高額療養費専門委員会、多数回該当の上限は現行維持とする最終取りまとめ案を了承 特定疾病の特例見直しは削除
医療費が高額になった患者の自己負担額を抑える「高額療養費制度」。
この制度の見直しについて議論する厚生労働省の「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」が12月15日に開かれ、前回(12月8日)の議論を受けて修正された最終取りまとめ案が提示された。
長期にわたって高額な医療を受け続ける多数回該当(※1)の上限引き上げはせず、低所得者(年収200万円未満)については逆に上限を下げ、多数回該当にギリギリ該当せずに高額な治療費を長期間払い続けなければならない患者に配慮して「年間上限」を設けることなどを盛り込んだ最終案が了承された。年間上限に要件を設ける文言は、前回の患者会からの要望を受けて削除された。
短期療養者(高額療養費への該当が3ヶ月目まで)については、所得区分を細分化した上で、上限額の見直しをする。
第8回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会資料2より
そのほか、前回、患者団体から要望があったのを受けて、加入する保険者が変わる際に多数回該当のカウントがリセットされる仕組みから、カウントが引き継がれる仕組みへの検討を行う旨が明記された。
さらに、ほとんど議論されていなかったにもかかわらず、前回の見直し案で唐突に盛り込まれた「特定疾病」に関する特例(※2)の見直しについては、複数の委員から削除要請があったこともあり、削除された。
第8回「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」の様子
この取りまとめは、上位にある医療保険部会に報告され、医療制度全体の見直しに盛り込まれる。
※1.直近12ヶ月で3回以上高額療養費の対象になった場合、4回目以降はさらに自己負担限度額が引き下げられる特例制度。
※2,慢性腎不全(人工透析)、血友病、HIV感染など、長期にわたり高額な医療費がかかる特定の病気について、自己負担限度額を大幅に軽減する制度。通常、月1万円や2万円程度に抑えられる。
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外来特例は見直すものの、急激な変化にならないよう配慮
他に、高齢者の外来特例(※3)については、対象年齢の引き上げや廃止も含めた制度の見直しは避けられないとしたが、「限度額の段階的な見直しなどの丁寧な対応が必要」と急激な変化にならないよう配慮する文言が盛り込まれた。
※3 一定の収入以下の70歳以上の高齢者を対象に、外来診療で自己負担額の上限額が設定されている特例。特に住民税非課税の単身高齢者の場合、月8000円で事実上「通院し放題」になるとの指摘もある。
前回、委員から求めがあったのを受けて、外来特例を使っているのはどのような病気の患者かデータも示された。
厚労省の資料によると、年6回以上、外来特例を使う患者で多いのは、窓口負担が1〜2割の一般患者(課税層)の場合、悪性腫瘍(がん)や腎不全、糖尿病で、低所得者(非課税層)の場合は、それに加え高血圧や歯肉炎、歯周疾患が上位に入る。
第8回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会資料3より 75歳以上一般患者
第8回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会資料3より 75歳以上低所得者
具体的な金額提示はこれから 患者団体「抑制的な引き上げに」
委員からの意見聴取で、全がん連の天野慎介理事長は、患者団体が参画して制度検討ができたことや、当事者の声が取りまとめに反映されたことに感謝を示しつつ、今後決められていく具体的な金額の見直しについては、こう釘を刺した。
「昨年、高額療養費制度について社会保障審議会の医療保険部会で議論していただいた際に、医療保険部会に示された資料と実際の引き上げ額にかなりの乖離があって、それが問題となった経緯もある。今後、予算編成の中で具体的な金額が決まっていくことになると思うが、高額療養費制度を利用している患者や家族の方々に十分配慮していただいて、仮に限度額が引き上げとなる場合でも、相当程度、抑制的な金額の引き上げをお願いしたい」
井上隆・日本経済団体連合会専務理事は、昨年、患者の声を聞かずに出された案に患者団体が猛反発して、今回の専門委員会が開催された経緯について、こう評価した。
「今回のこの専門委員会の設置の経緯を、ぜひ、今後の制度改革に向けた重要な教訓、契機と捉えて、制度の見直しにあたっては当事者及び国民全体の納得感を醸成しながら進めていくことにご留意いただきたい」
大黒宏司日本難病・疾病団体協議会代表理事は「長期療養者や低所得者への配慮」が盛り込まれたことに感謝を示しつつ、「具体的な限度額等の金額が出ていないので何とも言えないが、外来特例も含めて急激な変化が生じないようにお願いする」と要望した。
また、外来特例についての資料について、「歯科や眼科、糖尿病、高血圧とか、高齢患者の外来利用は生活維持の側面が大きいと改めて感じている。性急な変更は生活破綻のリスクにつながる可能性があるので、見直しにあたっては段階的かつ丁寧にお願いしたい」と述べた。
北川博康全国健康保険協会理事長は、特定疾病の特例見直しが削除されたことについて、「制度創設以来、疾病構造や治療のあり方の変化がしている一方で、これまで特段の議論が行われてこなかったことは事実。ぜひとも今後の検討課題として認識していただければ」と今後の検討を要望した。
城守国斗日本医師会常任理事は、外来特例の見直しについて、「70歳以上の受診率は入院、外来ともにかなり高い水準にあるので、外来特例そのものの継続は今後も必要」と、制度廃止には反対意見を述べた。
佐野雅宏健康保険組合連合会会長代理は、外来特例を使っている病気の種類の資料について、「高額療養費制度の中で対応する部分と高額療養制度の趣旨には必ずしも合わないと思われるものが混在している」と指摘し、「見直しは不可避」と訴えた。
袖井孝子NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事は、低価値医療や無価値医療(※4)についても今後の検証を要望した。
※風邪に対して抗菌薬(抗生物質)を処方するなど、医療的な効果がないのに保険で提供されている医療。医療費の無駄遣いとされている。
また高齢者の外来特例については「歯周病とか、高血圧とかについては、予防とか自助努力で解決できる面があるのではないか。患者の側としても医療に関してもっと色々情報を集め、自助努力する必要があるのではないか」とし、健康維持の方法について啓発する必要性を語った。
また、患者団体が議論に参画したことについて、昨年の反省も踏まえ、「実は私どももあまりよくわからないうちにこの会が進んでいきそうになった。途中から患者団体の方に入っていただき、切実な声をお聞かせいただいてすごく良かったと思うので、厚労省はぜひ今後ともこういうことを続けていただきたい」と要望した。
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