埼玉県がHPVワクチンとの因果関係が認められていない症状を「起こり得る」と学校に通知 「事実と異なる」と専門家は批判

埼玉県がHPVワクチンのキャッチアップ接種の期限を学校長に周知する通知で、ワクチンとの因果関係が認められていない症状について「起こり得る」として警戒を促していたことがわかりました。専門家は「事実と異なる」として批判しています。
岩永直子 2024.07.03
誰でも

子宮頸がんなどを予防するHPVワクチン。

小学校6年から高校1年相当の女性は公費でうてる定期接種となっているが、その他にも接種しそびれた女性(1997年4月2日~2008年4月1日生まれ)を対象に、今年度いっぱいまで無料接種の再チャンスを与える「キャッチアップ接種」が行われている。

この公費でうてるチャンスを逃さないように自治体が啓発に力を入れる中、埼玉県がワクチンとの因果関係が証明されていない症状を「接種に関連したと思われる症状」「起こり得る症状」として、警戒を求める通知を学校長宛てに送っていたことがわかった。

不安が煽られることでワクチンは敬遠され、不安が原因で身体症状が引き起こされることもわかっている。

専門家は「事実と異なる」「子供たちの将来の健康や命に影響を及ぼしかねない」として訂正を求めている。

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ワクチンとの因果関係が証明されていない症状を「接種に関連したと思われる症状」と記載

問題の通知は、7月1日に埼玉県保健体育課長名で、県立高校校長や特別支援学校長に出された「HPVワクチンのキャッチアップ接種対象者等に対する周知について(通知)」。

埼玉県保健体育課長の名前で県立高校校長や特別支援学校長に送られた通知

埼玉県保健体育課長の名前で県立高校校長や特別支援学校長に送られた通知

これに先立つ6月27日に同県感染対策課長の名前で、保健体育課長宛てに公費接種の期限を周知するよう求める文書が出されており、それを受けての通知だ。

HPVワクチンは半年かけて3回接種する必要があるが、キャッチアップ接種の対象者と、定期接種の最終学年に当たる高校1年の女子は来年3月が期限で、1回目を9月末までに接種しなければ間に合わない。

感染症対策課の文書は、接種を希望する女子が期間内に3回とも公費で接種できるように、対象者のいる共学校や女子校に期限を伝えてほしいと、感染症対策課から学校を管轄する保健体育課に周知を依頼する内容だった。

ところがこれを受けての保健体育課長の通知では、「HPVワクチンの接種に関連したと思われる症状」として、「原因不明の慢性の疼痛症候群、関節痛、全身の激しい神経筋症状、痙攣、不随意運動、脱力などの運動障害、視野狭窄、記憶障害」などの多様な症状が報告されていると説明。

この症状が接種後に起こり得るとして、学校の教職員に適切に対応することを求める内容となっている。

しかし、接種後に訴えられていたこうした症状に関しては、HPVワクチンを接種していない女子にも同様に見られることが国内でも二つの研究(祖父江班全国疫学調査名古屋スタディ)で明らかになっている。

そして、厚労省のリーフレットでも、「このような『多様な症状』の報告を受け、様々な調査研究が行われていますが『ワクチン接種との因果関係がある』という証明はされていません」と明記されている。

安全性についての国の姿勢に反して、埼玉県は国内外の研究では証明されていない症状を独自に接種に関連すると主張し、学校に注意を促しているわけだ。

保健体育課「不安を煽るつもりはない」

記者は埼玉県の保健体育課、感染症対策課に取材した。

保健体育課の担当主幹、脇田一亮さんは、この通知については「担当課内で検討したところこういう形になった」と回答。

キャッチアップ接種のチャンスを逃さないように周知する通知で、ワクチンとの因果関係が認められていない症状を接種後に起こり得ると強調したのはなぜか尋ねたところ、こう答えた。

「強調するつもりはない。生徒から相談を受けた際にどんな症状が現れるのかわからない教職員もいると思うので、それを理解いただくためにこういう症状が出る可能性があるということをお伝えするために書いた。学校は適切に対応してほしいと伝えたかったということだ」

だがそもそも、ワクチンとの因果関係が証明されていない症状を「接種後に起こり得る」と捉えるのは埼玉県独自の見解であり、科学的根拠はない。

これについては「改めて確認させていただく」と課内で検討するとした。

WHOは2019年、ワクチンの薬液の成分が原因ではなく、予防接種に対する不安や恐怖などをきっかけに身体症状が現れる「予防接種ストレス関連反応 (ISRR)」という概念を提唱している。2013年当時の副反応騒ぎも、接種後の体調不良を訴えた女子を、メディアが繰り返し薬害であるかのようにセンセーショナルに報道し、社会に不安が広がっていったことが、多くの女性に症状が広がるきっかけだったと見られている。

埼玉県が今回の通知で学校の教職員に危険なワクチンだという印象を与え、その教職員がワクチンの副反応への過度な不安を抱いたまま学生に接すれば、対象者の不安も煽られ、逆にこうした症状が引き起こされかねない。その懸念についてはこう回答した。

「不安を煽るつもりはなく、現場の先生方が症状が出た時の対応をご理解いただくために記載している。学校の先生に危険なワクチンだという印象を与えるとは思っていなかった」

「生徒にこの通知を直接出すわけではなく、学校の先生に宛てて出している。この症状について対象者に事前に伝えてくれと言っているわけでなく、こういうことが起きた場合は対応してほしいと頼んでいるものであって、生徒さんの不安を煽る通知だという認識はない」

このような通知を読んだ教員がワクチンについて否定的な説明を学生にする可能性もある。これについては「あくまで選択するのは生徒自身であり、『受けない方がいいよ』と教職員が指導することはないはずだ」と回答した。

一方、キャッチアップ接種の期限を周知するよう依頼した感染症対策課の主幹、中山しのぶさんは保健体育課とは別のスタンスを見せる。

「我々はキャッチアップ接種が来年3月いっぱいで終わってしまうので、希望する方については9月末までに接種を済ませてほしいと周知してくださいとお願いしている。受けたい人が受け損じることのないようにと意図しての依頼だった」

「保健体育課のその通知内容は知らなかったし、別の課であるので修正をお願いする立場でもない。あくまでも感染症対策課としては、子宮頸がんを予防できるというベネフィットと副反応のリスクを理解していただいた上で本人や保護者に接種するか決めていただくという国の立場を踏襲している」

同じ埼玉県庁でも考え方が統一されていない状況で、県民に混乱を招くことも予想される。

専門家「事実と異なる」「子供たちの将来の健康や命に影響を及ぼしかねない」

この埼玉県の通知について、HPVワクチンの啓発活動をしている「みんパピ!」代表で産婦人科専門医の稲葉可奈子さんは、保健体育課の通知内容を読んだ上で以下のコメントを寄せた。

稲葉可奈子さん

稲葉可奈子さん

「諸症状とHPVワクチン接種との因果関係が示されないことが確認できたので積極的勧奨が再開した、にもかかわらず、「HPVワクチンの接種に関連したと思われる症状」との記載は事実と異なります。さらに、その誤った情報が学校を通して対象者親子に届くことにより、接種しないという選択をする可能性もあります。その結果、予防の機会を逃し、将来子宮頸がんになる可能性もあるのです」

「もし、正確な情報を知らずに記載、配布した文書であれば、正式に訂正をして頂きたいです。そうしないと、子どもたちの将来の健康や命に影響を及ぼしかねない、ということに気づいて頂きたい」

記者は厚労省にも埼玉県の通知について見解を質している。見解が届き次第、このニュースレターで報じる。

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