特定生殖補助医療法案が法律婚だけ対象にした理由
秋野公造・議連幹事長インタビュー(前編)

「法律婚以外は排除される」「子供の出自を知る権利が守られない」と、当事者から反対の声が上がっている「特定生殖補助医療法案」。法案を作った側はどう答えるのか。法案を作った議員連盟幹事長の秋野公造参院議員にインタビューしました。
岩永直子 2025.04.28
誰でも

精子や卵子の提供を受けた不妊治療についてルールを定める「特定生殖補助医療法案(※)」。

当事者から「出自を知る権利が守られない」「同性パートナーや事実婚カップルらが排除される」と反対の声が上がっているが、法案を作った側はどう答えるのか。

提案者であり、超党派の「生殖補助医療の在り方を考える議員連盟」幹事長の秋野公造参議院議員(公明党)に話を聞いた。

一問一答形式で詳報する。

秋野公造参院議員

秋野公造参院議員

※自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党が2月5日に共同で参議院に提出した法案。提供者の情報は、国立成育医療研究センターが100年間保管し、18歳以上の成人した子供から請求があれば、身長や血液型、年齢など、提供者が特定されない情報のみを開示。子供が提供者の氏名など個人が特定される情報や、それ以上の情報開示を求めた場合、提供者の同意が得られた場合は開示されるとしており、「子供の出自を知る権利が守られない」と当事者らは反対の声をあげている。また、この生殖補助医療の対象は法律婚のカップルに限っており、同性カップルや事実婚、選択的シングルらも反対の声をあげている。

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2020年の法律の附則に従って立法する義務

——今国会に提出された「特定生殖補助医療法案」に当事者から反対の声が上がっています。法案を作った側からご説明をいただければと思いまして。

恨み節になりますが、法案を作った側に先に聞いてほしかったというのが率直な印象です。

——先週にも審議入りするという話がありましたが、動きはあるのでしょうか?

それは国対(国会対策委員会)に聞いてください。私たちは早急な審議を求めていますが、まだ決まっているわけではありません。1日も早い審議をお願いしています。

——議連に参加していた立憲民主党が法案には名前を連ねず、立憲の議員の一部が反対に回っています。

私たちの議連の会長代行は立憲民主の長妻昭議員ですからね。

一番大事なことは、2020年に「生殖補助医療法(生殖補助医療の提供及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律、メディアでは民法特例法とも略されている)」を提出した会派で、今回の法改正を行うことを附則に定めた。今回の法案はその対応であるということが大事ですよね。立憲民主党は、立法する義務がある。自ら発議したわけですから。

——その2020年に出された「民法特例法」と、2025年の今国会に出された特定生殖補助医療法案は趣旨が違うから、立憲民主は賛同しなかったのでは?

私たちは「民法特例法」という言い方はしません。そう言うこと自体がミスリードです。法務省の民事局さえ「生殖補助医療法」と略していますので。

——それは捉え方の違いですね。

捉え方の違いではありません。2020年の法律は、まず生殖補助医療の定義を定め、理念を決めて、国や医療従事者の責務を定め、第9条、第10条に親子関係を定めましたので。どうして民法と親子関係だけを特出した略し方を用いますか?

出自を知る権利を明記した2003年報告書は尊重はするが......

——逆に2020年の段階で、他人の精子や卵子を用いた生殖補助医療の規制の在り方や、出自を知る権利の具体的な内容を定めなかったのはなぜですか?

出自を知る権利等については、2020年の生殖補助医療法案の審議の際に国会で出てきた話です。そしてそこに対して附帯決議もいただきましたし、私ども発議者は出自を知る権利は重要と答弁をし続けました。そして最終的に出自を知る権利はあると答弁して、ここで初めて立法事実ができたから、2025年に立法するということになった。

——その説明はおかしい。2003年の厚生審議会生殖補助医療部会の最終報告書では、明確に出自を知る権利を法的に定めるよう求めています。2003年の段階で出自を知る権利を法整備する必要性は言われているわけです。2020年の段階でも17年経ち、2025年の今回の法案でもそこから22年経っているわけですから、出自を知る権利の立法事実が2020年の法案審議で初めて出てきたような説明はやはり間違っていると思います。

