インフルエンザと新型コロナが同時流行? ワクチンの誤情報どうする? 専門家に聞きました

季節性インフルエンザが流行入りし、新型コロナとの同時流行も危ぶまれています。どんな対策をとったらいいのでしょうか?
岩永直子 2024.11.19
誰でも

季節性インフルエンザが流行入りし、増え始めている新型コロナウイルスとの同時流行も危ぶまれています。

どんな対策が必要なのか、感染対策に詳しい板橋中央総合病院院長補佐の坂本史衣さんに聞きました。

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流行入りしたインフルエンザをおさらい

——1週間の定点医療機関あたりの報告数が1.04となり、インフルエンザが流行シーズンに入りました。

今シーズンの流行パターンが、コロナ前までの典型的な型をなぞると仮定するなら、これから徐々に増えていき、年末から1月にかけてグッと増えていくと思います。

——インフルエンザの典型的な症状をおさらいさせてください。

38度以上の高熱や全身のだるさ、関節痛、筋肉痛、喉の痛み、咳、鼻水などが急に現れるのが特徴です。

——感染経路は?

主要な感染経路は飛沫感染で、会話や咳・くしゃみをするときに飛んでくるしぶきが目や鼻、口の粘膜にくっつくことで、しぶきに含まれるウイルスに感染します。新型コロナのように、空気中を漂う細かい粒子を吸い込む「エアロゾル感染」も起こり得ると言われています。

接触感染も起こることがあって、手にウイルスがくっついて、その手で目をこすったり、鼻や口に触れたりすることで入っていく経路もあります。だから手洗いは重要です。

——子供も大人もかかりますね。

インフルエンザに関しては、誰でもかかります。重症化するリスクがある方(ハイリスク群)は、お年寄りと5歳未満の小さなお子さん、基礎疾患のある方。妊婦さんも注意した方がいい感染症です。

——重症化したらどうなりますか?

重症肺炎、脳症や心筋炎などの重篤な合併症を起こして、入院を要することがあります。亡くなる方もいます。ハイリスク群には、年1回のワクチン接種が強く勧められます。

治療は抗インフルエンザ薬や対症療法

——どんな治療がありますか?

抗インフルエンザ薬がありますが、全例に必須ではなく、主にハイリスク群に重症化予防のために用いられます。飲み薬や吸入薬が一般的に処方されますが、薬が飲めない人には点滴薬もあります。熱や咽頭痛に対して、解熱鎮痛薬を使用することもありますが、使わないほうがよい薬もありますので、使ってよいかどうか医師や薬剤師に相談するとよいでしょう。

——診断されたら学校は出席停止になりますね。

学校保健安全法に基づき、発症後5日間を過ぎ、かつ熱が下がってから2日(幼児は3日)過ぎるまで出席停止となります。感染者が多くなると、学級閉鎖なども例年行われています。大人は勤め先の方針によって違うでしょう。

——コロナ禍では抑えられていましたね。

インフルエンザに限らず、コロナ禍の感染対策で抑えられていた感染症が昨年から、一斉に花開いている感じですね。数年間、病原体にさらされないことで集団の免疫が低下しているなかで、マスクを外した接触がほぼコロナ前に戻っていますので、避けることが難しい現象かなとは思います。

インフルエンザワクチンの3つの役割とは?

——予防策として重要なのは、ワクチンですね。65歳以上のお年寄りと、60~64歳で一定の基礎疾患(持病)がある人は、定期接種となっています。特にこの層には受けてほしいですか?

はい。ですが、全年齢に勧めます。

インフルエンザのワクチンには3つ役割があります。

一つは感染しにくくする役割。その時の流行株に合ったワクチンだと感染を防ぐ効果も高いと言われています。

もう一つは重症化を防ぐ効果です。入院や集中治療を受けなければいけない状態を防ぎ、最悪の場合、死亡するリスクを減らす効果があります。妊婦さんが接種することで、妊婦さんはもちろん、お腹の赤ちゃんも守られます。

さらに、接種する人が周りに多いと、弱い人たちが守られる「集団免疫」の効果があります。ワクチンで防波堤を作って、弱い人を守る。年齢問わず医療従事者が接種した方がいいのは、防波堤となって重症化しやすい患者さんを守る役割があるからです。

都内では予約を取らなくても接種できる医療機関も増えています。そういうところも利用して、本格的な流行前に接種してほしいなと思います。

昨年のコロナ死亡は3万8000人超え 対応はわかってもうまく付き合えない感染症

——この冬の新型コロナウイルスの流行状況はどう予測されているのでしょう?

