猛威を振るう季節性インフルエンザ、今シーズンの特徴は?
季節性インフルエンザが猛威を振るっていますが、今シーズンの動向はどうなのでしょうか?
感染症疫学が専門の理論疫学者、京都大学大学院医学研究科教授の西浦博さんに聞きました。
西浦博さん(撮影・岩永直子)
※12月29日にインタビューし、その時点での情報に基づいています。
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2024年のインフル流行、コロナ前に近い状態に
——季節性インフルエンザが流行っていますね。新型コロナウイルスへの警戒が薄れ、他の感染症が蔓延しやすくなったからでしょうか?
今年のインフルエンザが過去の10年と何が違うのかを見るとわかりやすいです。
西浦博さん提供
こちらは定点観測医療機関から報告された患者数の経過を見たグラフです。水色の線が去年の流行状況です。赤い線が今年の流行で最新のデータがまだ反映されていませんが、この後もどんどん増えて先週までに定点観測機関あたり40人に達し、2023年のピークを超えたところです。
この急激な上がり方は久しぶりで、みなさん驚いているのが現状です。
季節性インフルエンザは、2009年のパンデミックを起こしたH1N1の子孫が進化しながら流行を起こし続けています。
新型コロナのパンデミック中である2020年や2021年は、ほとんど流行は起きていません。
2024年で注目すべきなのは、「これまでの流行に近い動きにやっと戻ってきた」ということです。
——コロナ前の流行パターンに戻りつつあるということですね。
はい、そうです。
一方、最近一部のメディアで「今年のインフルエンザは『かなり』感染力が強い」などと報じられていますが、伝播力が特別に強くなった証拠は見られません。通常レベルの季節性インフルエンザと大差なさそうであると考えられます。
2009年のインフルエンザのパンデミック以降、ずっと主要な株として季節性の流行を起こしていたものが、単に通常のリズムに戻ってきているということです。
ただ例年と比べると、年内の時期にここまで増えるのは早い。まだ季節性が微妙に不安定で、パンデミックの影響を引きずっているところはあります。
——パンデミックの影響を引きずっているとは?
通常は流行株への感受性(感染しやすさ)を持っている人の免疫が一定割合未満となり、ウイルスの方でも進化して免疫から逃れることで、冬に流行するサイクルが生まれてきました。そういう季節性インフルのパターンにすぐ戻るかといえば、2023年のグラフを見てわかるように、すぐは戻りません。
世界的に人の移動がやっと戻りつつあり、その人たちの国でも通常サイクルで流行が起こる形に戻ってきているわけです。南半球で冬に流行が起こって、北半球で冬に流行が起こる従来のリズムにちょっとずつ近づいている途上にあります。
例年も季節性インフルエンザは、定点医療機関あたり50〜60人を越えるあたりがピークです。ですから、今回は感受性を持っている方が少なくないでしょうからそれを若干超える可能性もありますが、ピークは遠いところではないと見ています。
コロナ対策で抑えられた伝播
こちらは東京都の定点医療機関あたりの感染者数のデータです。過去4年間と比べると、今年の赤のラインが突出しているのがわかると思います。
西浦博さん提供
それだけ新型コロナ対策の影響が大きかったのだと思います。特にコロナでは人の移動がかなり止められました。接触も避けられたわけです。
このウイルスは新型コロナウイルスほどの伝播性ではないため、ウイルスへの感受性を十分に持っている人たちの集団を見つけながら広がらないと生き残れません。例えばB型インフルエンザの山形株は、コロナのパンデミック中に消えたことが知られています。それぐらい流行が起こりにくい環境が出来上がっていました。
マスク着用だけのおかげではありません。人が動かないことで、国から国へと伝播しづらくなったことが強く影響していると考えられます。
それが今シーズン戻り始めているのが今の状況です。
日本だけでなく、国際的な流行状況も影響しています。海外で流行って、その人たちが動いたら、次の場所に伝播が起きる。それを繰り返してきたのですが、2020と21年はそれがなかった。
それが他の国でも日本でも普通の暮らしに戻り、冬場にインフルエンザになるリズムが戻ってきたわけです。
引き締めと緩和に影響される子供のインフル感染
