ジャニーズの被害者は、なぜ性加害したジャニー喜多川氏を「好きだ」と言うのか?

衝撃的なジャニーズ事件以外にも、子供を狙う性的加害事件が後を断ちません。発覚が遅れるのは加害者が被害者を手なずける「性的グルーミング」を使うから。これをテーマにした本を出版した斉藤章佳氏に聞きました。
岩永直子 2024.02.10
誰でも

ジャニーズの性被害が明らかになった時、被害者が加害者であるジャニー喜多川氏のことを「今でも好きです」と言っていたことに違和感を抱いた人も多いのではないでしょうか?

これは、加害者が被害者を手なずける「性的グルーミング」という手法です。

最近、『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)を出版した大船榎本クリニック精神保健福祉部長、斉藤章佳氏に取材しました。

性加害を起こしてきた小児性愛障害対象の再犯防止プログラムを実践してきた斉藤章佳さん(撮影・岩永直子)

性加害を起こしてきた小児性愛障害対象の再犯防止プログラムを実践してきた斉藤章佳さん(撮影・岩永直子)

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性的グルーミングとは?

——「性的グルーミング」とは、どういうものなのでしょうか?

日本語では「性的な懐柔」と言いますが、性的に搾取する側とされる側がいて、搾取する相手とまるで特別な関係があるかのように思い込ませる。そういう環境を搾取する側が作り出すことです。

例えば、ジャニーズの事件で被害を訴えた人たちの中で、ジャニー氏に対して「尊敬している」「好きだ」という言葉を口にしている人がかなりいました。マインドコントロールや詐欺の手口に近いと言えます。「性的グルーミング」とか「チャイルドグルーミング」とも言います。

——大人同士でもあり得るのですよね。

はい、当てはまります。基本的には性暴力は圧倒的な権力関係が背景にあり、大人同士でも立場の強い・弱い関係に、性暴力を温存する構造が重なればグルーミングは起こり得ます。

——ジャニーズの場合だと、ジャニー氏に性的に搾取されることで、ステージでもいい位置につけてもらい、売り出してもらえるという「見返り」がありました。昔から女優やアイドルでも権力者に性的に搾取される代わりに売り出してもらう、逆に性的搾取に応じないと干されてしまう問題があります。それと近いのでしょうか?

同じだと思います。最初は被害者が性暴力と認識できない関係性や構造を作り出すのが加害者のマジックです。ジャニーズの問題でも言うことを聞いたら優遇され、その構造の中で立場の弱い側は生き残るには、受け入れざるを得ない。拒否すればその世界では死ぬしかない。

そういう状況に追い詰められていく意味では、同じだと思います。

そして被害者側も「自分がそれを望んでいたんだ」と思い込まされることがあります。

私は今、元ジャニーズJr.の方々と少しずつつながりができています。実際に加害者の手口をヒアリングする中で、口淫や肛門性交をされた時、嫌な感情を持つ一方で、勃起や射精など生理的には性的な快感を得ていると、「自分も性的に興奮していたのではないか」と罪悪感が植え付けられます。そこが問題をさらに複雑化させています。

それどころか「自分も望んだことである」とか「自分も気持ち良かったから」「デビューさせてもらったから」と思い込むことで、そもそも被害をなかったことにしようとする意識も働きます。これを「被害者における加害行為の正当化」と呼びます。

明確な暴行や脅迫を使わないのもジャニーズ事件では特徴的ですが、採用の時点から実はグルーミングは始まっていたと思います。

例えば、経済的に困窮していたり母子家庭だったりする応募者を優先的に選び、手なずけやすい条件の人を選ぶ。周囲に発覚しては困るし、加害行為を継続的に行いたいというのが彼らの動機の背景にはあります。声を上げにくい人を最初から選択し、発覚しないように環境自体もグルーミングしていきます。

性的グルーミングの5段階

——性的グルーミングの方法は世界共通なのですね。

日本で性的グルーミングの研究はほとんどないのですが、海外では研究が進んでいます。アメリカでは性的グルーミングのモデルとして5段階のプロセスに類型化できるとしています。これを初めて見た時に、ほぼ私が会ってきた加害者と同じ手口でびっくりしました。