病院にいると実感できるのですが、コロナがぼちぼち増えてきました。ここ数年は夏と冬に流行の波が起きていますし、人の動きも活発なので、増えることを想定して準備しておかなければいけないと思います。

これから寒くなると、換気の悪いところで大勢が密集する忘年会、新年会の時期に入ってきますし、冬休みになると旅行で普段合わない人と合う機会も増えます。冬の感染症の波がやってきます。インフルエンザとコロナは感染経路もほぼ同じなので、同時流行があってもおかしくないし、おそらくあるのだろうと思います。

——医療従事者は同時流行を警戒して戦々恐々としているのですか?

先週あたりからコロナの入院患者が増えてきています。コロナの伝播性はインフルエンザよりもさらに強いので、病院の大部屋や高齢者施設でコロナ感染者が出ると、あっという間に広がることがあります。感染の拡大が止まらないと病棟閉鎖といった業務縮小を余儀なくされます。

コロナは、対応の仕方がわかっていても、広がりやすい性質をもつため、制御がとても難しい感染症です。病棟を閉鎖すると収益も下がり、日常的に苦しい病院経営が打撃を受けます。

感染者が増える時期には、高齢者施設でも同じような状況が生じます。

先日発表された昨年の人口動態統計(概数)を見ても、新型コロナウイルスによる死亡は3万8080人とインフルエンザ(1382人)と比べて圧倒的に多い。それだけ広がりやすいし、重症化しやすい感染症であることは、5類になっても変わりません。

付き合い方はわかったけれども、うまく付き合えているとは言えない状況ですね。

コロナワクチンにメリットはあるが、高い自己負担がネック

——新型コロナワクチンは、定期接種として受けられる65歳以上や60代前半の重い持病のある人には公費による補助がありますが、それ以外の人の自己負担は高額(1万5000円前後)です。接種したくても、うてない人もいるかもしれません。

私も今年1万6000円払って受けましたけれども、毎年これだけ払って生きていくのかと思うと、ちょっと......。何らかの費用補助があってもいいのではないかという気がしますけれどもね。

——定期接種以外の人でこういう人はうった方がいいよと勧めたい人はいますか?

定期接種の対象となっている60〜64歳の持病のある人は、病状が相当重くなければ対象になりません。感染すると重症化する恐れのある慢性疾患をもつ人、妊婦さんや子供を含め、普段、ある程度問題なく日常生活を送ることができている人たちは定期接種の対象外です。

子供は軽症例が多いとは言っても、急性脳症や心筋炎の報告があります。ワクチンは小児に対しても、発症や重症化、再感染を防ぐ効果が確認されていますから、日本小児科学会もあらためて接種を推奨する声明を出しています。

罹患後症状(後遺症)もある程度予防してくれることもわかってきています。

そこまで考えると、やはり色々な年齢の人が接種によって受けるメリットがあります。公費による補助をどこまで行うか難しい側面はあるのでしょうけれども、インフルエンザと同じで、あらゆる年齢の人が接種することで恩恵を受けるワクチンです。

——年に1回は接種した方がいいですか。

そうですね。ウイルスが頻繁に変異するため、ワクチンの効果もずっと続くわけではないことを考えると、定期的に接種した方がいいワクチンです。

定期接種対象外の人にとってネックとなっているのは、高額な自己負担です。勧める方も、「うった方がいいですよ」と言いづらい。家族4人いたら、1人につき1万5000円だとして6万円かかります。ポンと出せる家庭もあるのでしょうけれども、躊躇する人も多いのではないでしょうか。

病院の医療従事者も本当は接種した方がいいと思いますが、財政が厳しい中、費用負担できる病院も少ないです。

——医療従事者で接種していない人は結構いるのですか?

データはありませんが、コロナワクチンの費用負担をしている病院は少ないと思います。

——医師や看護師でもうっていない人が多いのですね。

打ってない人の方が多いと思いますよ。感染症に関する学会からも医療従事者の接種に関して明確な勧告が出ていません。

医療従事者には若い人が多い。若くても後遺症や重症化を防いでくれるといった接種のメリットがありますが、重症化しづらい人が多いのも事実です。

一方で、接種直後の一時的な腕の痛みや発熱で休まれる方が病院としてはやりくりが大変だったりもします。誰もが必ずうった方がいいのかと問われたら、一瞬迷いが生じるところではあります。

ワクチンに対するデマの罪深さ

——新しいタイプのレプリコンワクチンが出てから、ワクチンに反対する人の声がますます増えましたね。影響は感じていらっしゃいますか?

