「出自を知る権利についてはこれからの議論」 秋野公造・議連幹事長インタビュー(後編)
精子や卵子の提供を受けた不妊治療についてルールを定める「特定生殖補助医療法案(※)」。
今国会に提出されたものの、当事者から「出自を知る権利が守られない」「同性パートナーや事実婚カップルらが排除される」と反対の声が上がっている。
法案を作った側はどう答えるのか。
法案を作った超党派の「生殖補助医療の在り方を考える議員連盟」幹事長の秋野公造参議院議員(公明党)に話を聞いた。
前編に引き続き、一問一答形式で詳報する。

※自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党が2月5日に共同で参議院に提出した法案。提供者の情報は、国立成育医療研究センターが100年間保管し、18歳以上の成人した子供から請求があれば、身長や血液型、年齢など、提供者が特定されない情報のみを開示。子供が提供者の氏名など個人が特定される情報や、それ以上の情報開示を求めた場合、提供者の同意が得られた場合は開示されるとしており、「子供の出自を知る権利が守られない」と当事者らは反対の声をあげている。また、この生殖補助医療の対象は法律婚のカップルに限っており、同性カップルや事実婚、選択的シングルらも反対の声をあげている。
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「子供の出自を知る権利が守られない」という批判には?
——当事者はこの法案では「子供の出自を知る権利が守られない」と反対の声をあげています。それについてはどう考えますか?
出自を知る権利については、これからの議論です。出自を知る権利はいま法定化されていませんから。みなさん、さも出自を知る権利がもう定まって定義されて、あるように思われていますけれども、これからみんなで作っていくものだろうと私たちは思っています。
出自にかかる情報を、個人を特定する情報と特定しない情報に分けて、特定する情報については、国立成育医療研究センターに100年間、マイナンバーも含めて保管します。
そして、特定しない情報は内閣府令に委任をします。そうは言っても、内閣府も今後検討するにあたり例示をしてほしいということだったので、私どもで検討して変わらない3情報(身長、血液型、年齢)を例示しました。遺伝病なども入れた方がいいのではないかとも話し合いました。でもどこまでやるのということになりました。
——あの3つはあくまでも例示だと。
だから「等」をつけています。しかし、「3つの情報しか知らされない」と書いているメディアもたくさんあります。
——「等」にたくさん含まれる可能性があると。
内閣府令に委任するということを書いている報道も、極めて少ないと思っています。繰り返しになりますが、2003年の生殖補助医療部会の報告書から政府は法案を出さないだけでなく、検討もしていないんです。いつまでも立法府だけで、いつまでも議連だけで、検討することが適切なのかという問題意識はずっと私たちの中にあります。
政府も巻き込んで、と言ったら政府も構えちゃうし、騙し討ちだと言われたくないのですが、政府にも一緒に——つまり政治は審議会などを開いて、有識者を交えて議論する場があるのです。それを全部議連でやる必要はないじゃないですか。
なんでも議連で聞けと言い、「当事者を呼んでいないじゃないか」とおっしゃいますけれど、政府に委ねてもいいところもあるじゃないですか。
そこで精子や卵子提供などによる多様な家族作りを支援する団体「ふぁみいろネットワーク」だって精子提供を受けての生殖医療を行なっている「はらメディカルクリニック」だって、精子提供を受けて生まれたドナーリンクジャパンの石塚幸子さんだって、日本産科婦人科学会だって、内閣府令を決めるところで、ご自身の成功事例や足らざるところを語ってもらいたい。
そういう議論をする場を、法律に定めるところに意味があると思っています。
子供の出自を知る権利を提供者が左右できるのはなぜ?
——ただ、個人を特定する情報については、提供者側が開示するかどうかを決められるということに、当事者は疑問を感じています。出自を知る権利は子供の権利なのに、子供でなく提供者がその権利を行使できるかどうかの選択権があるのはおかしいのでは。
今、どうするかわからない状況にあっては、それはそうだろうと思います。直近の意思で意見を入れ替えることができる。
今のイギリスやフランスと比べてどうだこうだと議論する方もいらっしゃいますが、実際は彼らだって最初から一発でそのような仕組みを作ったわけではありません。今の形になるまで20年ぐらいかけている。最初は完全な匿名から始めているんです。
私たちは完全な匿名ではなく、提供者の直近の意思で出せるようにしている分だけ、スタートの地点ではイギリスやフランスより進んでいるのではないか、というものの見方もできるんじゃないかと思っています。
——ただ、出自を知る権利は提供者の権利ではなく、子供側の権利ですよね?