  • 被害者の選択

  • 子供にアクセスし、分離を進める

  • 信頼を発展させていく

  • 性的コンテンツや身体的接触に鈍麻させる

  • 虐待後の維持行動

この5段階です。

『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』の表紙

『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』の表紙

最初は「被害者の選択」です。ジャニーズの事件であれば、最初の段階で心理的に父親を求めているシングルマザーの家庭、貧困家庭を意識的に選ぶ。1回入るとやめづらくなり、言うことを聞きやすい。

つまりこの時点で保護者もグルーミングしていくのが前提になっています。他には自信のない子供や自尊感情が低下している子供の方がグルーミングしやすいと考えられています。

ただ、時に恵まれた家庭環境で学力も高い、ちゃんとした学生生活を送っている子がターゲットになることもあります。加害者は「承認欲求を転がす」という言い方をするのですが、それが非常に上手い。

もちろん孤独でメンタルに問題のある子を選ぶことが多いのですが、たくさん「釣り糸」を垂らす中で、普通の満たされている子も狙うことがあります。

見た目に関しては加害者によってそれぞれの好みがあるのですが、多くは成熟していない子供です。陰毛があったり体が丸みを帯びたりしたらダメで、幼く未熟なことが支配するためには重要です。

2つ目は「子供にアクセスして、親や友達がいる環境から分離させる」ことをします。子供が単独で行動している時間帯、親がいない時間帯を探ります。中には、親側の外出時間をコントロールして子どもにアクセスする加害者もいます。

その段階を経て、次に「信頼を発展させていく」ことをします。褒めたり、ゲームの有料アイテムをあげたり、最近あったケースでは勉強を教えてあげるパターンもありました。

最初は性的な目的は隠して近づきますが、信頼ができたあたりでやっと性的なニュアンスを見せ始めます。ジョークで性的な話をしたり、偶然を装って触ったり、慣れさせていきます。

——子供は違和感を覚えながらも、信頼関係ができているから受け入れてしまうのですかね。

それに子供は性的な経験がほとんどないので、何をされているのかわからない。加害者側の性的な価値観を植え付けやすいのです。彼らはこれを「性教育」と呼んでいますが、まさにこれは洗脳です。加害者は「まだ知らないと思うけど、セックスってこういうものなんだよ」と自分の思い通りの価値観をターゲットの子供に植え付けていきます。

そして、次は「性的コンテンツや身体的接触に鈍麻させていく」段階にフェーズがあがります。子供の性的経験や関係について質問したり、ジョークを交えながら加害者自身の性的体験を話したりします。スマホで児童ポルノを意図的に見せ、身体的接触の回数を増やし、その中で巧みに性的接触を行います。

このあたりから加害行為もちょこちょこ出始めます。

その後、「加害行為をした後の関係性を保つための維持行動」をしないと繰り返しできないので、典型的なのは「誰にも言っちゃいけないよ」「二人だけの秘密だよ」と言い聞かせます。「君のことが大好きだよ」と特別感を抱かせ、報酬を与えながら、時には自ら設定したペナルティを取り下げるなど緩急をつけながら、あくまで正常なことをしていると言い聞かせながら維持していきます。

このようなプロセスは世界共通です。

——ひとり親家庭だと、子供は「親に心配をかけられないから言えない」という思いにもなるでしょうしね。

「言ったらお母さんが悲しむよ」なんて言葉を普通に使いますからね。非常に狡猾です。

被害は氷山の一角 被害者が公にしないことで加害行為がエスカレート

——子供の4人に一人が性被害に遭っているという衝撃的なデータも本に書かれています。

表面化しているのは氷山の一角に過ぎません。被害者に関わっていると、子供の性被害は、親が「公にしないでほしい」「示談で済ませてほしい」と求めるケースにかなり出会います。裁判までになると子供に負担がかかって耐え難いから、被害者側が刑事事件にするのを避けるのです。

——それに乗じて、加害者は加害行為を繰り返していくのですね。

もちろんそうです。加害者臨床ではそれを「負の成功体験」と呼んでいます。「この程度で済んだ」という認識で、加害行為がエスカレートしていきます。

性加害者の意外な特徴

——子供に性加害をする人が一見、そんな風に見えないのもショッキングなことです。

子供への性加害に限らず、性加害の加害者はモンスター化されたイメージがつきがちです。「非モテ男性」や「学歴が低い」という印象を持っている人も多いかもしれませんが、いわゆる見た目は「普通の人」が多いです。

ただ、当院に通院する子ども性加害経験のある小児性愛障害の診断がついた人は、痴漢や盗撮のそれと比べて相対的に学歴が低かったり、軽度の知的障害や発達障害を合併していたりする人が多かったです。