私の周りの高齢者で、持病もあって接種が強く勧められるのに、尻込みする人がたくさんいましたね。問い合わせも多く、火消しが大変でした。

日本感染症学会と日本呼吸器学会と日本ワクチン学会が3学会合同で、定期接種に使われているワクチンの効果や安全性について検討し、新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨する声明を出しましたね。「被接種者が周囲の⼈に感染させるリスク(シェディング)はありません」とも明記しています。

3学会が合同で出した新型コロナワクチン定期接種に関する見解

3学会が合同で出した新型コロナワクチン定期接種に関する見解

ワクチンの安全性についてデマを流した政治家に対し、製薬会社のMeiji Seika ファルマが訴訟も検討すると表明したこともありました。

こういう動きがあることを説明すると、「接種した方がいいですね」と理解していただける人は多かったのですが、そういう説明を受ける機会がなかったら、「なんとなく怖いわ」とやめてしまった人もいるかもしれません。

そう考えると、根拠のない誤情報を拡散することは、リスクの高い人の健康被害を生む点で非常に罪深いと思います。

——立憲民主党の原口一博衆院議員ですが、承認され、定期接種として認められたワクチンを「生物兵器まがい」と表現していましたね。

影響力が強い方々には、科学的根拠に基づく発言と行動で感染予防に貢献していただきたいと常々思っています。

白黒の思考ではなく、リスクと利益のバランスを

——不安に思っている人にどんな言葉をかけたいですか?

詳しくは3学会の声明を読んでいただければいいのですが、一方で、「日本看護倫理学会」のような「学会」と名の付くところが、安全性と倫理性に懸念を表明するようなことをしています。一般の人には、信頼性の高い学術集団の発言に見えてしまうので、「学会が言うことは信頼性が高い」という言葉に対する信憑性を疑われかねないのが非常に残念です。

なんだか不安だなという方はとにかく、感染症学会、呼吸器学会、ワクチン学会の声明を読んでいただいければと思います。

ワクチンに対するデマが出た時に、民間の動きを待たずに、厚生労働省が速やかに「これは誤情報です」と速やかな火消しを大々的にしていただけるとよいのにと思います。

デメリットよりもメリットの方が圧倒的に大きいということがわかっていないと、そもそも薬やワクチンは承認されません。国内の承認のプロセスを経て出てきているものについては、そのことが担保されています。

薬やワクチンがどうやって承認されて、流通しているのかを、日常的に何らかの形で伝えたり、教育に組み込んだりすることが必要なのかもしれません。

そもそも薬やワクチンは安全か危険かという白黒の思考で使われているものではありません。

薬に限らず、例えば、塩や砂糖といった食べ物でも摂り過ぎや摂りなさすぎは身体によくない。私たちが日ごろ利用する色々なものにリスクが含まれていて、そのリスクとベネフィット(利益)のバランスをとりながら私たちは暮らしています。

そして、一般の人にとって判断が難しい薬やワクチンは、専門家が然るべき手続きに沿って判断している。そんなリスクベースの考え方が、リスクコミュニケーションを通して、もっと広く浸透してほしいと思います。

冬の感染症対策4つの柱

——最後にこの冬の感染症対策について、感染対策の専門家から一般の人に伝えたいことをお願いします。

咳エチケットは復活させてほしいです。「マスクはもういらないんだ!」という声を時々聞きますが、コロナ以前から呼吸器感染症の流行期には行われていた対策です。咳やくしゃみが出る時は、咳エチケットを行いましょう。

厚生労働省「咳エチケット」より

厚生労働省「咳エチケット」より

また、高齢者や妊婦さんなど重症化する可能性がある人は、人混みに行く時はマスクをつけた方が、感染のリスクが下がると思います。

手洗いについては、家に帰ってきた時、出社後、ご飯の前、トイレの後など「こんな時は手を洗う」と家庭で決めておいて、習慣化するとよいと思います。

最後にワクチンをできれば接種してほしい。インフルエンザや新型コロナに限らず、ワクチンで防ぐことのできる感染症はいろいろあるので、受けられるものは積極的に受けておくといいと思います。インフルエンザも新型コロナもまだ間に合います。費用補助がある場合は積極的に、ない場合も経済的に許されるなら検討していただきたいと思います。

この4つを伝えたいですね。

  • 咳エチケット

  • 人混みでのマスク

  • 手洗いの習慣化

  • ワクチン接種

【坂本史衣(さかもと・ふみえ)】板橋中央総合病院院長補佐

聖路加看護大(現・聖路加国際大)卒、米コロンビア大公衆衛生大学院修了。Certification Board of Infection Control and Epidemiologyによる認定資格(CIC)取得。聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャーを経て、2023年11月から現職。日本環境感染学会理事、厚生労働省 厚生科学審議会専門委員などを歴任。著書に『感染対策40の鉄則』『感染対策60のQ&A』(いずれも医学書院)、『泣く子も黙る感染対策』(中外医学社)など。

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