出自を知る権利は、どこまでをどうするのかという議論をしてもらいたいと思っています。何から何まで全部知らせることが出自を知る権利なのか、そういうことがどうなのかというのは、やはり検討が必要だと思います。
実は私個人と(精子提供によって生まれた当事者で、子供の出自を知る権利を求めている)石塚幸子さんが見ている世界は極めて近いと思っています。しかし、「石塚さんがそう言っているから、はいそうです」と言うのはどうか。そういった議論は平場でちゃんとやるべきじゃないかと思います。
——私もそう思います。だからメディアも入れた場でオープンに議論してくれればいいじゃないですか。
個人を特定しない情報は内閣府令に委任しているので、その議論の中で出てくる話を受けて、その後にやればいいじゃないですか。私たちはまずしっかりと国立成育医療研究センターに情報を保管する仕組みを作るわけですから。
——しかし法律に、子供が身元を特定する情報の開示を求めても、それを決定するのは提供者側だと書かれたら、動かすのがかなり難しくなります。
そうでしょうか?私たちは5人でずっと進めてきた取り組みですから、これで終わりだと決して思っていません。ずっと検討は続けていきます。
——この法案に当事者たちから一斉に反対の声が上がり、今、ようやく国民も巻き込んだ議論が始まっています。
しかし振り返ってもらいたいのは、今反対している人たちは、2020年の法律も反対していたことです。だけど2020年の法律があったから、出自を知る権利について堂々と法定化する動きが出てきている。
——今回の法案は子供の出自を知る権利を守るために作ると謳っていますが、当事者は実質、それが守られないんじゃないかと思って反対しているわけです。
守ると言っても、今は出自を知る権利は法定化されていません。何を定義して守る守らないとおっしゃっているんですか?
「身長、年齢、血液型」がわかったら、人となりがわかる?
——例えば、全ての子供に開示される非特定情報ですが、例示された「身長と年齢と血液型」がわかったら、「ああ私の遺伝的な父親はこういう人なんだ」と実感できるでしょうか?一般の感覚でいえば、そんな抽象的な情報を知っても人間のイメージは湧かないですよね?
それは岩永さんのお考えです。そういう議論を内閣府令を定める中で議論してほしいと思っているんです。
だって2020年の法律の時には、明治学院大学の柘植あづみさんが参考人で呼ばれて、提供精子で生まれた子供が、提供者がチョコレートが好きかどうか知りたいと言ったという話を聞きました。あれは私たちにとって大変胸を打つ話でした。
あそこで柘植さんは、知りたいのは別に個人を特定する情報ではないと。チョコレートを好きかどうか、こういうことを知りたいんだと。
だけど一方で、チョコレートを好きかどうかを内閣府令に書けるかどうかは、私たちは浮かびませんでしたが、そういうやりとりができるような環境は作っていかなければいけないと理解しました。
だから、国立成育医療研究センターを通じて、そういうやりとりができる仕組みを作ろうとしているわけです。
繰り返しになりますが、これがゴールではないということなんです。私たちが見ているのは、いつか提供者と出生した子が個人を特定できる情報もきちんとやりとりできる——そんな社会です。でも、それを一足飛びにそうします、としていいのかということも考えなければいけません。
——逆になぜ、最初からやりとりできる仕組みにしないのですか?子供が求めれば、個人を特定する情報を提供し、やりとりすることができると法律で明記すれば誰も反対しないですよね。
誰も反対しないかどうかはわかりません。
——誰が反対するのですか?
誰が反対するのかと言われたって、2003年から政府で何の議論もしていないんです。そこに私たちは問題意識を持っています。
——私もそれは問題だと思いますが、なぜ子供の出自を知る権利を提供者側の意思に委ねるような書きぶりにするのかがわかりません。
まだどうするか決めていない段階であったら、提供者が決められることになるのは当然のことじゃないですか。
——子供の権利なのに、なぜ提供者が決めるのですか?
子供の権利というのはその通りです。だけどじゃあどこまでが出自を知る権利ですか?「提供者には扶養の義務もある」と極端なことを言っている人もいる中で、どこまで伝えることが出自を知る権利なのでしょう。
——そこは切り分けなくてはならなくて、一部の政治家が「提供者が扶養の義務も負う」と主張しているのは極端な意見です。当事者の方達も全く求めていないことだと思います。
私もそう思っています。似たようなことを私たちも考えています。だけど、やはりちゃんと議論はしてもらいたいというのが私たちの思いなので。だから一気に決めなかったのだと捉えてほしいです。
身元を特定する情報を開示することが条件だとドナーが集まらない?
