高額療養費専門委員会 多数回該当の上限引き上げはせず、「年間上限」を設ける案に多数が賛同 唐突な「特定疾病特例の見直し」には反対意見続出 

高額療養費の専門委員会が開かれ、取りまとめ案が提示されました。多数回該当の上限引き上げはせず、年間上限を設ける案については賛同意見が多数を占めました。今回出された意見を踏まえ、次回、修正案が提示されます。
岩永直子 2025.12.08
誰でも

医療費が高額になった患者の自己負担額を抑える「高額療養費制度」。

この制度の見直しについて議論する厚生労働省の「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」が12月8日開かれ、取りまとめ案が公表された。

長期にわたって高額な医療を受け続ける多数回該当(※1)の上限引き上げはせず、多数回該当から外れて高額な治療費を長期間払い続けなければならない患者に配慮して「年間上限」を設ける案が出され、これには多くの委員が賛同した。

自己負担上限の見直しについては、療養期間が短期の人に限り上限の引き上げを検討しつつ、所得区分を細分化し、低所得者の負担については配慮することが盛り込まれた。

また、70歳以上の高齢者に設けられている外来特例(※2)について、支払い能力に応じた引き上げや対象年齢の引き上げに加え、制度の廃止も視野に入れる案が出された。

さらに、これまでの議論ではほとんど取り上げられていない「特定疾病(※3)」に関する特例の見直しが唐突に盛り込まれたが、反対意見が続出した。

具体的な金額(限度額)等については、来年夏以降の施行を目指し、医療保険制度改革全体の議論を踏まえて設定すべきであるとしている。

この日、委員から出た意見を反映して、次回、修正した取りまとめ案が提示される予定。

※1.直近12ヶ月で3回以上高額療養費の対象になった場合、4回目以降はさらに自己負担限度額が引き下げられる特例制度。

※2.一定の収入以下の70歳以上の高齢者を対象に、外来診療で自己負担額の上限額が設定されている特例。特に住民税非課税の単身高齢者の場合、月8000円で事実上「通院し放題」になるとの指摘もある。

※3,慢性腎不全(人工透析)、血友病、HIV感染など、長期にわたり高額な医療費がかかる特定の病気について、自己負担限度額を大幅に軽減する制度。通常、月1万円や2万円程度にに抑えられる。

取りまとめ案について議論する専門委員会の委員ら

取りまとめ案について議論する専門委員会の委員ら

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唐突に入れられた特定疾病特例の見直しに反対意見が続出

この日、事務局から、これまでの議論を踏まえた「高額療養費制度の見直しの基本的な考え方(案)」が提示され、それに出席した委員全員が意見を述べた。

多数回該当の上限額は引き上げないことや、年間上限を設けること、高齢者の外来特例の見直しについては多くの委員が概ね賛同した。

全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は、多数回該当の限度額について現行水準を維持し、新たに「年間上限」を設けることについては、ぜひ入れてほしいと賛同。ただし、この年間上限の対象について、「年1回以上、限度額に該当した人」などの条件を設けることについては反対し、削除するよう求めた。

また、特に所得が低い人で、医療費の支払いによって生活に支障をきたす「破滅的医療支出」に該当する人が多いという調査結果に基づき、上限の引き上げは抑制するよう求めた。

さらに、これまで専門委員会でほとんど議論されていない「特定疾病」について検討が必要と取りまとめ案で記載され、早稲田大学理事・法学学術院の菊池馨実教授が同様の内容の意見書を今回提出したことについて、以下のように明確に反対意見を述べた。

「特定疾病にかかる特例については、複数の委員から意見が出ているわけではない。この専門委員会においても議論になったとは承知しておりません。特定疾病にかかる疾患の患者さん、例えば透析であるとか、あるいは血友病、HIV感染といった当事者の方の意見も全く聞いていない状況で、この特定疾病に関わる特例のあり方について論点であるかのように提示することについては反対する」

一方、これまで複数の委員から意見が出された、退職や転職に伴って保険者が変更になり、多数回該当が適用されるための履歴がリセットされてしまう問題への対応について、取りまとめ案に盛り込まれなかったことに触れ、「すぐの実施は難しい可能性はあるかと思うが、将来的に導入することを前提として、今後の検討課題として今回の基本的な考え方に加えていただきたい」と要望した。

日本難病・疾病団体協議会の大黒宏司代表理事は、「長期療養者への配慮や低所得者層への配慮が盛り込まれたことは評価させていただく」としたうえで、低所得者の限度額については引き下げることも含めた検討を要望。

長期療養者に年間上限を設けることについても賛同し、年間上限の対象者に条件を設けることは天野委員と同様、反対した。年間上限を、患者の申し出によって適用することについては、「申請漏れによって不利益を受けることは避けていただきたい」として、自動的に適用される形式にするよう求めた。

また、唐突に盛り込まれた特定疾病の特例見直しについては、「議論にはなっていない状況の中でこういう風に書かれると、患者はどのような内容なのかもわからないし、どのような方向なのかも理解できないので、大変困惑している」と不快感を示した。

特定疾病の特例見直しについては、 NPO法人高齢社会をよくする女性の会の袖井孝子理事も「この問題については当事者の意見も聞いてませんし、この委員会でも具体的に論議したこともないので、この部分については削除した方がいいのではないか」と削除を要請した。

外来特例については見直しや将来の廃止に賛成の意見が多かったが、日本医師会の城守国斗常任理事は、高齢者は依然として入院、外来とも高い水準になっていることを挙げ、「外来特例そのもの継続は今後も必須であろうと考えている。対象年齢の引き上げも、多くの疾患を抱える高齢者の特性を踏まえれば引き上げるべきではない」と反対意見を述べた。

患者の声で政府案がいったん凍結、見直し

高額療養費制度をめぐっては、昨年末、政府が患者の意見を聞かないまま自己負担上限額を段階的に引き上げる制度見直しの方針を明らかにし、がん患者や難病患者の団体が猛反発。全国がん患者団体連合会は1月に緊急アンケートを実施して治療費の支払いに苦しむ患者の声を届け、世論に火をつけた。

患者団体に続き、医療費の問題に詳しい専門家も、政府が「現役世代の負担を軽くするため」と説明する制度改正で、かえって現役世代の患者が不利益を受けることを次々にデータで明らかにした。

こうした国民の声を受けて、政府が見直しの修正を重ねる異例の事態となったが、与党内からも政府案を疑問視する声が上がるようになった。患者団体は患者の声を反映した議論が行われるよう、与党も参加する超党派の議員連盟の創設を政治家に働きかけた。

流れを決定づけたのは、今年3月5日、参院予算委員会の初日に、全がん連の轟浩美事務局長が参考人招致で、患者の声を石破前首相に直接届けたこと。「いのちのためにいったん立ち止まっていただきたい」と患者アンケートを手渡しする面談を求める轟さんに対し、石破前首相は「承ります。ちょうだいしましょう」と答弁し、流れは一気に凍結に傾いた。

石破前首相は患者団体との面談(3月7日)後の3月8日、凍結を発表。ただし、今年の秋までに再検討するとしていた。

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