岩永さんのおっしゃっていることは必ずしも正しくないと思います。2003年の生殖補助医療部会の報告書は、旧厚生省と法務省が法案を出すための準備を整えたという趣旨だと思います。でも最終的に行政は法案を提出せず、その後の検討さえやめてしまったわけです。

私たちは立法府です。2003年の報告書は尊重します。尊重はしますが、行政さえも、報告書通りに(法案を)作るかどうかは、また行政の判断があるわけです。

私たちの問題意識は、2003年以降、政府は法案の提出をしないだけでなく、その後の検討もしないようになってしまったという状態です。

だから議員立法で出したわけです。本来は政府が出したらいいじゃないですか。でも政府が出さないし、検討もしないから、各党から5名の有志で、5会派の5名で2020年に法案を提出し、成立させたのが生殖補助医療法です。そこで入れていないのがおかしいという指摘はそうではありません。

2003年の報告書の後に、私どもは私どもで検討を当然するわけです。物事には順序がありますので、生殖補助医療部会の報告書を尊重はしていますけれども、それを検討していないからおかしいと言われると、私たちは行政府ではありません。

——なるほど。立法府として、行政が審議した生殖補助医療部会の報告書とは全然別の審議をしたということですか?

別の審議とまでは言い切れませんが、生殖補助医療部会の方は行政府が法案を出すために審議、検討したものだと思います。

私たちは、生殖補助医療の定義や理念や責務、そして親子関係など、まずは最低限5会派で合意できるものをやろうと考えたわけです。だって報告書から17年も経っていますから。それも全部やらないと出すなという言い方は、「ためにする議論」だと思います。

——「ためにする議論」とおっしゃいますが、出自を知る権利はこれまでの生殖補助医療の議論の中でもかなり重要なものとして位置付けられてきました。

それは理解しています。

——2020年の法案の段階でそこを議論しなかったのはなぜですか?

そこまで合意できる状況になかったというのが実情です。我々の立場で言えば、法案を作ったのは2012年からです。2013年に公明党案を定め、2016年に自民党と合意して自公案ができて、ここから、維新、国民民主、立憲民主の3会派の合意を得るまでに4年かかったわけです。

——逆に言うと、出自を知る権利が盛り込めなかったのは、どの党のどういう意見が影響したのですか?

そこまで審議が至らなかったと言った方が正確です。もう8年もかけて、息も絶え絶えになって提出したという方が正確です。

法律婚のカップルにしか認めないのはなぜか?

——2020年の法律では、法律婚のカップルの親子関係のみを定めましたね。

9条で(他人の卵子を用いた生殖補助医療で妊娠・出産しても)産んだ女性を母とする、10条で(提供精子を使った生殖補助医療で妊娠・出産することに)同意した夫は嫡出否認ができないという意味で父とすると決めましたけれども、提供者のことも検討しなかったわけではないんです。

例えば、女性カップルや法律婚以外で産んだ女性が亡くなった場合に、子供を誰が引き取るのか。提供者が親になれないと決めてしまって、「そういうことだったら自分が引き取りますよ」という道を閉ざしていいのか。

強制認知(※)もできる時代ですからね。子供ファーストとおっしゃるのだったら、強制認知ができなくなっていいのか、これはまた議論が必要なわけです。

※父親が認知しない場合に、母親や子供が裁判所の手続きを通じて、父親に認知を求めること。裁判所がDNA鑑定などの証拠に基づいて父子関係を認めると、父親は認知を強制される。

——だから、2020年の段階では法律婚以外のカップルの話は棚上げではないですが、触れずにいたと。

触れずにというより、そこまで議論できなかったということです。各党に持ち帰っての議論さえできなかった。発議者の中には当然、問題意識はあった。けれども、これは当事者の課題です。提供者を親にしないという判断もあったかもしれないし、一方で、本当にできないとまで言い切ってしまっていいのかということに対して、国会で答弁はできないと思いました。

