本当に良かった。

ただ、24時間、煌々と明かりが灯り、夜がないかのような生活が本当に豊かな社会なのか。一部にそのような場所があることは世間の営みとして理解できるものの、夜昼なく何事も便利に生活ができることがいいのかどうか。僕はそうではないと思います。

人間は自然界を壊しながら便利な生活や楽しさを享受しているところがあり、それはそれで仕方ないのかもしれない。でも何事も節度は必要だし、人間社会としてもそれでいいのかは常に問いかけるべきではないかと思います。

子供のマスク、どうするべきか

——5類移行後も、子供に関する対策については意見が分かれています。学校でのマスクに関してはどう考えますか?

マスクに関しては、コロナに限らず、インフルエンザが流行っている時はマスクをしてくださいとずっと言ってきました。メッセージは今も同じです。

コロナだからマスクをつけなくてもいいということではないし、インフルエンザ流行中でも「全員がマスクをつけろ」ということではありません。

ただマスクは、呼吸器感染症を防ぐために簡単に安くできる良い方法であることは間違いありません。僕ら専門家はそう言い続けることになるでしょう。

ただし2歳未満にマスクを着けることはむしろ危険が高まる、という考えを日本小児科学会では示しています。

乳幼児は、自ら息苦しさや体調不良を訴えることが難しく、自分でマスクを外すことも困難です。また、正しくマスクを着用することが難しいため、感染の広がりを予防する効果はあまり期待できません。むしろ、次のようなマスクによる危険性が考えられます。                                       呼吸が苦しくなり、窒息の危険がある。                     嘔吐した場合にも、窒息する可能性がある。                   熱がこもり、熱中症のリスクが高まる。                     顔色、呼吸の状態など体調異変の発見が遅れる。                 特に、2歳未満の子どもではこのような危険性が高まると考えます。
「乳幼児のマスク着用の考え方」日本小児科学会 より

2歳以上、大人であっても24時間365日つけようということでもありません。静かなところと賑やかなところ、人がごちゃごちゃいるところとスカスカなところでは、マスクの必要性も変わってきます。そこはメリハリの問題です。

子供へのワクチン、どうする?

——子供のワクチンについてはどう考えていますか?

ワクチンについては、子供への接種を希望する親御さんには「どうぞどうぞ」と勧めますし、迷っている方には、ワクチンのメリットとデメリットをお話しして、結論としては勧めるようにしています。

しかし、強く不安に思っている人、あるいはワクチンに不信感を持っている人に対しては説得することはしていません。「様子をみてもいいのではないでしょうか」と言います。その姿勢はずっと変わりません。

不安が強い人が無理に接種すると、問題が起きる可能性がありますし、その問題を長く引きずる恐れもあります。

ただし、接種しない場合は、「感染予防策は接種を受けた人以上に気を使ってほしい」とお伝えしています

ワクチンの副反応とのバランスの問題もありますし、不安な時に接種すると余計な反応が前面に現れてくることがしばしばあります。これはコロナワクチンだけではなく、インフルエンザでも、HPVワクチンであっても同様です。

——ただ、先生は麻疹や風疹など、不安でも接種すべきワクチンはあるともおっしゃっています。

そうです。それは長い歴史の中で知られてきた病気の強いインパクト、重症度・致命率の高さがあるからです。

麻疹にかかる可能性の方が新型コロナよりずっと低いのですが、感染した時の問題の深刻さは、新型コロナどころの話ではないです。どれだけ不安だったとしても歯を食いしばって接種してほしい。

新型コロナは麻疹よりかかりやすく、ワクチン接種を受けた人では重症化を防げることは確かです。でも、不安感が強い人には無理に勧めなくてもよいのではないか、というのが僕の考え方です。

病気としてのインパクトが理解され、対処もある程度可能になってきた今日では、接種後に発熱やだるさがかなり出るワクチンを年齢を問わずすべての人に勧める方法でなくても良いのではないか、と思っています。

もちろんより良いワクチンの研究開発は続けていく必要があります。ワクチンはあった方が良いと思うからです。

重い合併症を防ぐ方法としてワクチンがあることを知っておいて

一部の人は「WHOも子供へはワクチンを勧めていない」と解説しているようですが、これは誤解です。WHOは子供に推奨していないわけではなくて、子供への推奨度は低いと言っているのです。

高齢者などリスクの高い人へのワクチン接種が優先されると言っているのであって、「子どもたちへの新型コロナワクチンは効果がなく、副反応が問題であるので勧めてはいない」と言っているわけではありません。

先日の小児の感染症に関する国際学会でも話題になりました。お金のない国では治療費にも困るので予防が優先されます。そんな国に、数に限りがある高価なワクチンを回すためには、先進国も優先度をつけて接種しなければなりません。子供にやってはいけないと言っているわけではありません。

小児でもコロナで肺炎を起こしたり、ひきつけを起こしたり、MIS-C(小児多系統炎症性症候群)という重い合併症を起こしたりすることもあります。ただし、MIS-Cは日本では欧米に比べて少ないです。

そうした重症化を防ぐ方法としてワクチンがあるという選択は、知っておいた方がいい。その予防をしたい気持ちが不安感を超えるかどうかが、その人に勧めるかどうかを決めるのだと思います。

一方、高齢者は明らかに接種した人としていない人では致死率、重症化率が違うので、できるだけワクチン接種を受けて頂きたいと思います。

(終わり)

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員などを歴任し、 西太平洋地域事務局ポリオ根絶認証委員会議長、世界ポリオ根絶認証委員会委員などを務める。日本ワクチン学会・日本小児科学会・日本小児感染症学会・日本感染症学会名誉会員、アジア小児感染症学会会長(現在理事)など。

***

医療記者の岩永直子が吟味・取材した情報を深掘りしてお届けします。サポートメンバーのご支援のおかげで多くの記事を無料で公開できています。品質や頻度を保つため、サポートいただける方はぜひ下記ボタンから月額のサポートメンバーをご検討ください。

無料で「医療記者、岩永直子のニュースレター」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

誰でも
ALS患者に「時間稼ぎですか?」は「強度の誹謗中傷」 不十分な介護時間...
サポートメンバー限定
女性の接種率が伸び悩むHPVワクチン 「日本の特殊な経緯を踏まえて判断...
サポートメンバー限定
HPVワクチン、男子が接種したくても情報がなかなかない現実 
誰でも
厚労省に疑問をぶつけてみた HPVワクチン男性接種の費用対効果分析
誰でも
HPVワクチン、男性定期接種化の費用対効果が悪いって本当? なぜか悪く...
サポートメンバー限定
「健常者と同じシアターで映画を見られないのはなぜ?」 車いすの映画ファ...
誰でも
麻疹で「感染して免疫をつければいい」は実弾を込めた銃でのロシアンルーレ...
誰でも
ふるさと住民票、標準仕様の情報システム....広域避難が必要な震災に必...