ワインなのに薬?!酒は「百薬の長」と言うけれど......

呑兵衛で、ワインエキスパートの資格を取るために猛勉強中の医療記者、岩永。ある日、「薬として売っているワインがあるよ」と聞いて、早速買ってみました。なぜ薬として売ってるの?
岩永直子 2024.08.23
誰でも

「酒は百薬の長」とは呑兵衛が言い訳に使う決まり文句です。「体内からアルコール消毒」という変化球を使うこともありますね。

散々そんな文句を言い散らかしてきた呑兵衛の私ですが、日本で本当に薬として販売しているワインがあると聞いて驚きました。

その名もズバリ「ブドウ酒」。

「眠れない」「食欲がない」などに効果があるとうたっています。

いったいどういうことなのでしょう。

呑兵衛の記者が早速呑んでみて、こちらを販売している中北薬品(愛知県津島市)に取材しました。

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ワインエキスパートの試験勉強中の出会い

この薬のワインの存在を知ったのは、ワインエキスパートの試験勉強中のことでした。

日本ワインの歴史を勉強中に、最初にアルコール発酵によるワインを作ったのは、江戸時代末期の医師と薬剤師であったことを知り、自慢げにFacebookにそのにわか知識を投稿したところ、「きょうの健康」の編集長から「薬として売られているワインがあるよ」と返信があったのです。

俄然、興味が湧いた私はすぐさまネットでそのワイン「日本薬局方 ブドウ酒」(第3類医薬品)を購入。500mlで2000円弱でした。

箱の説明書きには、「本剤はブドウの果実を発酵して得た赤ブドウ酒です」とあり、「効能または効果」として、「食欲増進、強壮、興奮、下痢、不眠症、無塩食事療法」とあります。

用法及び用量には、「通常、成人1回1食匙(15mL)又は1酒杯(60mL)を経口投与する」とありますが、年齢や症状により増減してもいいそうです。

<i>薬だから、きちんと添付文書もある。</i>

薬だから、きちんと添付文書もある。

まあただ買ってはみたものの、「薬として作っているんだから、美味しくないのだろうな」と触手が伸びず、しばらく買ったことも忘れたまま放置していました。

想像以上に普通のワイン

しかし、いよいよ一次試験を8月6日に控え猛勉強中、元々不眠症だったのが特に眠りが浅くなって思い出したのが、この「薬のブドウ酒」でした。

「ワインの勉強で疲弊している今こそまさに、この薬効を試す時なんじゃね?」

そんなわけで開けることにしたのです。

プラスチック製のスクリューキャップを開けると、香りは最初から開いていて、まさにブドウの果実感あふれるフルーティな香り。

ワイングラスに注ぐと、色は濃いガーネット色で、カシスの香り。タンニンやアルコール分は控えめな感じで、ナツメグ、土っぽいニュアンスも感じます(テイスティングも勉強中)。

薬くさいわけでもなく想像以上に普通のワインで、むしろ美味しいのが驚きでした。普通に食事と合わせられるレベル。「薬として作っているんだから、味は二の次でしょ」と思って舐めておりました。ごめんなさい。

<i>「薬」を飲む私。「美味しい」という形容詞を薬で使ったのは初めてです。</i>

「薬」を飲む私。「美味しい」という形容詞を薬で使ったのは初めてです。

医薬品の規格「日本薬局方」に合ったワインを使用

ではなぜ、ブドウ酒が薬として売られているのでしょう?

製造販売元の中北薬品株式会社企画・研究開発室のマネージャー、伊藤篤夫さんに取材しました。

——薬としてブドウ酒を売っていることに驚いたのですが、他のメーカーでも作っているんですか?

昔は他にもあったのですが、現存するのは弊社の「日本薬局方 ブドウ酒」だけです。

ある会社が「局方ハチブドウ酒」という製品を出していたのですが、1982年に作るのをやめて途絶えました。しばらく入手できない状況になっていましたが、要望を受けて、1991年に弊社で作って復活しました。

——作り方は同じなのですか?

厚生労働省の医薬品の規格を定めた基準「日本薬局方」の中の「ブドウ酒(※)」に沿ったやり方で作っています。その規格に合うブドウ酒をワイン製造会社から入手して、それを試験して問題がないという段階で、詰め替えして出荷しています。

※医薬品としての「ブドウ酒」は、明治39年に公布された第三改正日本薬局方から“葡萄酒(Vinum)”として収載。葡萄果汁を発酵したものに限られていたが、後に現行のように果実を発酵して得た果実酒と改められた。現在は第十八改正日本薬局方にブドウ酒(Wine)として収載されている。

<i>日本薬局方に掲載されている医薬品としての「ブドウ酒」の規格</i>

日本薬局方に掲載されている医薬品としての「ブドウ酒」の規格

——へえ。他でブドウ酒として作っているものを買っているのですね。

そうですね市販品ですが、都度日局の規格に合うようにブレンドしていただいています。

——ちなみにどこから仕入れていらっしゃるんですか?

国内のワイン製造会社さんで、国産ワインと海外産のものをブレンドしていただいています。

——ブドウ品種は?

具体的には開示していませんが、日本薬局方ではヴィティス・ヴィニフェラ種(※)、またはその他の品変種を使う規格になっていますので、その範囲のブドウを使っています。

※ヨーロッパ・中東系のワイン醸造に適した品種。シャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーなど。

——薬として売られていることにびっくりしたんですが。

そうなんです。日本薬局方に昔からありまして、その規格に合えば、医薬品として届出をして販売することができます。

——食欲増進、強壮、興奮、下痢、不眠症、無塩食事療法などの効能が添付文書には書かれていますが、人の臨床試験で確かめているのですか?

古くからの薬ですので、そういうことはしていないですね。主にアルコールの効果として、不眠とか食欲不振が挙げられています。

年間2000〜3000本販売

——私はネットで購入したのですが、ドラッグストアなどでも売っているのですか?

私たちは医薬品の卸売販売業をしていまして、神奈川から東海、滋賀、北陸などが販路なのですが、ドラッグストアはあまり得意ではなく一般の薬局で販売しているところが大半という状況です。

——年間何本ぐらい製造しているのですか?

年間2000〜3000本です。

——ワインってスーパーやコンビニなどで簡単に安いものが買えちゃいますが、医薬品として売ることに何かメリットはあるのですか?

本来の目的は医療機関(お医者さま)で、「リモナーデ処方」と言って、塩分などをあまりとれない人に対して味をつけるために使われることがメインでした。また、薬局で販売されている一般用もありました。今は一般用医薬品の認知を上げる活動をしています。

——漫画とのコラボもしているのですね。「サイボーグ009」のパッケージの製品も。

<i>石森プロのウェブサイトより</i>

石森プロのウェブサイトより

年代的に言うと60代以上の方が多いため、その年代に合わせた漫画とコラボできないかという話が会社内で案があがりました。そこで石森プロさんに相談して、コラボすることになりました。今も販売しています。

用法用量はよく守って

——用法および用量が、「通常、成人1回1食匙(15mL)又は1酒杯(60mL)を服用する」となっています。これ以上は飲んだらダメよということなんですね。

用法用量はお守りくださいということですね。

——普通の酒飲みの感覚では60mLでは収まらないのですが......。

わかります(笑)!でも薬としてはこれぐらいで(笑)。アルコールですので飲み過ぎたら薬も毒になります。やはり用法用量をよく守って、お使いください。

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