——出自を知る権利はどこまでを指すのかは議論があるとして、実際に生まれた子供の立場の人たちは、提供者とやりとりができ、たわいもない会話で相手の生活感や人柄がわかることを求めています。そういう声もたくさん発せられているじゃないですか。なぜそのような当事者の声を無視して、提供者側に拒否さえできる権利を与えるのですか?
それはまだ出自を知る情報のどこまでを、個人を特定する情報としてどこまでを伝えるべきかということは何も決まっていないからです。それが決まってから議論しても遅くはないと思います。
——そうであれば、提供者に拒否権を持たせるこの法案を決めるのは拙速ではないですか?
どうしてそうなりますか?個人を特定しない情報については内閣府令で検討を始めることも、いろいろな出自に関わる情報を国立成育医療研究センターに集めて100年保存するということも前進です。いろいろな議論ができる環境を法律できちんと作り込んでいくことは、とても重要なことだと私は思っています。
——第三者から卵子や精子の提供を受けた生殖医療は既に現実世界で始まっていて、一番悩んでいるのは提供者側ではなく、生まれた子供です。提供者がわからないまま生まれた子供が、自分の遺伝的なルーツがわからなくて、アイデンティティが揺らぐことに苦しんでいる。この特定生殖医療で悩んでいるのは子供ですよね?提供者で悩んでいる声は聞いたことはありますか?
いや、それはわかりません。
——自分も親の責任を負わされてしまう、扶養義務を負わされてしまうかもしれない。怖いから絶対反対だという人は提供しなければいいだけです。不安だから、子供の出自を知る権利を全面的に認めるのは絶対反対だという声を先生のところに届けている人はいないのでは?
それは直接的にはないかもしれませんが、じゃあ例えばAID(精子提供による人工授精を行っていた)慶應大学で、 精子が集まらなかった事例をどう説明するか。
ただ、私たちはドナーが集まらないから、子供の出自を知る権利なんてどうでもいいんだと考えているわけではありません。
しかし、2003年の報告書以降、22年間、政府が何も議論しなかった環境は良くないと思っています。
——先生は非匿名の精子バンクを使った伊藤ひろみさんとは交流があるのですよね?
はい仲良しで、毎日のようにやりとりし、議論しています。
——そうであれば、氏名や連絡先を開示することが条件の精子バンクで、170人のドナー登録の申し込みがあり、既に41人を正式にドナーとして登録していることもご存知ですよね?
そういう好事例があることは私たちも当然承知しています。はらメディカル、ふぁみいろネットワークのような取り組みも含めて、そういう世界が北海道から沖縄まで広がってほしいと願っています。
でも全国、全部が同じようにうまくいきますかと尋ねたら、必ずしもそうではないようです。それがわからない状況ではルールは絶対に決めていかなくてはいけない。
例えば、私たちはテリング(親が子供にこうした生殖補助医療で生まれたことを伝えること)について、ヒアリングでも早い方がいいというご指摘も仰ぎ、努力義務として法案に書き込みました。でもテリングについても成功事例がたくさんあることは承知していますが、そのようにできるかどうか世間がついていくか。だから、議論する場は絶対にいると思っています。
これと同じで、伊藤さんの精子バンクが170人の応募を集めたからと言って、北海道から九州・沖縄まで本当にそれでうまくいくかはわかりません。だから内閣府令に委任している。その意図は汲み取ってほしいと思います。
提供者が拒否したら身元を知る道が絶たれる法案でいいのか?
——繰り返しになりますが、生まれた立場の人が一番引っかかっているのは、提供者が身元を特定する情報を開示するかを決められるようにしていることです。自分の重要な情報、それがないと自分のアイデンティティーが揺らいで自殺まで考えるような情報を知るのは自分の権利のはずなのに、なぜ他人に左右されなくちゃいけないのかということです。
自分の権利というのはどこまでですか?どこまでかなんて、何の議論もしていないじゃないですか。私は石塚さんの言っていることは正しいと思っているんです。5人の発議者も同じ方向を向いているのは間違いないと思っているのですが、それをどこかでオーソライズしてちゃんとまとめたものはあった方がいい。
だから、(法律では)マイナンバーを取ることにしているじゃないですか。そこで連絡を取ればいい話です。たぶんマイナンバーまで取ってやれば、供給機関や認定実施医療機関のお医者さんたちもちゃんと普及啓発のお手伝いをしてくれるでしょう。だんだん「ああ、(提供者個人が特定される情報を)子供に伝えなくちゃいけないんだな」という環境を醸成していく時間が私は大事だと思っているんです。
——一人ひとりのお子さんにとっては自分の提供者が開示を断れば、出自を知る道が絶たれます。逆にどこまでを開示するかはこれからの議論で詰めていくとして、最低限、子供が請求したら身元の特定につながる情報は開示するということだけは先に法律で固めたらいいのではないですか?
