「秋までではなく1年は議論を」「患者が参画する検討会を」 超党派の「高額療養費制度と社会保障を考える議員連盟」が設立総会 

与野党の壁を越えて議論する超党派の「高額療養費制度と社会保障を考える議員連盟」が3月24日、発足しました。
岩永直子 2025.03.24
誰でも

高額療養費の見直しが患者団体の猛反対を受けて凍結したのを受け、与野党の議員が超党派で議論する 「高額療養費制度と社会保障を考える議員連盟」が3月24日に発足した。

会長は自民党の武見敬三・前厚生労働相(自民党)が、事務局長には立憲民主党の中島克仁衆院議員が就任。自民党の尾辻秀久・前参議院議長が顧問を務める。

24日までに、与野党の衆参院両議員95人が入会手続きを取った。

武見会長は、「国民の生活、生命に直結する問題。国際的に優れた我が国の誇るべき制度を、これからいかに育て、発展させるかという課題については不必要に政治問題化することなく、衆参で丁寧にきちんと議論することができるように、この議連を通じても役割を果たせれば」と抱負を語った。

設立総会で挨拶する武見敬三会長

設立総会で挨拶する武見敬三会長

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患者団体が呼びかけて設立

この議連は、政府によって、高額療養費制度の見直しが患者の意見を聞くことなく進められたことに不信感を持った全国がん患者団体連合会らが、与野党の議員に呼びかけて設立に漕ぎ着けた。患者団体の反対を受けて、政府は修正を重ねたうえで見直しをいったん全面凍結したが、10月までに制度の再検討をするとしている。

患者団体は今度こそ、当事者の声や様々な科学的根拠を踏まえた公正な議論をするよう求めており、超党派の議連が政府に対して影響力を持つことを期待している。

この日開かれた設立総会で、会長に就任した武見議員は「我が国の高額療養費制度は、皆保険制度の中でも国際社会では極めて優れた制度として高く評価されてきた制度。その制度の中で、昨今、高度先進医療の高価格化、高コスト化が大きな課題になってきた」と現状認識を説明。

その上で「いかにしてこの優れた制度を高齢化、高度先進医療の高コスト化に対応して、その負担のあり方を財源とともにどのように考えるかは、実は社会保障の問題を根本的に考えることとほぼ等しい課題と言っても過言ではない」として、国会で丁寧な議論をするためにこの議連が役割を果たすと挨拶した。

設立を呼びかけた患者団体も訴え

続いて、全がん連の天野慎介理事長は、今回の高額療養費の見直しの論点として、(1)当事者の意見やデータが十分出されないまま短期間で審議されたプロセスの問題、(2)大きなリスクに備える医療保険の根幹である高額療養費制度ではなく、他の部分を見直すべきではないのかという優先順位の問題、(3)患者の可処分所得などに応じた負担感などに配慮できているかという内容の問題、という3つの問題があると指摘。

挨拶する天野理事長

挨拶する天野理事長

その上で、「与野党の先生方に結集いただいて考えていただくべき非常に重要なテーマだと思う。ぜひ先生方の活発なご意見とご指導を賜りたい」と要望した。

日本難病・疾病団体協議会の大坪恵太事務局長は、代表理事のメッセージを代読。「罹患すると生涯治療を受けなければいけない難病患者にとっては、積もり積もって大きな負担となる。今後の再検討に関しては患者・当事者をはじめ、さまざまな立場からの意見や客観的なデータを揃えたうえで、丁寧かつ慎重な議論をしていただくことを切に願っている」と要望した。

保険局長「他の制度をやったから、これは手をつけなくていいという二者択一なのか」

出席した厚労省の鹿沼均・保険局長は、今後の検討をどのように行うかについては、「患者の方々等の意見をお聞きしながら、決めていきたい」と答弁。

一方、高額療養費制度の見直しについては、「患者団体や関係者の皆様のご意見をよく伺いたい」としつつも、「保険者団体からいただいている制度の持続可能性や保険料負担に対する不安の声にもしっかり向き合いながら、改めて丁寧な検討プロセスを重ねることで、今の世代もそうですが、将来の世代も含めてこの制度がしっかりとしたものになるようにしていきたい」として、制度見直しを求める側の声も聞きながら議論するとした。

また、政府としての議論は、今回の見直し案が了承された社会保障審議会医療保険部会で再び行われるのかという議員からの質問に対して、「医療保険部会が(議論の)ベースになるのかなと思ってはおります」と鹿沼局長は回答。

また、リスクの高い患者の負担を上げる高額療養費制度は最後に手をつけるべきではないかという議員の問いかけに対して、鹿沼局長は「この制度自身がまさにリスクの高い人にとっての最後の砦、重要な制度であるということは政府としての共通認識」と説明し、その上で、

「ただ他の他の制度をやった(見直した)から、これは手をつけなくていいという二者択一なのかどうかというのはどうなのかと思っていますし、若年者も含めて保険料負担を軽減していかなければいけない、保険制度、どんどん(医療費が)伸びている中でどうにかしなければいけないという強い思いを持っている」

「他の制度で仮に見直しをして、この制度を手をつけなかった時に、この制度は他に比べると医療費の伸びが倍伸びている状況にあって、どんどん増えていく状況をどう考えるのかということも論点としてあろうかと思う」

として、高額療養費制度の見直し自体は今後も進める意向を示した。

「少なくとも1年は議論が必要」「患者団体も決定者として検討会に」

最後に事務局長の中島議員は、見直し検討を10月までと期限を提示している政府に対し、「生活・家計実態の調査とか医療行動に与える影響も含めて、ちゃんとしたバックデータを根拠とするためには、秋というのは難しいのではないか。10月ということに対しては、今回のプロセスの不備を解消するためには一定の、少なくとも1年はデータも含めた議論が必要なのではないか」として、議連として政府に期限を区切らない議論を投げかけていくことを説明。

その上で、「当事者の皆様の意見を聞く場、ヒアリングとかではなく、決定者として患者団体がしっかりと参加できる場を設ける必要があるというのが(設立総会で)出た意見だと思いますし、予算委員会でも度々そのような問題意識が出されたと考えている」として、「当事者の皆様を決定者として加える検討会の場所を設けること」を厚労省に求めた。

これを受けて武見会長は、「あまり慌てて結論は出さずに、しっかりと議論させていただきたいと思います」として、参院選挙後に具体的な議論を進めていくとした。

天野理事長「患者が参画する小委員会を」

総会後の記者会見で、高額療養費制度の見直しを進めたいとする厚労省に対して、高額療養費の自己負担上限の引き上げではなく、その他の部分の見直しについて議連で議論する可能性について問われると、武見会長はこう述べた。

「単純に高額療養費制度の枠組みで解決を求めても回答がありません。その負担のあり方を考えるときは、患者さんご自身の負担のあり方も含めて考えなければなりません。しかし、その患者さんのご負担を考える時には私は極めて慎重に、その患者さんの置かれている社会的、経済的条件というものもよく考えたうえでご負担については考えなくてはならない。また同時にそれ以外の医療の財源を高額療養費制度の中に持ち込むかも考えなければなりません」

また、全がん連の天野理事長は、政府の再検討の議論のベースが、政府の当初案が大きな反対意見もなく了承された社会保障審議会医療保険部会で再び議論されることについて「不安を持っている」とした上で、「同様の引き上げ幅が過重である案が出てくることがないようにしていただきたい」と要望。

患者の声を議論に反映させる方法として、高額療養費の見直しについて検討する小委員会を医療保険部会の下に作り、そこに患者団体が委員として参画するような形を提案・要望した。

議連の会長らと記念撮影をする患者団体の皆さん

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