次のグラフに進みましょう。こちらはインフルエンザの患者さんの年齢ごとの相対的な頻度を示しています。
西浦博さん提供
パンデミックの頃にグッと比率が変わりますよね。19-20年、20-21年は今まであまり感染していなかった20〜40代の成人が相対的に増えて、子供が減りました。全体の患者数が減り、学校での感染が減ったことが反映されています。
それが再び流行が起こり始める2022年や23年の頃にどうなるかといえば、子供の相対的な頻度がこれまで以上に増えました。
これまで感染していなかった子がウイルスへの感受性を持ったまま緩和を迎え、そこにインフルエンザの流行が起きたので、相対的に他の年齢群よりも高頻度で感染したわけです。
24-25年は今年ですが、コロナ前のグラフと似ています。普通の季節性インフルエンザにだんだん戻ってきたという解釈ができます。
学級閉鎖の状況や、クラスターがどこで起こっているのかの調査もあるのですが、学校を中心として伝播するいつものインフルエンザになったなということが見てとれるようになりました。
早い時期からの流行、まだ戻りきっていない側面も
ただ、まだ通常の季節性インフルエンザに戻りきっていないところもあります。
これはかなり古いグラフですが、2002年から2012年までの10年間を見たときのインフルエンザの推移です。
西浦博さん提供
早い時期に流行が起きているのは2009年のパンデミックインフルエンザだけです。他の年はだいたい年が明けてから、1月後半から2月にピークがあります。
ですから今年のように12月の時点で定点医療機関あたり40人に達して警報が鳴るのは、流行が早く起きていてまだ通常のサイクルに戻りきってはいないともいえそうなわけです。
インフルエンザ、今後の動向は?
——今後インフルエンザはどうなりそうでしょう?
この後どうなるかを占うために重要なデータがあります。広島市の流行曲線のデータです。地域別に見ると、一回ガクッと下がる時期が見られます。
西浦博さん提供
年内に上がったと思ったら、ガクッと下がって、年始にもう一度上がる。他の地域でもこういうパターンはよく見られます。
これは冬休みの影響です。伝播の中心は学校なので、子供たちの間で伝播が増える環境条件が成立した時は急激に上がります。冬休みになると学校がありませんから、いったん下がる。終わったのかなと思いきや、新学期が始まるとまた上がっていく。
ですから今年もいったん落ち着いても、また年明けに増えるということが一部の地域では起こり得ることは想定しておいたほうがいいでしょう。
——1月にまたグッと増えそうなのですね。
地域にもよります。例えば九州だと、定点医療機関あたり70や80を超えている県があります。インフルエンザのそもそもの感染力と、感受性を持った子供がどれだけいるかを考えれば、もうそれがピークだと考えられます。
全国でも定点あたり40人を超えた警報が出て、東京も40ぐらいですが、値としてはピーク近くにはなっています。
早く上がっている地域は上がりきっているので、そういう地域では再び上がるというよりは、若干ぶり返して長引いていく感じになるのではないかと思います。
インフルエンザが増えすぎたり、年末年始で病院にかかれなかったりすると、みんな過剰に心配するものですが、これまでと同じく2009年の株の進化系で起きている流行で、伝播性も似ています。タイミングとしても過去に少しずつ近づいてきている。
ただし増えすぎると他の年齢群、特にお年寄りに影響を及ぼすので注意しなければいけません。それがインフルエンザの難しさです。
(次回は新型コロナウイルスの動向です)
【西浦博(にしうら・ひろし)】京都大学大学院医学研究科教授
2002年、宮崎医科大学医学部卒業。ロンドン大学、チュービンゲン大学、ユトレヒト大学博士研究員、香港大学助理教授、東京大学准教授、北海道大学教授などを経て、2020年8月から現職。
専門は、理論疫学。厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班で流行データ分析に取り組み、新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードなどでデータ分析を提供してきた。最近の関心事は美しくて効果的なスクワットのやり方とおいしい豚肉のピカタの焼き加減。
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