新型コロナ後遺症、予防法や治療法は?

世界中で研究が進む新型コロナ後遺症。予防法や治療法はあるのでしょうか?
岩永直子 2024.08.12
誰でも

流行を繰り返す、新型コロナウイルス感染症。

症状が3ヶ月以上長引く新型コロナ後遺症の研究が世界中で進んでいますが、予防法や治療法はあるのでしょうか?

前編中編に引き続き、京都第一赤十字病院総合内科部長の尾本篤志さんに聞きました。

尾本篤志さん(撮影・岩永直子)

尾本篤志さん(撮影・岩永直子)

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後遺症の予防法、治療法は?

——コロナ後遺症、防ぐ方法はあるのでしょうか?

現在、最も確立された方法はワクチン接種です。

尾本篤志さん提供

尾本篤志さん提供

ワクチンを接種した人の方が接種していない人よりもコロナ後遺症の確率が低いことが示されています。半分ぐらいに減らせていますね。

ざっくり言うと、ワクチンをうっていない人で15〜20%ぐらい後遺症が残るのであれば、ワクチンをうった人は10%以下になるだろうということです。しかもワクチンをうった回数が多いほど、より減らせそうです。日本人はほとんど3回以上うっていますから、他の国より後遺症は目立たないかもしれませんね。

新型コロナウイルス感染症の治療薬の予防効果も検証されています。

我々が新型コロナウイルス感染症で一番よく使うのはパキロビッドですが、残念ながらこれを使っていてもコロナ後遺症の頻度は減らせなかったという研究があります。

しかし、複数の論文を総合的に評価したメタアナリシスでは、抗ウイルス剤を使った人の方がコロナ後遺症のリスクが減ると示されています。

尾本篤志さん提供

尾本篤志さん提供

だからといって、これからコロナにかかった人はどんどん高価である抗ウイルス薬を飲んでもらいましょうということにはならないのかなと考えています。

さらに、元々SSRIを飲んでいる人は飲んでいない人と比べると、後遺症にちょっとなりにくいのではないかという報告もあります。だから、SSRIの予防効果を見るために臨床試験がたくさん行われました。認知機能の後遺症を抑制する効果があったという論文もありますが、今後、使えるようになるかはまだわからない状況ですね。

漢方や整腸剤を治療に使う場合も

また日本では後遺症の治療に漢方がよく使われます。でも効果を証明する論文はありません。

尾本篤志さん提供

尾本篤志さん提供

香港からは、腸管粘膜にウイルスが残ることを考えて、腸内環境を整えるような薬を使った場合の効果も報告されています。

尾本篤志さん提供

尾本篤志さん提供

そういう薬を使った方が、後遺症の訴えが減ったという報告も最近、一流医学誌のランセットに掲載されました。ただ、腸に何かが起きてそれが全身に影響を及ぼす病気は他にもあって、そうした病気にもやはり整腸剤が試されているのですが、あまり良い効果は出ていません。

どこに行ったら治療してもらえるの?

——先生は後遺症の患者さんをどれぐらい診て、どんな治療をしているのですか?

累積で数十人程度ですが、基本的には生活指導がメインです。過度に症状に囚われることなく生活を取り戻すためです。その人の症状に合わせて、例えば自律神経を整えるようなヨガや太極拳を勧めたり、呼吸法を勧めたりしています。

中には全身が痛くて夜も全く眠れないような患者さんで、SSRIが非常に効果がある方もいます。SS RIの効果には個人差がある印象です。心理的要因が強そうな人や元々精神疾患を持っている人は精神科につなぐこともあります。

——後遺症に悩んでいる人でどこの診療科にかかればいいのか、どこで治療を受けられるのかわからない人は多いと思います。アドバイスはありますか?

まずはコロナウイルスが本当に関係する症状なのかを見分けた方がいいと思います。コロナ後遺症と言いながら、実はどこかの内臓に問題があって何かの病気を発症している場合が日本でも1割ぐらいあると言われています。

私は総合内科所属ですが、ある程度規模の大きい病院で、総合内科や総合診療科を掲げている先生なら、そういう症状に対して丁寧にアプローチしてもらえると思います。他の病気は隠れていないし、コロナ後遺症ですね、となったら、それぞれの患者さんの症状に合わせて対症療法をしていくと思います。

——コロナ後遺症という病名があるわけではないのですね。

ありません。保険収載もされていないので、コロナ後遺症として診療報酬がつくわけでもありません。

感染しない対策が最大の防御

——これだけたくさん感染者がいて、後遺症がある人も増えていると思われますが、放置されていますね。

おっしゃる通りです。ただ、予防のため、かかるのを防ぎましょうと働きかけるのは難しいです。緊急事態宣言などで社会を止めることのデメリットも我々は経験してきました。だから今は、社会生活を回しながら個人でできるだけ感染対策をしていくことを再確認することが大事ではないでしょうか。

あとはもう一度ワクチンの効果を一人ひとりが考えることと、抗ウイルス薬の効果のさらなる研究を続けていくことが必要です。

さらに後遺症の実態を把握することも大事です。海外ではアンケート調査などで実態が把握されていますが、日本ではそのような調査はほぼありません。日本は海外に比べてワクチン接種率も高く、感染対策もしっかりしているので、海外ほど後遺症が蔓延することはないのかもしれません。でも、それで逆に本当に苦しんでいる人が黙殺されている可能性があります。

厚労省で、コロナの後遺症に関して予算を立てて、大規模な研究をやろうとする動きもないので、なかなか難しいです。

——最後に一般の方へのメッセージをお願いします。

新型コロナにかからないことが、最大の防御です。

認知症でいえば、コロナに限らず、さまざまなウイルスに感染することがリスクを上げるという論文や、ワクチンをうっている人の方が認知症になりにくいという論文が最近出てきています。いろいろなウイルスに感染することが、脳の血管にダメージを与えるという考え方が注目されています。

コロナに限らず、全ての感染症にかからないように、ワクチンも含めた感染対策や衛生管理を続けてほしい。それが後遺症の予防になると思います。

(終わり)

【尾本篤志(おもと・あつし)】京都第一赤十字病院総合内科部長

1996年、京都府立医科大学卒業。社会保険神戸中央病院勤務を経て、2006年京都府立大博士号取得、2006年4月より、京都第一赤十字病院で働き始め、2016年4月より現職。専門はリウマチ、膠原病領域。総合内科専門医。京都府立医科大学臨床教授。

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