いやいや子供が請求するものだったら、何でも開示していいという話にはならないと思います。
だからそこは法律が決まってから議論したらいいじゃないですか。テリングさえも決まっていないんですよ。
——ではこの法案を通すのは拙速ではないですか?
そんなことを言ったら、どこで検討するんですか?法的根拠も作らないで。
——しかし現時点で既に困って苦しんでいる生まれた子供の立場の人が、後から続く子供も同じように苦しむ可能性がある法律がカチッとできてしまったら——。
出自にかかる情報を今回きちんと定める基盤を作ろうとしているわけです。
マイナンバーも取らなくてそういう指摘をされているのだったら批判は受け止めますが、開示する意思がないのだったらマイナンバーなんて取らなくてもいいじゃないですか。政府でマイナンバーを取ろうとして、納めるところまでガチガチに決めようとしていることは受け止めてもらわないと。
その上で必要なものは何なのかということを決めるのでいいんじゃないですか?
——でも今回の法案では、いくらマイナンバーなどの個人情報をとっても、提供者が「何がなんでも私は開示しません」と言ったらそこで終わりです。何を開示するかを細かく定めたとしても、提供者が開示はダメと言ったら一切ダメで、子供は知る術がなくなります。
必要なものがあるならば、法改正は私たちがやらなくちゃいけないとは思っています。でも議連も限界があります。こうした議論を専門的に行うのが行政なので、そこを行政に委ねたいというのが私たちの想いです。
全て整わないと出すなと言われたら、2020年の法律の時と同じです。やはり5会派ですから、合意できるところからやっていかざるを得ない。
——もう一回、行政にきちんと議論しろと差し戻したらいいのではないですか?
それは屁理屈です。行政がやってくれるのだったら私たちは苦労しません。だから法律で定めて、内閣府令に委任するというのは、丸投げではなくて、法律で「あなたたちが検討しなさい」ということです。岩永さんと同じことを言っているんですよ。
——内閣府令に委任するのは非特定情報ですよね。
まずはです。
——特定される情報が非常に重要だと子供の立場の人は言っています。
だけど、柘植あづみさんの答弁は、個人を特定する情報よりも、チョコレートが好きだとかそういうことを知りたいという答弁だったと思いますよ。
——チョコレートの話については、提供者と語り合う中で、知らなかった溝が埋まっていくものだという理解をしています。
「チョコレートが好きですか?」「好きですよ」というやりとりでもいいんじゃないですか?会わなければいけないという前提はみんなたぶん持っていないと思う。
——やりとりができるという意味です。
やりとりができる仕組みは作るじゃないですか?
——繰り返しになりますが、やりとりをするかどうかが提供者の同意に委ねられるのが不十分だと当事者は言っているわけです。私もその気持ちは理解できます。
一気にはいけないということです。だから段階を踏んで。国立成育医療研究センターに、個人を特定できる情報として、連絡が必ずつくマイナンバーを保管して追いかけることができる。そこまで情報を取るということです。やりとりはできるはずです。でもなんでもかんでも答えろというのがいいのかどうか、議論してほしいと思っています。
通常の親子関係でも子供には言いたくないこと、時間をかけなければ言いたくないことはあるんだろうと思います。
——そうでしょうね。だから提供者の意思一つでシャットアウトできる仕組みを作らないほうがいいとみんな言っています。子供の求めに必ず対応するということが法律に書かれていれば。
必ず対応する、の意味も議論しなければいけませんので。でも使いもしないならなぜマイナンバーを取るんですか?
親子関係を不安定にしていいのか?
——将来的には、子供からの求めがあれば提供者とやりとりができるような未来を描いているんだと言いたいわけですか?