また顕著に見られるのは、「小児期の逆境体験」を複合的に経験していることです。その中でも、自身も性被害の経験を持っているケースが多くなります。自分もかつては被害者だったわけです。

——家庭を持っている人も多いのですよね。

そうですね。お子さんがいる人もいます。配偶者は成人女性で、娘さんや息子さんがいて、自分と同じぐらいのお子さんに対して性加害している人もいます。

——でも自分の子供には手を出さない。学校の先生で「自分の学校の児童にはかわいそうでそんなことはしない」と言っている人もいるとのことですね。

これは当院のデータによるところが大きいですが、なぜそういう傾向があるのかはわからないのです。

逆に家庭内で自身の子供に性虐待をしている親は、血の繋がっていない子どもには性加害をしていない傾向にあります。私が対応しているのは血のつながっていない子どもへ性加害してきたケースが多いのですが、その人たちはやはり自分の家族にはやりません。

それぞれに特有の認知の歪みがあるのだと思います。

——また、「過剰な性欲が原因」と考えてしまいがちですが、そうでもないのですね。

これは性暴力全般に共通しています。

性加害は性的欲求や性的衝動の問題と捉えられがちですが、多くの加害者は犯行の場所や被害者、時間帯、状況を確実に選んでやっています。衝動的ではなく、かなり計画的です。そういう意味では、逆にしっかりと性欲をコントロールしている人たちといえるかもしれません。

もちろん加害行動に性欲や性衝動が全く関係ないとは言えませんが、子供の性加害者も自分より弱い対象を「支配したい」とか「飼育したい」という欲求や、優越感、承認欲求、強さの主張など複合的な快楽が凝縮した行為です。

性暴力を性欲の問題にのみ矮小化して捉えると、その本質を見誤ると考えています。

「釣りやすい」被害者像は?男児も多く

——被害を受けやすい子は、「孤立感を抱いている」とか「ひとり親家庭で一人でいる時間が多い」とか、「自己承認欲求が強い」などの特徴があるのですね。

加害者はその子が学校でいじめに遭っているなどのエピソードに敏感に反応します。そして、加害者は「受容」「共感」「傾聴」が非常に巧みです。

——カウンセラーになれるレベルだということですね。

私よりもよほど話を聴くのが上手いです。

——これまでの話を聞くと、一度ターゲットにされたら逃れられないのではないかと恐ろしく感じます。

難しいでしょうね。非常に巧妙に、拒否する意思を持ったり、拒否する意思を表明したり、逃げたりすることが困難な状況に追い込んでいきます。

——女児だけが対象かといえば、男児もかなり被害に遭っているのですね。

警視庁のデータで2022年に摘発された児童ポルノの被害児童1487人のうち、男児が206人で14%です。でも臨床的な感覚だと、女児と男児の割合は、6:4までいかないけれど、7:3より男児は多い。男児の方が親にも被害を言いづらいのです。

例えば、ズボンを下ろして写真を撮られるのも性被害ですが、子ども自身がそう思わなければ言語化されません。被害が表明されないのです。男の子の性被害は表面化しているよりも、もっと多いのではないかと思います。

——男の子は小さい頃、友達同士でちんちんを出して見せ合いっこしてますものね。

そうなんです。例えば、クレヨンしんちゃんにそんなシーンがあります。それを真似したりして、ズボンを下ろすことに対して女の子よりは抵抗感が少ない。

クレヨンしんちゃんが有害だといっているのではなく、加害者はそこも情報としてよく知っているのですね。だからこそ、プライベートゾーン(※)も含めた家庭内での「包括的性教育(※)」は重要だと考えています。

※胸や陰部、お尻など、普段は隠していて本人の同意なしに他者には見せない部分。

※身体や生殖の仕組みだけでなく、人間関係や性の多様性、ジェンダー平等、暴力と安全管理や性的同意も含めて、個人が健康的で幸せな選択ができるように幅広く学ぶ性教育。

——女児だと見た目が可愛い子というより、目立たない地味な子も多いというのも意外です。

ターゲットを選ぶときは、容姿よりは、加害行為が発覚しないように達成できるかどうかが優先されます。彼らは「かわいい」と表現しますが、見た目の可愛らしさというよりは、懐柔しやすさを指しているところがあります。自分の存在を脅かさない保証が「かわいい」の評価に含まれています。

ジャニーズ設立は性的グルーミング目的?