——逆に言うと、もしかしたら親になる責任を負わされるかもしれないから、提供を尻込みしてしまう可能性も考えなければいけないわけですね。

それが全てではありませんが、一つの要素だと思います。当時、今回の法案に反対している政治家の中には、「提供者も扶養の義務がある」と言っていた人もいるんですよ。

だから、あの時なぜあれしか書かなかったのかは、合意できるものから、国会で答弁できるものから書こうということになったからです。もしかしたら、11条に提供者は親にしないと書けたかもしれません。しかしそれは、先ほど例示をした強制認知の権利まで取り上げてしまっていいのかという議論とセットです。

ですからまず、2020年の生殖補助医療法では法律婚で決めて、それに則り、特定生殖補助医療法を定める。その段階で親子関係について整理ができるのだったら、もう一回生殖補助医療法に戻る。そしてここが改正できるんだったらもう一回特定生殖補助医療法に戻る。

こういった考え方は当然あるべきで、今は多くの報道は「法律婚以外は排除」と書いていますが、一方で、法律婚以外だと提供者が親になることを正確に書いている媒体は極めて少ないと思います。精子提供者であれば認知できますから。

——そうですよね。2020年の法律に基づけば、精子提供者が親になってしまう可能性がある。だから今回の特定生殖補助医療法案も法律婚のカップルしか対象にしていないですね。

提供者が親になることを希望していない人の方が圧倒的に多いと思います。でもそこの理屈はあまり書いていただいていないように思います。

私たちは生殖補助医療法に則り、特定生殖補助医療法案を作りましたので。

法律婚以外はなぜ対象外?

——現在、同性婚を求める訴訟が全国で起こされています。もし、将来、同性婚が法律で認められたら.....。

同性婚が認められたら、それは法律婚ですから、この法案のままでできるようになります。

——しかし、事実婚や選択的シングルの人は。

対象になりません。事実婚で、たとえば精子提供を受けるのであれば、男性パートナーは自分の精子を使っていませんから認知できません。

——そこで提供者が認知する可能性が出てくる。

提供者が認知する可能性も、子供が将来強制認知を求める可能性もあります。

——だから事実婚や選択的シングルは対象に入れられないのだとおっしゃっているわけですね。

それは、その後の議論だと思っています。

——この整理の仕方は、親子関係が不安定になるのを避けるためだと。

そうです。そこの親子関係も整理しまとめてから出しなおせと言っている人もいますが、一回、2020年に国会として意思を示したわけです。そこを検討する立法事実はありません。

だからまず生殖補助医療法を定め、今回の特定生殖補助医療法案を定め、その段階で「やはり事実婚の方もちゃんと定めようよ」「女性カップルについてもやろうよ」という話になったら、親子関係から整理できるかどうか、私たちは検討しなければいけません。

——こちらを成立させてから、また2020年の法律(の改正)に戻るというのはそういう意味ですね。

そういう環境が整うならです。今のように、「同性カップルや事実婚は排除されている」と煽りまくって、対話さえできる環境にしないように追い込んでおいて。そういうことを私はすごく恐れています。

当事者のヒアリングをしなかったのはなぜ?

——そのように対話を望むなら、なぜ議連では当事者のヒアリングをしなかったのですか?

当事者のヒアリングと言っても、各党でバラバラに聞いて、それを持ち寄って結論づけられるものもあります。

——なぜ議連の場ではやらないのですか?

それはどこまでできるかですが、こどまっぷの長村さと子さん(女性カップルで精子提供を受けて子供を出産)や伊藤ひろみさん(精子提供を受けて出産し、後に非匿名の精子バンクを設立)たちは2度お呼びしましたよ。

——生まれた子の立場の人に対しては聞いていないですよね。

生まれた子に対しては聞いていないと言っても、(匿名の精子提供によって生まれた)石塚幸子さんもここ(議員会館の事務所)に来ましたし、議連に呼んでいないから不十分だという言い方は当たらないと思います。

——それは石塚さんが面会を申し込んだからですよね。

誰から呼ばれるか呼ばれないかは関係ないと思います。議連だって、私たちがお呼びする形ですけれども、声を聞いてほしいという申し出もありましたので。

——議連で5会派が集まった場所ではその声は聞いていないのですね。

5会派で集まったところでは聞いていません。そこは次の議論だと思います。

(続く)

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