そうです。発議者5人程度の差はあるかもしれませんが、マイナンバーを保管するという交渉はそれはそれで大変だったんです。マイナンバーを使うとなったら、マイナンバー訴訟が起きますよ。それも想定しながら、関係する内閣府の人たちは合意をしてくれている。
段階的に合意できるところまで出して、前に進めていくことは決して否定されるものではないと思います。
——今の無規制の状態よりマシだということですか?
そういう見方をされていること自体、十数年こればかり本当に頑張ってきた人間にとっては残念です。そういう言いぶりは傷つきますよ。
——しかし、当事者はこれで固まることを恐れています。「後から改正もするし、いいものにしていくから、今はこれで」と言われても、法律の重みによって自分の知りたい情報から締め出されてしまう不安は軽視できません。
だから立法事実を作っていくことが重要で、2020年の法律の附帯決議に入れられたから、みんな真面目にできるところまで進めてきたんです。だからそれは次も変わらないと思います。だけど今回、報道の書きぶりはひどすぎます。
——そうだとすると、これほど反対の声が上がっているのだと思いますか?段階的に進めていき、将来目指すところは同じだとは受け止められず、多くの当事者に歓迎されていないのはなぜだと思いますか?
議連の議論を直接見ている人の方が少ないと思います。「法律婚以外は排除」「同性カップルは排除」と書かれると、そうでないといくら説明しても、排除されたのだなと思うことはあると思います。しかし、親子関係が不安定になるのに前に進めた方がいいのでしょうか?
——今の段階では同性カップルや事実婚、選択的シングルの人は他者から精子や卵子の提供を受けた生殖補助医療は不可能になりますよね。
親子関係を不安定にしていいかどうかです。今できているとおっしゃいますが、日本産科婦人科学会が会告で法律婚以外は禁止している理由は親子関係が不安定になるからです。契約しているのだからいいんだと強弁している人もいますが、その契約は民法上の有効な承諾になりますか?ならないですよ。
「今反対している人と見ている風景は一緒」
——問題になった事例はありますか?
一番わかりやすいのは、向井亜紀さんの例(※)です。結局、最高裁でひっくり返って、向井さんは母親とは認められませんでした。
※向井さんの卵子と夫の精子の受精卵を他の女性の子宮に移植して代理出産で生まれた子供の法律上の母親は、卵子を提供した向井さんか産んだ女性かを争った裁判。東京高裁は向井夫妻を法律上の親として出生届を受理するよう命じたが、最高裁は産んだ女性を母親とし、出生届を不受理と決定した。
問題になっていないといっても、そういう蓋然性を残しながら、今のままでやってもいいのかというのは1点です。
2点目は、2020年に生殖補助医療方がが成立して法律婚の親子関係が明確となって、自らの精子、卵子を使う生殖補助医療が保険適用になった。それは親子関係が明確になったからです。
もし特定生殖補助医療法を成立させていただけるなら、今度はそこの保険適用が実現するでしょう。保険適用は自己負担が安くなるだけでなくて、それに使う医薬品や医療機器などは承認されたものだけになります。お金の話だけでなく、質も上がる。要件も全て決まる。
そういう世界を、全ての子を授かりたいと願う方に全て届けていくのも法律の一つの目的です。
だから一個一個進めていくしかないのが現状で、いつか事実婚の方や女性カップルの方々に対して保険適用にしたいとなると、特定生殖補助医療法の対象にしなくてはならない。そうすると親子関係の議論がその前に待ち受けている。
2020年には決められなかったけれど、2025年には特定生殖補助医療法まで行きましたから、当然、今度は「女性カップルはどうするんだよ」という声が出てくるでしょう。ここで立法趣旨ができ、立法事実ができるじゃないですか。立法事実ができたら次に行ったらいいじゃないですか。
——そういう風に順番に広げていくつもりがあると。そういう意志を持っているということですね。
そういうことです。2020年に法律婚だけで行くと国会は決めたんです。それを「法律婚以外も全部決めてから持ってこい」と言われたって、いったん決めたんです。ここで残ったのは附則です。これが立法事実です。だから立法事実に基づいて次の法案を作成したわけです。
順番に進めて、立法事実は何だというのは国会審議の前提です。
——今この法案に反対している人と目指すところは一緒だとおっしゃるのですね。
見ている風景は一緒だと思っているんです。
(終わり)
医療記者の岩永直子が吟味・取材した情報を深掘りしてお届けします。サポートメンバーのご支援のおかげで多くの記事を無料で公開できています。品質や頻度を保つため、サポートいただける方はぜひ下記ボタンから月額のサポートメンバーをご検討ください。
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