——改めてジャニーズの事件を考えると、親から引き離して宿泊させる「合宿所」があったり、ステージや媒体での露出を決める絶対的な権力を加害者が持っていたりとか、性的グルーミングのための環境が異常に整えられていますよね。もしや事務所自体、性的グルーミング目的で作られたのではないかと疑うレベルです。

おっしゃる通りです。元Jr.の方にも話を聞いたのですが、そもそもジャニーズは少年野球チームがスタートです。そこに男の子たちが集まってきて、そこから踊って歌える男の子のアイドルを育てるようになりました。

ジャニー喜多川氏が小児性愛障害だと仮定した場合、彼自身は昔からそういう性嗜好を持っているわけです。つまり、当院の患者さんがそうであるように彼自身も起業したときから自覚していたはずです。職業選択の基準が自らの性嗜好にあるのは、小児性愛障害がある人の一つの特徴です。

おそらく男子アイドルグループを作りたかったから事務所を作ったというよりは、自分自身の性的な嗜好を満たすためにどうすればいいのだろうかという延長線上にああいうビジネスモデルがあったのではないか。私はそう推察しています。

——それがうまく回るように、合宿所を作るなど細かい環境を決めていったということですね。

それが前提だとしたら、罠にかかった子どもたちはすべからく被害に遭ってしまいます。この加害者のつくる罠の仕組みを「エントラップメント」と言います。

——となると、防ぎ得たのかといえば防げないような気がします。

防ぐのは困難だと思います。スタッフもそこで雇用されている従業員ですから、声を上げたら自分の首が飛ぶ可能性がある。一番の権力者を告発できるかと言えば、無理でしょうね。

——それでもちょこちょこ告発してきたお子さんはいたわけです。しかし、被害に遭って目をかけてもらった人は隠し通し、後輩が被害に遭うのを黙認してきた。手伝うような役割まで果たした人もいます。被害者さえも共犯関係にしていく構造についてはどう思いますか?

体育会系の部活でありがちな、「みんなつらい儀式を経験して男になるんだ」というようなホモソーシャルな絆も背景にあったとのだと思います。当時は成人男性から子どもに対する性加害という意識ではなく「ジャニーさんは変わった性癖を持っているから仕方ない」ぐらいに軽視されてきたのでしょう。

「俺も頑張って耐えてきたんだから、お前も頑張れよ」というのは、男性優位社会ではよくあることです。児童福祉施設でも先輩が後からきた入所者に対して「洗礼」と称して、肛門性交させたり口腔性交させたりすることはよくあります。

——根深いですね。

根深いです。今も公になっていない被害があちこちにあると思います。

メディアもグルーミングされていた

——止めるためには、勇気のある告発があった時に、メディアが大騒ぎをして外圧をかけるしかなかったのでしょうね。でもメディアもこんなことを取り上げたらジャニーズのアイドルに出演してもらえない、取材ができなくなることを忖度して、被害を見て見ぬふりしてしまったわけですね。ある意味、メディアもグルーミングされていたのでは?

そうです。メディアもグルーミングの罠にハマっていた。岩永さんが読売新聞社にいた時にそんな話は出ていませんでしたか?

——社内ではあまり聞いた記憶がないのですが、社会の中でずっとジャニーズのそういう噂は流れていましたよね。それを深刻に捉えなかったのは、記者としての私自身の甘さでもあると思います。

ただ2017年まで男の人が性被害に遭うことを前提とした法律は実質なかったわけです。2017年刑法改正で男性の性被害も法律で認定されるようになりました。それまで、法的には男性の性被害はなかったことにされていたわけです。

(続く)

【斉藤章佳(さいとう・あきよし)】精神保健福祉士、社会福祉士、大船榎本クリニック精神保健福祉部長

1979年生まれ。大学卒業後、依存症回復施設の榎本クリニックでソーシャルワーカーとして働き始める。その後、20年以上にわたってアルコール、ギャンブル、薬物、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニア(窃盗症)などあらゆる依存症問題に横断的に携わる。専門は加害者臨床で、これまで2500人以上の性犯罪者の治療に関わってきた。著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病-それは愛ではない』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方-酒に逃げずに生きるには』(集英社)、『セックス依存症』(幻冬舎新書)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、『男尊女卑依存症社会』(亜紀書房)などがある。

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