埼玉県が学校長に向けたHPVワクチンの通知を撤回・訂正する決定 「情報がアップデートされていなかった」

埼玉県がHPVワクチンについて学校長向けに事実と異なる通知を出していた問題で、同県はこの通知を撤回して、訂正通知を出すことを決めました。HPVワクチン議連でも報告されました。
岩永直子 2024.07.05
誰でも

埼玉県が学校長に出したHPVワクチン関連の通知で、ワクチンとの因果関係が証明されていない症状を「接種に関連したと思われる症状」と示していた問題。

埼玉県はこの通知を撤回し、訂正した通知を出すことを決めた。

7月5日に開かれた自民党のHPVワクチン推進議員連盟で産婦人科医の高橋幸子さんが報告し、記者も埼玉県に確認した。

同県保健体育科の主幹は「新しい情報が反映されていなかった」と話している。

HPVワクチン推進議員連盟で経緯を報告する産婦人科医の高橋幸子さん

HPVワクチン推進議員連盟で経緯を報告する産婦人科医の高橋幸子さん

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問題の経緯

まず経緯を振り返ろう。

問題となった通知は、HPVワクチンをうちそびれた人に再チャンスを与えるキャッチアップ接種の期限を知らせるために、7月1日、埼玉県保健体育課長の名前で、県立高校学校長、特別支援学校長に出された。

その中で、ワクチンとの因果関係が証明されていない「原因不明の慢性の疼痛症候群、関節痛、全身の激しい神経筋症状、痙攣、不随意運動、脱力などの運動障害、視野狭窄、記憶障害」などの多様な症状を、「HPVワクチンの接種に関連したと思われる症状」として紹介。

この症状が接種後に起こり得るとして、学校の教職員に適切に対応することを求める内容となっている。

これについては専門家からは「事実と異なるし、接種に影響を及ぼしかねない」として訂正を求める声が上がっていた。

問題となった埼玉県保健体育課長の通知

問題となった埼玉県保健体育課長の通知

HPVワクチンは2013年4月に小学校6年生から高校1年生相当の女性を対象に定期接種となった。その前後から、この通知で挙げられたような体調不良を訴える声が相次ぎ、メディアがそれを薬害であるかのようにセンセーショナルに報じたことから、国は同年6月に積極的勧奨(対象者にお知らせを送って接種を促すこと)を停止。

接種率は一時1%未満にまで落ち込んだが、その後、こうした症状は接種していない女性でも起こっていることが大規模な研究で確認され、安全性が確認されたことから、国は2021年11月に積極的勧奨を再開。22年4月からは接種を逃した女性たちへ、公費接種の再チャンスを与える「キャッチアップ接種」も始まった。

今回の通知は、このキャッチアップ接種が今年度いっぱいで終了することから、希望する人は期限内に接種することを啓発するための通知のはずだった。

県の担当者「新しい情報が反映されていなかった」

高橋幸子さんはこの問題にいち早く気づき、同県が訂正するきっかけや記者が取材するきっかけを作ってくれた産婦人科医だ。

5日出席した、HPVワクチン議連でもその経緯を説明した。

高橋さんがこの通知を知ったのは、7月1日、知り合いの県立高校の養護教諭に「こんな通知が来ましたよ」とメールをもらったことがきっかけだった。

「読んでみたら、え?という内容で、翌日、『ある県でこういうお知らせが出たんですよ』とFacebookにアップしました」と説明。その投稿を見て、記者は取材を始めた。

高橋さんは3日にたまたま埼玉県の幹部と懇談する機会があり、「こんな書類が出ていますけれども大丈夫ですか?」と疑問を投げかけた。その結果、しばらくして「訂正書類を作成します。この通知は取り下げます」と連絡があったという。

高橋さんは担当者に「訂正書類を作成するならお手伝いさせていただければ」と働きかけ、内容が医学的に間違っていないかチェックにも関わっている。

高橋さんはこれまで、地元の産婦人科医会などを通じて度々、HPVワクチンについて正確な知識を啓発してほしいと教育委員会に働きかけをしてきた。

「埼玉県内の私学の高校全てには保護者向けにそうした資料が配布されているのですが、県立高校には全然配布されていない。その上で、また7月1日にこの書類が出た」と説明。

高橋さんが担当者にこの通知はどのように作ったのか聞いたところ「10年前に校長会でこういう書類を出そうねと用意したものを、そのまま焼き直して出した」と言われた。「私たち医療者が情報を届けていなかったわけではなかったのですが、新しい情報が反映されていないこのようなものが出てしまった」と残念がった。

これについて、記者も埼玉県の保健体育課の担当主幹に取材したところ、「通知を撤回して、訂正通知を出すべく準備をしているのは事実。全面的に書き換える」と認めた。

その方針が決まったのは、高橋さんが県の上層部に疑問を投げかけ、記者が取材して記事を出した7月3日。

「10年前の校長会というよりも、これまで教職員対象の研修会などでHPVワクチンについて説明してきた内容について、その時点、時点で明らかになった情報による修正が行き届いていなかった。アップデートされていなかったということは確かにあると思います」と答えた。

訂正した通知が出されたら、またこのニュースレターで内容をお伝えする。

厚労省予防接種課長「多様な症状とワクチン接種との因果関係は確認されていない」

この埼玉県の通知について、記者は厚生労働省予防接種課にも見解を尋ねていた。

この日、HPVワクチン議連に出席した堀裕行・予防接種課長は、「埼玉県が自ら撤回されるということですし、県の内部部局で行われていることなので、厚労省として直接コメントすることは難しい」と前置きした上で、こう語った。

取材に答える堀裕行・予防接種課長(左)

取材に答える堀裕行・予防接種課長(左)

「一般論として、(この通知に書かれたような)多様な症状とワクチン接種との間の関係性については確認されていないですし、因果関係について確認されていない。そして厚労省としては、安全性について確認されているから、積極的勧奨を再開しているという立場だ」

「色々な周知をやっていく際には、接種者や保護者の方にしっかりと有効性や安全性の情報をお伝えして、接種するかどうか判断できる内容を伝えていただきたい」

国の方針とは異なる不適切な情報提供をして予防接種行政を混乱させたことについて、指導しないのか質したところ、「そこは問題を認識されて撤回されるという話なので、どういうものが出るかを教えていただいて、ということになるんじゃないでしょうか」と答えた。

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