独立日記1(生活費の算段)
私は7月15日にBuzzFeed Japanを退職し、フリーランスの医療記者になりました。
それを決めるまで、決めてから、そして現在進行形で、新しい経験を積み重ねています。
メディア、特に報道系のメディアが苦しい経営を強いられる中、同じように悩む記者も多いのではないかと思います。
参考になるかどうかはわかりませんが、私の経験をここにつらつらと書いていこうと思います。
岩永の財布。太巻きのように丸々していますが、小銭と紙類ばかりで紙幣はあまり入っていません......。落として届けられていた交番のお巡りさんに「こんなごつい財布初めて見た」と驚かれました。
初回は幅広くお伝えしたいこともあるので、無料で。2回目以降は有料のサポートメンバー向けに配信しようと思います。もがき悩んだことまで赤裸々に書きまくりますので、ぜひご登録を。
当初は正社員への転職を目指す
バズフィードで今年5月に不本意な異動があり、「医療記事を書いてはならぬ」と言い渡されたことをきっかけに会社を辞めることを決めたことは前に書いた通りです。
だけど最初はもちろん、他の会社に転職するつもりでいました。
長く医療記者をしていると、「岩永さんならフリーになってもいくらでも食っていけるよ」と気軽に言われてしまうのですが、まったくそんなことはありません。
会社に所属している時も、他の媒体へ寄稿をしていましたが、その一つひとつの謝金は長さにもよりますが3〜7万円程度で、書くことで食べていけるだけの収入が稼げるとはとても思えませんでした。
何より、ズボラな私がフリーランスの記者として、売り込みや事務・経理仕事をしっかりできるはずがありません。特に後者の事務・経理仕事については、整理整頓ができず、ものをすぐ無くす自分には絶対に無理だと思っていました。
会社員の時も、あまりにも経費請求の作業が面倒くさくて、交通費や細かい経費はほとんど請求したことがありません。
保険の切り替えや年金の手続きなどを考えただけでも頭がクラクラしてきます。
そういう事務作業を人任せにするためにも、絶対に正社員として転職しようと最初は思っていたのです。
転職したいメディアがない
ところが、複数の転職サイトに登録したものの、転職したいメディアがなかなかないのも事実でした。
まず、医療に特化して一般読者向けに書くことのできるメディアは皆無と言っていいほどありません。医療記事を書く仕事として募集があるのは、医療者向けの媒体や、薬や医療機器の説明文書を書く仕事、医療機関からお金を受け取って紹介記事を書くような仕事ばかりでした。
一般読者向けの報道記事が書きたい私としては、一般向けのオンラインメディアに応募して、医療記事を書かせてもらうように頼むしかなかろうと考えました。
いくつか応募してみましたが、見事に撃沈です。49歳という年齢もあるのでしょうけれど、書類選考で落とされてばかりで、面接さえこぎ着けることはできませんでした。
医療を取材したくて記者になったので、医療記事を書く仕事がありましたらお声がけ頂けると喜びます。
どうぞよろしくお願いします。
その後、「医療記事を書けるか不明です。医療記事を書く仕事がありましたらお声がけ頂けると喜びます」という私のSNSでのつぶやきを見た複数の企業からいくつか仕事の依頼もいただきました。
しかし、それは社内のサービス向けに病気の解説を書く仕事であったり、会員向けに医療のお役立ち情報を書く仕事であったりして、自分のやりたいこととは違いました。
ニュースレターで医療記事を書く場を確保
そんな中、声をかけてくれたのが、このニュースレターのプラットフォーム「theLetter」を運営する会社の社長、濱本至さんでした(今、見ると、5月1日に私がつぶやいた後すぐに、メッセージを送ってきてくれていました)。
「岩永さまが進められたい取材に基づく医療分野で、持続性があり岩永さまがコントロールできるメディアの形を一緒に模索したいなと勝手ながら考えております」
医療記事が書けなくなっていた私は、少なくとも自分が書きたい記事を書ける場ができることは嬉しいことでした。説明を聞くと収益化の話も出てきましたが、それはおまけのようなものだと当初は考えていました。
社会保険などの手続きを引き受けてくれたことで、フリーになることを決意
その後、声をかけてくれたのが、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんです。
私は田中さんのことを勝手に「田中再生工場」と呼んでいるのですが、つまづいた人、困っている人に手を差し伸べて、その人が再び社会で自信を持って歩み出すことができるようにいつも手を貸してくれている人です。
田中さんは困り果てていた私に、「依存症専門のオンラインメディアを作りたいのですが、一緒に作りませんか?企業や行政などへの忖度が一切ないメディアを作って、依存症への偏見を払拭したい。ぜひ編集長になってほしい」と声をかけてくれました。
依存症は歴とした病気であり、必要なのは罰則ではなく支援や回復プログラムへの参加です。それなのに「意思が弱い人の失敗や非行、犯罪であり、自業自得」という偏見がまかり通っていることを腹立たしく思っていた私は、面白いチャレンジだと思って参加を決めました。
田中さんは、転職活動がうまくいっておらず、事務作業が絶望的にできないことからフリーにもなれないと私が嘆くのを聞き、ギャンブル依存症問題を考える会でそういう手続きを一手に引き受けてあげようとも提案してくれました。
話し合いの結果、同会に雇用されて依存症専門メディアの編集長として仕事をすることで、社会保険などの手続き一切をやってもらうことにしました。
同会に関する記事を書くことが利益相反に当たるかもしれないので、私の身分をオープンにしたかったのが、今回の記事を書いた動機の一つです。
もちろんそれだけで食べていけるほどの報酬ではないのですが、一番心配していた事務手続き問題が軽減されたことで、フリーランスでもやっていけるかもしれない、と初めて希望が持てました。
その後、月に4本記事を書くことで固定の謝金をいただける契約をもう一社と結ぶことになり、それに週3回のイタリアンレストランでのアルバイト代を加えたら、バズフィードで働いていた時の3分の1ほどの収入が得られると計算できました。
私は子供もおらず、自分一人だけが食べていくお金を稼げればそれで十分です。この見通しが立った時点で、フリーの記者になることを決めました。
ニュースレターのご支援で少し余裕が持てることに
ただ、ギリギリ生活できるメドはついたものの、その収入だけだと家賃と水道光熱費、食費を出しただけでトントンです。これまでのように資料や好きな本を買ったり、有料イベントに参加したりはできなくなるでしょうし、出張や貯金などは夢のまた夢になるだろうと覚悟を決めました。
複数のメディアのサブスク登録を解除し、趣味の居酒屋通いを減らし、家賃のもっと少ないところに引っ越そうと不動産サイトを片っ端から検索しました。
それでも貯金を切り崩せばなんとか生活はできるだろうし、自分の書きたい記事は書ける。それだけでもありがたいことだと気持ちを奮い立たせていたのです。
ところが7月1日に、執筆活動を応援してくれないかと、このニュースレターでサポートのお願いをしたところ、思いもよらぬ数のみなさまがサポートをしてくれることになりました。
ギリギリの生活を予想していたのですが、これで少し余裕を持つことができそうです。本当にありがとうございます。
こうして始まった新しい生活、フリーランスの大先輩から「淋しさもこらえて行け!」と激励のメッセージをもらったのですが、私は全然淋しくないのです。
きっと応援し、支えてくれる方々がいるからだと思います。
良い記事を書き続けて恩返ししたいと思いますので、これからもどうぞよろしくお願いします。
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